--- title: "CASE 21: 概要には必要ないもの(1)" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第2章 研究目的、研究方法など:概要 case_number: 21 pages: 97-100 images: page_0097.png ~ page_0100.png advice: "概要部分は論文のサマリーとみなそう。参考文献、未発表の表記、図はここになくてよい" tags: ["ふさわしく", "図表"] --- # CASE 21: 概要には必要ないもの(1) ## アドバイス 概要部分は論文のサマリーとみなそう。参考文献、未発表の表記、図はここになくてよい ## どこがよくないか **例文1** > (概要) > 高校では英語での授業が基本となり、学習者のより多くの英語使用も求められている。しかしながら、日本人英語学習者は一般に英語での発話に自信がなく(Sato, 2011)、また英語での発話に不安も大きい(Sato & Kojima, 2012)。英語での会話で間違いをおかした際に、教師から明示的な訂正やフィードバックを受けると、会話を続ける意欲を失ってしまう現象もみられる(Sato 2011)。本研究では、主に英語での授業において、1)生徒の誤りを生かしながら文脈の中でさりげなく与えられる暗示的な訂正によって、生徒自身が誤りに気づくような…… **例文2** > (概要) > マウス胚性幹(ES)細胞は、LIF依存性に3胚葉への多分化能を維持し、自己複製するナイーブ型幹細胞である。従来の血清条件で、様々なマウス系統に由来するES細胞樹立の試みがなされ、ES細胞樹立が可能な系統とそうでない系統が知られていた。申請者は、マウスES細胞において、「LIFシグナル伝達経路におけるマウス系統差」と「ES細胞樹立の可否」との間に強い関連性を見出した(In revision)。さらに、血清条件での発現解析の結果、129系統ES細胞において血清条件下で自己複製するための候補因子として、Tfcp2l1を見出した(未発表)。 > そこで、本研究では、Tfcp2l1制御系のマウス系統差を生化学的および遺伝学的に解析し、「何故、129系統由来ES細胞だけが、血清条件で安定的に自己複製できるのか」を明らかにすることを目的とする。 **例文3** > (概要) > 本研究では摂食亢進ホルモン・グレリンの受容体を活性化するモノクローナル抗体を作製し、活性型グレリン受容体の結晶構造解析のツールとして使う。 > 近年、多くのGPCRの結晶構造が明らかになってきたが、ほとんどがアンタゴニスト結合状態の不活性型で、アゴニストが結合した活性型受容体の報告は少ない。 > 本研究ではグレリン受容体発現細胞のセカンドメッセンジャー変化を指標として、受容体を活性化できるモノクローナル抗体を探索する。この抗体を使ってグレリン受容体を活性化状態に固定し、活性型グレリン受容体としての結晶構造を解明する。本方法は他のGPCRにおいても活性型構造の解明に応用できると考える。 > > [図:グレリン受容体のモノクローナル抗体についての概略図] ## 添削例 **例文1** > (概要) > 高校では英語での授業が基本となり、学習者のより多くの英語使用も求められている。しかしながら、日本人英語学習者は一般に英語での発話に自信がなく~~(Sato, 2011)~~、また英語での発話に不安も大きい~~(Sato & Kojima, 2012)~~。英語での会話で間違いをおかした際に、教師から明示的な訂正やフィードバックを受けると、会話を続ける意欲を失ってしまう現象もみられる~~(Sato 2011)~~。本研究では、主に英語での授業において、1)生徒の誤りを生かしながら文脈の中でさりげなく与えられる暗示的な訂正によって、生徒自身が誤りに気づくような…… **指摘:** 概要に文献引用は必要ない。カットする **例文2** > (概要) > マウス胚性幹(ES)細胞は、LIF依存性に3胚葉への多分化能を維持し、自己複製するナイーブ型幹細胞である。従来の血清条件で、様々なマウス系統に由来するES細胞樹立の試みがなされ、ES細胞樹立が可能な系統とそうでない系統が知られていた。申請者は、マウスES細胞において、「LIFシグナル伝達経路におけるマウス系統差」と「ES細胞樹立の可否」との間に強い関連性を見出した~~(In revision)~~。さらに、血清条件での発現解析の結果、129系統ES細胞において血清条件下で自己複製するための候補因子として、Tfcp2l1を見出した~~(未発表)~~。 > そこで、本研究では、Tfcp2l1制御系のマウス系統差を生化学的および遺伝学的に解析し、「何故、129系統由来ES細胞だけが、血清条件で安定的に自己複製できるのか」を明らかにすることを目的とする。 **指摘:** 1. 「(In revision)」「(未発表)」は必要ない。カットする 2. 「展開」がない 3. 下線太字の必要あるか? **例文3** > [図付きの概要文] **指摘:** 概要に図は必要ない。カットする ## なぜよくないのか? 例文1では文献を入れているが、【概要】には文献引用は必要ない。例えば論文のサマリー(アブストラクト)にも、普通は、文献は入れない。 例文2では申請者の論文に関する「(In revision)」や「(未発表)」という記載があるが、【概要】には必要ない。 例文3では、図は本文に入れればよく、ここには必要ない。研究計画全体の流れを図にしている場合でも、その図は本文中に入れれば問題ない。 【概要】には下線や太字は「基本的に」必要ない。基本的にというのは、特に重要なキーワードだけを強調文字にすることは、「あり」だと思うからだ。しかし限られたスペースに重要なところをまとめた【概要】に、一般には太字は必要ない。文献もカットするとかなりのスペースの節約になる。その分、内容をよいものにすると審査委員としても助かる。申請書と学術論文とを比較するのは適切でないかもしれないが、論文のサマリーには太字、引用文献など含むだろうか(もちろんジャーナルによって例外はある)。また、【概要】に図は入れてもよいかという疑問もあると思う。もちろん入れてもかまわないが、【概要】はスペースも限られているし、私は、図は入れない方がよいと思う。 ## どのように改良すればよいか? 文献引用、太字、図などはここになくてよい。【概要】部分は論文のサマリーと同じものとみなそう。 例文1では文献引用はカットする。そのかわり文献引用は本文中に入れる。特に本文中では申請者の論文はぜひとも引用して、研究計画が実現可能であることを示すこと(case27参照)。 例文2では「(In revision)」や、「(未発表)」などの記載はカットする。また例文2にはそもそもないが、すでに発表されている論文の引用も書かなくてよい。発表済みの論文や投稿中の論文などは【本文】に書いておけばよい。そして次の点にも検討を加えたい。まず下線太字の強調は必要なのか?また最初の「マウス胚性幹(ES)細胞は、LIF依存性に3胚葉への多分化能を維持し、自己複製するナイーブ型幹細胞である」の説明もこの分野では周知の事実。さらに最初の6行が研究の「背景」であり、残りの3行(ほぼ2行)が研究の「目的」と、バランスが悪い。「背景」を少し整理して、「目的」をわかりやすく書き直す。また、「展開」もないので加える。 例文3では図や文献引用は不要なのでカットする。その分の空いたスペースで、【概要】の内容を充実させる(改善例は省略)。 ## 改善例 **例文1**(文献の引用はカットする) > (概要) > 高校では英語での授業が基本となり、学習者のより多くの英語使用も求められている。しかしながら、日本人英語学習者は一般に英語での発話に自信がなく、また英語での発話に不安も大きい。英語での会話で間違いをおかした際に、教師から明示的な訂正やフィードバックを受けると、会話を続ける意欲を失ってしまう現象もみられる。本研究では、主に英語での授業において、1)生徒の誤りを生かしながら文脈の中でさりげなく与えられる暗示的な訂正によって、生徒自身が誤りに気づくような…… **例文2**(周知の事実はカットする。文献の引用はカットする) > (概要) > 様々なマウス系統に由来するES細胞樹立の試みがなされ、従来の血清条件下で、ES細胞樹立が可能な系統と、樹立できない系統が知られている。申請者は、マウスの系統差によるLIFシグナル伝達の違いと、ES細胞樹立の可否との間に強い関連性を見出した。さらに血清条件下での発現解析の結果、129系統ES細胞において血清条件下で安定して自己複製するために必要な転写因子PFCTを見出した。 > 本研究では、なぜ129系統由来ES細胞だけが血清条件下で安定的に自己複製できるのかを、転写因子PFCTの機能を解析することや、LIFシグナル伝達系の役割を調べることで明らかにする。 > 一連の研究によって、ES細胞が自己複製能を獲得するのに必要な遺伝子群の制御機構が解明され、ナイーブ型幹細胞を安定して樹立できるようになると期待される。 「展開」を加える。下線太字をやめる。