--- title: "CASE 30: 「問い」が長すぎる" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第4章 研究目的、研究方法など:問い case_number: 30 pages: 135-137 images: page_0135.png ~ page_0137.png advice: "「背景」と区別して「「問い」はこれだ」とはっきり示そう" tags: ["簡潔に", "推敲のヒント"] --- # CASE 30: 「問い」が長すぎる ## アドバイス 「背景」と区別して「「問い」はこれだ」とはっきり示そう ## どこがよくないか > 研究課題の核心をなす学術的「問い」 > > 申請者はこれまで精神疾患の患者において、眼球運動検査により疾患の病態を明らかにする研究を継続してきた。この研究では、眼球運動は顔の表情の一部であり、表情とともに精神疾患の病態が見出されてきたものと解釈できると考えた。そこで、うつ病患者やアルツハイマー型認知症患者などの様々な精神疾患で表情の表出異常にはどのような特徴があり、それぞれの基盤にある病態はなにかが本研究課題の核心をなす学術的「問い」である。 > > 例えば、うつ病において仮面様顔貌といわれる表情の乏しさは、表情筋の動きが乏しいだけでなく、瞬きや視線の動きも少なく、これらは脳内のセロトニン濃度の不足を反映すると考えられている。アルツハイマー型認知症患者でも表情や視線の動きの乏しさが認められるが、この場合は周囲の関心の低下、認知機能低下を反映すると考えられる。脳梗塞のある症例では、意図的な表情筋の動きはできるが、喜怒哀楽の自然な表情は表出できないといった報告がされている。また精神疾患では強制笑い、強制泣きのように随意的ではない表情が出現することがある。一方、正常人においても顔面の右側に本来の表情があらわれやすいとされており、「顔は笑っているが、眼は笑っていない」というような言い方もされる。 > > したがって表情表出の異常と病態を明らかにするには、脳の様々なレベルで表情筋ごとにどのようにコントロールされているかを明らかにする必要がある。そのためには、様々な神経レベルの異常と表情の異常を結びつけるだけでなく、神経生理学的手法を応用して表情筋を定量的かつ客観的に分類・解析し、顔面表情筋の大脳や脳幹による運動制御機構を明らかにする必要があると考えた。 ## 添削例 > 研究課題の核心をなす学術的「問い」 > > 申請者はこれまで精神疾患の患者において、眼球運動検査により疾患の病態を明らかにする研究を継続してきた。この研究では、眼球運動は顔の表情の一部であり、表情とともに精神疾患の病態が見出されてきたものと解釈できると考えた。**そこで、うつ病患者やアルツハイマー型認知症患者などの様々な精神疾患で表情の表出異常にはどのような特徴があり、それぞれの基盤にある病態はなにかが**本研究課題の核心をなす学術的「問い」である。 > > 例えば、うつ病において仮面様顔貌といわれる表情の乏しさは、表情筋の動きが乏しいだけでなく、瞬きや視線の動きも少なく、これらは脳内のセロトニン濃度の不足を反映すると考えられている。アルツハイマー型認知症患者でも表情や視線の動きの乏しさが認められるが、この場合は周囲の関心の低下、認知機能低下を反映すると考えられる。脳梗塞のある症例では、意図的な表情筋の動きはできるが、喜怒哀楽の自然な表情は表出できないといった報告がされている。また精神疾患では強制笑い、強制泣きのように随意的ではない表情が出現することがある。一方、正常人においても顔面の右側に本来の表情があらわれやすいとされており、「顔は笑っているが、眼は笑っていない」というような言い方もされる。 > > したがって表情表出の異常と病態を明らかにするには、脳の様々なレベルで表情筋ごとにどのようにコントロールされているかを明らかにする必要がある。そのためには、様々な神経レベルの異常と表情の異常を結びつけるだけでなく、神経生理学的手法を応用して表情筋を定量的かつ客観的に分類・解析し、顔面表情筋の大脳や脳幹による運動制御機構を明らかにする必要があると考えた。 **指摘された問題点:** 1. ここが「問い」の中心(第1段落の3文目)だが、「問い」として長すぎる 2. 第2段落はどちらも背景に相当する内容 3. 第3段落も背景に相当する内容 ## なぜよくないのか? 長すぎる【研究課題の核心をなす学術的「問い」】は、何が問題なのかがわかりにくくなり、あまりよくない。 例文は3つの段落から構成されており、申請書の半ページを占めていて、長すぎる。そのため読んでいて「問い」がぼやけてしまう。 例文では核心となる「問い」は最初の段落に書かれている。しかも最初の2文は申請者のこれまでの研究のことであり、「背景」に書くべきものだ。また2番目の段落も「問い」というよりも「背景」に相応しい部分だ。また3番目の段落は「問い」の補足情報とも読みとれる。これらの段落の構成を考えて修正していくと、もっと「学術的「問い」」としてしっかりとアピールできるようになる。 ## どのように改良すればよいか? "「問い」はこれだ"と、簡潔にまとめてしっかりと示すこと。例文では最初の段落の3つめの文が【学術的「問い」】の核心なので、この部分を中心として修正する。「「問い」=未解明なこと」が何か、文章をわかりやすく修正する。「申請者はこれまで~解釈できると考えた」は「背景」に移動した方が収まりがよい。 2番目の段落は「背景」に相当する部分なので、これも「背景」に移動する。 3番目の段落は「問い」の補足情報として付け加える。 ## 改善例 > 研究課題の核心をなす学術的「問い」 > > しかし、うつ病患者やアルツハイマー型認知症患者などの様々な精神疾患で、顔の表情の異常にどのような特徴があり、それぞれの基盤にある病態については不明である。 > > したがって表情表出の異常と病態を明らかにするには、脳の様々なレベルで表情筋ごとにどのようにコントロールされているかを明らかにする必要がある。そのためには、様々な神経レベルの異常と表情の異常を結びつけるだけでなく、神経生理学的手法を応用して表情筋を定量的かつ客観的に分類・解析し、顔面表情筋の大脳や脳幹による運動制御機構を明らかにする必要があると考えた。