--- title: "CASE 23: 「目的」が埋もれていて見つけにくい" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第2章 研究目的、研究方法など:概要 case_number: 23 pages: 105-108 images: page_0105.png ~ page_0108.png advice: "「目的」を目立たせよう。スペースがあれば文脈や意味の切れ目での改行も考える" tags: ["はっきりと", "レイアウト"] --- # CASE 23: 「目的」が埋もれていて見つけにくい ## アドバイス 「目的」を目立たせよう。スペースがあれば文脈や意味の切れ目での改行も考える ## どこがよくないか **例文1** > (概要) > 介護職員には、勤務全体を通じて資質能力を高めることが求められている。しかし、要介護者の状態を分析し、よりよい介護方針を探る際には、現状では介護経験が少ない職員のみで介護中に何が起こっているのかを適切に認知し解釈することが難しく、熟練職員の支援も必ずしも得られるとは限らない。本研究の目的は、介護経験が少ない職員同士で効果的な介護ができるようになることを支援するために、介護のプロセスを自ら査定し改良できる自己研修用の教材を開発することである。そのために、研修会などの記録から介護の際に起こる事象を認知する能力について既に高め合うことができているものや今後期待できるもの、さらにつまずき等を抽出し、教材のプロトタイプを開発する。 **例文2** > (概要) > 本研究の目的は、住まいに関する不平等の実態を明らかにし、解決策を立案することによって、日本社会全体の幸福度を高めることである。住宅の所有形態が教育・職業・健康・幸福度というライフチャンスに及ぼす影響について、大規模データの統計解析とフィールドワーク・インタビュー調査を併用する混合研究法を採用し、さらにオランダとの比較から日本の特色を析出する。住宅、とくに公営賃貸住宅の社会的役割に着目することにより、社会階層研究の新局面を開拓するという学術上の貢献に加え、とくに低所得層の子育て家族の生活基盤が安定するような住宅政策や家族政策の提言につながることを目指す。 ## 添削例 **例文1** > (概要) > 介護職員には、勤務全体を通じて資質能力を高めることが求められている。しかし、要介護者の状態を分析し、よりよい介護方針を探る際には、現状では介護経験が少ない職員のみで介護中に何が起こっているのかを適切に認知し解釈することが難しく、熟練職員の支援も必ずしも得られるとは限らない。本研究の目的は、介護経験が少ない職員同士で効果的な介護ができるようになることを支援するために、介護のプロセスを自ら査定し改良できる自己研修用の教材を開発することである。そのために、研修会などの記録から介護の際に起こる事象を認知する能力について既に高め合うことができているものや今後期待できるもの、さらにつまずき等を抽出し、教材のプロトタイプを開発する。 **指摘:** 研究目的が目立たない。ここに改行を入れる(「本研究の目的は」の前) **例文2** > (概要) > 本研究の目的は、住まいに関する不平等の実態を明らかにし、解決策を立案することによって、日本社会全体の幸福度を高めることである。住宅の所有形態が教育・職業・健康・幸福度というライフチャンスに及ぼす影響について、大規模データの統計解析とフィールドワーク・インタビュー調査を併用する混合研究法を採用し、さらにオランダとの比較から日本の特色を析出する。住宅、とくに公営賃貸住宅の社会的役割に着目することにより、社会階層研究の新局面を開拓するという学術上の貢献に加え、とくに低所得層の子育て家族の生活基盤が安定するような住宅政策や家族政策の提言につながることを目指す。 **指摘:** 1. 「背景」だが少ない 2. スペースに余裕があるのに段落の切れ目がない。パラグラフを分ける ## なぜよくないのか? 例文1は「本研究の目的は」で、明らかに文脈が変わっている。しかし連なった文章ではここが「目的」であるとはっきりしない。 例文2の場合、最初の2行は「目的」、次の文章は「方法」、そして「展開」と続く。この例では「本研究の目的は」とはじめており、「目的」であることははっきりしているが、もっと目立たせることができるだろう。 【概要】はスペースが限られているが、うまく文章を整えて改行の効果を生かしてほしい。 ## どのように改良すればよいか? 強調したい部分を改行することで段落の最初にもってくる。こうすることによって、研究目的の文章をはっきりと示せる。また改行したら、段落の最初に1文字分のスペースを空けること(字下げ)(申請者のギモン30参照)。改行を入れてパラグラフをつくると、審査委員にも意味の単位が視覚的にもわかるようになる。【概要】であってもスペースに余裕があるときには、改行を入れてその部分を目立たせたい。 例文1では「本研究の目的は」の前で改行するべきである。そして改行することによって「本研究の目的は」が次の段落の最初にきて、研究目的をしっかりと示すことができる。 例文2は「目的」を際立たせるために、最初の文章の後に改行を入れるとよい。改行を適宜入れて、その部分を他と区別する。基本的に概要には太字は不要だが、ときには目的の部分を太字(ゴシック体)にして目立たせるのもよいだろう。ただし最小限にすること。 ## 改善例 **例文1**(改行して目立たせる) > (概要) > 介護職員には、勤務全体を通じて資質能力を高めることが求められている。しかし、要介護者の状態を分析し、よりよい介護方針を探る際には、現状では介護経験が少ない職員のみで介護中に何が起こっているのかを適切に認知し解釈することが難しく、熟練職員の支援も必ずしも得られるとは限らない。 >  本研究の目的は、介護経験が少ない職員同士で効果的な介護ができるようになることを支援するために、介護のプロセスを自ら査定し改良できる自己研修用の教材を開発することである。そのために、研修会などの記録から介護の際に起こる事象を認知する能力について既に高め合うことができているものや今後期待できるもの、さらにつまずき等を抽出し、教材のプロトタイプを開発する。 **例文2-a**(ここに改行を入れて「目的」を際立たせる。「背景」をきっちり書く) > (概要) > 本研究の目的は、住まいに関する不平等の実態を明らかにし、解決策を立案することによって、日本社会全体の幸福度を高めることである。 >  住宅の所有形態が教育・職業・健康・幸福度というライフチャンスに影響を及ぼすことが指摘されているが、公営住宅が他国に比べて少ない日本では住宅システムと社会階層との関連性は十分に研究されていない。本研究では住宅、とくに公営賃貸住宅の社会的役割に着目することにより、社会階層研究の新局面を開拓するという学術上の貢献に加え、とくに低所得層の子育て家族の生活基盤が安定するような住宅政策や家族政策の提言につながることを目指す。 **例文2-b**(太字にして目立たせるのもよい) > (概要) > **本研究の目的は、住まいに関する不平等の実態を明らかにし、解決策を立案することによって、日本社会全体の幸福度を高めることである。** >  住宅の所有形態が教育・職業・健康・幸福度というライフチャンスに影響を及ぼすことが指摘されているが、公営住宅が他国に比べて少ない日本では住宅システムと社会階層との関連性は十分に研究されていない。本研究では住宅、とくに公営賃貸住宅の社会的役割に着目することにより、社会階層研究の新局面を開拓するという学術上の貢献に加え、とくに低所得層の子育て家族の生活基盤が安定するような住宅政策や家族政策の提言につながることを目指す。 例文2については、欲をいえば、研究の「背景」として「住宅の所有形態が教育・職業・健康・幸福度というライフチャンスに及ぼす影響」というのは十分ではない(この文の後ろの部分は「方法」になっている)。本文から「背景」にあたる部分をもってくるのがよいだろう。重要なことは、【概要】には「背景」「目的」「展開」をきっちりと書くことである(case15参照)。