--- title: "CASE 32: 「検証する」「開発する」だけでは研究目的としては不十分" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第5章 研究目的、研究方法など:本研究の目的 case_number: 32 pages: 145-148 images: page_0145.png ~ page_0148.png advice: "何が研究の本体であるかを整理し、「検証」ならば、実験・調査によって何を明らかにするかを加える。「開発」ならば、調査を加えその後に開発する(展開)と話を進める" tags: ["ふさわしく", "具体的に", "推敲のヒント"] --- # CASE 32: 「検証する」「開発する」だけでは研究目的としては不十分 ## アドバイス 何が研究の本体であるかを整理し、「検証」ならば、実験・調査によって何を明らかにするかを加える。「開発」ならば、調査を加えその後に開発する(展開)と話を進める ## どこがよくないか **例文1** 本装置および画像解析の手法を用いて、その超微形態をDynamicに観察することが可能になり、骨形成に関与する細胞および組織の規則性について詳細に検証できる。 **例文2** この内容をもとに、TFCPによる血清条件での自己複製能をラットES細胞において検証する。 **例文3** この研究は高齢者が参加し共に介護予防教育プログラムを開発すること、そして従来の運動プログラムと比較し、効果を検証することを目的とする。 **例文4** 本研究は、これまでに申請者が行動経済学の知見を取り入れた社会科における消費者の金融教育の研究成果を基に、中学生~高校生までを見据えた新しい金融を中心とした消費者教育の教材を開発するものである。 ## 添削例 **例文1** 「検証」してその先どうするのか、まで書く > 本装置および画像解析の手法を用いて、その超微形態をDynamicに観察することが可能になり、骨形成に関与する細胞および組織の規則性について詳細に検証できる。 **指摘された問題点:** 1. 違和感あり(「Dynamicに」の英語表現) **例文2** > この内容をもとに、TFCPによる血清条件での自己複製能をラットES細胞において検証する。 **例文3** > この研究は高齢者が参加し共に介護予防教育プログラムを開発すること、そして従来の運動プログラムと比較し、効果を検証することを目的とする。 **指摘された問題点:** 1. 「プログラム開発」、「効果を検証」は本当に目的になるのか?「展開」と捉えるべき **例文4** > 本研究は、これまでに申請者が行動経済学の知見を取り入れた社会科における消費者の金融教育の研究成果を基に、中学生~高校生までを見据えた新しい金融を中心とした消費者教育の教材を開発するものである。 **指摘された問題点:** 1. 「教材の開発」が本当に「目的」?「展開」と捉える ## なぜよくないのか? 例文1、2は「検証」して、何を明らかにするのかが書かれていない。 例文3は、「目的」を「プログラムの開発と、その効果の検証」としているが本当に目的になるのか? 例文4は、「目的」を「教材の開発」としている。「教材の開発」を目的にするのは、特に文系の人の申請書に多い。「カリキュラムの開発」などもよくみられる。これらは「目的」としては不十分。 「検証する」「開発する」の他にも「検討する」「調べる」「測定する」「同定する」「解析する」などと簡単に書いて、そこで【本研究の目的】が終わっている申請書は多い。「検証する」は書き手の意図と審査委員の受けとり方とでミスマッチを起こしやすい要注意語句の1つだ。それだけでは審査委員には抽象的な印象で終わってしまう。その先まで、それによって「何を明らかにするのか」「どう結論づけるのか」に結びつくまで書かなくては書き手の意図は伝わらないと思おう。 また、「プログラムを開発」と書いてもまだ終わりではない。「開発」を「目的」としている申請書の問題点は、開発のための調査・研究が一番大切である(と審査委員は考える)のに、「プログラムの開発」を力説しすぎて、そのために必要な「資料集め」「データ収集」「データ解析の手法や計画」がきちんと書かれていないために、内容が薄い、現実感のない申請書になりがちなことだ。また「効果の検証」や「実践と改良」に重きを置いていても、申請の段階で具体的な教材やカリキュラムの試案を出しているものはきわめてまれである。「開発するもの」があってこそ、具体的な中身があってこそ、その「実践と改良」が科研費に見合うものなのか判断を開始できる。 ## どのように改良すればよいか? 「プログラム/教材の開発」を研究「目的」ではなく、「展開」と捉え直してみよう。通常(試案や概略の提示がない場合)は「プログラムの開発」のための調査・研究が研究の本体であって、その結果として「プログラムの開発」が可能となり、そしてプログラムが具体的にできあがって、はじめてその「効果の検証」ができる。 例文1は、何につながっていくのかという「展開」にあたる部分を一言加えたい。 例文2も同様に、検証によって何が明らかになるのかを加える。 例文3の場合、研究目的は「介護予防の教育や運動を行って介護の問題点を明らかにすること」であり、その結果、新しい「介護予防教育プログラム」が開発できるとする。 例文4も「(教材開発のための)基礎資料(データ)を集めて分析すること」を中心にして、研究目的は「中高生が日常の消費生活や金融活動に関して、将来、より賢い経済行動を選択できるようになるために、どのようなカリキュラム内容が必要なのかを調べること」とする。そうやって得られたデータや分析結果から、研究の展開(予想される結果と意義)として「教材の開発」ができあがる。 ## 改善例 **例文1** 「展開」にあたる内容を加える > 本装置および画像解析の手法を用いて、その超微形態を3次元レベルで観察することが可能になり、骨形成に関与する細胞および組織の規則性について詳細に検証できる。これによってより効果的な骨再生療法につながると考える。 なお、例文1の「Dynamicに」はここだけ英語で違和感があるので、日本語に置き換えた。 **例文2** > この内容をもとに、転写因子TFCPの過剰発現によってES細胞が血清条件で自己複製可能になることを検証し、なぜES細胞が自己複製能を獲得し維持できるのかを明らかにする。 **例文3** 「問題点を明らかにすること」を「目的」として、「プログラムの開発」は「展開」とする > この研究は、高齢者が実際に介護の教育・運動プログラムに参加し、介護予防の教育や運動を行って、介護の問題点を明らかにすることが目的である。これによって、高齢者の意見を取り入れた介護予防教育プログラムを協同で開発することができ、従来の運動プログラムと比較して、その効果を検証することができる。 **例文4** 「教材開発」が「目的」ではなく、「展開」となるように書き直す > 本研究の目的は、中高生が日常の消費生活や金融活動に関して、将来、より賢い経済行動を選択できるようになるために、どのようなカリキュラム内容が必要なのかを調べることである。その成果は、これまでに申請者が行ってきた、行動経済学の知見を取り入れた社会科における消費者の金融教育の研究成果を基に、中学生~高校生までを見据えた新しい金融を中心とした消費者教育の教材の開発につながる。