--- title: "CASE 12: 簡潔に書かれすぎて内容がわかりにくい" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第1章 総論 case_number: 12 pages: 61-64 images: page_0061.png ~ page_0064.png advice: "文章が長くなってもよいので丁寧に書こう。専門家でない人に説明するくらいの気持ちで" tags: ["具体的に", "推敲のヒント"] --- # CASE 12: 簡潔に書かれすぎて内容がわかりにくい ## アドバイス 文章が長くなってもよいので丁寧に書こう。専門家でない人に説明するくらいの気持ちで ## どこがよくないか **例文1** 本研究では中・高生の数学の授業において、暗示的なフィードバックによる生徒の誤り修正への効果を解明する。 **例文2** 本研究では転写因子PCFTの機能を解析し、ES細胞の血清条件下での自己複製の獲得と維持機構を明らかにする。 **例文3** しかし実態調査によると、新人を採用した訪問介護ステーションはわずか1.4%と非常に少なく、採用できない理由として教育プログラムの不存在があげられていた。 新人訪問介護師を受け入れた6機関の教育体制は経験知からの教育プログラムであり、エビデンスに基づいた内容ではなかった。 **例文4** また、うつ病、社交不安障害、強迫性障害、神経性大食症に対するTMSの効果について共通のプロトコールで行った研究がないため、TMSの効果予測についての疾患横断的な検討もなされていない。 ## 添削例 **例文1** > 本研究では中・高生の数学の授業において、暗示的なフィードバックによる生徒の誤り修正への効果を解明する。 **例文2** > 本研究では転写因子PCFTの機能を解析し、ES細胞の血清条件下での自己複製の獲得と維持機構を明らかにする。 **例文3** > しかし実態調査によると、新人を採用した訪問介護ステーションはわずか1.4%と非常に少なく、採用できない理由として教育プログラムの**不存在**があげられていた。 > > 新人訪問介護師を受け入れた6機関の教育体制は**経験知**からの教育プログラムであり、エビデンスに基づいた内容ではなかった。 **例文4** > また、うつ病、社交不安障害、強迫性障害、神経性大食症に対するTMSの効果について共通のプロトコールで行った研究がないため、TMSの効果予測についての**疾患横断的**な検討もなされていない。 **指摘された問題点:** 1. 例文1:「短く書こうとしてかえってわかりにくい」「文章が少々長くなっても丁寧に書く」 2. 例文3:「意味はわかるがこの文章にふさわしい?」(「不存在」「経験知」という表現) 3. 例文4:「よく使われるのか?」(「疾患横断的」という表現) ## なぜよくないのか? 例文1の「生徒の誤り修正への効果を解明」、例文2の「ES細胞の血清条件下での自己複製の獲得と維持機構」、例文3の「不存在」など、なんとなく想像はつくが正確なところはよくわからない。文章は簡潔だが堅い。普段書かないような堅い文章は、"内容が難しく簡単には理解できないのでは"という、誤った先入観につながる。 例文4は「疾患横断的」が登場するが、この単語は一般によく使われているものだろうか。 よい内容のものを書こうとすると申請書は堅い文章になりがちだ。「よい内容のもの=格調の高い難しい文章」ではない。内容の良し悪しと文章の難しさとは関係はない。添削してみたら自分で書いたものを読んでもわかりにくい、どう直してよいのかわからない、という場合もあるだろう。また、短く説明しようとして理解に必要な内容まで削ってしまうことがある。こういったときに、わかりやすく書くためには? ## どのように改良すればよいか? 申請書では、格好よく書く必要も、また名文を書く必要もない。専門用語以外の、難しそうにみえる単語は使わない。文章が難しいとき、わかりにくいと感じるときは、その分野でごく普通に使われる専門用語を使って、ポスドクはもとより大学院生でもわかるように説明するように書くとよい。また短い文章で言い切るように書くことは多くの場合有効だが、実は堅い文章になりやすい。やわらかい印象にしたい場合には、一文が少々長くなっても、わかりやすく丁寧に説明することを心がけたい。難しい単語や語句はできるだけ簡単なものに置き換える。例えばある単語が一般によく使われているかどうかはGoogleなどの検索エンジンで調べてみて、思い込みで判断するのではなく、そのヒット数や内容から判断したい。 例文1は「誤り修正」を「誤り」と「修正」に分けて書く。 例文2は「自己複製の獲得」と「維持機構」を別々に、もう少し詳しく説明する。 例文3の場合、「不存在」ではなく、単に「プログラムがないことがあげられていた」で、「経験知」も「経験をもとにした」で十分。 例文4の「疾患横断的」をGoogleで検索すると約20万件ヒットする。そのなかでは「疾患」と「横断的」と分かれた内容でヒットしている例も多いが、「疾患横断的」もたくさん使われている。したがってこの場合「疾患横断的」と使っても問題はないと判断できる。 ## 改善例 **例文1** > 本研究では中・高生の数学の授業において、解答につながる暗示的なフィードバックを与えることによって、生徒が自ら誤りに気付いて、自分で修正できる能力を高めることを目指す。 **例文2** > 本研究では転写因子PCFTの機能を解析し、ES細胞が血清条件下でどのようにして自己複製できる能力を獲得するのか、そして獲得した自己複製能をどのようにして維持していくのか、その機構を明らかにする。 **例文3** > しかし実態調査によると、新人を採用した訪問介護ステーションはわずか1.4%と非常に少なく、採用できない理由として教育プログラムがないことがあげられていた。 > > 新人訪問介護師を受け入れた6機関の教育体制は経験をもとにした教育プログラムであり、エビデンスに基づいた内容ではなかった。