--- title: "CASE 18: 「目的」と「背景」が分断されていてわかりにくい" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第2章 研究目的、研究方法など:概要 case_number: 18 pages: 85-88 images: page_0085.png ~ page_0088.png advice: "「目的」「背景」はそれぞれ1つにまとめてロジックを明確にしよう。「目的」の片方を「背景」に書き換えるのも1つの方法" tags: ["はっきりと", "簡潔に", "推敲のヒント"] --- # CASE 18: 「目的」と「背景」が分断されていてわかりにくい ## アドバイス 「目的」「背景」はそれぞれ1つにまとめてロジックを明確にしよう。「目的」の片方を「背景」に書き換えるのも1つの方法 ## どこがよくないか **例文1** (概要) 本研究の目的は、学校給食を扱った教員養成段階における授業→教育実習→初任者研修の一連のプログラムを開発することである。食育の生きた教材とも言われる学校給食ではあるが、単に食事を提供すればよいと誤解している教師もいる。教員予備軍や初任者に必要な指導を行わなくして、食育の充実と継続は難しい。教員養成段階において学校給食を扱った授業を提供している大学は僅少であるが、給食を扱った授業については検討済みであり、今回は、教育実習及び初任者研修における給食指導の実態把握に努めるとともに、収集した事例を参考に給食指導に必要な力量形成を図る教員養成段階から初任者研修に至る一連のプログラムを開発する。 **例文2** (概要) 本研究の目的は、歯科心身症に対する薬物療法が有効かどうかの評価を行う。また、発症の原因や患者の分類を行うことによって、適切な診断を行えるようにする。 歯科心身症は他覚的異常所見に乏しく、精神的な異常も認められないにもかかわらず、痛みや異常感を訴える疾患である。本研究では歯科心身症患者を痛み、異常感の症状ごとに分け、どの症状に対してどのような薬物療法がより有効であるか、用量反応性に関する検討を行う。また、なぜ歯科心身症となるのか、発症の契機や症状を増悪させる原因の解析を行い、患者を分類する。さらに薬物療法を行う際に改善や悪化に関わる因子を解明し、それらの結果から、歯科心身症患者のQOL向上につながる、より効果的な治療法と診断の確立を目指す。 **例文3** (概要) 染織品は職人が作り上げる日常品であり、商品として流通しているため、制作年代や制作地の特定が難しい。本研究は、2世紀から12世紀に発掘された古代中国・都城の染織品と同地域から出土した殷・周の更紗を調査し、制作年・制作地の特定を行なう基礎研究である。この研究から、人から人、地域へと広がる染織品の文様・技法が時代と共に変容する過程を読み解く。先行研究では都城の染織品、殷・周の更紗それぞれ個別に研究されていたが、河南省鄭州市で発掘された殷・周の更紗を軸に、都城と殷・周の結びつきを研究するものはない。本成果は美術史、歴史学、経済史などの研究に寄与できる。 ## 添削例 **例文1** > (概要) > 本研究の目的は、学校給食を扱った教員養成段階における授業→教育実習→初任者研修の一連のプログラムを開発することである。食育の生きた教材とも言われる学校給食ではあるが、単に食事を提供すればよいと誤解している教師もいる。教員予備軍や初任者に必要な指導を行わなくして、食育の充実と継続は難しい。教員養成段階において学校給食を扱った授業を提供している大学は僅少であるが、給食を扱った授業については検討済みであり、今回は、教育実習及び初任者研修における給食指導の実態把握に努めるとともに、収集した事例を参考に給食指導に必要な力量形成を図る教員養成段階から初任者研修に至る一連のプログラムを開発する。 **指摘された問題点:** 1. 「目的」が2つに分断されている。1つにまとめる(目的①と目的②) 2. 構成が「目的①→背景→目的②」となっている **例文2** > (概要) > 本研究の目的は、歯科心身症に対する薬物療法が有効かどうかの評価を行う。また、発症の原因や患者の分類を行うことによって、適切な診断を行えるようにする。 > 歯科心身症は他覚的異常所見に乏しく、精神的な異常も認められないにもかかわらず、痛みや異常感を訴える疾患である。本研究では歯科心身症患者を痛み、異常感の症状ごとに分け、どの症状に対してどのような薬物療法がより有効であるか、用量反応性に関する検討を行う。また、なぜ歯科心身症となるのか、発症の契機や症状を増悪させる原因の解析を行い、患者を分類する。さらに薬物療法を行う際に改善や悪化に関わる因子を解明し、それらの結果から、歯科心身症患者のQOL向上につながる、より効果的な治療法と診断の確立を目指す。 **指摘された問題点:** 1. 同じような「目的」が2カ所に書かれている。まとめたい **例文3** > (概要) > 染織品は職人が作り上げる日常品であり、商品として流通しているため、制作年代や制作地の特定が難しい。本研究は、2世紀から12世紀に発掘された古代中国・都城の染織品と同地域から出土した殷・周の更紗を調査し、制作年・制作地の特定を行なう基礎研究である。この研究から、人から人、地域へと広がる染織品の文様・技法が時代と共に変容する過程を読み解く。先行研究では都城の染織品、殷・周の更紗それぞれ個別に研究されていたが、河南省鄭州市で発掘された殷・周の更紗を軸に、都城と殷・周の結びつきを研究するものはない。本成果は美術史、歴史学、経済史などの研究に寄与できる。 **指摘された問題点:** 1. 「背景」「展開」が分断されている。「背景①と②」、「展開①と②」はそれぞれまとめる 2. 構成が「背景①→目的→展開①→背景②→展開②」となっている ## なぜよくないのか? 例文1は、構成が、目的①→背景→目的②となっており、「目的」が2つに分断されている。また研究の「展開」がない(正確には目立たない)。 例文2は、「目的」が2カ所に書かれていて、しかもその内容がほぼ重なっている。具体的に見ていくと最初の「薬物療法が有効かどうかの評価」と次の「どの症状に対してどのような薬物療法がより有効であるか、用量反応性に関する検討を行う」が重なっている。そして「発症の原因や患者の分類を行うことによって、適切な診断を行えるようにする」と「痛み、異常感の症状ごとに分け」「発症の契機や症状を増悪させる原因の解析を行い、患者を分類」とがほぼ同じ内容である。また2カ所の「目的」の間にある「背景」で解決すべき課題が十分に書かれていない点も改良したい。 例文3は、背景①→目的→展開①→背景②→展開②となって、「背景」と「展開」がそれぞれ2つに分断されている。 このように「目的」や「背景」が2つに分断されている例は意外と多い。スペースが限られている【概要】では目的をまとめて1つにしたほうが審査委員は理解しやすい。 ## どのように改良すればよいか? 分断された、あるいは重複した「目的」を整理する。研究目的は、裏返せば「研究の問題意識」である。つまり研究目的とは解決すべき課題(「問い」)を明らかにすることである。そしてこの研究でどのようなことがわかるのか、明らかになるのか、応用があるのかなどを「展開」として書かなければならない。 例文1では分断された目的をまとめ、最後の「プログラムを開発する」が「展開」にあたる部分なので、これを目立たせよう。 例文2の場合、ほぼ同じような内容の「目的」が2カ所に書かれていた。そこで、「目的」の1つを「背景」の解決すべき課題として書き直し、さらに全体を整理して書き直す。また研究のキーワードにあたるものを太字にする(もちろん太字にしなくてもよい。この場合は「歯科心身症」)(case11、申請者のギモン25も参照)。 例文3では、いま書かれている内容を、背景→目的→展開の順番に分断されないようにまとめ直す。「背景」では何が問題点なのか、解明すべきこと、明らかにすべきことなど(つまり学術的「問い」)が書かれているかもう一度確認しよう(ここではきちんと書かれている)。 ## 改善例 **例文1** ── 2つに分かれていた「目的」を1つにまとめる > (概要) > 食育の生きた教材とも言われる学校給食ではあるが、単に食事を提供すればよいと誤解している教師もいる。教職課程の学生や教員初任者に必要な指導が行われないと食育の充実と継続は難しい。しかし教員養成段階において学校給食を扱った授業を提供している大学は少ない。 > 本研究の目的は、学校給食を扱った教員養成段階における授業→教育実習→初任者研修の一連のプログラムを開発することである。給食を扱った授業については検討済みであり、今回は、教育実習及び初任者研修における給食指導の実態把握に努める。さらに収集した事例を参考に給食指導に必要な力量形成を図るための、調理実習の体験や、栄養学の知識と指導方法までも含めた、より発展性のある教育プログラムの確立を目指す。 **例文2** ── 「目的」を1つにまとめて、キーワードを太字にして全体を整理する > (概要) > **歯科心身症**は他覚的異常所見に乏しく、精神的な異常が認められないにもかかわらず、痛みや異常感を訴える疾患である。しかし、発症の原因や症状から患者の分類を行って適切に診断することはまだ行われていないし、薬物療法が有効かどうかの評価も十分ではない。 > 本研究では歯科心身症患者を、痛みや異常感の症状ごとに分け、どの症状に対してどのような薬物療法がより有効であるかの検討を行う。また、なぜ歯科心身症となるのか、発症の契機や症状を増悪させる原因の解析から患者を分類する。さらに薬物療法を行う際に、症状の改善や悪化に関わる因子を解明する。これらの結果から、歯科心身症患者のQOL向上につながる、より効果的な診断法と治療法の確立を目指す。 **例文3** ── 分断されていた「背景」「目的」をそれぞれ1つにまとめる > (概要) > 染織品は職人が作り上げる日常品であり、商品として流通しているため、制作年代や制作地の特定が難しい。先行研究では都城の染織品、殷・周の更紗それぞれ個別に研究されていたが、河南省鄭州市で発掘された殷・周の更紗を軸に、都城と殷・周の結びつきを研究するものはない。 > 本研究は、2世紀から12世紀に発掘された古代中国・都城の染織品と同地域から出土した殷・周の更紗を調査し、制作年・制作地の特定を行なう基礎研究である。この研究から、都城と殷・周の結びつきにおいて、人から人、地域へと広がる染織品の文様・技法が時代と共に変容する過程を読み解く。本成果は美術史、歴史学、経済史などの研究に寄与できると考える。