--- title: "CASE 17: 「背景」の記述が十分でなく解決すべき課題(学術的「問い」)をつかみにくい" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第2章 研究目的、研究方法など:概要 case_number: 17 pages: 81-84 images: page_0081.png ~ page_0084.png advice: "研究目的を理解してもらうため、どのような研究の状況(背景)で何を解決すべきかという「問い」をしっかり示そう" tags: ["はっきりと", "具体的に"] --- # CASE 17: 「背景」の記述が十分でなく解決すべき課題(学術的「問い」)をつかみにくい ## アドバイス 研究目的を理解してもらうため、どのような研究の状況(背景)で何を解決すべきかという「問い」をしっかり示そう ## どこがよくないか **例文1** (概要) 本研究の目的は、歩行機能に障害をもつ高齢者のリハビリ訓練において、患者と理学療法士を支援するシステムを研究することである。理学療法士による従来のリハビリ方法とリハビリ支援ロボットを統合し、訓練計画の定量的な評価を可能にする。さらに支援ロボットに訓練方法を自動的に解析し効果・効率を持続的に改良できるシステムを組み込む。本研究では、こうしたリハビリ支援システムの原型をつくることを目標とする。高齢者に多い大腿骨骨折による歩行障害や脳卒中による片麻痺を対象として、立位での歩行機能のリハビリ訓練に的を絞り研究する。本研究の成果は、他のリハビリ訓練へも広く応用でき、機能回復の向上へ貢献することが期待できる。 **例文2** (概要) 世界の年金機構等の過剰流動性資金はリーマンショックの金融危機後も拡大している。年金機構の資産は6兆ドル(約600兆円)を超え、日本の株式時価総額やヘッジファンド(図I)を超える。これまで主要投資家であったヘッジファンドは金融危機に伴い資産増加が鈍化し、年金機構が資金供給者としての役割を増し、投資対象も株式から不動産、直接投資へと拡大している。本研究は、ロシア、中東、中国等の主要な年金機構の投資戦略と日米欧市場等の投資受け入れ政策に焦点を当てることで年金機構についての研究基盤を確立する。研究成果はJournal of European Economics, World Developmentなど内外の学術雑誌へ投稿する。 ## 添削例 **例文1** > (概要) > 本研究の目的は、歩行機能に障害をもつ高齢者のリハビリ訓練において、患者と理学療法士を支援するシステムを研究することである。理学療法士による従来のリハビリ方法とリハビリ支援ロボットを統合し、訓練計画の定量的な評価を可能にする。さらに支援ロボットに訓練方法を自動的に解析し効果・効率を持続的に改良できるシステムを組み込む。本研究では、こうしたリハビリ支援システムの原型をつくることを目標とする。高齢者に多い大腿骨骨折による歩行障害や脳卒中による片麻痺を対象として、立位での歩行機能のリハビリ訓練に的を絞り研究する。本研究の成果は、他のリハビリ訓練へも広く応用でき、機能回復の向上へ貢献することが期待できる。 **指摘された問題点:** 1. 「背景」(解決すべき課題)が書かれていない。何が解決すべき課題か? 2. 「目的」と「展開」は書かれているが、「背景」が欠けている **例文2** > (概要) > 世界の年金機構等の過剰流動性資金はリーマンショックの金融危機後も拡大している。年金機構の資産は6兆ドル(約600兆円)を超え、日本の株式時価総額やヘッジファンド(図I)を超える。これまで主要投資家であったヘッジファンドは金融危機に伴い資産増加が鈍化し、年金機構が資金供給者としての役割を増し、投資対象も株式から不動産、直接投資へと拡大している。本研究は、ロシア、中東、中国等の主要な年金機構の投資戦略と日米欧市場等の投資受け入れ政策に焦点を当てることで年金機構についての研究基盤を確立する。研究成果はJournal of European Economics, World Developmentなど内外の学術雑誌へ投稿する。 **指摘された問題点:** 1. 研究の「背景」は書かれているが、解決すべき課題が明らかではない。研究すべき課題は? 2. 「研究基盤を確立する」とは? ## なぜよくないのか? 例文1には研究の「目的」や「展開」は書かれているが、「背景」が書かれていない。現在の研究はどのような状況で、何が問題で、何を解決すべきなのか、なぜその研究を行うのか、それをしっかりと書かないといけない。 例文2では、研究の背景は書かれているようにみえるが、事実の羅列のみであり申請書で求められている「背景」にはなっていない。申請書で求められている「背景」とは解決すべき課題(学術的「問い」)が書かれているものだ。このままでは審査委員は、何が問題で、この研究計画によって何が解決できるのかが認識できない。 「背景」と「問い」を明示しないと専門が異なる審査委員には「目的」の重要度が伝わらない。研究課題をとりまく状況(背景)と解決すべき課題(問い)があってこその研究である。そして、「問い」を解決することが研究の目的である。 ## どのように改良すればよいか? 【概要】で研究の「背景」を書いていない例は結構多い。しかし、そのほとんどにおいて(全部で?)、【本文】には研究の「背景」がきちんと書いてある(case16参照)。 例文1の場合も【本文】から、「背景」を抜き出してくると、 - 日本が直面する超高齢社会において、歩行障害をきたしてリハビリを行う方は急増している - 高齢者の歩行訓練のリハビリで、支援ロボットを使った例が多くなっているが、支援ロボットを現場のニーズに合わせて持続的に改良可能なシステムはまだない となる。例文2の場合、 - 今後、年金機構が先進国企業の主要株主になる - そのため、役員選任・派遣など株主としての権利を行使すると予想される - 日本では、年金機構の投資受け入れの制度面の研究が進んでいない と研究の背景で解決すべき課題などが書いてあった。これらの記述を整理してまとめ、「背景」として加えるのがよいだろう。 ## 改善例 **例文1** ── 本文から「背景」を抜き出して文章を整理する > (概要) > 日本が直面する超高齢社会において、歩行障害を来してリハビリを行う患者は急増している。そして高齢者の歩行訓練のリハビリで、支援ロボットを使った例が多くなっているが、支援ロボットを現場のニーズに合わせて持続的に改良可能なシステムはまだ十分に開発されていない。 > 本研究の目的は、歩行機能に障害をもつ高齢者のリハビリ訓練において、理学療法士による従来のリハビリ方法とリハビリ支援ロボットを統合し、支援ロボットが訓練方法を自動的に解析し持続的に改良できるシステムを開発することである。本研究の成果は、他のリハビリ訓練へも広く応用でき、機能回復の向上へ貢献することが期待できる。 **例文2** > (概要) > 世界の年金機構などの過剰流動性資金はリーマンショックの金融危機後も拡大している。これまで主要投資家であったヘッジファンドに代わり、年金機構が資金供給者としての役割を増し、投資対象も株式から不動産、直接投資へと拡大している。そのため今後、年金機構が先進国企業の主要株主になることで、役員選任・派遣など株主としての権利を行使することが予想される。しかし年金機構の投資受け入れの制度面の研究は、日本では進んでいない。 > 本研究では、世界の年金機構について、ロシア・中東・中国等の主要な年金機構の投資戦略と、日米欧市場などの投資受け入れ政策について調査する。制度設計が進んでいる英国との比較によって日本市場の問題点が明らかになり、日本企業の今後に向けての企業統治の改革の参考になると考える。 例文2ではさらに、最後から2文目の「研究基盤を確立する」が具体的でないので、何を研究するのかをしっかりと示すため、文章を工夫した。