--- title: "3.7節 フォントと修飾のテクニック" book: 科研費申請書の教科書 chapter: 第3章 申請書のデザイン pages: 185-194 images: page_0185.png ~ page_0194.png --- # 3.7節 フォントと修飾のテクニック > **#科研費のコツ 97** 強調の使いすぎに注意 申請書の読みやすさや読んで受け取る印象は、フォント(書体)によって大きく変わります。申請書で用いるフォントは限られており、いくつかの基本的なルールを理解しておくだけで十分です。 ### 太字とウェイトの違い Word では、「フォント」パネルの **B** アイコンを押すか、`Ctrl+B` や `Cmd+B` のショートカットを押すことで、選択した文字列を簡単に太字に変えることができます。 Word では、フォントの種類を変えることなくただ単に文字の輪郭を機械的に太くしている**「偽の太字」**ですので、基本的にはどんな種類のフォントでも、太字にすることができます。一方で、いくつかのフォントでは複数のウェイト(文字の太さ)が設定されており、フォントを切り替えることで太字を実現することも可能です。ウェイトが大きくなると、より太い文字になり、こちらは**「真の太字」**といえるでしょう。 図3.10の②、⑤のように、画数の多い漢字などでは単に輪郭を太くした「偽の太字」の場合には文字が潰れてしまい、読みづらさが発生します。また、横線の細さが特徴の明朝体の場合、単なる太字では横線の太さが目立ちます。ただし、まったく読めないというほどでもないので、通常はこれでも十分ですが、見比べると読みやすさに差はありますので、こだわる場合にはウェイトを変えた文字で太字にするようにするとよいでしょう。 本文中でウェイトを切り替える場合、**同じ種類のフォントを組み合わせて使う**のが基本です。異なる設計思想を持つフォントを混ぜるとちぐはぐな印象になってしまいます。 > ①游明朝 ②游明朝+太字 ③游明朝 Demibold ④ヒラギノ明朝 Pro W3 ⑤ヒラギノ明朝 Pro W3+太字 ⑥ヒラギノ明朝 Pro W6 の6パターンを比較。画数の多い漢字(鬱など)で「偽の太字」は潰れやすいことを示す。 ### 本文は明朝体、見出しは太めのゴシック体 新聞や小説の本文がそうであるように、まとまった量の長文を読む際には、読み疲れが少ない**明朝体**が適しています。一方で、チラシや新聞の見出しのように、目立たせる必要のある見出しには**太めのゴシック体**が適しています。 おすすめのフォントは、 **Mac の場合は、** - 本文:ヒラギノ明朝 Pro W3 - 本文強調:ヒラギノ角ゴ W4(W5, W3+太字)、ヒラギノ明朝 Pro W3+太字 - 見出し:ヒラギノ角ゴ Pro W6 **Windows の場合は、** - 本文:游明朝 - 本文強調:游ゴシック+太字 - 見出し:游ゴシック+太字(游ゴシック Demibold) が使いやすくて美しいです。とくに游書体は、Mac にも游明朝体と游ゴシック体が最初から入っており、OS が変わってもまったく異なるフォントにならない点で優れています(ただし、Mac には Demibold が入っていません)。ヒラギノ書体は Windows には通常入っていないので、うまく表示されないことを考えると、游書体の使い勝手のよさは際立っています。 Windows と Mac でともに使える書体としては MS 明朝や MS ゴシックがありますが、あまり美しくなくウェイトも揃っていないので、指定されているとき以外では積極的に使うほどではありません。 > 各書体のひらがな・カタカナ・漢字・記号のサンプル表示。 > 各書体のひらがな・カタカナ・漢字・記号のサンプル表示。 ### 複数の強調を使わず、基本は太字 強調とは、下線や太字、枠囲み、網掛けなど他と異なる装飾をすることで、そこに視線をとどまらせることで内容を印象付けるための方法です。 **下線や太字あるいはそれらの組み合わせ**など色々な種類の強調を使うと、審査員は「これらの強調の違いには何か意味があるのか?」と余計なことを考えてしまい、内容の理解がおろそかになります。申請書の極意は相手がとくに深く考えることなく申請者の主張を受け取ってくれることですので、変に考えさせることのないよう、**「強調とは太字である」のようなシンプルなルール**にした方がわかりやすいです。 通常の強調とより強い強調のような独自ルールは理解してもらうまでに時間がかかりますし、明示しているわけでもないので、大抵の場合は申請者の意図通りに働かずうまくいきません。また、複数種の強調を用意すると強調の総数が多くなり、紙面がうるさくなります。 ### 強調の種類 **太字明朝体・太字ゴシック体(ウェイトで対応する場合を含む)** もっともシンプルかつ一般的な強調です。本文を明朝体で書いて、強調箇所を太めのゴシック体にするケースがほとんどです。ただし**太すぎる文字**はかえって見づらいので、太すぎるフォントを使わない、大きすぎるウェイトを使わないことが重要です。 **網掛け** 大見出しを強調するためによく使われます。本文の強調と見出しがともにゴシック体で書かれている場合、パッと見て区別がつきにくいケースがありますので、見出し部分は**網掛け+太字ゴシック体**というケースは多く見ます。 一般的には「フォントパネル」の **A** を押して網掛けすることがほとんどですが、この方法で背景色をつけると文字が入力されていない部分は網掛けされません(図3.13の上段)。それを回避するためには、半角スペースを必要な数だけ挿入して網掛け部分を延ばしたり(図3.13の下段)します。しかし、網掛けの色の濃さを調整できないなど、不便なままです。 > 上段:文字がない部分は網掛けされない例。下段:半角スペースで延ばした例。 そこで、本書では別の方法を推奨します。まず、網掛けをしたい段落を選択し、 > ホーム → 段落 → 線種とページ罫線と網掛けの設定 へと進み、 > 網掛けタブ → 設定対象「段落」、網掛け色(15%他) とします。 > 段落を選択し、線種とページ罫線と網掛けの設定ダイアログで段落全体に網掛けを適用する手順。 > 網掛けタブで設定対象を「段落」にし、色の濃さを指定する画面。 この方法では、(筆者の環境では)15%で「フォントパネル」の **A** と同程度の濃さになり、自由に背景の濃さを設定できます。網掛け部分が薄すぎると印刷時に網掛けが目立ちませんし、濃すぎると文字が目立ちません。網掛けを濃くする場合には文字を白抜きにするなどのパターンがあります。 > 異なる濃さの網掛けを適用した見出しと本文の比較。 ### 下線、枠囲み、色変え 下線による強調例もよく見かけますが、単独ではあまり目立ちません。**太字と組み合わせるパターン**もよく見ますが、そうすると紙面がうるさくなってしまい、使い所が難しい方法です。組み合わせるのであれば、太すぎないゴシック体+下線ぐらいがちょうどよいのではないでしょうか。 他に、**「枠囲み」**も時々見かけますが、この方法も文字と枠が近く、読みづらいため使いどころはかなり限られているでしょう。 また、科研費や学振は基本的には**グレースケール**で審査されるので、文字色の変更による強調をしても、グレースケールで印刷されてしまって色が薄く読みにくくなり、かえって目立たないことがあります。 ### 1ページあたりの数を少なくする 「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉があるように、多すぎる強調はどこに注目してよいのかわからなくなり効果が薄れてしまいますし、黙読の流れが止まるので審査員にとってもストレスがたまります。 強調とは稀であるからこそ目立ち、価値があることを考えると、**1ページあたり数か所までにとどめておく**ようにしましょう。 ### 太字強調が強すぎると思ったら 本書では太字(ゴシック体)による強調をおすすめしていますが、強調したところが逆に目立ちすぎてしまって気になる場合があります。大抵は強調の使いすぎなので、強調する文字数を減らす、1ページあたりの強調する箇所を減らすなどが有効です。 それでも改善しない場合は**強調色を黒ではなく濃いグレーにする**という手があります。 図3.16のように、濃いグレーだと気にならない程度にソフトな印象にすることが可能です。Word の初期設定だと「黒、テキスト1、白+基本色 15%」か「黒、テキスト1、白+基本色 5%」あたりがよさそうです。それより薄くするとさすがに黒に見えず灰色感が出すぎてしまいます。 > 上段:通常の黒の太字ゴシック体による強調。下段:濃いグレーの太字ゴシック体による強調。ソフトな印象になる。 ### 見出しの太字と区別がつくように 項目ごとに立てる大見出しや小見出しは強調の対象です。本文の強調とは区別できるようにしておきましょう。ここに挙げた例はあくまでも一例です。 **見出し:ゴシック体+太字、本文強調:明朝体+太字** 本文中の強調を太字の明朝体で行うのであれば、見出しは太めのゴシック体だけでも十分です。 > **1. 当該分野の状況および研究課題の背景**(ゴシック体+太字) > 本文中の強調部分は**明朝体+太字**で表現。 **見出し:ゴシック体+太字+装飾、本文強調:ゴシック体+太字** 見出しも本文強調もゴシック体+太字ですが、見出しに装飾をつけることで本文強調と区別するパターンです。申請書を書き慣れている人が多く使っている印象です。 網掛け以外にも ■ や ● などの行頭文字を用いて見出しであることを強調する方法もあります。 > ■ 研究目的 > 本研究では、…… また、見出しの下に空行を入れることで見出しを浮かせることもありますが、余計なスペースを使ってしまうので、個人的には好みません。 **見出し:ゴシック体+太字、本文強調:ゴシック体+細目の太字+下線** 見出しも本文強調もゴシック体+太字ですが、文字の太さを変えることで、見出しと本文の区別をつきやすくしています。さらに、本文が細目の太字であるため、他の部分との違いを明確にするため下線を引くパターンも見られます。 ### 混植 Word では日本語用のフォント(日本語フォント)と英数字用のフォント(欧文フォント)を別々に指定できます。また、英数字用のフォントは「(日本語用と同じフォント)」を選ぶことも可能です。 一般的に、日本語フォントは長い英数字を表現するために作られていないので、英単語が交じるような文章を日本語フォントで書いてしまうとアルファベットの文字間が間延びしてしまうことがあり、そうした場合には英数字用フォント(欧文フォント)と組み合わせて使用する**「混植」**の方が美しいことがあります。 > - 日本語用フォント:游ゴシック 英数字用フォント:游ゴシック > QS とは Quality Start の略であり、1985年にスポーツライターの John Lowe により提唱された。(英数字部分が間延びしやすい) > - 日本語用フォント:游ゴシック 英数字用フォント:Avenir > QS とは Quality Start の略であり、1985年にスポーツライターの John Lowe により提唱された。(欧文フォントで自然な表示) ただし、上の例をみてもわかるように、混植による見た目の違いはほんのわずかであり、ヒラギノ書体や游書体は MS 明朝/MS ゴシックほど英数字もひどくはありません。よい組み合わせを探すのも大変です。同じフォントを使っていれば、少なくとも見た目の統一感はとれているので、本書では英数字用のフォントは**「日本語用と同じフォント」**を推奨しています。 むしろ、図3.17のように見出しをゴシック体にしているのに英数字部分が Times New Roman などのセリフ体のままであるというようなことがないように、対象となる文字を選択し、**単一のフォントになっていることを確認**してください。 > 「科研費.comは2016年に生まれました。」という文で游ゴシックとCenturyが混在。複数フォントを含む文ではハイライト時にフォント名が表示されない。 たとえば図3.17の例では、1つの文に游ゴシックと Century が混ざって使われています。複数のフォントを含む文ではハイライトした時にフォント名が表示されません。見出しなどをゴシック体にした時に箇条書きの数字部分が明朝体のまま、という例はよく見かけますので、せめて**明朝体―セリフ体、ゴシック体―サンセリフ体**の組み合わせで統一するようにしてください。 研究遂行能力や本文文献リストなど長めの英文の場合はさすがに欧文フォントにすることをおすすめします。本文は明朝体で書くことがほとんどでしょうから、セリフ体の **Times New Roman** や **Garamond** などをおすすめします。 ### フォントサイズ > 審査においては多数の応募研究課題が審査に付されることを考慮し、本文は **11ポイント以上**(英語の場合は10ポイント以上)の大きさの文字等を使用すること。 > 参考:研究計画調書作成・記入要領(科研費) > ① **10ポイント以上**の文字で記入してください。 > 注釈等の記載も同様です。なお、フォントの種類、行間の高さ等、それ以外の設定に関する規定はありません。 > 参考:特別研究員申請書作成要領(学振) > 研究提案の要旨を A4 用紙2ページ以内(厳守)で記述し、**10.5ポイント以上**の文字を使用してください(これらが遵守されていない場合、研究提案が不受理となることがあります)。 > 参考:研究提案の要旨の注意書き(さきがけ) 科研費や学振の執筆要綱にあるように、それぞれでフォントサイズの下限は若干異なっていますが、申請においては **11pt が基本**です。10.5pt や 11.5pt でも構いませんが、情報量と読みやすさのトレードオフを常に意識してフォントサイズを決定してください。もし、スペースが足りないという理由でフォントサイズを小さくするのであれば、まずは、その前に内容を見直すことを強くおすすめします。審査員が求めているのは詳しすぎる説明ではなく、**わかりやすい説明**です。 また、見出し部分や強調したい部分のフォントサイズを大きくする人が時々いますが、全体のバランス調整が難しくなるので、フォントサイズを変えて目立たせるのではなく、**ウェイトやフォントを変えることで強調する**ようにしてください。