--- title: "CASE 15: 必要な内容が十分に書かれておらずわかりにくい(1)" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第2章 研究目的、研究方法など:概要 case_number: 15 pages: 71-76 images: page_0071.png ~ page_0076.png advice: "「研究目的、研究方法など」の概要には「背景」「目的」「展開」を書こう" tags: ["ふさわしく", "はっきりと"] --- # CASE 15: 必要な内容が十分に書かれておらずわかりにくい(1) ## アドバイス 「研究目的、研究方法など」の概要には「背景」「目的」「展開」を書こう ## どこがよくないか **例文1** (概要) 以下の①と②を比較・考察することによりハロゲン化アルキル置換反応の基礎研究を行う。 ①実際のハロゲン化アルキル置換系を電子スピン共鳴分光法で観測し、系の中に存在する反応活性種のスペクトルを得る。 ②制御ハロゲン化アルキル置換によってモデルアルキル前駆体を合成し、そこから発生させた構造の明確なモデルアルキルを電子スピン共鳴分光法で観測することにより、①で観測した活性種の鎖長、反応性、前末端基効果などについての情報を得て、ハロゲン化アルキル置換反応の基礎を形成する。 **例文2** (概要) 本研究では、主として近代英語期以降の英語受容者受動(二重目的語構文(DOC)の受動化において受容者(Recipient)項が受動態主語とされるもの(REC受動)、例:Mary was given the book by John)の通時的拡大過程を分析対象とする。分析を通して、以下の研究成果をあげることを目標とする。 (a)近代英語期以降の動詞ごとのREC受動受け入れ状況を示す数量的データを提供する。 (b)本来、与格マーキングを受けていたRecipient項の文法化がどのように進んだのかを、構文文法の知見を入れながら解明する。 (c)REC受動の成立過程において、構文ネットワークの拡大と抑制がどのように相互作用しあったのかを示し、構文と文法化の関係について考察する。 **例文3** (概要) 【全体構想】 地域コーディネーターの役割・機能に注目し、教職員のニーズと地域住民等のシーズとをつなぎながら「総合的な学習の時間」を再活性化させるストラテジーを構築し、モデルを開発する。 【具体的な目的】 1)「総合的な学習の時間」における地域コーディネーターの役割・機能の解明 2)「総合的な学習の時間」において教職員と地域コーディネーターとが協働して単元開発・授業実践するプロセスモデルの収集・分析・開発 3)「総合的な学習の時間」において教職員が地域住民等と連携・協働する要件の解明 ## 添削例 **例文1** > (概要) > 以下の①と②を比較・考察することによりハロゲン化アルキル置換反応の基礎研究を行う。 > ①実際のハロゲン化アルキル置換系を電子スピン共鳴分光法で観測し、系の中に存在する反応活性種のスペクトルを得る。 > ②制御ハロゲン化アルキル置換によってモデルアルキル前駆体を合成し、そこから発生させた構造の明確なモデルアルキルを電子スピン共鳴分光法で観測することにより、①で観測した活性種の鎖長、反応性、前末端基効果などについての情報を得て、ハロゲン化アルキル置換反応の基礎を形成する。 **指摘された問題点:** 1. 最初の1行は「目的」だが、「方法」が中心で「背景」と「展開」がない 2. 概要では、「方法」よりも研究の「背景」と「展開」を優先して書く **例文2** > (概要) > 本研究では、主として近代英語期以降の英語受容者受動(二重目的語構文(DOC)の受動化において受容者(Recipient)項が受動態主語とされるもの(REC受動)、例:Mary was given the book by John)の通時的拡大過程を分析対象とする。分析を通して、以下の研究成果をあげることを目標とする。 > (a)近代英語期以降の動詞ごとのREC受動受け入れ状況を示す数量的データを提供する。 > (b)本来、与格マーキングを受けていたRecipient項の文法化がどのように進んだのかを、構文文法の知見を入れながら解明する。 > (c)REC受動の成立過程において、構文ネットワークの拡大と抑制がどのように相互作用しあったのかを示し、構文と文法化の関係について考察する。 **指摘された問題点:** 1. 「背景」や「展開」が書かれていない 2. 研究をとりまく状況は?研究で何がわかるのか? 3. 構造が「目的→方法」のみとなっている **例文3** > (概要) > 【全体構想】 > 地域コーディネーターの役割・機能に注目し、教職員のニーズと地域住民等のシーズとをつなぎながら「総合的な学習の時間」を再活性化させるストラテジーを構築し、モデルを開発する。 > 【具体的な目的】 > 1)「総合的な学習の時間」における地域コーディネーターの役割・機能の解明 > 2)「総合的な学習の時間」において教職員と地域コーディネーターとが協働して単元開発・授業実践するプロセスモデルの収集・分析・開発 > 3)「総合的な学習の時間」において教職員が地域住民等と連携・協働する要件の解明 **指摘された問題点:** 1. 非常によい工夫なのだが、「背景」が書かれていない 2. 見た目よりもまずは内容の充実をめざそう ## なぜよくないのか? 例文1~3はすべて【概要】の全文である。 例文1は、はじめに要点を述べるというパラグラフライティングの原則にのっとり最初の1行に「目的」を示しているのはよい。しかし、この場合の「基礎研究を行う」はあまりに漠然としすぎている。「基礎研究を行う」だけでは、審査委員には研究目的が伝わらない。ただし、どこまでが基礎でどこからが応用か、分野において明確なコンセンサスがあるものは別である。さらに、2行目以降には方法論が書かれているが、研究の「背景」と「展開」が読みとれない。 例文2は「背景」と「展開」がなく、構造が「目的→方法」となっている。 例文3は「全体構想」「具体的な目的」と分けて書いていて、非常にわかりやすい。その反面、研究の「背景」(どのような研究状況なのか)が十分に書かれていない。【概要】は「簡潔に」とあり、記載できる量に限りがあるからだろう。 【概要】には、研究の「背景」「目的」「展開」の3つは抜かさず書くこと。「背景」は【(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」】、「目的」は【本研究の目的】、「展開」は【学術的独自性と創造性】などに対応する要約であるべきだ。「背景」で何がわかっていないのかを書いてこそ、研究目的の意義が審査委員に伝わる。 なお、この欄では上記の3つが書かれていることが重要であり、方法論や見た目の工夫の優先度は低い。 ## どのように改良すればよいか? 【概要】は平成29年度の申請書までは「10行程度で記述すること」と指示があった。現在の申請書でも10±1行くらいでまとめるのがよいだろう。また、例文のような【概要】になる原因のほとんどは、【研究目的、研究方法など】の【概要】と【本文】とを別々に書いているためだ。【概要】は全体のまとめであるので、一番最後に書くのがよい(補遺1参照)。【本文】を書いて、それから重要な内容を抜き出して文章を整えればよい。すなわち、【研究目的、研究方法など】の【本文】の【(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」】、【(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性】、そしてスペースに余裕があれば【(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか】から重要な文章を抜粋して、 - 研究の背景:4~5行 - 研究の目的:2~3行 - 研究の展開:2行 くらいを目安にして書く。背景には研究で解決すべき課題(学術的「問い」)を加えること。「問い」があってこその、次に続く「研究目的」だ。 例文1ならばどのような「基礎研究」なのか説明しなければならない。目的と「方法」を簡潔にまとめ、「背景」と「展開」を加えてみよう。この場合は「連鎖移動反応の起こりやすさが鎖長依存性であるかどうかは明らかではない」が未解明の問題点(「問い」)になるのでそれを加える。 例文2の場合【研究目的、研究方法など】の本文中から、 - 構文文法と文法化のかかわりについてはほとんど解明されていない - REC受動の拡大過程の分析には大規模言語コーパスの利用が有益だが、その分析は行われていない と、この研究分野の解決すべき課題(つまり「問い」)や、この研究によって何がわかるのか(つまり「展開」)などを抜き出してきてまとめる。 例文3は、ここでは分けて書くという申請者のよい工夫を生かして、そのうえで研究の「背景」を加える。なお「モデルを開発」とは何のモデルかはっきりしなかった。具体的に「授業モデル」と書き加えた。 ## 改善例 **例文1** ── 「目的」と「方法」を簡潔にして、「背景」「展開」を加える > (概要) > これまで申請者はいろいろな電子スピン共鳴分光(ESR)法を用いることにより、ハロゲン化アルキル置換反応を直接観察し、開始・成長・連鎖移動・停止の各素反応を個別に観測してきた。しかし連鎖開始ラジカルから成長ラジカルへの過程において、連鎖移動反応の起こりやすさが鎖長依存性であるかどうかは明らかではない。 > 本研究では、①実際のハロゲン化アルキル置換系を電子スピン共鳴分光法で観測し、系の中に存在する反応活性種のスペクトルを調べる。②制御ハロゲン化アルキル置換によってモデルアルキル前駆体を合成し、そこから発生させた構造の明確なモデルアルキルを電子スピン共鳴分光法で観測する。これらの観察から、活性種の鎖長、反応性、前末端基効果などについての情報を得て、ハロゲン化アルキル置換反応の連鎖移動反応の機構と鎖長依存性についての詳細な検討が可能になると考える。 **例文2** ── 本文から「背景」「展開」を抜き出して加える > (概要) > 近年の言語学では「構文」の意義が認識されつつあるが、一方で、構文文法と文法化の関わりについてはほとんど解明が進んでいない。またREC受動が拡大したのは近代英語期以降で、その拡大過程の分析には大規模言語コーパスの利用が有益と考えられるが、そのような分析についてはほぼ未着手の状態である。 > 本研究では、近代英語期以降の動詞ごとのREC受動受け入れ状況を分析し、与格マーキングを受けていたRecipient項の文法化がどのように進んだのか、そしてREC受動の成立過程において構文ネットワークの拡大と抑制がどのように相互作用しあったのかを示し、構文と文法化の関係について考察する。動詞ごとのREC受動の広がりの差異の解明は、与格の文法化だけでなく、動詞と構文の関係の解明にもつながると考えられる。 **例文3** ── 「背景」を加える > (概要) > 【研究の背景】地域住民が学校の教育活動を支援する「学校支援地域本部」が設置され、学校のニーズと地域住民等のシーズをつなぐ「地域コーディネーター」の配置が進んでいるが、地域コーディネーターの「総合的な学習の時間」における役割と機能(成果・課題)を調査・分析した報告はない。 > 【具体的な目的】「総合的な学習の時間」において、1)地域コーディネーターの役割・機能の解明、2)教職員と地域コーディネーターとが協働して単元開発・授業実践するプロセスモデルの収集・分析・開発、3)教職員が地域住民等と連携・協働する要件の解明。 > 【予想される結果と意義】地域コーディネーターによって「総合的な学習の時間」を再活性化させるストラテジーを構築し、充実した授業モデルを開発することができる。 例文3の見出しをさらに目立たせるには、見出しのフォントをゴシック太字にして、より文字の違いを対比させるやり方(参考)もある(まあ、これは好みによると思う)。 **参考** > (概要) > **【研究の背景】** 地域住民が学校の教育活動を支援する「学校支援地域本部」が設置され、学校のニーズと地域住民等のシーズをつなぐ「地域コーディネーター」の配置が進んでいるが、地域コーディネーターの「総合的な学習の時間」における役割と機能(成果・課題)を調査・分析した報告はない。 > **【具体的な目的】** 「総合的な学習の時間」において、1)地域コーディネーターの役割・機能の解明、2)教職員と地域コーディネーターとが協働して単元開発・授業実践するプロセスモデルの収集・分析・開発、3)教職員が地域住民等と連携・協働する要件の解明。 > **【予想される結果と意義】** 地域コーディネーターによって「総合的な学習の時間」を再活性化させるストラテジーを構築し、充実した授業モデルを開発することができる。 --- **申請者のギモン7 模式図か計画表か** 最初に出すのは模式図がよいですか?予備実験画像ですか?計画の表ですか? さっと見て、審査委員がすぐに理解できるような簡潔で印象的な図があれば、いうことなしだ(case02参照)。【研究目的、研究方法など】の1ページ目の最初の図は研究計画の概念図がベストである。 ただし、図はただ加えることに意味があるのではなく、あまりよくない図もある。例えば、複雑すぎる模式図、研究内容と関連が低い図などである。また予備実験のデータだけで、実験結果の説明のない図もよくない。図には必ず説明を付けることだ(case73参照)。