--- title: "CASE 41: 「本研究の着想に至った経緯」が平凡すぎる" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第7章 研究目的、研究方法など:着想に至った経緯など case_number: 41 pages: 181-184 images: page_0181.png ~ page_0184.png advice: "うまくいかなかったことから得られた着想を包み隠さず書こう" tags: ["アピールする"] --- # CASE 41: 「本研究の着想に至った経緯」が平凡すぎる ## アドバイス うまくいかなかったことから得られた着想を包み隠さず書こう ## どこがよくないか > (1) 本研究の着想に至った経緯 > 申請者はグレリン受容体の結晶構造解析を目指して3年前から研究をスタートし、〇〇大学〇〇研究室と共同研究を行っている。これまでに結晶構造解析のためのグレリン受容体を改変したいくつかのコンストラクトを作製し、大量発現による精製から、結晶化のスクリーニングにまで進んでいる。不活性型のグレリン受容体については、アンタゴニストが結合した状態の受容体タンパク質を精製し、結晶化の条件検討にまで至っている。そこで次に活性型のグレリン受容体について、活性型に固定して結晶化するためのツールとして、分子量が小さく、受容体のリガンド結合部位の認識も可能なナノボディの作製を考えた。 ## 添削例 > (1) 本研究の着想に至った経緯 > 申請者はグレリン受容体の結晶構造解析を目指して3年前から研究をスタートし、〇〇大学〇〇研究室と共同研究を行っている。これまでに結晶構造解析のためのグレリン受容体を改変したいくつかのコンストラクトを作製し、大量発現による精製から、結晶化のスクリーニングにまで進んでいる。不活性型のグレリン受容体については、アンタゴニストが結合した状態の受容体タンパク質を精製し、結晶化の条件検討にまで至っている。そこで次に活性型のグレリン受容体について、活性型に固定して結晶化するためのツールとして、分子量が小さく、受容体のリガンド結合部位の認識も可能なナノボディの作製を考えた。 **指摘された問題点:** 1. 具体的な成果がない。文献などをアピールする 2. 平凡すぎて、印象に残らない ## なぜよくないのか? 例文はこのままでもかまわないが、着想に至った経緯が平凡すぎる。こうやって、次にこうして、こうすることにしたと、読んでいてあまり印象に残らない。【本研究の着想に至った経緯】をもっとメリハリつけて、審査委員の印象に残るように書いてほしい。 ## どのように改良すればよいか? 審査委員が読んで「なるほど」と共感するものはどのようなものだろうか?うまくいった研究よりも、うまくいかなかった研究の方が印象に残る。こうやったけど、うまくいかなかった、なので今回は次のような研究計画を着想したという流れだ。そのほうがオリジナリティも出る(case40参照)。失敗した研究経過は科研費の評価のマイナス点になると思われるかもしれない。しかし審査委員にも必ず失敗の経験があるはず、「うまくいかなかった、だから今回の研究計画を着想した」と書いた方が審査委員の共感を呼び、印象に残る。失敗した研究経過は必ずしもマイナス点にはならない。 失敗の経験を恐れないこと、研究のほとんどは失敗の連続なのだから。 例文は、発表論文を加えて研究成果をアピールするとともに、これまでの研究経過を書いて、うまくいかなかったことも赤裸々に(というほどでもないが)包み隠さずに記載する。失敗の経験から学んだことを書いて、それが【本研究の着想に至った経緯】となったことを書く。 ## 改善例 > (1) 本研究の着想に至った経緯 > 申請者は摂食亢進ホルモンのグレリンを発見し、ペプチド部分がオクタン酸によって修飾されてはじめて活性を示すことを明らかにした(Kojima et al. Nature 1999)。グレリンはペプチド部分だけでは受容体を活性化できず、オクタン酸の修飾があってはじめて受容体を活性化できるのはなぜかが疑問であった。この疑問に答えるためには、グレリン受容体の結晶構造の解明が必要であり、グレリンが結合した構造を明らかにする必要があった。 > しかし当時の技術ではグレリン受容体などのGPCRの結晶構造を解明する手段はなく、計画の実現はできなかったが、スタンフォード大学のKobilkaたちがβ2アドレナリン受容体の結晶構造解析に成功して、技術的な基盤が整ってきた。このような状況の中、申請者らはグレリン受容体の結晶構造解析の計画に着手した。 > ところがグレリン受容体の場合は他のGPCRに比べて熱安定性が悪いため、申請者はモノクローナル抗体を使ってグレリン受容体を活性型に固定させることを計画した(挑戦的萌芽研究H26-27年度)。しかしマウスのモノクローナル抗体は受容体のグレリン結合部位に対して大きいことや、融合細胞のスクリーニングには限度があるため、グレリン受容体を活性型に固定する抗体は得られず、計画はうまくいかなかった。そこでモノクローナル抗体に代わるツールとして、分子量が小さく、受容体のリガンド結合部位の認識も可能なナノボディの応用を考えた。