--- title: "CASE 16: 概要とはいえ中身に乏しく具体的でない" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第2章 研究目的、研究方法など:概要 case_number: 16 pages: 77-80 images: page_0077.png ~ page_0080.png advice: "何を調べたいのかという「目的」を第三者でもイメージできるように書こう" tags: ["具体的に"] --- # CASE 16: 概要とはいえ中身に乏しく具体的でない ## アドバイス 何を調べたいのかという「目的」を第三者でもイメージできるように書こう ## どこがよくないか **例文1** (概要) 本研究の目的は、有酸素性運動とエイコサペンタエン酸(EPA: Eicosapentaenoic acid)摂取の併用が、肥満・メタボリックシンドローム、および脳神経機能に及ぼす影響を明らかにすることである。近年、食の欧米化(高脂肪食、EPA摂取量の減少)、身体活動量の減少などにより肥満・メタボリックシンドロームや脳神経機能異常(神経変性疾患)が急増している。本研究では普通食と高脂肪食の異なる生活環境における老齢マウスに対して有酸素性運動とEPA摂取を行い、肥満・メタボリックシンドローム、及び脳神経機能の予防・改善効果を運動生理学的、生化学的、行動学的、神経病理学的に検討する。また肥満・メタボリックシンドロームや脳神経保護に効果的な運動処方およびEPA摂取量などをスクリーニングする。 **例文2** (概要) 本研究では、アクティブ・ラーニングでの学びの経験が、教員養成課程の学生の学習観にどのような影響を及ぼすのかということについて、教員養成課程全体を見据えた検討を行うことを目的とする。そのために、以下の3つのテーマを設定して研究を行う。 テーマ1 教職志望学生の学習観を評価する尺度の構成 テーマ2 教員養成課程全体を通した学習観の変化とその要因についての縦断的検討 テーマ3 個別の授業におけるアクティブ・ラーニングと学習観の変化の関連についての検討 ## 添削例 **例文1** > (概要) > 本研究の目的は、有酸素性運動とエイコサペンタエン酸(EPA: Eicosapentaenoic acid)摂取の併用が、肥満・メタボリックシンドローム、および脳神経機能に及ぼす影響を明らかにすることである。近年、食の欧米化(高脂肪食、EPA摂取量の減少)、身体活動量の減少などにより肥満・メタボリックシンドロームや脳神経機能異常(神経変性疾患)が急増している。本研究では普通食と高脂肪食の異なる生活環境における老齢マウスに対して有酸素性運動とEPA摂取を行い、肥満・メタボリックシンドローム、及び脳神経機能の予防・改善効果を運動生理学的、生化学的、行動学的、神経病理学的に検討する。また肥満・メタボリックシンドロームや脳神経保護に効果的な運動処方およびEPA摂取量などをスクリーニングする。 **指摘された問題点:** 1. 対象が広すぎて漠然としている。具体的に 2. 「~的」が多すぎる!カットや言い換えを検討 3. 強調の意図で使われているが、ただ見にくくしているので網かけは外す **例文2** > (概要) > 本研究では、アクティブ・ラーニングでの学びの経験が、教員養成課程の学生の学習観にどのような影響を及ぼすのかということについて、教員養成課程全体を見据えた検討を行うことを目的とする。そのために、以下の3つのテーマを設定して研究を行う。 > テーマ1 教職志望学生の学習観を評価する尺度の構成 > テーマ2 教員養成課程全体を通した学習観の変化とその要因についての縦断的検討 > テーマ3 個別の授業におけるアクティブ・ラーニングと学習観の変化の関連についての検討 **指摘された問題点:** 1. 具体的な「目的」ではない 2. テーマ1~3の内容が抽象的 3. 中身に乏しい。第三者にもわかるよう、具体的に書く ## なぜよくないのか? 例文1は、"研究目的が具体的でなくわかりにくい"と審査委員は感じるだろう。"研究目的が具体的でない?冒頭にはっきりと「本研究の目的は、有酸素性運動とEPA摂取が肥満・メタボリックシンドローム、および脳神経機能に及ぼす影響を明らかにすること」と書いているじゃないか"と思われるかもしれない。しかしこれもよくあるケースだが、「及ぼす影響」ではあまりに対象が広すぎて漠然とした印象を受ける。具体的にはどのようなことなのか、この例文だけからはわからない。また研究の「展開」(この研究によってなにが明らかになるのか)が書かれていないのもわかりにくいと感じるポイントだ。 例文2は【概要】のすべてを使って「目的」を書いているが、明確でない(「背景」や「展開」部分がない)。研究目的としている「教員養成課程全体を見据えた検討」とは、いったいどのような検討なのか?そして、検討してどうするのか?また、テーマ1~3は具体的なようにみえるが、「学習観を評価する尺度の構成」と「縦断的検討」としてどのようなものを想定しているのかは審査委員にはわからず、これも実際には中身が乏しい。 もとになった申請書を書いた方は若手研究者である。いくつかの申請書をチェックしてきた経験からいうと、若手研究者がこのような具体性に乏しい研究目的を書くケースが多い。なぜ彼(彼女)らの研究目的は具体的でないのか?それは「展開」と「目的」の区別ができていないことに原因がある。つまり、研究の「展開」にあたる部分を研究の「目的」として書いており、その結果うまく書き切れていないことが多い。 ## どのように改良すればよいか? 具体的でない【概要】はどのように改良すればよいのだろうか?新たに書き足さねばならないだろうか?このようなときは、まずは【研究目的、研究方法など】の【本文】を読んでみよう。必要な内容は【本文】には書かれている。それを抜き出してきて、不要な記載をカットする。 例文1では本文に次のような記載があった。 - 適度な有酸素性運動は高齢者の肥満、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病を予防する - EPA摂取は肥満・メタボリックシンドロームを改善し、脳神経機能の保護効果がある - 有酸素性運動とEPA摂取の併用による肥満・メタボリックシンドロームの予防・改善効果の報告はまだない これらを組合わせて、「背景」「目的」「展開」と整理して書いていくとよいだろう。 例文2では、「教員養成課程全体を見据えた検討」を「目的」としているために書きにくい。そうではなく、その前に書いている「アクティブ・ラーニングでの学びの経験が、教員養成課程の学生の学習観にどのような影響を及ぼすのか」が研究「目的」であると捉え直して、「教員養成課程全体を見据えた検討」は「展開」と位置付けてみよう。そして3つのテーマ(「方法」と「目的」にあたる)のあとに、「展開」を書くと、うまくまとまる。 ## 改善例 **例文1** ── 本文から具体的な内容を抜き出して文章を整理する > (概要) > 本研究の目的は、有酸素性運動とエイコサペンタエン酸(EPA: Eicosapentaenoic acid)摂取の併用が、高齢者の肥満、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の予防効果や、脳神経機能の保護効果があるかどうかを探ることである。 > 近年、食の欧米化(高脂肪食、EPA摂取量の減少)、身体活動量の減少などにより生活習慣病や、認知症などの脳神経疾患が急増している。適度な有酸素性運動やEPA摂取は、これらを予防・改善する効果があると言われているが、両者を併用してその効果を確かめた報告はまだない。 > 本研究で、普通食と高脂肪食の異なる生活環境における老齢マウスに対して有酸素性運動とEPA摂取を併用して行い、生活習慣病や脳神経疾患の予防・改善効果を検討することで、効果的な運動処方およびEPA摂取量などを提案することができると考える。 例文1では重要な文章の強調手段として網かけ文字が使われているが、【概要】には強調スタイルは原則必要ない(case21, 22参照)。 **例文2** ── 「目的」と「展開」を区別して書き直す > (概要) > 近年、学校教育において生徒が「主体的に学ぶ」ためのアクティブ・ラーニングが積極的に取り入れられつつあるが、アクティブ・ラーニングを実践指導する教師の育成が追いついていない。本研究では、アクティブ・ラーニングでの学びの経験が、教員養成課程学生の学習指導力の向上にどのような影響を及ぼすのかということについて調査する。そのために、以下の3つのテーマを設定して研究を行う。 > (テーマ1)教員養成課程学生の学習指導力を客観的に評価できる尺度を確立する。 > (テーマ2)アクティブ・ラーニングによる学習指導力の変化とその要因について、教員養成課程全体を通した検討を行う。 > (テーマ3)アクティブ・ラーニングの模擬授業によって学習指導力の向上効果を検討する。 > 以上の研究によって、アクティブ・ラーニングによる学習指導力の向上につながる要因を明らかにし、より良い指導教員の育成に応用していく。 例文2には、文章を格調高く(?)しようとして、抽象的な表現になっている部分(「学習観を評価する尺度の構成」「縦断的検討」など)も多い。これらはもっと簡単な表現に改めた。