--- title: "CASE 37: 表現が控えめすぎて実現できるのか不安" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第6章 研究目的、研究方法など:独自性、創造性 case_number: 37 pages: 165-168 images: page_0165.png ~ page_0168.png advice: "弱気な表現は極力避け強気な表現でアピールしよう。自分の研究に自信をもって" tags: ["ふさわしく", "はっきりと", "簡潔に", "アピールする"] --- # CASE 37: 表現が控えめすぎて実現できるのか不安 ## アドバイス 弱気な表現は極力避け強気な表現でアピールしよう。自分の研究に自信をもって ## どこがよくないか **例文1** 本研究によって記憶システムの新しいモデルを提唱できる可能性がある。さらに、より上層に位置する他の欲求処理との比較によって、欲求の階層構造に対応する記憶モデルを提案することができる。 **例文2** なるべく直接訪問による聞き取り調査を実施するが、訪問による調査が難しい場合には、同様の内容による郵送アンケート調査も並行して実施したい。 **例文3** こうした対象に対して、本研究で用いる調査・研究手法は、インタビュー調査、質問紙調査、文献調査であり、一見総花的調査方法になっているように見えるかもしれないが、むしろ、量的・質的な調査方法を併用することによって、4者による協働の場の全体像が明らかになると思われる。 ## 添削例 **例文1** > 本研究によって記憶システムの新しいモデルを提唱できる可能性がある。さらに、より上層に位置する他の欲求処理との比較によって、欲求の階層構造に対応する記憶モデルを提案することができる。 **指摘された問題点:** 1. 弱い表現(「提唱できる可能性がある」) 2. こちらは断定してる(「提案することができる」) **例文2** > なるべく直接訪問による聞き取り調査を実施するが、訪問による調査が難しい場合には、同様の内容による郵送アンケート調査も並行して実施したい。 **指摘された問題点:** 1. 必要か?(「なるべく」「実施したい」という弱気表現) **例文3** > こうした対象に対して、本研究で用いる調査・研究手法は、インタビュー調査、質問紙調査、文献調査であり、一見総花的調査方法になっているように見えるかもしれないが、むしろ、量的・質的な調査方法を併用することによって、4者による協働の場の全体像が明らかになると思われる。 **指摘された問題点:** 1. 必要か?(「一見総花的調査方法になっているように見えるかもしれないが」という自ら弱点をさらす表現) ## なぜよくないのか? 例文1の最初の文章では「提唱できる可能性がある」と控えめに書いている。弱気にみえるうえに、次の文章では「提案することができる」と断定していてアンバランスである。 例文2も弱気な表現例である。 例文3は弱点をわざわざ記述している。 申請書で「可能性がある」「かもしれない」などの弱気な表現が多ければ、本当にこの研究計画はうまくいくのだろうかと疑問をもつ審査委員も出てくる。 ## どのように改良すればよいか? 木下是雄先生の名著『理科系の作文技術』(中央公論新社)のなかに、「はっきり言い切る姿勢」という章がある。日本人の書く文章はあいまいな表現が多いことを指摘して、「言い切る」ことの大切さを提案している。 申請書の場合には、ある程度強く自信をもって言い切ってよいと思う。もちろん、研究はうまくいかないことの方が多い(特に理系の研究)。だから書き手としては、研究を進めてみて、ときにはうまくいかないこともあるだろうから「可能性がある」や「かもしれない」と予防線を張りたくなる心情は理解できる。しかし、申請書は審査委員に向けて実施前の研究計画をアピールするものである。だから、「できる」と胸を張って(たとえ虚勢でも)書く。申請書の場合には弱気の表現よりも、ある程度自信をもって書く方がよい(ただし刺激するような表現ではないことは確認したい。case78参照)。特に若手研究者の場合には、「できる」と書いても大目にみてくれると思う。 例文1は「提唱できる可能性がある」から、「可能性がある」をカットして「提唱できる」と言い切って、もう少し強い表現にする。「提案することができる」も「提案できる」と言い切る。 例文2では、「なるべく」は必要ない。また「実施したい」ではなく「実施する」とする。 例文3では、「一見総花的な調査方法になっているように見えるかもしれないが」という記述は不要。限られた字数のなかにあえて弱点をさらす必要はない。余計なことは書かない。また「明らかになると思われる」ではなく「明らかになる」とする。 ## 改善例 **例文1** 弱い表現をカットする > 本研究によって記憶システムの新しいモデルを提唱できる。さらに、より上層に位置する他の欲求処理との比較によって、欲求の階層構造に対応する記憶モデルを提案できる。 **例文2** 弱い表現をカットする > 直接訪問による聞き取り調査を実施するが、訪問による調査が難しい場合には、同様の内容による郵送アンケート調査も並行して実施する。 **例文3** 書かなくてもよい点はカットする > こうした対象に対して、本研究で用いる調査・研究手法は、インタビュー調査、質問紙調査、文献調査であり、量的・質的な調査方法を併用することによって、4者による協働の場の全体像が明らかになる。