===== Page 56 ===== B 背景と問い #料研費のコツ19 2段構えの法則 #科研費のコツ20砂時計を意識せよ #科研費のコツ21誰にとっての常識なのかを理解 する(審査員は誰か) #科研費のコツ22 なぜその研究をする必要があ るのか #料研費のコツ 23審査員を教育しようとしない #料研費のコツ24 どこから説明を始めるか #料研費のコツ25問題提起→具体的な解決策 #料研費のコツ26背景と問いの主要なバターン 「背景と問い」に迷ったらこう考えよう ■ 申請書の内容をおおよそ(8割程度)理解するために最低限必要となる情報 は何か? ■ 修士課程の学生が、この申請書を読んで理解できるだろうか? *基本的なことは知っているが、深い専門知識は持っていない者という意味 「背景と問い」は、研究の細かい部分や、研究の独自性や研究計画など関係の低 いものを、うっかり書いてしまいがちなパートです。しかし、非専門家である審査 員は細かなことを知りたいと考えていませんし、説明されたところで完全に理解は できません。審査員にとっては、申請書のだいたいのところが理解でき、ある程度 適切に評価できさえすれば十分です。 具体例 本研究の学術的背景と研究課題の核心をなす学術的「問い」 ダイズは世界の主要農作物の1つであり、食料以外にも、加工食 品、動物飼料、バイオ燃料、飼料、化粧品、薬品などの製造にも使 用されている。ダイズの生産における新たな脅威の1つに真菌 Fusariumvir guliformeによって引き起こされる突然死症候群(SDS) が挙げられる。土壌伝染性のこの病原菌は根に感染し、その後、薬 脈間の白化と壊死を特徴とする葉の症状を引き起こす。感染により、 早期落葉、さやの落下、最大で100%の収量低下を引き起こしている。 これまでに、原因菌としてFusariumsolanif sp.Glycines(Fy)が同定 され、米国ではFyが唯一のSDS原因種であることが明らかにされ てきたIupeetal.1989)。申請者もFVTox1とFVNIS1という2つのタ ンパク質が薬面SDSの発生に重要な因子であることを明らかにして きたISuzukietal.2022)。これらの究により、SDSの原因となるFV や関連因子の種類や特性についてはかなり理解が深まっている。 その一方で、これまではSDS発症後に病気を抑える方法について (2-1)背景・重要性 研究分野の背景 (2-2)背景・重要性 研究分野の重要性 (3-2)少し前の状況 他人の貢献 56 ===== Page 57 ===== 集中的に研究されており、SDS発症前あるいはFV感染前にFVTox1 やFVNISIの機能を特異的に阻害する試みはなされてこなかった。 そのため、その症状を引き起こすためにFvが採用しているメカニ ズムやそれに基づく防除方法は明らかにされていない。申請者らは すでに、C末端にGFPを付加したFVTox】(FvTox1-GFP)を発現 する植物を用いて作出し、これらが機能的であることを確認してお り、質量分析によりFVTox1-GFPと相互作用するタンパク質を27種 同定している[未発表データ。さらに、そのうちの一部の因子につ いては植物の病害応答に関与することがすでに報告されている。こ うしたことから、FVTox1と相互作用する因子の構造を詳細に解析 し、それをもとにした人工的な相互作用因子を作成することで FyTox1の機能抑制を介してSDSの発症予防を実現できると考えた。 こうした状況から、「SDSに対して実効性のある解決策は何か?」 という研究課題をの核心をなす学術的「問い」に対して、答えを出 すための状況が整いつつある。 (4-1)きっかけ 問題提起と弊害 (5-1)独自性・妥当性 着想の経緯 (5-2)独自性・妥性 研究のアイデア 2.2 節 申 研究課題の核心を なす「問い」 科研費|基盤(C) 1 2 該当する項目:研究目的、研究方法など(1、2ペー ジ目) 分量:若手/基盤Cの場合、1ページ目の終わりま で~2ページ目の1/3程度まで(約30行、1000字 前後+図)。ページ数が増えたとしても2ページ目の 半分くらいまで。 要素:(2)背景・重要性からはじまり、(3)少し前 の状況、(4)きっかけ、(5)独自性・妥当性、(6) 現在の状況 研究目的直前までをコンパクトに書く。着想の経 緯が続くので、文章が繰り返しにならないように調 する。若手・基盤では書けるページ数が変わるので、 「背景と問い」の分量も前後する。書きすぎに注意。 A B C D E F G H K L M N 57 ===== Page 58 ===== 科研費|挑戦的研究(萌芽) S-42-1,1 該当する項目:研究目的及び研究方法、応募者の研 究遂行能力(5-42-1,1ページ目、S-42-2.1ページ目) 分量:5-42-1(0.4~0.5ページ程度)、S-42-2(0.2 ページ程度、1段落) 要素:(2)背景・重要性、(3)少し前の状況、(4) きっかけ、(5)独自性・妥当性、(6)現在の状況、 (7) 研究目的 本研究の目的を書けという指示だが、研究背景等 を書ける場所がここしかない。ページ数制限が厳し いので、ダラダラと書かず、半ページほどでスパッ と書く。図をうまく使って文章量を減らし、紙面を 節約する。 S-42-2,1 学振PD 1 該当する項目:研究の位置づけ(1ページ目) 分量:0.5~0.7ページ程度+図 背景からはじまり、現状説明、問題提起、アイデ ア…・・・・・のように研究目的直前までをコンパクトに書 く。着想の経緯が続くので、文章が繰り返しになら ないように調節する。 要素:(2)背景・重要性、(3)少し前の状況、(4) きっかけ、(5)独自性・妥当性、(6)現在の状況 聞かれているのは研究目的の直前までなので、こ こで研究目的や研究内容まで言及しないようにし、 「~〇〇〇は〇〇〇という点で問題である」のような シンプルな形式で十分。 「背景と問い」の要素 背景と問いには非常に多くの要素が含まれますが、必ずしもすべてを書く必要は ありません。まずはどのような要素がありうるのかを把握しましょう。 (2-1) 背景・重要性研究分野の背景 多くの場合、研究課題を含めた、より一般的な分野についての背景説明から申請 書を書き始めます。これには、申請書中で鍵となる用語の説明や分野の定義、一般 58 ===== Page 59 ===== 的に事実であると考えられていることなどが含まれます。 これは、研究分野を定義することにほかならず、これから説明する研究課題は広 い意味において何についての研究だといえるのか?を審査員にわかりやすく提示 し、研究計画を理解するうえで必要となる背景知識を提示するためのパートです。 OK 0〇〇を意味する〇〇〇は〇〇〇である。 OK 0〇〇は〇〇〇{な/する疾患]であり、〇〇〇{を引き起こす/に関与 している/である」。 OK 〇〇〇は〇〇〇{し/により/することで/されながら]、〇〇〇{して いる/されている」。 審査員は申請者の専門分野に精通しているわけではないので、いきなり研究課題 についての具体的な話をしてもわかってもらえず、研究計画を正しく理解してもら うことにつながりません。まずは、より一般的な話から説明を始めて、審査員を 徐々に自分の研究課題へと導く必要があります(図2.3の砂時計を思い出しましょ う)。まずは、これから何の話をするのか、どのような現状なのか、申請書で重要 となる用語の意味や定義など、研究の全体像を最低限理解するために必要となる背 景をなるべく一般的なところから順を追って説明します。この時には、 ■ 想定される審査員にとってどこまでが説明不要で、どこから説明が必要なのか ■ 申請書を理解するために最低限必要な知識は何か を意識し、なるべくコンパクトに書いてください。どんなに重要なことでも今回の 申請書を理解するうえで不必要な内容であれば、書かない方がよいです。ややこし くなるだけです。申請書中で登場する要素の数は少なければ少ないほど理解しやす いという点を強く意識してください。場合によっては多少の正確性を犠牲にしてで も、話をシンプルにすることを優先することもありえます。 「背景だからすべての情報を盛り込むべき」、「事実であれば何を書いても などと考えるのではなく、 この内容は申請書の内容や研究計画の価値をだいたい(完璧にではない)理 解するのに必要だろうか? という観点から、書く内容を取捨選択してください。 2.2 節 申 A B C D E F G H K L M N 59 ===== Page 60 ===== OK 免疫チェックポイント阻害薬は進行したがんに対しても優れた効果を発 揮する。 OK 今なお、多数の反応性官能基を持つ分子の〇〇〇を制御することは困難 である。 OK 渋沢栄一は、日本最初の銀行や紡績会社など多くの企業を設立し、経済 の発展に大きく貢献した。 NG 転写因子〇〇〇は一般的に〇〇〇を認識するが、条件によっては〇〇〇 も認識する。 →いきなり個別の問題を説明しているため、読み手はついていけません。 NG 本研究の目的は〇〇〇、AAA、ロロロである。 →相手が同じような背景知識を持っていることが確実であれば、いきなり目 的を説明しても許されるかもしれませんが、そうでないなら、何についての 話なのか審査員はついていけません。 「背景|研究分野の背景」にこれといった定形はありませんが、強いていえば、 短文で書き始めると読みやすいと思います。 (2-2) 背景・重要性|研究分野の重要性 さらに続く文では、研究課題が含まれる一般的な分野の重要性を説明します。こ こでいう重要性には、学術的あるいは社会的な影響が大きいことや、より多くの人 が興味を持っていることなどが該当します。「(2-1)背景・重要性 景」との明確な区別はなく、(2-1)の一部として研究分野の重要性をまとめて書い てしまっても構いません。 OK がんは、我が国において昭和56年より日本人の死因の第1位であり、現 在では、年間30万人以上が、がんで亡くなっている。 OK 000は〇〇〇に重要である。 この際に、「重要な研究分野である」ことは必ずしも本研究の重要性を意味して いるわけではない点に注意が必要です。分野の重要性は研究の重要性のための必要 条件ですが十分条件ではありません。重要な分野の研究であっても、くだらない研 究は数多くあります。 60 ===== Page 61 ===== NG がんは、我が国において昭和56年より日本人の死因の第1位であり、そ の克服は重要である。こうしたことから、好きな色とがんになりやすさ の調査は喫緊の課題である。 このように、研究分野の重要性を示すことは必ずしも本研究の重要性を意味する わけではありませんが、申請者の研究が重要な分野の一部であり、本研究がそうし た分野の進展に貢献しうることを示す点でこのパートは重要であり、簡単でいいの で書いておきましょう。 (3-1) 少し前の状況|研究課題の背景 一般的な分野から一歩踏み込んで、本研究に直接関わる具体的な分野の話へと話 を進めます。ここは「(2)背景・重要性」と「(3)少し前の状況」の転換点であり、 話題が急に飛躍しないように気をつけながら、一般的な背景から具体的な背景へ、 研究分野全体の話から個別の研究課題の話へと、徐々に話を展開していきます。 さらに、この後の「(3-2)少し前の状況|これまでの他人の貢献」と「(3-3)少 し前の状況|これまでの自分の貢献」をもとに研究目的や研究計画が立てられるの で、それらの内容を理解し、評価するために必要となる背景説明をここで書きます。 具体的には、 OK{なかでも、近年、とくに、こうした中において、実際]、0〇〇は〇〇〇 であることが…・・ のように、適切なつなぎ言葉を入れ、広い話から自然な形で本研究の話へと範囲を 狭めていくとともに、その後の自他の貢献を理解するための背景を簡単に説明します。 「(2-1) 背景・重要性|研究分野の背景」と同様、ここも何を書いてもよいわけで はなく、申請書をだいたい理解し評価するうえで、最低限必要となる情報にとどめ ておくべきです。とくに具体的な研究の背景は申請者がまさにいま取り組んでいる ところであり、この部分を書きすぎている申請書を数多く見かけます。審査員が理 解できる申請書であることは、高い評価を受けるために最低限必要となる条件です。 (3-2) 少し前の状況|これまでの他人の貢献 他の研究者がこれまでにどんな興味を持ち、どんな視点から、どのような研究を してきたのか、その結果何が示されてきたのか(結論)、について書きます。 問題解決型の場合 次の「(4)きっかけ」での問題提起に向けた現状認識にあたるので、 2.2 節 申 A B C D E F G K L M N 61 ===== Page 62 ===== OK これまで地球は平らだとじられてきた(が、実際は球に近い)。 OK 〇〇〇には性差がないとされてきた(が、実際にはある)。 など「一般的にはそう考えられている(が、本研究ではそうではないといいたい)」 とか「これまでの捉え方(は不十分で、本研究では新しい視点を提示する)」のよ うな、本研究の価値を高めるための踏み台となる内容を書くパターンが多いです。 価値創造型の場合 次の「(4)きっかけ」でさらに前進するための現状認識にあたるので、 OK これまでにも地球は丸いことが確かめられていた(本研究では、より精 細に計測する) OK 脳の機能拡張というアイデア自体は昔から存在していた(が、本研究で はいよいよそれに挑戦する) のように、これまでの流れをさらに拡大・発展させるという内容を書きます。わ かっていること・示されていることを整理せずに、カタログ的に書き連ねることは 避けてください。 他と同様、研究目的あるいは研究計画と密接に関連していることだけに絞って書 き、何を書いてもいいわけではありません。たとえば、 NG リンゴは赤いことが示されていた。本研究では、リンゴの病気を効率的 に防ぐ方法を確立する。 と書くと、審査員は「リンゴが赤い」という内容に関連した申請書であることを想 定しながら読み始めます。しかし、実際の研究内容はリンゴの病気についてであり、 想定した内容と異なった内容を提示された審査員は肩透かしを食ってしまいます。 病気を防ぐ方法についての研究内容を理解するうえで、「リンゴが赤い」という情 報はまったく活かされていないばかりか、病気を防ぐ方法については触れられてい ません。 また、それとは逆に、関連しているからといって何を書いてもいいわけでもあり ません。 62 ===== Page 63 ===== NG 我が国の年齢階級別の死因第一位および死亡率(人口10万対)は0歳か ら4歳が先天奇形、変形及び染色体異常(1,057人/10万人)であり、5 歳~9歳は…・(平成21年厚生労働省第8表死因順位(第5位まで) 別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合より) のような文章は、詳しすぎます。では、どの程度の情報量が適切なのでしょうか? どこまで書くかを迷った時は、「申請書をおおよそ(80%くらい)理解し・評価す るために、この情報セットは必要十分だろうか?」と問うようにしてください。ほ とんどの場合、審査員は分野外なのですから、限られた紙面、限られた時間のなか で申請者の研究内容を100%理解してもらうことは不可能ですし、審査員もまた 100%理解したいとは考えていません。多すぎる情報は、本当に重要な情報が何で あるかを見失わせてしまいます。審査員が背景ですめているのは、申請書を理解し 評価するうえで最低限必要となる背景知識です。決して、「審査員を教育 よう」、「すべてを理解してもらおう」などと思ってはいけません。 また、後の「現在の状況」も同じですが、ここではすべてがわかっている(わ かっていない)と書いてしまうと傲慢な印象を与えかねません(実際、そうした状 況は考えにくい)。ある部分はわかっているが、ある部分はわかっていないという 書き方が可能であり、そうすることで客観的な姿勢で取り組んでいることを印象づ けられるでしょう。 2つ並べて書く場合は最後に出てくる内容がもっとも強調されます。 OK 900については理解が進んだが、重大な〇〇〇についてはわかってい ない →わかっていないことが大問題だと考えている OK 9〇〇の全体像の理解はまだ不十分であるものの、〇〇〇についての理 解は進んできた ≥ →理解できている部分がある点を評価している このように書く順番によって読む側の印象は変わってくるので、申請者の意図に 沿った構成にしましょう。 (3-3) 少し前の状況|これまでの自分の貢献 今回の研究に関連して、申請者(ら)も研究分野や研究課題に関して貢献してき たのであれば、ぜひ書いておきましょう。ここの書き方は2つのパターンがあります。 2.2 節 A B G H K L M N 63 ===== Page 64 ===== 申請者(ら)も他の人たちと一緒になって研究を進めてきた OK 000は〇〇〇であることが示されてきた。申請者(ら)も、〇〇〇に より、〇〇〇の〇〇〇を明らかにしてきた[文献」。 このように書くことで、これまで他の研究者と同じ方向を向きながら研究を進め てきたことを示し、自分たちが専門家として研究の進展に貢献してきたことをア ピールできます。もっともオーソドックスなパターンです。 ただし、未発表データをここで示してしまうのはもったいないです。他にもっと 効果的に使える場所があるので、ここに書く内容は発表済みのものにとどめておく 方がよいでしょう。 他の研究者の研究方針や研究結果は実は間違っている OK 〇〇〇は〇〇〇であることが示されてきた。しかし、申請者らは〇〇〇 においては、むしろ〇〇〇であることを明らかにしており、•・ このように書くことで、これまでいわれてきたことが実は(部分的に)間違って おり、申請者らが新たに発見した、すなわち、申請者らには最新の知見や研究の先 進性、材料・装置・データ等の優位性があり、他の人ではなく申請者(ら)こそが この研究を行うのにふさわしい、ということをアピールすることができます。 (4-1) きっかけ|問題提起と弊害 すでに顕在化している問題については、研究を通じて問題解決を目指す必要があ ることはわかりやすいでしょう。この際のポイントは、複数ある問題の中から、な ぜこの問題に優先的に取り組む必要があるのか、について説得力を持って説明する ことです。 対象としている研究分野において、すべてがうまくいっており、誰も何も困って いないのであれば、もはや研究する余地はありません。そうではなく、 他の問題よりも優先度が高い 具体的な弊害が出ている(出そうである) といった理由があって初めて、他の問題ではなくこの問題に取り組む理由になりま す。「単に申請者がずっと研究してきたから」、「申請者が興味を持っているから」 ではすべての研究が該当するために差がつきません。 64 ===== Page 65 ===== ここに書く内容は「国際平和」や「人類の幸福」といった大きなものだけでなく、 「〇〇〇の理解を妨げていた」や「〇〇〇が〇〇〇であるかは不明のままであった」 といったもっと範囲を絞った学術的な内容でも構いません。ただし、その場合には、 この研究が潜在的には多くの人にかかわりうる問題であることにしておかないとい けません。 何を NG これまでに〇〇〇に関する報告は少なかった。 NG 0〇〇は研究されていなかった。 のような主張をしたところで、そもそも研究とはこれまでに実施されていないこと を行うものですので、大した説得力を持ちません。また、関連する研究がないこと は必ずしも研究する必要性を意味していない点にも注意が必要です。そうではなく、 ■ この問題を扱うべきである:緊急性が高い、すでに問題が顕在化しており、 弊害もある。 ■ あなたなら(この研究室なら)解決できる:他の人にはない技術・アイデ ア・材料・装置などを申請者(ら)は持っており、この問題に答えを出せる。 をともに満たすような問題設定を心がけてください(どちらかだけではダメです)。 (4-2) きっかけ|状況変化 問題解決型と異なり、価値創造型の場合はきっかけを説明することは少し難しい ですが、それでも、技術革新や新たな資料の発見、見直しの機運が高まっている、 これから問題になりそうである、など研究を開始するきっかけが何かあるはずです。 他にもできることやすべきことがたくさんあるにもかかわらず、とくに何のきっか けもなくまったく違う研究を始めようとしても、ほとんどの人は納得できないで しょう。 OK 青い色素は神経保護の役割を持つことが報告されたため、青い色素をマ ウスに投与し…・・ OK 近年、徳川理蔵金に関する新しい文献が発見され、それによると〇〇〇 に埋蔵金があると考えられたがまだ試掘されていない、そこで・・・ このような説明であれば納得できる人も多いのではないでしょうか。きっかけを 示すことで研究内容に説得力を持たせることが可能になります。 2.2 節 A B G K L M N 65 ===== Page 66 ===== (4-3) きっかけ|未解決・未実施であった理由 問題解決型 この問題は未解決か Yes この問題は重要か Yes 解決案を持っているか Yes 研究する価値がある 解決済みの問題を No、蒸し返してとうする 他にもっと重要な No、問題があるだろう 解決できそうもない No.なら持ってくるな 価値創造型 これは未実施か Yes これは価値があるか _Yes 実現できそうか -Yes 研究する価値がある 図2.9 解決できそうな問題だけが研究対象の候補になる No.やってどうする 同じことをもう一度 No. 他にもっと重要な ことがあるだろう 実現できそうもない No,なら持ってくるな 研究テーマの選び方でも説明したように、扱うべき課題は、未解決・未実施かつ 重要なものに限られています。しかし、たとえこの基準を満たしていたとしても解 決のための糸口がないのであれば、研究しようがありません。たとえば、 NG 光の速さを超えて移動することはできないため、宇宙の果てについては 不明であった。 NG 無から生命を作り上げることは未だ成功しておらず、成功すれば基礎科 学だけでなく、医学や哲学を含めさまざまな分野に大きなインパクトを もたらす。 と書いてしまうと、話の流れ上、研究計画では光の速さを超えて移動する方法や、 無から生命を作る方法を書く必要が出てきてしまいます。これらの課題が重要であ り魅力的であることには疑う余地はありませんが、解決・実現する方法がないので あれば、絵に描いた餅です。 これを防ぐためには、課題が未解決・未実施のまま放置されている理由について 申請者なりの答えを用意しておく必要があります。 OK これまで〇〇〇を直接観察する方法がなかったために、〇〇〇は不明の ままであった。 この例では、〇〇〇を直接観察する方法がなかったからうまくいっていないのだ、 という申請者なりの解釈があります。裏を返せば、〇〇〇を直接観察することが問 題解決の糸口になると考えており、「そこで本研究では、〇〇〇を直接観察 66 ===== Page 67 ===== 法を新しく開発する」という研究目的へと話が自然に展開します。 このように、問題が未解決であった理由を示すことで、問題解決の糸口がどこに あるかを示し、問題解決と研究目的をつなぐことが可能になります。 未解決であった理由はとても重要なので、別の視点からも見てみましょう。以下 では問題解決型の例を取り上げていますが、価値創造型でも同じです。まず、 ここで指摘した未解決問題がもし本当に重要であり、その解決方法も存在している ならば、すでに誰かがやっているはずである。 という考え方はとても重要です。この主張は「すでに解決方法があるにもかかわら ず未解決のまま残されている問題は、『実はそれほど重要ではない』あるいは『現 時点では難しすぎて解決できない』」という考え方と言い換えることも可能です。 申請者としては「この未解決問題は重要で、解決可能だ」と主張したいのですか ら、当然、こうした考え方は認められません。こうしたことを防ぐためには、 ■ 問題としては認識されていたが、技術や材料、装置などの不足により、これ までは研究したくてもできなかった(しかし、申請者ならできる)。 ■ そもそも、それが重要な問題だとは認識されておらず、これまで放置されて いた(しかし、申請者はそれが重要であることに気づいた)。 のように、問題が未解決のまま放置されてきたのは、問題自体がくだらない、難し すぎるから、といった消極的な理由ではなく、もっと別の理由があると説明する必 要があります。 OK これまでは主に形態に着目した解析は盛んに行われてきたが、性質はお おむね同じであるとの考えから、〇〇〇の違いに着目した報告はほとん ど存在しなかった。 OK これまでは〇〇〇の計測精度の限界は〇〇〇で決まっており、それ以上 の精度での計測は理論上不可能であると考えられていた。 OK 〇〇〇に対する認識は、〇〇〇以来、ほとんど変わっていないままである。 そして、続く「研究のアイデア」において、未解決の原因となっている障害を申請 者なら突破できる、と書くのです。 ここで、問題が未解決であった理由が真実かどうかは必ずしも重要ではありませ ん(もちろん真実であるべきですが、分野外の審査員にとってはそれが真実である 2.2 節 申 A B G K L M N 67 ===== Page 68 ===== かどうかを判定することは実質的に不可能です)。そのため、申請者の主張をある 程度の根拠をもって説明できればそれで十分です。最低でも「どういった視点が欠 けていたのか」に対する答えを書き、可能ならば「なぜそうした視点は欠けていた のか」に対する答えも書くようにします。 (5-1) 独自性・妥当性|着想の経緯、(5-2)独自性・妥当性|研究のアイデア 「背景と問い」で研究のアイデアと着想の経緯を書くことも多いですが、詳しく は後の「着想の経緯」で説明します(p.74)。 「着想の経緯」を書く欄が別に用意されている場合 「背景と問い」では数行で、ごく軽くアイデアを紹介する程度にとどめておき、 「着想の経緯」で詳しく説明します。同じ内容を繰り返して書く余裕がない場合が ほとんどですから、表現や内容の重複をなるべく避けるようにしましょう。 「着想の経緯」を書く欄が別に用意されていない場合 アイデアや着想の経緯について説明するため、ある程度のスペースをとって丁寧 に説明する必要があります。 (6-1) 現在の状況|他人の成果 「背景・重要性」では研究の重要性を含め、一般的に真実だと考えられていること を書くのに対して、「現在の状況」では他の研究者がこれまでにどう考え、どのよ うに取り組んできたのかについて書きます。すでに説明した「少し前の状況」との 違いはそれほど大きくなく、「少し前の状況」ではアイデア(本研究に関するこれ までの取り組み)を実施する前の状況を、「現在の状況」ではアイデアを実施した 後の状況について書きます。そのため、どちらか一方で十分であるケースは少なく ありません。 真実と考えられていることを書く以外にも、「これまでは〇〇だとされてきた (が、実はそうではない)」のように、世間ではそういわれているものの、申請者自 身は必ずしも正しいとは考えていないようなことを伏線として書くケースもありま す。これまでにどのような考え方があり、どのような研究がなされてきたのか、を まとめることは研究のスタート地点を具体的に定義することにつながります。 また、申請書の物語はハッピーエンドの物語であり、研究を通じて「現在の状 況」よりも良くなることが大前提です(そうでなければ研究する意味がない)。こ こで書く「現在の状況」は本研究の完成後にはアップデートされる運命にあり、 「背景・重要性」との大きな違いです。 68 ===== Page 69 ===== たとえば、以下のように、「現在の状況」には問題があることを示して現時点 下げることで、成功した時の伸びしろを確保する書き方はよくあります。 OK O〇〇については理解が進んだが、重大な〇〇〇についてはわかってい ない OK これまでに〇〇〇や〇〇〇が行われてきたが、〇〇〇についてはわかっ ていない また、その逆の書き方として、 OK これまで、〇〇〇については不明であったが、最近になって… OK これまでに〇〇〇が〇〇〇されており、〇〇〇が可能になった のように、現時点でもよいが改善の余地はあり、その意味で不十分だとすることも 可能です。 (6-2) 現在の状況|自分の成果 ここも「(6-1)現在の状況|他人の成果」と同様に、研究のスタート地点を示し 明確にするための役割を持っています。書くことがないのであれば省略しても構い ませんが、申請者(ら)がこの分野に貢献してきたこと、専門家であることをア ピールするためのチャンスですので、なるべく書いておくようにしましょう。他人 の成果を書かず自分の成果だけを書くと、独りよがりと受け止められかねません。 また、他人の研究と自分の研究の両方を書く場合には、両者の関係を意識して適 切につなぐ必要があります。 OK これまでに〇〇〇であることが示されてきた。申請者らも〇〇〇が〇〇〇 であることを…・・ OK 申請者らはこれまでに〇〇〇の〇〇〇を示してきた。これに対応するよ うに、〇〇〇においても〇〇〇が示されている。こうしたことから・・・ 研究課題の核心をなす「問い」 科研費における、研究分野の核心をなす学術的「問い」という項目は、何をどう 書けばよいのかがわかりにくく、苦戦している人が多い印象です。「問い」を書く 何を 2.2 節 申 A B C D E F G H K L M N 69 ===== Page 70 ===== ことが求められていないのであれば、あえて書く必要はありません。 「問い」は、申請書の前半部分をまとめ、研究目的につなげるための導入として の役割を持ちます。砂時計の例でいうと上半分のまとめです。まとめですので、 「きっかけ」、「少し前の状況」、「アイデア」、「現在の状況」といろいろな要素に続 ける形で「問い」を書くことができます。 きっかけに続けて書く場合 OK 0〇〇は〇〇〇において非常に重要な問題であるが、その詳細な制御メ カニズムは不明のままである。したがって、「〇〇〇において、〇〇〇は どの程度重要か?」という問いは、本研究領域の核心をなす学術的「問い」 であるにもかかわらず、まったく手つかずのままであった。 のように、これまでの研究ではある視点がごっそりと抜け落ちていて、それこそが 研究課題における問いそのものである、というような書き方になります。 アイデアに続けて書く場合 OK こうしたことから、〇〇〇は〇〇〇であると考えられた。したがって、 本研究領域の核心をなす学術的「問い」は「〇〇〇において、〇〇〇は どのような役割を果たしているのか?」であり、これを示すために以下 の研究を計画した。 OK 0〇〇は〇〇〇であると考えられた。こうしたことから、〇〇〇を〇〇〇 することで、「〇〇〇はどのように〇〇〇しているか」という本質的な問 いに答えることができると考えられた。 のように、あるアイデアから導かれる疑問に答えることや、あるアイデアを用いる ことによって、研究課題における問いに答えを出せる、というような書き方になり ます。こうした場合に、 NG 000であると考えられる。こうしたことから、申請者は、手袋をする ことで寒さを防げると考えた。そこで本研究の「問い」として、「手袋を することで寒さを防げるか?」を設定する。 のように、「問い」がアイデアの繰り返しにならないように気をつける必要があり ます。文章表現の工夫でどうにかするのではなく、アイデアを利用して一歩先に進 むイメージで、アイデアと「問い」がまったく同じものにはならないような工夫が 必要です。 70 ===== Page 71 ===== こうした重複を回避するアイデアの1つとして、 OK 〇〇〇であると考えられる。こうしたことから、本研究課題の核心をな す「問い」として、「〇〇〇をすることで〇〇〇できるか?」を設定し、 これを検証することで、〇〇〇に対して答えを出せると考えた。 OK そこで本研究は「〇〇〇を〇〇〇することで〇〇〇できるのか?」を研 究課題の核心をなす問いとして設定し、•・ のように、アイデアと問いを一体化させ、アイデアが「問い」そのものであると書 くことはできるでしょう。 現在の状況に続けて書く場合 多くの申請書はこのパターンです。 OK このように、〇〇〇であることが(予備的な研究から)示されている。 〇〇〇が〇〇〇であることを考慮すると、〇〇〇が〇〇〇ではないだろ うか?この(これらの)問いは〇〇〇を解き明かす重要な鍵となると 考えられる。 OK こうした結果は、〇〇〇につながると期待されるが、0〇〇の〇〇〇に ついてはまったく明らかにされておらず、本研究課題の核心をなす学術 的「問い」として残されたままである。 のように、現在の状況に続けて書くと、少し前の状況→アイデア1→現在の状況 →問い(アイデア 2)のように、「問い」はアイデアのような性質を持ちます。 「背景と問い」の構成 記号の意味 入問題が解決した、理解が進んだ、良くなった、取り組まれている ▶ 問題は解決していない、よくわかっていない、悪化している、放置されている パターンのルール ”(肯定的)、▶(否定的)、書かない、のどれかを入れる 「少し前の状況」と「現在の状況」はいったん下げてから最終的に上がった り(ンス)、上がってから最終的に下がったり(ハ♥)するパターンもあり える ■ 「背景・重要性」と「少し前の状況(現在の状況)」は必ず書く 2.2 節 申 A B C D E F G H K L M N 71 ===== Page 72 ===== 「独自性・妥性」は必ず肯定的(7) 1つの要素内で>ハンやハンスのように二転三転させることで、さらに劇的 にすることも可能だが、審査員の理解が追い付かなくなるので、推奨しない 「背景と問い」の構成の基本的なパターンは図2.10のように大きく3つあります。 とくに大きな問題もなく着実に進展する価値創造型、問題がありそれを解決しよう とする問題解決型、それをさらに進めて問題を解決しようとしたらまた別の問題が 出てきて••・・・・と、上げ下げを繰り返す劇場型です。問題解決型のより劇的なタイプ である劇場型ですが、あまりにも何度も成功と失敗が繰り返される申請書は読み疲 れやすいので、とはせいぜい2、3回までです。 いずれのパターンであっても、今よりも良い世界を目指すために研究するのです から、とや入がありつつも最終的には「現在の状況」あるいは「少し前の状況」よ りも高い位置にいることを目指します。申請書はハッピーエンドの物語です。 間 価値創造の度合い 価値創造型 (2) 背景・重要性 (3) 少し前の状況 (4) きっかけ (5) (6) 独自性・妥当性現在の状況 (問い) 問題解決型 -〇 →バーーート (2) 背景・重要性 (3) 少し前の状況 (4) きっかけ (5) 独自性・妥当性 (6) 現在の状況 (問い) 劇場型 図 2.10 (2) (3) 背景・重要性 少し前の状況 (4) きっかけ (5) (6) 独自性・妥当性 現在の状況 パターン1における「背景と問い」の3つの型 (問い) 72 ===== Page 73 ===== ここでは縦軸に、問題解決度あるいは価値創造度をおいたときの「背景と問い」 全体の流れをみてみましょう。これに「問い」を書くか・書かないかまで考えると 膨大な組み合わせがあり、これが「背景と問い」が難しい理由の1つです は、代表的なパターン1だけを紹介します。 価値創造型 (2)背景・重要性→〇〇〇は〇〇〇である。 (3) 少し前の状況”これまでに〇〇〇が明らかにされてきた。 (4) きっかけ ”これに関連して、近年、〇〇〇についても報告された。 (5)独自性・妥当性/このことから、〇〇〇することで〇〇〇できると考えられた。 (6)現在の状況 ”すでに、〇〇〇については〇〇〇されている。 (問い) ”(そこで申請者は、〇〇〇は〇〇〇ではないか?との問 いを立てた) 2.2 節 申 問題解決型 (2)背景・重要性→〇〇〇は〇〇〇である。 (3) 少し前の状況 ~〇〇〇については明らかにされておらず (4) きっかけ → したがって、〇〇〇についても不明のままであった。 (5) 独自性・妥性>これに対して、〇〇〇することで〇〇〇できると考えた。 (6)現在の状況 ”実際、〇〇〇については〇〇〇であることが明らかにされ ている。 (問い) ★(こうしたことから、0〇〇により0〇〇できるか?と 問いを立てた) 成 A B C D E F G H 劇場型 (2)背景・重要性→〇〇〇は〇〇〇である。 (3) 少し前の状況>これまで〇〇〇が明らかにされてきたものの、 〇〇〇については不明のままであった。 (4) きっかけ そのため、〇〇〇の理解は大幅に遅れている。 (5)独自性・妥当性/これに対して、〇〇〇することで〇〇〇できると考えた。 (6) 現在の状況 ▶ しかし、〇〇〇の難しさから〇〇〇の解析は困難なままで あった。 (問い) (こうしたことから、〇〇〇により〇〇〇を実施すること で、〇〇〇を明らかにできるか?を研究課題の「問い」 に設定した) K L M N 73