--- title: "CASE 38: 「学術的独自性と創造性」としてふさわしいか" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第6章 研究目的、研究方法など:独自性、創造性 case_number: 38 pages: 169-172 images: page_0169.png ~ page_0172.png advice: "政策的なことは書かなくてよい。研究内容と関連の少ない説明はカットを考える。「仮説」は慎重に使う。大げさすぎることは書かない" tags: ["ふさわしく", "推敲のヒント"] --- # CASE 38: 「学術的独自性と創造性」としてふさわしいか ## アドバイス 政策的なことは書かなくてよい。研究内容と関連の少ない説明はカットを考える。「仮説」は慎重に使う。大げさすぎることは書かない ## どこがよくないか **例文1** さらに、医療経済的にも負担が大きくなることから、当疾患に対する安全で、かつ有効な治療法を確立することが急務である。 **例文2** 本研究によって、1)メタボリックシンドロームの予防・改善、2)神経変性疾患の予防・改善が期待され、3)医薬剤を用いない治療法の提唱により、医療費削減などの経済的問題の減少に繋がり、また、4)小児を対象とした先駆的研究により、将来の生産年齢人口増加、国力増強に寄与する。 **例文3** 従来の歯科治療では難渋する症例の治療法および診断の確立は、歯科医師への不信の払拭にもつながり、医療従事者にとっても有益であり、患者のQOLを向上させ、本研究を行うことで歯科心身症に悩まされる多くの人々の問題を解決させることが大いに期待できる。 **例文4** 本研究では、公共ホールが媒介となって、「新しい共生社会」を創り出すという仮説の下で研究を進めており、そこに本研究の学術的独自性と創造性がある。 **例文5** それが達成・実証できた暁には、物質特許だけでなく用法特許の申請も可能であり、欧米諸国に開発研究や特許件数で遅れをとっている創薬研究に一石を投じることができる。結果的に欧米諸国に支払われる多額の特許使用料の流れを食い止め、国民の財産を守るとともに健康増進に還元でき、その波及効果は高い。 ## 添削例 **例文1** > さらに、医療経済的にも負担が大きくなることから、当疾患に対する安全で、かつ有効な治療法を確立することが急務である。 **指摘された問題点:** 1. 政策的なことは書かなくてよい **例文2** > 本研究によって、1)メタボリックシンドロームの予防・改善、2)神経変性疾患の予防・改善が期待され、3)医薬剤を用いない治療法の提唱により、医療費削減などの経済的問題の減少に繋がり、また、4)小児を対象とした先駆的研究により、将来の生産年齢人口増加、国力増強に寄与する。 **例文3** > 従来の歯科治療では難渋する症例の治療法および診断の確立は、歯科医師への不信の払拭にもつながり、医療従事者にとっても有益であり、患者のQOLを向上させ、本研究を行うことで歯科心身症に悩まされる多くの人々の問題を解決させることが大いに期待できる。 **指摘された問題点:** 1. 必要か?(「歯科医師への不信の払拭」「医療従事者にとっても有益」は研究内容との関連が少ない) **例文4** > 本研究では、公共ホールが媒介となって、「新しい共生社会」を創り出すという仮説の下で研究を進めており、そこに本研究の学術的独自性と創造性がある。 **指摘された問題点:** 1. 仮説は正しいのか?検証する価値があるのか?別の表現にする **例文5** > それが達成・実証できた暁には、物質特許だけでなく用法特許の申請も可能であり、欧米諸国に開発研究や特許件数で遅れをとっている創薬研究に一石を投じることができる。結果的に欧米諸国に支払われる多額の特許使用料の流れを食い止め、国民の財産を守るとともに健康増進に還元でき、その波及効果は高い。 **指摘された問題点:** 1. 大げさ! ## なぜよくないのか? 例文1、2では「医療経済的にも負担が大きくなることから」「医療費削減などの経済的問題の減少に繋がる」「将来の生産年齢人口増加、国力増強に寄与する」とはりきって書かれている。しかし、個人で行う科研費の研究課題から、「医療費削減」や「生産年齢人口増加、国力増強」にダイレクトにつながるとは思えない。 例文3の「歯科医師への不信の払拭」は、不信にかかわるのは申請している研究内容だけではなく、難渋する症例についての歯科医師による治療に対してであって、研究内容との関連は少ない。 例文4は、実証実験で証明するようなものではないので「仮説」はふさわしくない。 例文5も成果が結果的に創薬や特許につながるとしても、「多額の特許使用料の流れを食い止め」や「国民の財産を守る」などまでも、この研究の成果によるもの(貢献)といえるかと考えると、大げさすぎる。 他の分野の申請書にも、「教育改革につながる」「経済政策に寄与する」「政策の提言」などが登場したりするが、これらも審査委員からみると"大げさでは?"と疑問符がつく場合がある。 ## どのように改良すればよいか? 政策的なことや教育改革につながるなどと書くのではなく、どの部分にこの研究ならではの意義があるのか、申請者が自信をもって「これだ」と言える研究の意義は何かを、飾らない言葉で書くべきである(case24参照)。 例文1は「医療経済的にも負担が大きくなることから」をカットする。 例文2は「医療費削減などの経済的問題の減少に繋がる」「将来の生産年齢人口増加、国力増強に寄与する」をカットする。 例文3は「歯科医師への不信の払拭」、さらに「医療従事者にとっても有益」もカットするとよい。 例文4は「仮説」という書き方を避け「考え」とする。 例文5のようなこの研究が貢献しているというには話が大きすぎる記載は必要ないので、例文5自体を全文カットしてよい。 ## 改善例 **例文1** 政策的なことはカットする > 当疾患に対する安全で、かつ有効な治療法を確立することが急務である。 **例文2** この研究から直接考えられない内容はカットする > 本研究によって、1)メタボリックシンドロームの予防・改善、2)神経変性疾患の予防・改善が期待され、3)医薬剤を用いない治療法の提唱により期待される。 **例文3** > 従来の歯科治療では難渋する症例の治療法および診断の確立は、患者のQOLを向上させ、歯科心身症に悩まされる多くの人々の問題を解決させることが大いに期待できる。 **例文4** 「仮説」という表現を改める > 本研究では、公共ホールが媒介となって、「新しい共生社会」を創り出すという考えのもとで研究を進めており、そこに本研究の学術的独自性と創造性がある。