--- title: "補遺1: 申請者のための「申請書を書く、添削する」基本" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 補遺 pages: 356-360 images: page_0356.png ~ page_0360.png --- # 補遺1 申請者のための「申請書を書く、添削する」基本 ## どこから書いていくのがよいのか? ある科研費セミナーで参加者の方々に「科研費申請書のどの部分から書きはじめるか?」と質問したところ、驚いたことにかなりの人数が、「【概要】から」と回答した。 どおりで申請書をチェックしたときに、【概要】が【本文】の内容とは別個の(バラバラの)ものになっていて、首をひねる例が多いわけだ。【概要】はベテラン研究者でも頭を悩ますことが多く、特に申請初心者にとっては難しい(そして実際に【概要】の出来はよくないものが多い)。しかし、論文や総説を書くときのことを思い出してほしい。冒頭のサマリーを最初に書くだろうか? そうではなく、論文や総説で本文を全部書き終わって、最後に全体のまとめとして、内容を反映させてサマリーを書くのではないだろうか? この順番を意識してみると、【概要】をスムーズに書けるようになる。なお学術論文においては最初に図表を作成したり、方法を書いたりすることも多い。しかし、この点は論文ではすでに実験を行っていて、その結果をもとに論文を作成するからできるのであって、これから実験を行う科研費申請書では事情が異なる。 ## 書き進めやすい順番はあるのか? あくまで1つの案だが、科研費申請書の【1 研究目的、研究方法など】では次の順番で書いていくとよい。 > **【(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性】** → > **【(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」】** → > **【(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか】** → > **【(3)本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ】** → > **【(5)本研究の目的を達成するための準備状況】** → > **【概要】**(→【研究課題名】はいつでもよい) 基本的に申請書は本人が書きやすいところから書いていったらよいが、例外は先に書いたように**【概要】を最後に書く**ということである。くり返しになるが、【概要】は申請書全体のサマリーでもあるので一番最後に書くのがよい。申請書の他の部分ができあがって、"さあ、あとは、【概要】を書いたら完成"——最後に張り切って仕上げる部分だともいえる。 また**【2 応募者の研究遂行能力及び研究環境】【研究経費とその必要性】**などは並行して書いていく。これらの部分は、【本文】で苦労したときの息抜きとして書いていくくらいの気持ちでよい。いずれは書かなくてはいけない部分なので、少しずつ書き溜めておくと、申請書の進捗もみえ、やる気が出る。 ## 申請書をとにかく埋めるための秘訣 経験を積んでくると、基盤研究(C)や若手研究における4ページの【本文】では研究を説明するにはスペースが足りないと感じるようになる。しかし、初心者にとってはたった4ページを埋めるだけでもたいへんな作業と努力が必要だろう。申請書を書き進められないときにどのようにしたらよいか、いくつかのヒントを示そう。 ### 1)研究内容に関する資料を集めて読み込む 申請書が書きにくい原因の1つは、まだ研究内容が固まっていないからである。研究内容をもっと豊かに、研究計画をもっと魅力あるものにするためには、研究内容に関する資料を集めて読み込むことだ。資料とは、本、研究論文、総説など、特に総説にはその分野の研究の重要な事実がまとめて書いてあるので、非常に役に立つ。多くの資料を読んでいくなかで、自分の研究内容に使えそうな方法や未解明な点をメモしていくとよい。 ### 2)小さく分けて書く 申請書が書きにくいもう1つの原因は、何を書くのかがはっきりしていないからである。この対策としては、【1 研究目的、研究方法など】について、例えば以下のように分けて書いていく。 #### 1 研究目的、研究方法など **(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」** - 研究テーマに関する一般的な背景(研究テーマの歴史) - 申請者の本研究テーマに関するこれまでの取り組み - 何が問題なのか、未解決な「問い」なのか? **(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性** - 研究目的(何を明らかにしようとしているのか?) - 学術的独自性(この研究のどこが重要なのか?) - 創造性(どのような応用や展開が期待できるのか?) **(3)本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ** - 着想に至った経緯(申請者のオリジナルな体験を書く) - 関連する国内外の研究動向(適宜、研究者名や論文を記載する) - 本研究の位置づけ(この研究分野のなかでどのような意義があるのか) **(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか** - (3年間とかの)研究期間内での研究計画の目的と概要 - 初年度の具体的な研究計画 - 次年度以降の研究計画 **(5)本研究の目的を達成するための準備状況** - 申請者の研究がどのくらい進んでいるのか? - 研究に必要な資料やサンプルが手元にあるのか?(これは【2 応募者の研究遂行能力及び研究環境】の【(2)研究環境】に書いてもよい。もちろん両方に書いてもよい) それぞれの分けた項目について書いていくと、まとまったものが書ける。これ以外の欄でも部分に分けて書いていくと書きやすい。【2 応募者の研究遂行能力及び研究環境】の例も以下に示す。 #### 2 応募者の研究遂行能力及び研究環境 **(1)これまでの研究活動** - 本研究テーマに関するこれまでの研究内容と業績リスト - 本研究テーマを実行するうえでの手法や実験手技に関する業績リスト - 本研究テーマには関連しないが、これまでに発表した重要な論文リスト - 受賞歴など、その他の特記すべきこと **(2)研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)** - 研究施設の状況(例えば動物実験などに必要な施設は整っているのか) - 研究設備の状況(例えば測定に必要な機器類は整っているのか) - 参考にする研究資料など - 研究分担者、研究協力者、共同研究者などとの連携 ### 3)具体的な例をあげて説明を詳しく書く 例えば次の1文をみてみよう。 > 「これらの分析にあたっては、申請者の主観のみではなく、テキストマイニングによって分析カテゴリーを抽出したり、対象グループ間を比較するために統計的手法も取り入れる」 内容はなんとなくわかるのだが、具体性がない。「分析カテゴリーを抽出」「統計的手法も取り入れる」とあるが、具体的な内容、この研究ならではの内容が書かれていない。自分で抽象的な内容を書いているため、余計に書きにくくなるのだ。 解決策としては、実例をあげてもう少しだけ詳しく書くことだ。例えば、「主観的な観察」としてはどのような項目があるのか具体的なものを2〜3例あげる、「テキストマイニング」で予想される項目をいくつかあげる、などである。難しいと思うかもしれないが、特に初年度に予定している研究計画ならば、研究内容の候補項目ぐらい、あらかじめ計画段階であげられるようにしておこう。こうした点が不足していると、計画の実現性に疑問符がつく、という印象を審査委員はもつ。 ## 添削をはじめよう ここまでの流れで、なんとか申請書を形にすることはできたはずだ。それでは、作成した申請書をどのようにチェックしていったらよいか? 自己チェックのやり方はどうすればよいのか? 付録1に私が普段実践しているセルフチェック項目をあげる。参考にされたい。