--- title: "CASE 51: 研究方法が具体的に何を指しているかがわからない(文系の例)" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第8章 研究目的、研究方法など:何をどのように case_number: 51 pages: 221-224 images: page_0221.png ~ page_0224.png advice: "具体例をいくつか盛り込みイメージの共有ができる内容を目指そう" tags: ["具体的に"] --- # CASE 51: 研究方法が具体的に何を指しているかがわからない(文系の例) ## アドバイス 具体例をいくつか盛り込みイメージの共有ができる内容を目指そう ## どこがよくないか **例文1** > 平成25年度:気候変動政策の政治過程に関する分析枠組みの構築 > (1)先行研究の整理および論点・課題の明確化 >  日本で入手可能な比較環境政治に関する先行研究を整理して論点と課題を明確にする。その後に、比較分析の枠組みを構築する。さらに現地調査の事前準備として気候変動締約国会議の交渉過程とラテンアメリカ諸国の対応について研究動向をまとめる。 > (2)現地調査 >  研究調査の事前準備をもとに、政治過程をめぐる事実関係(政治過程での争点、政策推進の阻害要因、環境NGOの抗議の方法・経路・増減など)を確認するために現地調査を行う。 **例文2** > コリント様式の陶器と同じ地域で発掘された陶器の年代を特定するために、炭素年代測定法を行う。すでに分析を行い年代が特定しているコレクションの陶器11点と文様の比較分析を行う。 **例文3** > 各世界遺産の事務局において、運営体制とその所在地域の把握を行う。審査時の資料や報告書を閲覧するとともに、その後の変化を聞き取り等により明らかにする。 **例文4** > 介入前後で、身体・心理的アセスメント項目の変化量を比較する。 ## 添削例 **例文1** > 平成25年度:気候変動政策の政治過程に関する分析枠組みの構築 > (1)先行研究の整理および論点・課題の明確化 >  日本で入手可能な比較環境政治に関する~~先行研究~~を整理して~~論点と課題~~を明確にする。その後に、比較分析の枠組みを構築する。さらに現地調査の事前準備として気候変動締約国会議の交渉過程とラテンアメリカ諸国の対応について研究動向をまとめる。 > (2)現地調査 >  研究調査の事前準備をもとに、政治過程をめぐる事実関係(政治過程での争点、政策推進の阻害要因、環境NGOの抗議の方法・経路・増減など)を確認するために現地調査を行う。 **例文2** > コリント様式の陶器と同じ地域で発掘された陶器の年代を特定するために、炭素年代測定法を行う。すでに分析を行い年代が特定しているコレクションの陶器11点と文様の比較分析を行う。 **例文3** > 各世界遺産の事務局において、~~運営体制~~とその所在地域の把握を行う。審査時の資料や報告書を閲覧するとともに、~~その後の変化~~を聞き取り等により明らかにする。 **例文4** > 介入前後で、~~身体・心理的アセスメント項目~~の変化量を比較する。 **指摘された問題点:** 1. 例文1:「先行研究」とは具体的に何か?/「論点と課題」とは具体的に何か? 2. 例文2:具体的にはどこでどのように行うのか?/具体例をあげていてよい(「政治過程での争点、政策推進の阻害要因、環境NGOの抗議の方法・経路・増減など」の部分) 3. 例文3:「運営体制」とはどういうことか?/「その後の変化」とはどのような変化?例をあげる 4. 例文4:「身体・心理的アセスメント項目」の具体的な内容は? ## なぜよくないのか? 例文1の「先行研究」とは何か?「論点と課題」の詳しい内容は何か?など具体性に乏しい。例文は研究計画の初年度の、しかも冒頭である。そのため申請の段階であっても「先行研究」は誰のどのようなものかを書いておくべきだし、「論点と課題」も具体的にある程度書いておくべきだ。 例文2では、炭素年代測定法が重要な研究手法であることはわかるが、申請書にはどこの施設で、どのような機器・方法によって年代測定を行うのか書かれていない。 例文3も例文1と同じく、さらっと書いていて審査委員にはわかりにくい。「運営体制とその所在地域の把握」や「その後の変化」とはなんなのか?例をあげて説明しないとわからない。 例文4では「身体・心理的アセスメント項目」の内容が記載されていない。審査委員によって「アセスメント項目」の認識は異なるかもしれない。 文系の申請書でも研究計画の内容はできるだけ詳しく書くこと。細部にこだわり、緻密に書く、その積み重ねがわかりやすい、理解しやすい内容につながる。 ## どのように改良すればよいか? 計画と方法は、例をあげて具体的に書くこと。重要な研究手法(方法論、メソッド)、特に機器を使った測定法を書くときには、その機器を保有しているのか、あるいは保有していない場合はどこで行うのか、その情報が必要。そこまで詳しく書いてはじめて研究計画にリアリティや実行可能性を示すことができる。ただ単に、「~の機器を使って明らかにする」ではだめ。なお、研究計画が全くのゼロからスタートする研究は、審査委員の立場からすると評価に困る。これまでの申請者の研究の流れと関連した研究内容がないかもう一度検討しよう。もしどうしても全くのゼロからスタートする研究なのだという場合、せめて準備していることは書いておくべきだ。特に初年度の研究については、すでに準備も整っていて、科研費が採択されたらすぐに研究計画を実行できることが示されると、審査委員は実行可能性があると判断しやすい。 例文1の「(2)現地調査」では「政治過程をめぐる事実関係(政治過程での争点、政策推進の阻害要因、環境NGOの抗議の方法・経路・増減など)」と具体例があげられており、審査委員にもわかりやすい。「(1)」もこのように具体的に書く。他との重複を恐れずに「背景」と「目的」を加えイメージが共有できるように直す。 例文2では炭素年代測定法を行うための機器の保有はしていないが、共同研究先でAMS法を使って行う計画であることなど、できるだけ具体的な内容を書く。 例文3と4では「運営体制とその所在地域の把握」「その後の変化」「アセスメント項目」などを具体的な例をあげて説明する。 ## 改善例 **例文1** > 平成25年度:気候変動政策の政治過程に関する分析枠組みを構築する > (1)先行研究を整理して論点と課題を明確にする >  ラテンアメリカ諸国では経済成長と環境保護の両立に迫られてきた。申請者はこれまでに気候変動政策を中心とした比較環境政治に関する先行研究を整理してきて、ラテンアメリカ諸国における政策について、次のような論点と課題を明確にする必要があることを示した。 > ・気候変動政策を実施する制度改革がどのように進展してきたか > ・その政治過程での争点はどのようなものだったのか > ・政策推進を阻害する要因にはどのようなものがあったのか > ・環境NGOが国家の政策選好に対して行った行動はどのようなものか >  そこで、まず日本で入手可能な比較環境政治に関する先行研究を整理して論点と課題を明確にする。先行研究の例としては○○たちや○○による気候変動政策に関する研究を検討する。その後に、比較分析を行う具体的な項目をいくつか選択する。さらに現地調査の事前準備として気候変動締約国会議の交渉過程とラテンアメリカ諸国の対応について研究動向をまとめる。 > (2)現地調査 >  研究調査の事前準備をもとに、政治過程をめぐる事実関係(政治過程での争点、政策推進の阻害要因、環境NGOの抗議の方法・経路・増減など)を確認するために現地調査を行う。 例文1は、欲をいえば「分析枠組みを構築」「論点と課題を明確にする」とはどのようなことか、まで書きたい。そこまで書ければ具体性は十分だ。 **例文2** > コリント様式の陶器と同じ地域で発掘された陶器の年代を特定するために、炭素年代測定法を行う。すでに分析を行い年代が特定しているコレクションの陶器11点と文様の比較分析を行う。炭素年代測定は、○○大学原子力研究総合センターのタンデム加速器を用いた加速器質量分析法(AMS法)で行う。 **例文3** > 各世界遺産の事務局において、世界遺産の管理や保全を中心となって行う運営体制について、その組織や所在地域について情報を集める。また世界遺産に申請する際の、審査資料や報告書を調査するとともに、世界遺産登録後の変化を聞き取り等により明らかにする。登録後の変化としては、訪問者の変化(訪問者数、国籍、滞在日数など)、地域の変化(経済的効果、新規の店舗や宿泊施設の開業数など)、住民の変化(人口の増減、地域への意識の変化など)を調べる。 **例文4** > 介入前後で、身体的・心理的アセスメント項目の変化および介護予防に対する意識の変化を調査し、それらに関与する因子を検証する。身体的アセスメントの項目としては基本的な運動能力、筋力、柔軟性などを、心理的アセスメントの項目としてはリハビリに対する意欲や日常生活の過ごしやすさなどを評価する。