--- title: "CASE 01: これで完成!?文章が下手で申請書の内容が頭に入ってこない" book: 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版 chapter: 第1章 総論 case_number: 01 pages: 15-18 images: page_0015.png ~ page_0018.png advice: "申請書は一度書いたら完成ではない。初めて読む人にも内容を伝えられるか意識して何度も書き直そう" tags: ["推敲のヒント"] --- # CASE 01: これで完成!?文章が下手で申請書の内容が頭に入ってこない ## アドバイス 申請書は一度書いたら完成ではない。初めて読む人にも内容を伝えられるか意識して何度も書き直そう ## どこがよくないか (1)本研究の学術的背景 ほ乳類から線虫やショウジョウバエなどのモデル生物まで、代謝調節や体温調節には共通の役割を持つタンパク質が存在している。その中でもペプチドは中枢神経系や末梢組織での情報伝達物質として、代謝調節や体温調節のコントロールに重要である。申請者らはショウジョウバエから3系統5種類の新規なペプチドを発見して、そのうちCCHアミド2は機能解析まで進んでいる(Sano H. et al. PLos Genet. 2015)。このCCHアミド2は、もともと哺乳類のBRS3受容体(Bombesin Receptor Subtype 3:この受容体のリガンドは不明でノックアウトマウスは摂食亢進を示す)によく似たショウジョウバエの受容体(CG14593)に作用するペプチドとして発見されたもので、脂肪体(Fat body、哺乳類の脂肪組織に相当する組織)から分泌され、インスリンの分泌を刺激することによって代謝活動や体温調節に関与している。ショウジョウバエが食物を摂取すると、脂肪体からCCHアミド2が分泌され、ショウジョウバエ脳内(ショウジョウバエではインスリンは脳内から分泌される)のインスリン産生細胞に作用して分泌を刺激する。これらのペプチドの受容体について、ほ乳類、ショウジョウバエ、線虫などでは、現在でも受容体に作用するペプチドが不明なままの受容体(いわゆるオーファン受容体)が数多く存在し、これらの受容体の内因性のペプチドは生体内の代謝活動や体温調節を制御する未知のシグナル伝達物質であり制御因子であると考えられる。しかし、最近では哺乳類からの新規のペプチドの発見はなく、研究は困難な状況に陥っている。 ## 添削例 > (1)本研究の学術的背景 > > ほ乳類から線虫やショウジョウバエなどのモデル生物まで、代謝調節や体温調節には共通の役割を持つタンパク質が存在している。その中でもペプチドは中枢神経系や末梢組織での情報伝達物質として、代謝調節や体温調節のコントロールに重要である。申請者らはショウジョウバエから3系統5種類の新規なペプチドを発見して、そのうちCCHアミド2は機能解析まで進んでいる(Sano H. et al. PLos Genet. 2015)。このCCHアミド2は、もともと哺乳類のBRS3受容体(Bombesin Receptor Subtype 3:この受容体のリガンドは不明でノックアウトマウスは摂食亢進を示す)によく似たショウジョウバエの受容体(CG14593)に作用するペプチドとして発見されたもので、脂肪体(Fat body、哺乳類の脂肪組織に相当する組織)から分泌され、インスリンの分泌を刺激することによって代謝活動や体温調節に関与している。ショウジョウバエが食物を摂取すると、脂肪体からCCHアミド2が分泌され、ショウジョウバエ脳内(ショウジョウバエではインスリンは脳内から分泌される)のインスリン産生細胞に作用して分泌を刺激する。これらのペプチドの受容体について、ほ乳類、ショウジョウバエ、線虫などでは、現在でも受容体に作用するペプチドが不明なままの受容体(いわゆるオーファン受容体)が数多く存在し、これらの受容体の内因性のペプチドは生体内の代謝活動や体温調節を制御する未知のシグナル伝達物質であり制御因子であると考えられる。しかし、最近では哺乳類からの新規のペプチドの発見はなく、研究は困難な状況に陥っている。 **指摘された問題点:** 1. 同じ単語のくり返し(「代謝調節や体温調節」が複数回登場) 2. 同じ単語のくり返し(内容が変わっているので改行入れる) 3. 括弧の説明が多すぎる 4. くり返し(「ショウジョウバエ」の繰り返し) 5. 何を指すのか不明(「これらの」が何を指すか曖昧) 6. 申請書にふさわしい表現か(「研究は困難な状況に陥っている」) ## なぜよくないのか? 例文は私が書いた申請書の下書きだが、内容が整っておらず、どこに行き着く(何をしようとする)のかわからないため、読んでいて苦痛である。また()に書いた注釈が多く、文章の流れを妨げる。できるだけ主題に向ってまっすぐに書いていくために、まだまだ推敲の必要がある。だが実際には、例文のような状態で提出される申請書は少なくない。 申請書は一度書いたらそれで完成というものではない。何から書いたらよいかわからない人はとりあえず書きはじめることが重要だが、書いた後で内容が伝わるか考えながら何度も書き直すことはさらに重要。もちろん科研費に応募しようとする多くの研究者の悩みは、"申請書がうまく書けない"ことだろうが、まずは"下書きなしですぐに書き上げられる"という幻想を捨てることだ。 ## どのように改良すればよいか? よい申請書をつくるためには、まず書くこと、書いて、それから直すこと。文章が下手でも、内容がいまひとつでも、ともかく書くこと。書いたものがないと、直すことができない!頭のなかで考えるだけではだめ。目に見える形を準備して、その実物を見ながら直していくのがよい(ともかく書くための基本は巻末の補遺1参照)。 最初に書いた申請書の内容に満足できることなど、まずない。私の場合、最初に書いた申請書を読み直したときには、いつも"なんて下手な!内容も支離滅裂だ"と、この先の推敲のたいへんさに呆然となる。それでもめげずに、何度も何度も直していく。できれば途中で誰かにみてもらって意見を聞くとなおよい。自分自身ではわかっている部分が他の人にはわかりにくいなど、思わぬ点を指摘してもらえる。独りよがりの表現などをチェックしてもらえる。どうしても他人にみてもらえない場合は数日おいて見直してみよう。 そしてもう一度書いておくが、この本はひととおり書かれた科研費申請書を、よりよいものにしていくためにどのように書き直していけばよいか、その方法および具体例を解説したハンドブックである。ご参考に。