--- title: "CASE 28: 「目的」「背景」が混在していてわかりにくい" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第3章 研究目的、研究方法など:背景 case_number: 28 pages: 125-130 images: page_0125.png ~ page_0130.png advice: "「目的」「背景」はそれぞれ1つにまとめてロジックを明確にしよう" tags: ["はっきりと", "簡潔に"] --- # CASE 28: 「目的」「背景」が混在していてわかりにくい ## アドバイス 「目的」「背景」はそれぞれ1つにまとめてロジックを明確にしよう ## どこがよくないか > (1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」 > > 鳥マラリア原虫を含む、節足動物が媒介する感染症について、野外における流行地や流行時期を明らかにすることは媒介昆虫の発生消長や病原体保有状況がわかり、有益な情報が得られる。本研究では鳥マラリア原虫の媒介昆虫である蚊群集の病原体保有状況と吸血源動物種を調べることで、その調査地において、どの鳥マラリア原虫種が、どの鳥類宿主と、媒介蚊の間で流行しているかを明らかにする。蚊は、鳥類宿主に比べ世代交代サイクルが速く、行動範囲も狭いので、蚊群集における鳥マラリア原虫の病原体保有状況は、現在進行中の鳥マラリアの流行状況を反映すると考えられる。また、吸血蚊からは、病原体、ベクター、宿主鳥類の三者が接触したという直接的証拠が得られる。これまでの分析結果で、日本では夏鳥であるイワツバメや冬鳥であるシメ、シロハラなど、渡り鳥を吸血していた蚊サンプルからも鳥マラリア原虫が検出されている。これらの鳥マラリア原虫は、ヨーロッパやアメリカ、日本以外のアジア地域の野生鳥類血液から検出された原虫遺伝子配列と一致したが、日本の野鳥からの検出報告がない。このことは、日本以外に感染環をもつ鳥マラリア原虫が、渡り鳥である宿主鳥類によって日本に運ばれ、飛来地で日本産蚊に吸血されることで一時的に取り込まれたと考えられる。 > > 本研究での調査地として、2007年より調査を継続している福岡県内の森林公園に加え、ラムサール条約登録地である新潟県佐潟湿地において、ドライアイストラップ、ヒト囮法、捕虫網によるスウィーピング法を用いて蚊サンプルを集める。捕獲蚊については、顕微鏡による形態学的観察、必要に応じDNA解析により、蚊の種同定を行った後、遺伝子解析法により鳥マラリア原虫の検出・分類を行う。吸血蚊については、DNA解析による吸血源動物の同定も併せて行う。また、調査地で観察される鳥類の種類構成、出現頻度などのデータを収集し、複数の調査地で得られたサンプルの地域差について比較検討を行う。 > > これまでの研究結果で日本産蚊から検出された鳥マラリア原虫10系統のうち、4系統についてはGenBankデータベース上に一致する配列が無い。この理由のひとつとして、日本産鳥類における鳥マラリア原虫の情報量自体が少ないことが挙げられる。 > > そこで、傷病鳥として持ち込まれた野生個体からの血液試料の採取を指定動物病院に依頼し、鳥類血液検体から鳥マラリア原虫を検出し、蚊から検出されている病原体種との比較を行うことで、日本産蚊と鳥類群集の間に感染環を持つ鳥マラリア原虫種を明らかにする。吸血蚊および鳥類サンプルの分析結果を、媒介蚊種、吸血源動物種、病原体をセットとして記録し、これらの情報を逐次蓄積することによって、野生鳥類の昆虫媒介性の感染症の基礎的データベースを構築する。 ## 添削例 > (1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」 > > 【目的(1)】【背景(1)】鳥マラリア原虫を含む、節足動物が媒介する感染症について、野外における流行地や流行時期を明らかにすることは媒介昆虫の発生消長や病原体保有状況がわかり、有益な情報が得られる。本研究では鳥マラリア原虫の媒介昆虫である蚊群集の病原体保有状況と吸血源動物種を調べることで、その調査地において、どの鳥マラリア原虫種が、どの鳥類宿主と、媒介蚊の間で流行しているかを明らかにする。蚊は、鳥類宿主に比べ世代交代サイクルが速く、行動範囲も狭いので、蚊群集における鳥マラリア原虫の病原体保有状況は、現在進行中の鳥マラリアの流行状況を反映すると考えられる。(中略) > > 【目的(2)】本研究での調査地として、2007年より調査を継続している福岡県内の森林公園に加え、ラムサール条約登録地である新潟県佐潟湿地において、ドライアイストラップ、ヒト囮法、捕虫網によるスウィーピング法を用いて蚊サンプルを集める。(中略) > > 【これまでの成果(背景(2))】これまでの研究結果で日本産蚊から検出された鳥マラリア原虫10系統のうち、4系統についてはGenBankデータベース上に一致する配列が無い。(中略) > > 【目的(3)】そこで、傷病鳥として持ち込まれた野生個体からの血液試料の採取を指定動物病院に依頼し、(中略)野生鳥類の昆虫媒介性の感染症の基礎的データベースを構築する。 **指摘された問題点:** 1. 目的がバラバラに分散している(目的(1)、目的(2)、目的(3)の3箇所) 2. 背景も分散している(背景(1)、背景(2)の2箇所) 3. 目的と背景が混在しており、1つにまとめる必要がある ## なぜよくないのか? 例文では、研究の「背景」や「目的」を書いている部分がいくつかに分断され、しかも混在しているため、論旨がすっきりとしない。 文章の内容と構成をよく考えて書かないといけない。 ## どのように改良すればよいか? 「背景」や「目的」が分断されていると、文章の流れが悪く、読みにくい。分断は避けて、できるだけ1つにまとめる(case18参照)。 例文では、背景なら背景、目的なら目的と1つにまとめる。そのときひと続きの文章として書いてしまうとわかりにくいので、いくつかのパラグラフに分けて、小見出しを加えるとよい。例文では「背景」を【本研究の学術的背景】と【研究課題の核心をなす学術的「問い」】に分け、「目的」を【(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性】の見出しの下にまとめる。 ## 改善例 > (1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」 > > 【本研究の学術的背景】 > > 蚊は、鳥類宿主に比べ世代交代サイクルが速く、行動範囲も狭いので、蚊群集における鳥マラリア原虫の病原体保有状況は、現在進行中の鳥マラリアの流行状況を反映すると考えられる。また、吸血蚊からは、病原体、ベクター、宿主鳥類の三者が接触したという直接的証拠が得られる。これまでの分析結果で、日本では夏鳥であるイワツバメや冬鳥であるシメ、シロハラなど、渡り鳥を吸血していた蚊サンプルからも鳥マラリア原虫が検出されている。これらの鳥マラリア原虫は、ヨーロッパやアメリカ、日本以外のアジア地域の野生鳥類血液から検出された原虫遺伝子配列と一致したが、日本の野鳥からの検出報告がない。このことは、日本以外に感染環をもつ鳥マラリア原虫が、渡り鳥である宿主鳥類によって日本に運ばれ、飛来地で日本産蚊に吸血されることで一時的に取り込まれたと考えられる。 > > また、申請者のこれまでの研究結果で日本産蚊から検出された鳥マラリア原虫10系統のうち、4系統についてはGenBankデータベース上に一致する配列が無い。この理由のひとつとして、日本産鳥類における鳥マラリア原虫の情報量自体が少ないことが挙げられる。 > > 【研究課題の核心をなす学術的「問い」】 > > このように鳥マラリア原虫を含む節足動物が媒介する感染症について、野外における流行地や流行時期を明らかにすることは媒介昆虫の発生消長や病原体保有状況がわかり、有益な情報が得られるが、日本産鳥類における鳥マラリア原虫の保有状況や原虫の種類について調べた研究はこれまでになく、情報量が不足しているのが現状である。 > > (2)本研究の目的および学術的独自性と創造性 > > 【本研究の目的】 > > 本研究では鳥マラリア原虫の媒介昆虫である蚊群集の病原体保有状況と吸血源動物種を調べることで、その調査地において、どの鳥マラリア原虫種が、どの鳥類宿主と、媒介蚊の間で流行しているかを明らかにする。 > > 本研究での調査地として、2007年より調査を継続している福岡県内の森林公園に加え、ラムサール条約登録地である新潟県佐潟湿地において、ドライアイストラップ、ヒト囮法、捕虫網によるスウィーピング法を用いて蚊サンプルを集める。捕獲蚊については、顕微鏡による形態学的観察、必要に応じDNA解析により、蚊の種同定を行った後、遺伝子解析法により鳥マラリア原虫の検出・分類を行う。吸血蚊については、DNA解析による吸血源動物の同定も併せて行う。また、調査地で観察される鳥類の種類構成、出現頻度などのデータを収集し、複数の調査地で得られたサンプルの地域差について比較検討を行う。 > > また、傷病鳥として持ち込まれた野生個体からの血液試料の採取を指定動物病院に依頼し、鳥類血液検体から鳥マラリア原虫を検出し、蚊から検出されている病原体種との比較を行うことで、日本産蚊と鳥類群集の間に感染環を持つ鳥マラリア原虫種を明らかにする。吸血蚊および鳥類サンプルの分析結果を、媒介蚊種、吸血源動物種、病原体をセットとして記録し、これらの情報を逐次蓄積することによって、野生鳥類の昆虫媒介性の感染症の基礎的データベースを構築する。 ## 参考 冒頭に「問い」を書くのもよい。下記で紹介しているのは【(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」】の冒頭に解決すべき課題をまず書いた例である。その後に申請者らのこれまでの研究成果や予備実験の結果があり、この研究の重要性がしっかりと伝わってくる。ただしこの例のように、本文のなるべく早い段階で解決すべき課題を書く場合には、【概要】に研究目的をしっかりと書いておく必要がある。審査委員が研究目的を【概要】で十分に理解してからここを読むとなれば、【概要】から本文へと、項目の枠を超えて、よい流れを生み出すことができるので非常にわかりやすい。 > 骨代謝において、骨芽細胞と破骨細胞は中心的な役割を演じている。破骨細胞は末梢血中の単球/マクロファージから分化されることが知られているが、骨芽細胞は骨髄内に存在し、末梢血中にも存在するという概念はほとんど知られていない。 > > 我々は、野生型マウス大腿骨から骨髄単球を採取し、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、炎症性サイトカイン(TNFα、IL-6)刺激により骨吸収能を有する破骨細胞様細胞が分化誘導されることを報告した。そして、ヒト末梢血単核球において、破骨細胞様細胞の分化誘導を試みるため、末梢血単核球を象牙質上で培養し、M-CSFおよびTNFα、IL-6、RANKL(破骨細胞分化因子)を添加したところ、予想外にもTNFα、IL-6単独刺激では象牙質にカルシウム、リンを含む石灰化組織が電子顕微鏡で観察された。末梢血単核球を同様に培養し、付着細胞の遺伝子プロファイルを確認したところ、TNFα、IL-6単独刺激ではコントロールと比較して、骨芽細胞の分化には必須であるRUNX2 mRNAの発現が有意に上昇し、骨芽細胞マーカーであるALPの発現が有意に増加していた。この予備実験結果は、末梢血中に骨芽細胞様細胞が存在し、炎症性サイトカインにより活性化骨芽細胞系細胞へ誘導することで、石灰化組織を形成していることを示唆している。