--- title: "CASE 06: 美しくない申請書は読むのが苦痛(1)" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第1章 総論 case_number: 06 pages: 37-40 images: page_0037.png ~ page_0040.png advice: "審査委員の目を意識して、常に読みやすいかどうか考えながら工夫しよう" tags: ["推敲のヒント", "レイアウト"] --- # CASE 06: 美しくない申請書は読むのが苦痛(1) ## アドバイス 審査委員の目を意識して、常に読みやすいかどうか考えながら工夫しよう ## どこがよくないか (概要) 抗血小板薬によって心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが低下することが大規模調査で明らかになっている。しかし血小板に対してより高い特異性を有し、副作用の少ない薬剤の開発のためには、ADPレセプターより下流に位置する血小板凝集のシグナル分子をターゲットにする必要がある。その候補分子のひとつが、血小板の膜表面上のインテグリンの活性化に関与しているRap1であるが、その詳細な機能については不明である。 本研究の目的は、Rap1が関わるシグナル伝達経路において、血小板内顆粒の放出反応に関与するタンパク質とその機構を明らかにすることである。これによって、新しいメカニズムの抗血小板薬の開発につながり、心筋梗塞や脳梗塞の予防・治療に貢献できると考える。 (本文) わが国においては悪性新生物、心疾患、脳血管疾患が死因の第1位から第3位を占める。そのうち、死因の第2位、第3位を占める心疾患、脳血管疾患は血管障害および血栓形成に関わる疾患という共通点があり、なかでも心筋梗塞や脳梗塞などの虚血性疾患は人口の高齢化や食事の欧米化により近年増加の傾向にあり、その死亡者数の合計は悪性新生物による死亡者数に匹敵するため、これらの疾患についての基礎研究には大きな関心が払われなければならないものと考えられる。虚血性疾患の病因は動脈硬化などの血管病変に加え、血小板や凝固系、線溶系などが関与した血栓形成反応が直接的な原因となっている。アスピリンなどの抗血小板薬によって血栓形成反応を阻害することで心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが低下することが欧米での大規模調査で明らかになり、現在、より有効な抗血小板薬を求めて多くの研究が進められている。 我々の研究室では1989年にコラーゲンとの反応性を欠損している患者の血小板より、血小板糖タンパク質のGPVIを初めて同定するとともに、GPVIがコラーゲンレセプターとして機能していることを示した。GPVIがそのリガンドであるコラーゲンと結合し、その情報は血小板内へ伝えられて血小板中に存在する顆粒の放出を引き起こし、顆粒中に含まれていたADPがさらに血小板膜表面上に存在するADPレセプターを介して周囲の血小板を活性化し、血小板の凝集反応が進行していく。抗血小板薬として以前より使用されてきたチクロピジンと比較して、より副作用が少ない優れた抗血小板薬として本年より国内承認が下りたクロビドグレル、2007年販売開始予定のプラスグレルはともにADPレセプターをターゲットとした薬剤であるが、抗血小板薬として、血小板に対してより高い特異性を有し副作用の少ない薬剤の開発のためにはADPレセプターより下流に位置する血小板凝集のシグナル伝達に関与する分子をターゲットにする必要があると考えている。 そこでGPVIによる刺激に伴って血小板からの顆粒放出反応、すなわちADP放出反応と時系列を同じくして活性化されるタンパク質を検索したところ、Rap1の関与が強く示唆された。Rap1はRas類似のタンパク質として見出されたが、細胞機能の広範囲な部分に関与しており、その生理的機能に関して統一的な解釈ができていないのが現状である。Rap1の機能を調節するGEFやGAPの組み合わせが細胞の種類によって大きく異なっているため、Rap1は多様な機能を担うことができるのであろう。血小板中には大量のRap1が存在しており、血小板の刺激によりGTPを結合した活性型に変換されることが知られている。このRap1の活性化は血小板膜表面上のインテグリンの活性化に関与しているという。 ## 添削例 > (概要) > > 抗血小板薬によって心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが低下することが大規模調査で明らかになっている。しかし血小板に対してより高い特異性を有し、副作用の少ない薬剤の開発のためには、ADPレセプターより下流に位置する血小板凝集のシグナル分子をターゲットにする必要がある。その候補分子のひとつが、血小板の膜表面上のインテグリンの活性化に関与しているRap1であるが、その詳細な機能については不明である。 > > 本研究の目的は、Rap1が関わるシグナル伝達経路において、血小板内顆粒の放出反応に関与するタンパク質とその機構を明らかにすることである。これによって、新しいメカニズムの抗血小板薬の開発につながり、心筋梗塞や脳梗塞の予防・治療に貢献できると考える。 > > (本文) > > わが国においては悪性新生物、心疾患、脳血管疾患が死因の第1位から第3位を占める。そのうち、死因の第2位、第3位を占める心疾患、脳血管疾患は血管障害および血栓形成に関わる疾患という共通点があり、なかでも心筋梗塞や脳梗塞などの虚血性疾患は人口の高齢化や食事の欧米化により近年増加の傾向にあり、(中略)...このRap1の活性化は血小板膜表面上のインテグリンの活性化に関与しているという。 **指摘された問題点:** 1. 余白なくぎっしり詰まっていて読みにくい 2. 見出しを入れたい 3. 段落の変わりめに余白行を入れたい ## なぜよくないのか? 例文は見出し項目も、余白行も、図もなく、ただ文字だけを書いている(見た目がきれいでない)。 審査委員の立場(短期間で多くの申請書を読みこなし、それぞれに点数とコメントをつけなければならない!)で申請書を見てほしい。いうまでもなく、読みやすい申請書(きれいな申請書)の方が印象がよい。いくら内容がよくても読み進めてもらえなければ意味がない。 ## どのように改良すればよいか? ひたすら美しく、読みやすさを意識して書く!いろいろな申請書を見てきた経験からいうと、きれいな申請書は採択されやすい。きれいな申請書はレイアウトもきちんとしているだけでなく、内容をじっくりと仕上げていることが多い。おそらくは申請者が外見にまで配慮できるくらい丁寧に申請書を仕上げているからだと思う。逆に、雑で読みにくい申請書は、よほどの内容でないかぎり審査委員の評価は低くなる。ここで指摘した点をきちんと直していけば、きれいな申請書になる。以下の工夫が一般的なようだ。 ・適宜、見出し項目や余白行を入れて、段落にメリハリをつける(case25、申請者のギモン15、16参照) ・下線、太字、下線太字などは効果的に使う。ただし使用は最小限に留める(case11、申請者のギモン25~27参照) ・白抜き文字や修飾されたフォント(影文字など)は使わない ・図を加える(case02、73、75、76、申請者のギモン9、10参照) ・図は解像度の高い、クリアなものにする(case74、申請者のギモン17参照) ・フォントの種類を工夫する。フォントの違いで印象ががらりと変わる(申請者のギモン2、19、20参照) 例文は、見出し項目と余白行を入れ、研究計画の流れを図示し、読みやすいフォントに工夫する。改善例では【概要】のフォントを「ヒラギノ角ゴPro」にしているが、もちろん明朝体のままでもよい。 ## 改善例 > (概要) > > 抗血小板薬によって心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが低下することが大規模調査で明らかになっている。しかし血小板に対してより高い特異性を有し、副作用の少ない薬剤の開発のためには、ADPレセプターより下流に位置する血小板凝集のシグナル分子をターゲットにする必要がある。その候補分子のひとつが、血小板の膜表面上のインテグリンの活性化に関与しているRap1であるが、その詳細な機能については不明である。 > > 本研究の目的は、Rap1が関わるシグナル伝達経路において、血小板内顆粒の放出反応に関与するタンパク質とその機構を明らかにすることである。これによって、新しいメカニズムの抗血小板薬の開発につながり、心筋梗塞や脳梗塞の予防・治療に貢献できると考える。 > > (本文) > > 【本研究の学術的背景】 > > わが国においては悪性新生物、心疾患、脳血管疾患が死因の第1位から第3位を占める。そのうち、死因の第2位、第3位を占める心疾患、脳血管疾患は血管障害および血栓形成に関わる疾患という共通点があり、なかでも心筋梗塞や脳梗塞などの虚血性疾患は人口の高齢化や食事の欧米化により近年増加の傾向にあり、その死亡者数の合計は悪性新生物による死亡者数に匹敵するため、これらの疾患についての基礎研究には大きな関心が払われなければならないものと考えられる。 > > 虚血性疾患の病因は動脈硬化などの血管病変に加え、血小板や凝固系、線溶系などが関与した血栓形成反応が直接的な原因となっている。アスピリンなどの抗血小板薬によって血栓形成反応を阻害することで心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが低下することが欧米での大規模調査で明らかになり、現在、より有効な抗血小板薬を求めて多くの研究が進められている。 > > 【申請者のこれまでの研究成果】 > > 我々の研究室では1989年にコラーゲンとの反応性を欠損している患者の血小板より、血小板糖タンパク質のGPVIを初めて同定するとともに、GPVIがコラーゲンレセプターとして機能していることを示した。GPVIがそのリガンドであるコラーゲンと結合し、その情報は血小板内へ伝えられて血小板中に存在する顆粒の放出を引き起こし、顆粒中に含まれていたADPがさらに血小板膜表面上に存在するADPレセプターを介して周囲の血小板を活性化し、血小板の凝集反応が進行していく。抗血小板薬として以前より使用されてきたチクロピジンと比較して、より副作用が少ない優れた抗血小板薬として本年より国内承認が下りたクロビドグレル、2007年販売開始予定のプラスグレルはともにADPレセプターをターゲットとした薬剤であるが、抗血小板薬として、血小板に対してより高い特異性を有し副作用の少ない薬剤の開発のためにはADPレセプターより下流に位置する血小板凝集のシグナル伝達に関与する分子をターゲットにする必要があると考えている。 > > 【研究課題の核心をなす学術的「問い」】 > > そこでGPVIによる刺激に伴って血小板からの顆粒放出反応、すなわちADP放出反応と時系列を同じくして活性化されるタンパク質を検索したところ、Rap1の関与が強く示唆された。Rap1はRas類似のタンパク質として見出されたが、(以下略)