--- title: "CASE 31: 「本研究の目的」がわかりにくい" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第5章 研究目的、研究方法など:本研究の目的 case_number: 31 pages: 139-143 images: page_0139.png ~ page_0143.png advice: "冒頭に「目的」を簡潔に示し、研究の内容をイメージしやすくしよう" tags: ["ふさわしく", "推敲のヒント"] --- # CASE 31: 「本研究の目的」がわかりにくい ## アドバイス 冒頭に「目的」を簡潔に示し、研究の内容をイメージしやすくしよう ## どこがよくないか **例文1** (2)本研究の目的および学術的独自性と創造性 まず、炭素骨格の長さによる変化が電子スピン共鳴分光(ESR)法のスペクトル上に表れやすい飽和炭化水素類を用いて、さまざまな鎖長のモデルラジカルの測定を行い、特に、側鎖の大きなブロモトリメチルヘキサンなどの成長ラジカルスペクトルの鎖長依存性と、結果としてできる高分子の立体規則性との関連について調べる。また、ラジカル重合中に発生する連鎖移動反応の機構解明に焦点を当て、ブロモブタン類、トリメチルヘキサン類、ブロモプロペン類など水素移動反応で分子内で連鎖移動反応が起こる可能性のあるモノマーを用いて高重合体のモデルラジカル前駆体を合成し、連鎖移動反応の起こりやすさの鎖長依存性を明らかにする。すでにブロモコハク酸イミドの10、20量体で予備的な実験を行い、鎖長が長いほど連鎖移動反応が起こりやすいという結果を得て報告した。側鎖依存性もあることがわかっているので、アルコール、チオール、エーテルとの比較を行う。 **例文2** (2)本研究の目的および学術的独自性と創造性 (1)上場企業の大株主のデータを収録したデータベースにより、中東や中欧等の企業の投資実績を把握することが可能となる。そのうえで総資産利益率などを投資の指標と回帰分析することで先行文献との比較が可能になり、世界金融危機後の実態を定量的に検証できる。 (2)日本と英国の市場に絞り、企業の投資受け入れ、株主の情報開示制度、議決権行使状況等について比較研究によって日本市場の課題を明らかにする。 **例文3** (2)本研究の目的および学術的独自性と創造性 この研究では主にヒトの不要な抜去歯牙を脱灰し象牙質を採取後、ラット頭蓋骨欠損モデルに移植し、新生骨の形成を期待する。このモデルを用いて以下のことを明らかにしていく。 1. 異なる脱灰処理および作製法を試み、処理方法によって形成骨や周囲組織に与える影響の有無を明らかにする。 2. 移植材を入れないコントロール群と比較して、脱灰象牙質を移植した群ではどのくらいの期間で骨が形成されてくるのかをμCTを用いて評価する。 3. 長期的に経時評価することで移植後の象牙質は生体内でどのように変化するのかを組織学的に明らかにする。 4. 欠損部および周囲組織を採取し、移植した脱灰象牙質と形成骨との境界面と周囲組織の細胞間ネットワークの3次元関係を明らかにする。 ## 添削例 **例文1** > (2)本研究の目的および学術的独自性と創造性 > > まず、炭素骨格の長さによる変化が電子スピン共鳴分光(ESR)法のスペクトル上に表れやすい飽和炭化水素類を用いて、さまざまな鎖長のモデルラジカルの測定を行い、特に、側鎖の大きなブロモトリメチルヘキサンなどの成長ラジカルスペクトルの鎖長依存性と、結果としてできる高分子の立体規則性との関連について調べる。また、ラジカル重合中に発生する連鎖移動反応の機構解明に焦点を当て、ブロモブタン類、トリメチルヘキサン類、ブロモプロペン類など水素移動反応で分子内で連鎖移動反応が起こる可能性のあるモノマーを用いて高重合体のモデルラジカル前駆体を合成し、連鎖移動反応の起こりやすさの鎖長依存性を明らかにする。すでにブロモコハク酸イミドの10、20量体で予備的な実験を行い、鎖長が長いほど連鎖移動反応が起こりやすいという結果を得て報告した。側鎖依存性もあることがわかっているので、アルコール、チオール、エーテルとの比較を行う。 **指摘された問題点:** 1. 研究項目を続けて書いているだけ。目的は? **例文2** > (2)本研究の目的および学術的独自性と創造性 > > (1)上場企業の大株主のデータを収録したデータベースにより、中東や中欧等の企業の投資実績を把握することが可能となる。そのうえで総資産利益率などを投資の指標と回帰分析することで先行文献との比較が可能になり、世界金融危機後の実態を定量的に検証できる。 > > (2)日本と英国の市場に絞り、企業の投資受け入れ、株主の情報開示制度、議決権行使状況等について比較研究によって日本市場の課題を明らかにする。 **指摘された問題点:** 1. 内容(研究項目)の前に、研究目的を簡潔に書く **例文3** > (2)本研究の目的および学術的独自性と創造性 > > この研究では主にヒトの不要な抜去歯牙を脱灰し象牙質を採取後、ラット頭蓋骨欠損モデルに移植し、新生骨の形成を期待する。このモデルを用いて以下のことを明らかにしていく。 > > 1. 異なる脱灰処理および作製法を試み、処理方法によって形成骨や周囲組織に与える影響の有無を明らかにする。 > 2. 移植材を入れないコントロール群と比較して、脱灰象牙質を移植した群ではどのくらいの期間で骨が形成されてくるのかをμCTを用いて評価する。 > 3. 長期的に経時評価することで移植後の象牙質は生体内でどのように変化するのかを組織学的に明らかにする。 > 4. 欠損部および周囲組織を採取し、移植した脱灰象牙質と形成骨との境界面と周囲組織の細胞間ネットワークの3次元関係を明らかにする。 **指摘された問題点:** 1. ここではモデルの作製法を書く必要はない 2. これが最も重要。どのくらいの期間で骨が形成されてくるのかを評価する点 3. 「目的」にふさわしい「4」の内容を冒頭に移動する ## なぜよくないのか? 申請書において【本研究の目的】は最も大切な部分である。しかし意外に【本研究の目的】がはっきりとわからない例も多い。 例文1は研究項目をひと続きの文章で書いているだけで、研究目的がはっきりと書かれておらず、わかりにくい。 例文2は「目的」として「(1)」「(2)」を書いているが、これは内容的には研究項目である。そして、ここだけを読んでも「(1)」と「(2)」の関連性がわからない。個々の項目しか書いていないためだ。 例文3では導入部分にモデルの作製法を書いていて、一見するとこれが「目的」にみえる。だが実はそうではなく、本研究の中心となるオリジナルな目的は、それ以降の4つの項目のなかに隠れている。 もちろん研究目的には具体的な研究項目を書く必要があるが、まず冒頭に「目的」を端的に言い表わした一文があると研究の全体像を思い浮かべやすくなる。全体の「目的」があってこそ、個々の詳しい内容(研究項目)がはっきりする。 ## どのように改良すればよいか? 【本研究の目的】には研究内容(研究項目)を書くことが基本だが、少しの配慮でそのわかりやすさを変えることができる。そのためには「目的」を、まず冒頭に簡潔にわかりやすく書く、つまり、 - 最初の2行で「目的」を簡潔に書く - 次に研究の内容を箇条書きで書く このように書くだけで、わかりやすさ、理解しやすさが格段に変わる。 例文1は、研究項目を箇条書きにする。そのうえで、「目的」を冒頭に加える。例文2もまず、研究計画全体で何を「目的」にして研究を行うのかを、2行くらいで簡単に書いておこう。そして、その「目的」を明らかにするために、どのように研究を進めるのか(詳しい研究項目、例文2では「(1)」「(2)」にあたる)を書くとよい。 例文3は、この研究計画の最もオリジナルな研究項目である「4」を導入部分に移動して、それを明らかにするために「1」~「3」の研究を行うと変更する。 このcaseは、case34と内容的に関連しているので、参考にしてもらいたい。 ## 改善例 **例文1** 「目的」を冒頭に加える > (2)本研究の目的および学術的独自性と創造性 > > 本研究は、いろいろな電子スピン共鳴分光法を用いることにより、ラジカル重合反応を観測し、連鎖開始ラジカルが重合体に成長していく様子を詳しく解析することが目的である。以下のように研究を進めていく。 > > (1)炭素骨格の長さによる変化が電子スピン共鳴分光(ESR)法のスペクトル上に表れやすい飽和炭化水素類を用いて、さまざまな鎖長のモデルラジカルの測定を行う。 > > (2)特に、側鎖の大きなブロモートリメチルヘキサンなどの成長ラジカルスペクトルの鎖長依存性と、結果としてできる高分子の立体規則性との関連について調べる。 > > (3)ラジカル重合中に発生する連鎖移動反応の機構解明に焦点を当て、ブロモブタン類、トリメチルヘキサン類、ブロモプロペン類など水素移動反応で分子内で連鎖移動反応が起こる可能性のあるモノマーを用いて高重合体のモデルラジカル前駆体を合成し、連鎖移動反応の起こりやすさの鎖長依存性を明らかにする。 > > (4)すでにブロモコハク酸イミドの10、20量体で予備的な実験を行い、鎖長が長いほど連鎖移動反応が起こりやすいという結果を得て報告した。側鎖依存性もあることがわかっているので、アルコール、チオール、エーテルとの比較を行う。 **例文2** 「目的」を冒頭に加える > (2)本研究の目的および学術的独自性と創造性 > > 本研究では企業による投資実績が各国経済に及ぼす影響を、資金源、投資先(国・資産別)、パフォーマンスについて分析することで解明していく。次のように研究を進める。 > > (1)上場企業の大株主のデータを収録したデータベースにより、中東や中欧等の企業の投資実績を把握することが可能となる。そのうえで総資産利益率などを投資の指標と回帰分析することで先行文献との比較が可能になり、世界金融危機後の実態を定量的に検証できる。 > > (2)日本と英国の市場に絞り、企業の投資受け入れ、株主の情報開示制度、議決権行使状況等について比較研究によって日本市場の課題を明らかにする。 **例文3** 「目的」にふさわしい「4」の内容を冒頭に移動する > (2)本研究の目的および学術的独自性と創造性 > > この研究では、移植した脱灰象牙質と形成骨について、境界面と周囲組織の細胞間ネットワークの3次元微細構造を明らかにし、より効果的な骨再生療法を確立することが目的である。抜歯牙を脱灰して得られた象牙質を移植した動物モデルを用いて、以下のことを明らかにしていく。 > > 1. 異なる脱灰処理および作製法を試み、処理方法によって形成骨や周囲組織に与える影響の有無を明らかにする。 > 2. 移植材を入れないコントロール群と比較して、脱灰象牙質を移植した群ではどのくらいの期間で骨が形成されてくるのかをμCTを用いて評価する。 > 3. 長期的に経時評価することで移植後の象牙質は生体内でどのように変化するのかを組織学的に明らかにする。 **参考** 箇条書きを用いていない例を示しておく。この例では、冒頭にまず研究目的を簡潔に書いており、「この研究では、こういったことをやるんだ」としっかりと示せている。さらに研究の「展開」にあたる部分を書き加えることで、研究目的がより一層明確になる。 > 本研究ではインドで発掘されたペルシャ更紗を科学調査と類例調査によって精査し、制作地の特定を試みる。そのために、放射性炭素年代測定法による制作年代の特定や、文様の傾向を分析し、多数の類例との比較調査を行い基礎資料となる作品の特定を行う。 > > インドで発見されたペルシャ更紗は12世紀頃までのものと考えられるが、本研究によって特定が難しかったペルシャ更紗の変遷を明らかにし、歴史的な研究が困難であった染織史研究に寄与できる。