--- title: "CASE 62: 「本研究の目的を達成するための準備状況」で独りよがりな表現が目につく" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第9章 研究目的、研究方法など:準備状況 case_number: 62 pages: 269-272 images: page_0269.png ~ page_0272.png advice: "「準備状況」は十分確立できていることや確認済みの事象を示しながら具体的に書こう" tags: ["具体的に", "アピールする"] --- # CASE 62: 「本研究の目的を達成するための準備状況」で独りよがりな表現が目につく ## アドバイス 「準備状況」は十分確立できていることや確認済みの事象を示しながら具体的に書こう ## どこがよくないか **例文1** 設備備品については、現有の設備で研究遂行上、差し支えない。また胚操作技術については、十分に遂行可能な範囲と考える。公開済みの次世代シークエンスデータを活用するが、それについても申請者自身で十分に遂行できる準備は整っている。これらのことから、本申請での実験系は円滑な研究遂行が可能な状態であると思われる。 **例文2** 申請者はこれまでの研究において、分担研究者とともに「推論と説明方法」の授業に関する基礎的検討を既に進めてきている。また各種調査や授業実践の計画等に関わり、小・中学校教員の研究協力者も既に5名から内諾を得ているなど、すぐに研究を開始できる準備状況である。 ## 添削例 > **例文1** > > 設備備品については、現有の設備で研究遂行上、差し支えない。また胚操作技術については、十分に遂行可能な範囲と考える。公開済みの次世代シークエンスデータを活用するが、それについても申請者自身で十分に遂行できる準備は整っている。これらのことから、本申請での実験系は円滑な研究遂行が可能な状態であると思われる。 > > 「十分に遂行可能」とあっても、具体的な根拠は? > > **例文2** > > 申請者はこれまでの研究において、分担研究者とともに「推論と説明方法」の授業に関する基礎的検討を既に進めてきている。また各種調査や授業実践の計画等に関わり、小・中学校教員の研究協力者も既に5名から内諾を得ているなど、すぐに研究を開始できる準備状況である。 > > もう少し詳しく書かないと内容がわからず具体性に乏しい **指摘された問題点:** 1. 「十分に遂行可能」と2回も述べているが、具体的な根拠がない 2. 準備の内容に具体性がなく、審査委員の印象がよくない 3. 例文2も準備の内容に具体性が乏しい 4. 「すぐに研究を開始できる準備状況である」といっても説得力がない ## なぜよくないのか? 例文1は「十分に遂行可能(できる)」と2回も述べている。しかし研究計画の【本研究の目的を達成するための準備状況】を申請者自らが「十分である」といっても説得力がない。特に例文1のように、準備の内容に具体性がないものでは、審査委員の印象はよくないだろう。 例文2も準備の内容に具体性が乏しく、「すぐに研究を開始できる準備状況である」といっても説得力がない。 申請者が研究に取り組める状態にあることを示す客観的な事実を書く必要がある。また、誰が書いても同じような【本研究の目的を達成するための準備状況】の内容では困る。この研究ならではの内容を書くこと。 ## どのように改良すればよいか? 【本研究の目的を達成するための準備状況】は申請している研究計画が実現できるかどうかを判断する目安になる。そのため「準備状況」、特に初年度の研究計画に対する「準備状況」は、しっかりと書いておかなければならない。「準備状況」は具体的に書くこと。計画に必要な実験手技、機器類の保有状況や操作方法、解析方法などをきちんと書いて、この研究ならではの【本研究の目的を達成するための準備状況】を具体的に説明する。 例文1では「準備状況」にリアリティが感じられるように、「使用予定の~ノックアウトES細胞については、すでに樹立できており」などと具体的に説明する。 例文2では、「基礎的検討」、「各種調査」、「授業実践の計画等」についてできるだけ具体的に書いていく。 ## 改善例 > **例文1** > > 設備備品については、現有の設備で研究遂行上、差し支えない。本研究において使用予定のSTAT3およびPFCTコンディショナルノックアウトES細胞については、すでに樹立できており、かつキメラマウス作成により多能性を検証済みであり、準備は整っている。また、本研究で使用予定の抗体に関しては、STAT3およびTy1タグは、免疫沈降、免疫染色、ChIP-qPCRにおいて検出できることを確認済みで、実験遂行上問題はない。胚操作技術については、これまで申請者は核移植を含めた発生工学の技術を用いて、多数の研究に貢献してきたことから十分に遂行可能な範囲と考えている。また、本申請課題では、公開済みの次世代シークエンスデータを活用するが、基本的な解析は申請者自身で遂行できる準備は整っている。より高度な解析が必要となった場合は、所属研究機関のバイオインフォマティクス専門の研究員によるサポートを受ける事が可能な状況であり、複雑な解析に際しても対処できる。これらのことから、本申請での実験系は円滑な研究遂行が可能な状態であると思われる。 > > **例文2** > > 申請者はこれまでの研究において、分担研究者とともに「推論と説明手法」の授業に関する基礎的検討を既に進めてきている。その基礎的検討では、「説明手法」を学習する以前の低学年の児童が行う「推論」の特徴を明らかにし、その結果から児童が行う「説明」をいくつかのタイプに類別することができることを示している。 > > また実際の算数・数学の授業において「説明手法」の能力を評価するための問題を予備的に作成し、児童生徒の「説明手法」の基礎データを収集ずみである。さらに小・中学校教員の協力を得てワークショップ形式で「評価者間信頼性」に関する調査を行っている。 > > 小・中学校教員の研究協力者(福岡、佐賀、大分の教員)は既に5名から実践授業の調査への内諾を得ているなど、すぐに研究を開始できる準備状況である。 ## 申請者のギモン 23 雇うという記述 「取得したデータから必要なソフトを用いてパソコン上で3次元再構築を行う.この作業過程には多くの時間を要するうえに比較的単純作業になるため一部はパートタイム就業者を雇用し遂行する」のような「パートタイム就業者を雇用し遂行する」という記述は【(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか】に書く必要はあるのか? 研究分担者や研究協力者が研究内容の一部を行うという記述はよいが、「パートタイム就業者」や「研究補助アルバイト」を雇うという記述は【(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか】には不要。 「パートタイム就業者」「研究補助アルバイト」を雇うことは【(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか】ではなく【研究経費とその必要性】に書いておけばよい。【(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか】では研究分担者、研究協力者による研究担当までにする。 同じような例は他にもある。これらの記載はもちろん必要ない。 「この解析には多くの時間を費やすために必要に応じて業者へ依頼する」 「グラフの作成、変数の整理などには、研究補助アルバイトの協力を得る」