--- title: "CASE 19: 唐突なはじまりで読みにくい" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第2章 研究目的、研究方法など:概要 case_number: 19 pages: 89-92 images: page_0089.png ~ page_0092.png advice: "書きはじめには2つのパターンがある。迷ったら「本研究の目的は」or「背景」から書きはじめよう" tags: ["ふさわしく"] --- # CASE 19: 唐突なはじまりで読みにくい ## アドバイス 書きはじめには2つのパターンがある。迷ったら「本研究の目的は」or「背景」から書きはじめよう ## どこがよくないか **例文1** (概要) ヒト皮膚の角質層に治療液が浸透する物理メカニズムの解明を行うことである。これまで申請者は、レーザー共焦点顕微鏡と~(以下省略) **例文2** (概要) 人間の欲求に関する脳内の情報処理は記憶活動を促進する。Enrianらは生存欲求が、欲求の階層構造の最下層に位置し、その情報処理が記憶活動を促進することを報告している。しかし申請者らは、より上層の欲求である目標達成欲求に関連する情報処理が、意味的情報処理よりも記憶活動を促進することを見いだした。そのために、欲求の階層構造における各階層の欲求が記憶活動にどのような効果を及ぼすかを比較し、欲求の階層構造に対応して記憶に及ぼす効果が変化するのかどうかを検討することが、第1の目的である。(以下省略) ## 添削例 **例文1** > (概要) > ヒト皮膚の角質層に治療液が浸透する物理メカニズムの解明を行うことである。これまで申請者は、レーザー共焦点顕微鏡と~(以下省略) **指摘された問題点:** 1. 開始部分が唐突。一言足す **例文2** > (概要) > 人間の欲求に関する脳内の情報処理は記憶活動を促進する。Enrianらは生存欲求が、欲求の階層構造の最下層に位置し、その情報処理が記憶活動を促進することを報告している。しかし申請者らは、より上層の欲求である目標達成欲求に関連する情報処理が、意味的情報処理よりも記憶活動を促進することを見いだした。そのために、欲求の階層構造における各階層の欲求が記憶活動にどのような効果を及ぼすかを比較し、欲求の階層構造に対応して記憶に及ぼす効果が変化するのかどうかを検討することが、第1の目的である。(以下省略) **指摘された問題点:** 1. 「背景」が長すぎる。「目的」との境界がはっきりしない 2. 解決すべき課題は? ## なぜよくないのか? 例文1は「目的」から書いているが、このはじまり方はあまりにぶっきらぼうだ。悪くはないがもう一工夫できる。 例文2は研究の「背景」をまず書いているのはいいが、「背景」のなかに解決すべき課題(「問い」)を書かずに、そのまま現在の状況をずるずると書き続けてしまっている。 いずれも審査委員によってはわかりにくさを感じる原因になる。申請書の開始部分、特に【概要】の開始部分はどのようなものがよいのだろうか? ## どのように改良すればよいか? 申請書での文章のはじめ方(開始パターン)は大きく2つに分かれる。1つ目は、「本研究は」「本研究の目的は」と、まず研究「目的」を書くパターン。2つ目は、まず「背景」を書くパターンである。1つ目のパターンでは、「目的」の後にそのまま研究の「背景」を書いていっても問題ない。2つ目のパターンでは、まず一般的な研究の「背景」(どのような状況か)の一文を書くことが多い。そして重要なことは、そのすぐ後に解決すべき課題(「問い」)を明記することである。よくないのは、「背景」の説明をその後も何行か続けるパターンである。 例文1は冒頭に簡単に「本研究の目的は」と付け加えるだけで唐突な印象は薄れる。 例文2は「背景」のなかに解決すべき課題をまとめる。つまり「人間の欲求に関する脳内の情報処理は記憶活動を促進する」の後に、研究で解決すべき課題を書いて、それを解決するためにどのような研究を行うのかを書くべきである。 ## 改善例 **例文1** ── 「本研究の目的は」ではじめる > (概要) > 本研究の目的は、ヒト皮膚の角質層に治療液が浸透する物理メカニズムの解明を行うことである。これまで申請者は、レーザー共焦点顕微鏡と~(以下省略) **例文2** ── 「背景」のなかに解決すべき課題をまとめる > (概要) > 人間の欲求は階層構造を示し、欲求に関する脳内の情報処理は記憶活動を促進することが知られている。しかし、階層構造に対応して記憶活動を促進する程度が異なるのかどうかは明らかではない。Enrianらは生存欲求が、欲求の階層構造の最下層に位置し、その情報処理が記憶活動を促進することを報告しているし、申請者らは、より上層の欲求である目標達成欲求に関連する情報処理が、意味的情報処理よりも記憶活動を促進することを見いだしている。 > 本研究では、欲求の階層構造における各階層の欲求が記憶活動にどのような効果を及ぼすかを比較し、欲求の階層構造に対応して記憶に及ぼす効果が変化するのかどうかを検討することが、第1の目的である。(以下省略) ## 参考 参考までに、それぞれのパターンにあてはまるはじめ方の例をその他に8つほどあげておこう。 **パターン1:研究目的からはじめるパターン** - 本研究の目的は、129系統ES細胞が血清条件下で安定に自己複製できる理由を明らかにすることである。 - 研究の全体構想:本研究では一般複素擬楕円体の間の~ - 本研究の目的は、食育教育を扱った教員養成段階における一連の授業プログラムを開発することである。 - 本研究は、訪問看護師のコンピテンシーを高めるための教育プログラムの開発を最終目的とする。 - 本研究の目的は、豊富なエネルギー資源をもつラテンアメリカ諸国で、地球温暖化などの気候変動政策を実施する制度改革がどのように進展してきたか、その政治過程を分析することである。 **パターン2:研究の背景からはじめるパターン** - グレリンは申請者らが発見した摂食亢進作用を示すペプチドホルモンで、N末端から3番目のセリン残基が脂肪酸のオクタン酸によって修飾されている。 - 光学顕微鏡レベルの解析では、ミトコンドリアのDNAは分裂・融合をくり返すミトコンドリアの動態と深く関連することが明らかになりつつある。 - 学校教員には、教職生活全般を通じて資質能力を高めることが求められている。 - 高校では英語での授業が基本となり、学習者のより多くの英語使用も求められている。 - 近年の大学選抜制度は学力テスト方式、AO方式などさまざまな形式が混在しており、これらの成績から適切かつ整合的な合否判定をする必要が生じている。