--- title: "CASE 02: 図がわかりにくい" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第1章 総論 case_number: 02 pages: 19-22 images: page_0019.png ~ page_0022.png advice: "図は一目見てポイントがつかめるようシンプルにしよう" tags: ["簡潔に", "推敲のヒント", "図表"] --- # CASE 02: 図がわかりにくい ## アドバイス 図は一目見てポイントがつかめるようシンプルにしよう ## どこがよくないか (概要) 本研究の目的は、129系統ES細胞が血清条件下で安定に自己複製できる理由を明らかにすることである。これまでに申請者は、GSK3/MAPK 阻害剤を含む無血清 2i培地を用いて、血清条件下で自己複製できる系統(129系統)とできない系統(NOD 系統)から ES細胞を樹立し、次の2点を明らかにした。(1)129-ES細胞では血清条件下でサイトカイン LIF の標的である転写因子 TFCP が発現している、(2)TFCP の過剰発現により、NOD-ES細胞は血清条件下で STAT3 依存性に自己複製できる。そこで、本研究では TFCP の機能を解析し、ES 細胞の血清条件下での自己複製の獲得と維持機構を明らかにする。これにより、ヒトを含む動物種に由来する多能性幹細胞の安定な樹立と維持が可能になり、再生医療に大きく貢献できると考えている。 (本文) (1)本研究の学術的背景 申請者は、2i培養法を用いてマウス系統(129Sv、C57BL/6、CBA/ca、FVB/N、Msm および NOD)から ES 細胞を独自に樹立し、検討した結果、以下のことが明らかとなっている(右図参照)。 1)異なったマウス系統由来 ES 細胞は、サイトカイン LIF に対して異なった応答性を示す:すなわち、血清条件下での自己複製が可能な系統の ES細胞(129、B6 系統)では、LIF-STAT3 標的遺伝子が強く誘導されるが、できない系統の ES 細胞(CBA/ca、FVB/N、NOD 系統)では弱いことを報告した(Kojima Development 2015)。 2)転写因子 TFCP の過剰発現で NOD-ES 細胞は血清条件下で自己複製が可能となる:マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析により、短期間の血清条件下で 129-ES細胞に高発現しているが、NOD-ES 細胞では消失する遺伝子を探索し、LIF の標的遺伝子である転写因子 TFCP を同定した。この TFCP の過剰発現により、NOD-ES 細胞は血清条件下で自己複製でき、かつ LIF 標的遺伝子の誘導(LIF 応答性)の特徴も 129-ES 型に転換していた。 3)TFCP は ES 細胞の自己複製に必須である:129-ES細胞の TFCP ノックアウト(KO)ES細胞は、血清条件下で細胞死に陥る(未発表)。 ## 添削例 > (概要) > > 本研究の目的は、129系統ES細胞が血清条件下で安定に自己複製できる理由を明らかにすることである。これまでに申請者は、GSK3/MAPK 阻害剤を含む無血清 2i培地を用いて、血清条件下で自己複製できる系統(129系統)とできない系統(NOD 系統)から ES細胞を樹立し、次の2点を明らかにした。(1)129-ES細胞では血清条件下でサイトカイン LIF の標的である転写因子 TFCP が発現している、(2)TFCP の過剰発現により、NOD-ES細胞は血清条件下で STAT3 依存性に自己複製できる。そこで、本研究では TFCP の機能を解析し、ES 細胞の血清条件下での自己複製の獲得と維持機構を明らかにする。これにより、ヒトを含む動物種に由来する多能性幹細胞の安定な樹立と維持が可能になり、再生医療に大きく貢献できると考えている。 > > (本文) > > (1)本研究の学術的背景 > > 申請者は、2i培養法を用いてマウス系統(129Sv、C57BL/6、CBA/ca、FVB/N、Msm および NOD)から ES 細胞を独自に樹立し、検討した結果、以下のことが明らかとなっている(右図参照)。 > > 1)異なったマウス系統由来 ES 細胞は、サイトカイン LIF に対して異なった応答性を示す:すなわち、血清条件下での自己複製が可能な系統の ES細胞(129、B6 系統)では、LIF-STAT3 標的遺伝子が強く誘導されるが、できない系統の ES 細胞(CBA/ca、FVB/N、NOD 系統)では弱いことを報告した(Kojima Development 2015)。 > > 2)転写因子 TFCP の過剰発現で NOD-ES 細胞は血清条件下で自己複製が可能となる:マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析により、短期間の血清条件下で 129-ES細胞に高発現しているが、NOD-ES 細胞では消失する遺伝子を探索し、LIF の標的遺伝子である転写因子 TFCP を同定した。この TFCP の過剰発現により、NOD-ES 細胞は血清条件下で自己複製でき、かつ LIF 標的遺伝子の誘導(LIF 応答性)の特徴も 129-ES 型に転換していた。 > > 3)TFCP は ES 細胞の自己複製に必須である:129-ES細胞の TFCP ノックアウト(KO)ES細胞は、血清条件下で細胞死に陥る(未発表)。 **指摘された問題点:** 1. 図中の文章が多く、また図自体からも複雑な印象を受ける ## なぜよくないのか? 【本研究の学術的背景】について、予備実験の結果を含んだ図にまとめたのはよいが、図がわかりにくい。図中の文字が多すぎる、同じ内容が本文中に書かれているのだから、こんなに書く必要はない。 図は文章だけではわかりにくいものを視覚的に理解させるものだ。図がうまく機能していない申請書は多い。 ## どのように改良すればよいか? 図を使うときはその利点を活かして、内容を言葉ではなくチャートや模式図、画像で示すこと(申請者のギモン11~14参照)。また、図で示そうとするものが、研究計画なのか、研究の概念を示す模式図なのか、予備的な実験結果なのかをはっきりと示す。審査委員の立場からすれば、情報は徐々に詳しくなるほうが理解しやすく、最初の図は研究の概念図がよい(申請者のギモン7参照)。 例文では、着想に至った経緯を中心に図をシンプルにする。 ## 改善例 > (概要) > > 本研究の目的は、129系統ES細胞が血清条件下で安定に自己複製できる理由を明らかにすることである。これまでに申請者は、GSK3/MAPK 阻害剤を含む無血清 2i培地を用いて、血清条件下で自己複製できる系統(129系統)とできない系統(NOD 系統)から ES細胞を樹立し、次の2点を明らかにした。(1)129-ES細胞では血清条件下でサイトカイン LIF の標的である転写因子 TFCP が発現している、(2)TFCP の過剰発現により、NOD-ES細胞は血清条件下で STAT3 依存性に自己複製できる。そこで、本研究では TFCP の機能を解析し、ES 細胞の血清条件下での自己複製の獲得と維持機構を明らかにする。これにより、ヒトを含む動物種に由来する多能性幹細胞の安定な樹立と維持が可能になり、再生医療に大きく貢献できると考えている。 > > (本文) > > (1)本研究の学術的背景 > > 申請者は、2i培養法を用いてマウス系統(129Sv、C57BL/6、CBA/ca、FVB/N、Msm および NOD)から ES 細胞を独自に樹立し、検討した結果、以下のことが明らかとなっている(右図参照)。 > > 1)異なったマウス系統由来 ES 細胞は、サイトカイン LIF に対して異なった応答性を示す:すなわち、血清条件下での自己複製が可能な系統の ES細胞(129、B6 系統)では、LIF-STAT3 標的遺伝子が強く誘導されるが、できない系統の ES 細胞(CBA/ca、FVB/N、NOD 系統)では弱いことを報告した(Kojima Development 2015)。 > > 2)転写因子 TFCP の過剰発現で NOD-ES 細胞は血清条件下で自己複製が可能となる:マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析により、短期間の血清条件下で 129-ES細胞に高発現しているが、NOD-ES 細胞では消失する遺伝子を探索し、LIF の標的遺伝子である転写因子 TFCP を同定した。この TFCP の過剰発現により、NOD-ES 細胞は血清条件下で自己複製でき、かつ LIF 標的遺伝子の誘導(LIF 応答性)の特徴も 129-ES 型に転換していた。 > > 3)TFCP は ES 細胞の自己複製に必須である:129-ES細胞の TFCP ノックアウト(KO)ES細胞は、血清条件下で細胞死に陥る(未発表)。