===== Page 6 ===== せる頻度をもっと減らしたり、セルフチェックだけでも十分になったりしますが、 書き慣れていないうちは申請書の方向性が合っているかを逐一確認しながら書き進 めるようにすると、結果的にお互いの時間効率がよくなります。くれぐれも、自分 を過大評価して「1週間後に100点のものを見せてびっくりさせてやろう」とは考 えないでください。 「そんなに上司の時間を取ってしまうなんて…・」と思うかもしれませんが、申請 書が採択されることは上司にとっても重要であり、そのために時間を使うことは上 司の仕事です。締め切りギリギリまで手元に申請書を抱え込み、直前にいちおう見 せはしたものの、全然ダメで、結局時間切れで中途半端な申請書を提出することの 方が最悪です。これでは、お互いの時間をドブに捨てるようなものです。 20点くらいの申請書とは ■ それぞれの項目についてどんな内容を書くのか ■ どこに問題意識があり、どういった研究をして何を明らかにするつもりなのか ■ どんな図を載せるつもりか を一通り埋めきったのが20点くらいの申請書です。研究遂行能力や人権の保護な ど、お決まりのところについては、早い段階で書き終えておくとなおよいでしょう。 こうすることで、この20点の申請書をたたき台として、あなたと上司は具体的な イメージを共有しながら、改善案について議論できます。 1.2 個人で応募可能な研究費の種目、 研究期間、申請資格 研究費には科研費や学振以外にもさまざまな種類があり、次の表1.1にあるよ うな研究費は比較的長い間続けられているプログラムです。一方で、2、3回だけ 募集があって、そのままなくなってしまうプログラムも多く、どのような募集があ るのか普段からアンテナを張っておくことが重要です。新設された研究費の場合、 初年度は、重複制限や認知度の関係から倍率が低くなりがちです。採択の可能性が 高まる絶好のチャンスです。 e-Rad や各省庁のウェブサイト、助成金のボータルサイト、各大学の公募中の助 成金リストから探すことで、ほとんどの場合は事足ります。各大学が独自に作成し ている公募中・公募予定の助成金リストは内部関係者のみに公開されている場合が ほとんどですが、一部の大学では外部からでもアクセスできるので、見てみてもよ いかもしれません。ほかには、SNSでの話題から探したり、同年代あるいは少し ===== Page 7 ===== 表1.1 主な研究費 種目|募集時期 文部科学省・日本学術振興会 基盤研究(A) 7~9月 基盤研究(B)・(C) 8~10月 若手研究 挑戦的研究 8~10月 開拓・萌芽 研究活動スタート3~5月 支援 奨励研究 8~10月 研 究 成 ひらめき★と8~10月 きめきサイエ ンス 学術図者 8~10月 データベース 8~10月 帰国発展研究 7~9月 特別研究員(学振)3~5月 特別研究員奨励費翌1~2月 研究期間と研究費(概算) 3~5年間 (B) 3~5年間 (C) 3~5年間 (若手) 2~5年間 (開拓)3~6年間 (明芽)2~3年間 2,000~5,000万円 500~2,000万円 ~500万円 ~500万円 500~2,000万円 ~500万円 1~2年間~150万円/年度 1年間 10~100万円 1年以内~50万円 (紙媒体または紙媒体と電子媒体) 出版費一〔定価0.35(部数0.6)〕 (電子媒体)出版費0.8 データベースの作成に必要となる経費の 一部 3年以内~5,000万円 若手研究者 3~4月 海外挑戦プログラ 8~9月 ム (学振PD・RPD) 3年以内~120万円/年度 (学振 DC) 3年以内~100万円/年度 (海外学振) 2年間 450~750万円/年度* *都市・国によって異なり、滞在費も含む 90日以上1年以下 ベンチフィーとして上限20万円 滞在費は 100~140万円 卓越研究員事業 5~6月 2年間~1,200万円 二国間交流事業 共同研究 6~9月 1~3年間~250万円/年度* *国によって期間、研究費は異なり、 50%以上を旅費として使うこと 文部科学省 A-STEP 科学技術振興機構(JST) 3~5月 (トライアウト) 2年間 ~300万円 (育成型) 3年間~1,500万円 さきがけ ACT-X 創発的研究支援事 業 4~5月 4~5月 第3回は 5~7月 第4回は夏以降 3.5年間~4,000万円 2.5年間数百万円程度 (フェーズ 1) 3年間~2,000万円 (フェーズ 2) 追加で4年間 ~ 5,000万円/7年 内閣府 日本医療研究開発機構(AMED) PRIME 4~5月 3.5年間~4,000万円 厚生労働省 厚生労働科学研究 費補助金 12~1月 3~5月 8~9月 2~3年間 500~2,500万円* *課題により研究期間、予算は異なる 資格 若手:博士の学位取得後8年未満 研究機関に採用されたばかりの研究者 や育児休業等から復帰する研究者 教育・研究機関の教職員等で他の科研 費の応募資格がない者 科研費の応募資格があり、過去または 現在、研究代表者の経験を持つ者 学術研究の成果を公開するための学術 図者、または日本語で書かれた図者・ 論文を翻訳し刊行するもの 必要性が高く、実用に供し得るもので、 公開利用を目的とするもの 日本国籍を持ち科研費応募資格を持た ない准教授相当以上の海外在住の研究 者が日本に活動の場を移す場合 DC:大学院博士課程に在学(外国人含 PD・海外学振:学位取得後5年未満 (取得見込み可)で日本国籍・永住許 RPD:出産・育児のため3ヶ月以上研 究活動を中断した者など 大学院博士後期課程に在籍する日本国 箱・永住許可を持つ者で、連続して3 ヶ月以上研究のために海外に滞在した 経験がない者 40歳未満(臨床経験者は43歳未満) で5年以内に研究実績がある者 博士の学位取得後8年未満 日本国内の研究機関に所属する者で博 土号取得後 15年以下*の者 *臨床研修や出産・育児・介護は考慮 国内の試験研究機関等 1.2 節 ===== Page 8 ===== 上の研究者の研究費獲得履歴から探すのも有効です。 研究費にはチームで応募するものと個人で応募するものがありますが、表1.1に は個人で応募可能な研究費の一部をまとめています。科研費以外にもさまざまな研 究費があり、民間財団の助成金もあわせると1年を通して応募が可能です。 ほかにも経済産業省の NEDOや農林水産省の戦略的イノベーション創造ブログ ラム(SIP)など各省庁系の研究費や民間財団、HFSP(Human Frontier Science Program)の Research Grants や Postdoctoral Fellowships 費があります。 科研費や学振の審査基準と選考プロセス こうした研究費のなかでも、もっとも身近な研究費が科研費です。科研費は、人 文・社会科学から自然科学までのすべての分野にわたり、基礎から応用までのあら ゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを 目的とする「競争的研究資金」です。また、大学院生の登竜門である学振の採択者 が応募可能な特別研究員奨励費も科研費の1つです。 審査基準や選考プロセスはとても気になる情報なのですが、毎年のように変更が あり複雑です。日本学術振興会(JSPS)のウェブサイト(https://www.jsps. go.jp/)には、各プログラムの詳細なガイドラインや応募要項、審査基準、スケ ジュール等の詳細な情報が掲載されています。最新の情報を入手するために、 JSPSのウェブサイトを定期的にチェックすることをおすすめします。また、科研 費 FAQ (https://kakenhi.jsps.go.jp/)には、250件以上の質問と回答が掲 ており、研究費に関する疑問や不明点に対する解説が提供されています。 申請区分を変更したことで採択されたという話も聞きますが、それが実際に採択 に寄与したのかどうかは個別のケースによります。審査プロセスに過度に気を使い すぎてもあまり採択率には影響しません。むしろ、重要なのは研究内容を明確に伝 え、分野外の審査員が適切な評価を行えるように必要な情報を提供することであり、 本書はその点を解説するものです。 科研費・学振申請の実際 研究費を取り巻く環境の現状認識は重要であり、研究費の競争率や審査基準の変 動を把握し、自身の研究計画を適切に準備することが求められます。2006~2023 年にかけての推移をp.10、11の図1.1、1.2に挙げます。 8 ===== Page 9 ===== 科研費の応募者数・採択率・平均配分額の推移 挑戦的萌芽から挑戦的研究(萌芽・開拓)に変更になったことで、配分額は 1.5 倍ほどになりましたが、採択率は一気に下がりました。一方で、他の種目は採択率 こそわずかに改善している一方で、平均配分額は2006年から2022年にかけて2 割ほど減っています(試薬代や人件費は下がらないのに)。 さらに、研究費の平均配分額からもわかるように、ほとんどの人が満額で申請し ているにもかかわらず、実際の配分額は70%程度になっています。これは、精査 した結果の減額ではなく、ほぼすべての人が一律に減額されてしまう機械的なオペ レーションの結果です。ただし、挑戦的研究の場合は、 研究種目の趣旨に沿った研究課題を厳選して採択するため、採択件数を一定数に絞 ります(※)が、挑戦的な研究計画の実行が担保されるよう、応募額を最大限尊重 した配分を行う予定です。 参考科研費公募要領 とあるように、挑戦することのインセンティブとして、充足率が原則100%で設定 されています。もっとも、挑戦的研究になってからはアイデアよりも予備データ、 業績勝負になってしまい、かなり競争が激しいです。 このように、研究費をめぐる環境はあまり良くなく、人によっては2つ3つと 採択されないと十分に研究が進められない状況のようです。いろいろな申請書に継 続的に応募するためにも、個々の申請書をいかに素早くかつ高いクオリティで作成 できるかが重要になります。 学振の応募者数・採択率の推移 学振DC1とDC2の応募者数は増加している一方で、PDや海外学振の応募者数 は減少しています。学振PDでは2006年から2023年にかけて半分以下となり、 将来の研究者の人材不足が懸念される状況です。一方で、採択者数はほぼ一定水準 に保たれていることから、競争は一時期よりもかなり緩和され、いずれの種目でも 20%前後の採択率となっています。応募するチャンスが一度きりではないことを 考えると、順調に研究成果を積み、一定以上のクオリティの申請書を出し続けられ れば、採択のチャンスがまわってくることを期待してもよさそうです。 第 申 記 1.2 9 ===== Page 10 ===== 応募者数(人) 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 採択者数(人) 15,000 10,000 5,000 0 採択率(%) 50 40 30 20 10 0 平均配分額(万円) 2,000 1,500 1,000 500 o 図 1.1 科研費の応募者数、採択者数、採択率、平均配分額 10 = = ー基盤A ゠゠-基盤B ー基盤C 一若手A --若手B -若手研究 挑戦的萌芽 -挑戦的研究(萌芽) -挑戦的研究(開拓) ー基盤A ……-基盤B ー基盤C 一若手A ---若手B 若手研究 挑戦的萌芽 --挑戦的研究(萌芽) - 挑戦的研究(開拓) ー基盤A -゠゠基盤B ー基盤C 一若手A --若手B -若手研究 挑戦的萌芽 -挑戦的研究(萌芽) -挑戦的研究(開拓) ー基盤A ゠゠-基盤B ー基盤C -若手A ---若手B ー若手研究 挑戦的萌芽 -- 挑戦的研究(萌芽) ー挑戦的研究(開拓)