--- title: "CASE 29: 「問い」がどこにあるのかわかりにくい" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第4章 研究目的、研究方法など:問い case_number: 29 pages: 131-134 images: page_0131.png ~ page_0134.png advice: "「背景」に埋もれないように、小見出しをつけて「学術的「問い」」を別項目で示そう" tags: ["はっきりと", "推敲のヒント"] --- # CASE 29: 「問い」がどこにあるのかわかりにくい ## アドバイス 「背景」に埋もれないように、小見出しをつけて「学術的「問い」」を別項目で示そう ## どこがよくないか > (1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」 > > 我が国は超高齢社会に突入し、疾患を抱え介護を必要とする高齢者が増大している。そのため、我々がみたことのないスピードで高齢者介護の負担が発生する、いわゆる介護の危機が到来しており、その準備を整えることが強く求められている。たとえば、加齢に伴う認知症、慢性疾病や障害などでは、長期的なケアが必要な高齢者の増加とともに家族介護者の数の増加をも伴う。高齢者に対するケアは多くの場合、まずは家族介護者に大きな負担をかけるのが現状である。世帯の縮小化が進行する中、若年者層が介護を担う割合が年々増加している。最新の統計では若年者層が20.8%、それ以外の年代層が79.2%になっている(2014)。これまでの研究から若年者層の介護者はサポートを積極的に求めない傾向があり、周囲の人にあまり積極的な支援要請を行わない(2007)。また、虐待の比率では若年者層によるものが61.3%と高い。また、虐待発生要因の上位は介護疲れ、介護ストレス(25%)、虐待者の障害・疾病(23.1%)である(老健局高齢者支援課調査結果:2015)。これらの状況から、自ら支援を求めてこない若年者層の特性を踏まえた高齢者介護への支援が危急の課題である。 > > これまでの研究から若年者層の家族介護者の特徴や性差に関する研究はされ、支援に向けた課題やその必要性については述べられている。申請者のこれまでの研究から、若年者層は介護をまるで仕事のように捉えて被介護者の病状や日常生活の変化に対応しそれらを乗り越え介護しており、介護開始当初には負担感を抱くもののそれらを乗り越えることで、介護に完璧さを求め自分のペースでやりたい思いが強い特徴があることがわかっている。また「家族会等利用者は介護負担感やストレスが利用していない人より高い」「調査対象の8割が介護者会に行きたくない、その理由に苦労話を共有しても仕方がないという背景がある」ことをこれまでの研究から明らかにしている。これらの調査結果を基に、踏み込んだ実践に結びつく若年者層の家族介護者の介護負担の軽減と虐待防止、心身の健康保持に繋がる支援に向けたモデルの開発研究がされているとは言い難い。申請者は、この研究で未だ開発されていない若年者層の家族介護者への支援モデルを開発することで、若年者層の家族介護者の介護負担の軽減と虐待防止を図り、心身の健康の保持につながる支援が提供できると考える。 ## 添削例 > (1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」 > > 我が国は超高齢社会に突入し、疾患を抱え介護を必要とする高齢者が増大している。そのため、我々がみたことのないスピードで高齢者介護の負担が発生する、いわゆる介護の危機が到来しており、その準備を整えることが強く求められている。たとえば、加齢に伴う認知症、慢性疾病や障害などでは、長期的なケアが必要な高齢者の増加とともに家族介護者の数の増加をも伴う。高齢者に対するケアは多くの場合、まずは家族介護者に大きな負担をかけるのが現状である。世帯の縮小化が進行する中、若年者層が介護を担う割合が年々増加している。最新の統計では若年者層が20.8%、それ以外の年代層が79.2%になっている(2014)。これまでの研究から若年者層の介護者はサポートを積極的に求めない傾向があり、周囲の人にあまり積極的な支援要請を行わない(2007)。また、虐待の比率では若年者層によるものが61.3%と高い。また、虐待発生要因の上位は介護疲れ、介護ストレス(25%)、虐待者の障害・疾病(23.1%)である(老健局高齢者支援課調査結果:2015)。これらの状況から、自ら支援を求めてこない若年者層の特性を踏まえた高齢者介護への支援が危急の課題である。 > > これまでの研究から若年者層の家族介護者の特徴や性差に関する研究はされ、支援に向けた課題やその必要性については述べられている。申請者のこれまでの研究から、若年者層は介護をまるで仕事のように捉えて被介護者の病状や日常生活の変化に対応しそれらを乗り越え介護しており、介護開始当初には負担感を抱くもののそれらを乗り越えることで、介護に完璧さを求め自分のペースでやりたい思いが強い特徴があることがわかっている。また「家族会等利用者は介護負担感やストレスが利用していない人より高い」「調査対象の8割が介護者会に行きたくない、その理由に苦労話を共有しても仕方がないという背景がある」ことをこれまでの研究から明らかにしている。これらの調査結果を基に、踏み込んだ実践に結びつく若年者層の家族介護者の介護負担の軽減と虐待防止、心身の健康保持に繋がる支援に向けたモデルの開発研究がされているとは言い難い。申請者は、この研究で未だ開発されていない若年者層の家族介護者への支援モデルを開発することで、若年者層の家族介護者の介護負担の軽減と虐待防止を図り、心身の健康の保持につながる支援が提供できると考える。 **指摘された問題点:** 1. ここまで読まないと研究課題の核心をなす学術的「問い」がわからない ## なぜよくないのか? 申請書の説明欄で、【研究課題の核心をなす学術的「問い」】と、わざわざ「問い」に(ここだけ!)括弧を付けているのは、【研究課題の核心をなす学術的「問い」】が重要であることを示唆しているからだ。「問い」があってこその「研究目的」であり、「問い」と「研究目的」は表裏一体である。「問い」に答えるのが「研究目的」だ。 しかし、例文のような書き方はどうだろうか。この例は実際に申請書の【概要】の下の部分、1ページ目の部分である。読む側の立場になれば、このような「背景」に埋もれた【学術的「問い」】は印象に残りにくい。研究の「背景」の結果として浮かび上がってきた「学術的「問い」」を申請書ではしっかりと示さなくてはならない。「問い」があってこそ、次の項目の【本研究の目的】につながっていくからだ。 ## どのように改良すればよいのか? 【学術的「問い」】をしっかりと示す簡単で効果的な方法は、例文のように「研究課題の核心をなす学術的「問い」」と小見出しをつけて、「背景」と別項目にすることだ。こうすると【学術的「問い」】の場所は一目瞭然ですぐにわかる。 もちろん小見出しを付けないで、「背景」との間に余白行を入れることでも、【学術的「問い」】の部分をわかりやすく示すことができるが、小見出しを付けて別項目にする方がはるかに【学術的「問い」】としてわかりやすい。 また、小見出しを単に「研究課題の核心をなす学術的「問い」」とするのではなく、【学術的「問い」】の要約にするのもよい方法だ。 また、ある先生からは【学術的「問い」】を一番最初に書くと聞いたこともある。研究とは「問い」に答えるために行うものだから、【学術的「問い」】を最初に書いておくのも、よい工夫だと思う。 ## 改善例 以下に「研究課題の核心をなす学術的「問い」」の小見出しをつけた例文と、【学術的「問い」】の内容の要約を小見出しにした例文を示す。 **例文A:「学術的「問い」」と小見出しをつける** > (1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」 > > (前半省略) > > これまでに若年者層の家族介護者の特徴や性差に関する研究がなされ、支援に向けた課題やその必要性については述べられている。申請者のこれまでの研究から、若年者層は介護をまるで仕事のように捉えて被介護者の病状や日常生活の変化に対応しそれらを乗り越え介護しており、介護開始当初には負担感を抱くもののそれらを乗り越えることで、介護に完璧さを求め自分のペースでやりたい思いが強い特徴があることがわかっている。また「家族会等利用者は介護負担感やストレスが利用していない人より高い」「調査対象の8割が介護者会に行きたくない、その理由に苦労話を共有しても仕方がないという背景がある」ことをこれまでの研究から明らかにしている。 > > **研究課題の核心をなす学術的「問い」** > > しかし、これらの調査結果を基に、踏み込んだ実践に結びつく若年者層の家族介護者の介護負担の軽減と虐待防止、心身の健康保持に繋がる支援に向けたモデルの開発研究がされているとは言い難い。申請者は、この研究で未だ開発されていない若年者層の家族介護者への支援モデルを開発することで、若年者層の家族介護者の介護負担の軽減と虐待防止を図り、心身の健康の保持につながる支援が提供できると考えている。 **例文B:「学術的「問い」」の要約を小見出しにする** > **若年者層の家族介護者に対する支援モデルの開発研究はまだ十分ではない** > > しかし、これらの調査結果を基に、踏み込んだ実践に結びつく若年者層の家族介護者の介護負担の軽減と虐待防止、心身の健康保持に繋がる支援に向けたモデルの開発研究がされているとは言い難い。申請者は、この研究で未だ開発されていない若年者層の家族介護者への支援モデルを開発することで、若年者層の家族介護者の介護負担の軽減と虐待防止を図り、心身の健康の保持につながる支援が提供できると考えている。