===== Page 1 ===== 第1章 申請書を書く前に 1.1節 本書の使い方 『ここはこう書け!いちばんわかりやすい科研費申請書の教科書』にようこそ! 本書はタイトルにある通り、申請書を作成するときに、何を、どこに、どのように 書くかについて、なるべくわかりやすく解説することを目指した技術書です。 本書ではタイトルにある「学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金(科研 費)」に加えて、「日本学術振興会特別研究員(学振)」の申請書について解説しま す。しかし、それ以外の申請書についても構成や要素はおおよそ共通ですので、研 究費を獲得したいと考えるすべての研究者に役立つものと考えています。 本書の概要 かっては余裕があり、じっくりと研究に取り組める時代でしたが、現在は定員削 減・競争的資金・ステージゲート・任期・校務・・・・・・と限られた時間と研究資金の中 で実験をしつつ、次の研究費を獲得し、ポジションを探し、さらにその他の仕事も こなさないといけません。研究だけやっていればよい時代は過ぎ去ってしまいまし た。こうした中でうまくやっていくには、研究技術だけでなく申請書の作成技術に ついても向上させる必要があります。 しかし、いざ申請書を書くとなると経験の少ない人にとっては難しく感じるよう です。これはある意味当然のことで、小中学生での国語の授業や夏休みの読書感想 文を思い出してみてください。登場人物の心情を読み解いたり、読書感想文を書い たりした経験はあっても、具体的な作文技術について学び、添削してもらった経験 がある人は少ないのではないでしょうか。誰にもちゃんと教えてもらわず、また自 分でも学んでこなかったのであれば、最初のうちは上手く書けなくて当然です。 幸いなことに、私たちが書くべき科学的な文章は、文学とは異なり「独自の感 性」や「絶妙な表現」などは不要です。ただ、わかりやすく・読みやすく書けばよ いだけですので、ちょっとした技術や考え方を学ぶだけで事足ります。本書の短期 的な目標は申請書のノウハウを伝えることですが、究極的な目標は書き方の技術を 共有し平準化することで、書き方の巧拙ではなく研究計画の内容に基づいて申請書 が評価されることを目指しています。さらに、論理的でわかりやすい文章を書ける ようになることで、あなた自身の研究計画は一層洗練され、ひいては科学全体の底 上げにつながると考えています。 11 節 1 ===== Page 2 ===== 対象となる読者 本書は申請書を書く技術をいまいちど見直したい人のための本ですので、主に 「研究を仕事にしたい人」や「申請書を書いた経験はあるが、自をもてない人」 に向けて書いています。 たとえば次のような人は、本書の読者として最適です。 ■ 日常の研究はある程度こなせるので、次は研究費の獲得に挑戦したいと考え ている。 ■ 独学や過去のものを真似することで、なんとなく申請書を書けるようになっ たが、申請書の書き方に精通しているとはいえず、もう少し採択率を上げた いと考えている。 また、本書では主に Microsoft Office Wordを用いて申請書を作成しますので、 基本的なWordの操作はできることを前提にしています。 本書で説明する内容と説明しない内容 本書はこの章を含めて全部で4章に分かれています。第1章から第4章で説明 する内容は以下の通りです。 第1章申請書を書く前に 第2章何を・どこに書くか 第3章申請書のデザイン 第4章申請書を書いた後に それぞれの章は実際に申請書を書く順に沿って構成しているので、はじめから順 に読んでいくことを想定しています。ただし、第3章の申請書の見栄えや明解さに 関する部分については、単体で読んでも理解できるようにしてあります。 本書の内容を理解できれば、「何を・どこに書けばいいのか」といっ 消され、自言をもって自分なりの申請書を書けるようになるはずです。 科研費や学振以外の申請書の作成にも、本書は役立つのか もちろんです!申請書での問われ方や問われる順序、分量などはそれぞれに異 なりますが、基本的な内容はどの申請書でもおおよそ共通していますので、JSTや 厚労省、民間財団といった他の申請書の作成においてもすぐに役立ちます。一方で、 結果や結論、考察を重視する論文と、これからの研究計画を重視する申請書では考 え方が異なりますので、論文執筆にそのまま応用することは難しいでしょう。 2 ===== Page 3 ===== とはいえ、説得力をもってわかりやすく伝えるための基本的な技術・考え方は、 申請書や論文に限らず、すべての文章作成において役立つはずです。とくに根拠を きちんと示しながら論理的に書くことが求められる科学的な文章との相性は良いは ずです。 本書の使い方 本書では申請書の基本的な書き方を具体例とともにお伝えします。しかし、書き 方には絶対の正解はありませんし、ましてや絶対に採択される書き方はありません。 研究分野や申請者の属性などによっても何が良い申請書なのかは変わってきますの で、本書の内容に過度にとらわれず、「納得できる部分だけをつまみ食いする」と いったスタンスを推奨します。新たな気づきを得るためのヒント集としてお使いい ただければと思います。 表記ルール 本書では具体的な例文を挙げて説明していきます。その際に、以下のルールにし たがって表記しています。 具体的な例文を示し、推奨する書き方をOK、推奨しない書き方をNGとしてい ます。 OK NG また例文中の表現にバリエーションがある場合は、以下のルールに従って表記し ています。 ():書いても書かなくてもいいオプション的な内容であることを意味します。 し:言い換え可能な別の表現を意味します。この中から、適切な言葉を1つ選ん でください。 0OO、AAA:適当な詰あるいは文が入ります。何が入るかは文脈によって異な ります。 内容によっては〇〇〇やAAAに文字を入れるだけでは、文章としてうまくつな がらない場合もあり、言葉遣いの微調整は必要です。テンプレートをそのまま利用 してうまくいくケースは少ないので、無理に当てはめるのではなく、何を書くべき かを十分に理解したうえで使ってください。 11 節 3 ===== Page 4 ===== 要素と項目 本書では、申請書で書くべき「11の要素」と、申請書で頻出する代表的な「15 の項目(A~0)」を設定しています。実用性を考えて項目ごとに説明します。要 素と項目の対応関係についてはp.38(図2.2)を、項目がどの要素に対応するのか 迷ったら何どこ早見表(p.46、表2.2)を見てください。 〇〇〇に迷ったらこう書こう、〇〇〇に迷ったらこう考えよう 第2章2.2節のA~0では、書くべき内容について科研費の「具体例」と、含 まれる要素を「一般化した例」を示しています。具体例の内容に科学的妥当性や正 確性はなく、あくまでも何をどこに書くかを示すための例文です。 「具体例」の文章には、令和4年度の申請書を例として、どこにどれくらいの分 量を書くのかがひと目でわかるように、該当する箇所をハイライトしています。絶 対にそうであるべき、ということはありませんが、1つの目安として参考になるか と思います。代表的な申請書として基盤(C)、挑戦的研究(萌芽)、学振PDを取 り上げています。右下の数字はダウンロードしたWord版の申請書におけるページ 番号です。 #科研費のコツ 各節の冒頭には 〔(#料研費のコツ 01研究の価値=重要性解決レベル多様性速さ)のよ うに、関連するコツの見出しを紹介しています。 科研費.com の専用ページ(https://kakenhi.com/)には、購入者特典とし 本書では十分に紙面を割けなかったこれらのコツについて、より詳しい解説を掲載 しています。 「時間をかけてじっくり」は大間違い。QUICK & DIRTY はすべてに勝る これから、申請書において何を、どこに、どう書くのかを説明していきますが、 その前にどれくらいのスピードで初稿を完成させるべきかについて、お話しします。 まず、もっとも大切なこととして、申請書を書き慣れていない方や自信がない方 は、研究のことをよく知っている第三者(研究室主催者や経験豊富な同僚、共同研 究者など)に申請書を見てもらうようにしましょう。科研費.com でも添削サービ スを行っていますが、研究内容をよく知っている人に見てもらう方が確実です。こ こでは簡単のために「上司」とします。 さて、あなたの申請書が採択されれば、研究費が得られたり興味のある研究が前 に進んだりと、上司にとっても何らかのメリットがあります。仮に純粋に親切心か らチェックする場合であっても、上司からすれば、自分の時間を使った以上、あな たの申請書が採択されて欲しいと願うことは当然です。 4 ===== Page 5 ===== 申請書を上司に見てもらう時に「粗い状態の申請書を見せると怒られるんじゃな いか」とか「自分なりに納得のいく状態になってから見てもらいたい」とか「上司 は忙しいので、何回も申請書を見てもらうのは申し訳ない」と考えがちです。しか し、こうした考え方は研究に限らず、多くの場合あまり歓迎されない考え方です。 申請書を良いものにするためにも、上司の時間を守るためにも、してはいけません。 次にあなたが理解すべきことは、申請書に対する上司の期待は時間とともに増加 していくという事実です。上司は、「何も言ってこないということは、うまくいっ ているのだろう」と考えます。さらに、初稿に時間をかけると、そのぶん締め切り までの時間が減ってしまい、その後の推敲や見直しに使える時間を十分に取れませ ん。つまり、時間をかけてじっくり申請書を書こうとした場合、初稿の段階で80 点くらいの申請書を提出できないと間に合いません。 しかし、現実問題として、申請書を書き慣れていない人が初稿で80点を取るの はかなり難しい、というかほぼ不可能です。まず、上司あるいは審査員が思う 80 点の申請書がどんなものなのか、経験が少ないあなたには予想できません。そして、 自分で思っている申請書の出来ばえと上司から見た出来ばえには、大抵それなりの ギャップがあるので、自分では80点だと思っていても上司から見るとせいぜい20 点くらい、といったこともよくあります。論文や学会要旨などを添削してもらった 後に自分の文章がほとんど残っていない、という経験は誰しもあるでしょう。 そうならないためにはどうすればいいのでしょうか?たとえば、1ヶ月後が申 請書の締め切りだとしたら、初稿はどれくらいのタイミングで持っていけばいいの でしょうか?締め切りの2週間前?1週間前?そんな悠長なことをいってい てはいけません。様式をダウンロードしてから1週間以内(3週間前以上前)に 20点を取りにいってください。たった 20点でいいんです。その代わりに素早く。 これがもし2週間前なら 70点、1週間前なら90点くらいのものを持っていかない とアウトです。 さきほども述べたように、自分で80点くらいだと思っていても上司から見ると 20点くらいというのはよくあることなので、まずは方向性を確認することが大切 です。時間はたくさん使ったが、まったく見当違いのことをしていた、となってし まうと目も当てられません。 経験の少ない人の書いた申請書が最初から高い点であることはまずありえないの で、2~3日に1回くらいのペースで申請書を見せて細かくフィードバックを受け つつ、毎回 10点くらいずつ積み増していって、2~3週間かけて100点を取りに いくイメージです。見る側としても一度では完全に添削しきれないので、どうして も何度かやりとりをする必要があります。ある程度書けるようになってくると、見 1 5