--- title: "CASE 80: なぜ最新あるいは流行の機器を使うかがあいまい" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第12章 その他(研究経費や図など) case_number: 80 pages: 335-338 images: page_0335.png ~ page_0338.png advice: "最新であることよりも,その手法を用いる意義を具体的に書こう" tags: ["具体的に"] --- # CASE 80: なぜ最新あるいは流行の機器を使うかがあいまい ## アドバイス 最新であることよりも,その手法を用いる意義を具体的に書こう ## どこがよくないか **例文1** DOS装置で測定した乳がんヘモグロビン濃度の分子生物学的意義を、組織検体を用いて次世代シーケンサーによる解析をする。 **例文2** 右腎を摘出したラットの左腎動静脈の血流を遮断して急性腎障害モデルを作製し、腎組織から〇〇陽性細胞を調製し、RNA-seqにより正常細胞との発現遺伝子プロフィールを比較する。 ## 添削例 > **例文1** > > DOS装置で測定した乳がんヘモグロビン濃度の分子生物学的意義を、組織検体を用いて次世代シーケンサーによる解析をする。 > > とは?どのような解析なのか > > **例文2** > > 右腎を摘出したラットの左腎動静脈の血流を遮断して急性腎障害モデルを作製し、腎組織から〇〇陽性細胞を調製し、RNA-seqにより正常細胞との発現遺伝子プロフィールを比較する。 > > これだけでは不十分。もっと具体的に書く **指摘された問題点:** 1. 例文1:「次世代シーケンサーによる解析をする」だけでは何を解析するのかわからない 2. 例文2:「発現遺伝子プロフィールを比較する」だけでは不十分で、何のために解析するのか不明 ## なぜよくないのか? 例文1に書かれている(当時の)最新機器「次世代シーケンサー」を使えば技術的には解析可能なのだということはわかるが、その機器によって、いったい何を解析するのか、この申請書からはわからない。「次世代シーケンサー」ならば多量のデータが得られるが、解析の対象を書かなくてはその意味がない。得られたデータから、どのように解析して、何を調べるのか? 例文2に書かれているRNA-seqは、近年、遺伝子の発現量解析のために汎用される手法であるが、単に「発現遺伝子プロフィールを比較する」だけでは、不十分である。ここでもやはり、何のために解析を行うのかをしっかりと書かないといけない。 ## どのように改良すればよいか? もし、ある機器や手法を使うことで最新の研究とアピールし、よい評価を得ようとするのなら、それはやめておいた方がよい。付け焼き刃かどうか審査委員はわかるものだ。流行(最新)の機器や手法を使うのなら、それを使う納得できる理由や意義を示さないといけないし、これまでの研究である程度の経験があること、あるいは経験がなくとも準備が万端であることを示さないと、審査委員の印象もよくない。 例文1では何を調べたいかという具体的な解析の内容、機器の所在、これまでの使用経験の有無を加え、具体的にする。 例文2でも、どのような目的で何を調べるのかを具体的に記載し、RNA-seqの解析を外注することを書いておく。 ## 改善例 > **例文1** > > DOS装置で測定した乳がんヘモグロビン濃度の分子生物学的意義を、組織検体を用いて次世代シーケンサーによる解析をする。乳がん患者の複数の検体を次世代シーケンサーで解析し、乳がんの遺伝子の変異がないか調べる。次世代シーケンサーは申請者が所属している研究機関が保有しており、申請者もこれまでに使用した経験がある。 > > 解析の内容、自分でやるのか外注するのか、機器の所在、使用経験の有無などを加える > > **例文2** > > 右腎を摘出したラットの左腎動静脈の血流を遮断して急性腎障害モデルを作製し、腎組織から〇〇陽性細胞を調製し、RNA-seqにより正常腎細胞との発現遺伝子プロフィールを比較する。これにより、〇〇陽性細胞が遺伝子発現レベルで正常細胞とは異なる細胞であることを示し、〇〇陽性細胞の機能的な特性を分子レベルで明らかにする。RNA-seqの解析は外注する予定であり、その経費を計上する。 ## 申請者のギモン 31 「しかし」か?「しかしながら」か? 申請書では「しかし」と「しかしながら」をよく使います。意識して両者を区別してきたことはないのですが、「しかし」と「しかしながら」の違いは何か、またどちらを使うのがよいのでしょうか? 申請書のなかで必ず使われている単語が「しかし」あるいは「しかしながら」である。逆説を表すこれらの単語は「前説とは異なり、この研究計画では云々」と研究の独自性・創造性を示すときに使われる。 広辞苑には次のような説明がある。 - 「しかし」→「しかしながら」の略 - 「しかしながら」→「しかし」のやや格式ばった言い方 「しかしながら」を使うのは「相手が目上の人または敬意を払うべき相手」に対してである。そのため、「おのずと敬語と一緒に使う」ことになる。 つまり敬語などの必要のない申請書では「しかし」で十分ということだ。もちろん審査委員を敬って「しかしながら」でもよいが、個人的には「しかしながら」はちょっと大げさすぎると感じる。審査委員でそこまで気にする人はいないと思うが。