--- title: "3.3節 わかりやすい日本語作文のテクニック" book: 科研費申請書の教科書 chapter: 第3章 申請書のデザイン pages: 173-175 images: page_0173.png ~ page_0175.png --- ### 公用文独特の表現 令和4年1月に文化庁がまとめた「『公用文作成の考え方』について(建議)」はとてもよくまとまった文章ですので、日本語作文の基礎を見直すうえで一度目を通しておいて損はないでしょう。基本的にはこれに沿って書けば問題はありません。 > 法令・公用文に特有の用語は適切に使用し、必要に応じて言い換える > 例)及び、並びに、又は若しくは(「公用文作成の考え方」について(建議)P.7) > > とあるように、法律関係の文や公用文は「及び」「並びに」「又は」「若しくは」などは漢字で書くとされています。実際、科研費の注意書きも「及び」で統一されています。これは平成22年11月の内閣訓令第1号「公用文における漢字使用等について」に従った使い方です。 > > しかし、本書では「及び」は何かに影響が及ぶ時に使うべきであり、併記の意味では「AおよびB」と書いた方がわかりやすいという立場であり、本書では「および」で統一しています。漢字・かな比や漢字を連続させないという原則から考えても、ひらがなの方が据わりのよい場合が多いと思います。 # 3.3節 わかりやすい日本語作文のテクニック > **#科研費のコツ 87** その略号は必要? > > **#科研費のコツ 88** 内容は極力シンプルに > > **#科研費のコツ 89** 文が長すぎない、短すぎない ### 略号表記 略号を多用した申請書を読むことがあります(医学系の申請書でよく見かける印象です)。 > **NG**  そこで本研究では、ALS、PD、ADなどの神経変性疾患に対する治療法の開発を目的とする。とくに、BDNF、GDNF、NGFなどの神経成長因子を用いた治療法の効果を検証するため、DBS、PET、fMRIなどの画像診断法や、ALSFRS-R、UPDRS、MMSEなどの評価尺度を用いて臨床試験を…… 普段の同僚との会話など、背景をよく知っている人たちに向けてはこうした表現でも問題ありません。略号表記にすると、複雑な言葉や概念をすっきりと表現することができ、スペースが不足しがちな申請書ではつい使いたくなります。しかし、たとえ略号の説明が初出でなされていても分野外の審査員にとってはなじみのない単語が頻出するとどうしても黙読の流れはそこで途切れ、理解につながりません。 #### 使用頻度から考えると、略号表記しない方がスペースの節約になる場合も多い せっかく略号表記をしても2、3回登場するだけだと、かえって余計なスペースを使ってしまいます。多くの審査員にとっては馴染みのない略号を使うことは、わかりにくさとスペース節約のトレードオフです。多少の節約になる程度であるなら略号表記をやめることも検討すべきですし、そもそも節約になっていないのであれば中止すべきです。 #### GFPやDNAなど常識レベルの略号以外については、少ないほど理解しやすい 略号の多用によりわかりにくくなっている申請書は、登場する要素が多すぎるケースがほとんどです。要素数が多い場合、略号表記の有無にかかわらず理解は難しくなりますので、まずは申請書に登場する要素の数を減らすことを考えるべきです。 ### 対応を明確にする 申請書は、過去の研究や申請者以外の研究と比較したうえで、どれくらい新しいのか・メリットがあるのかを説明することが基本です。こうした対比はさまざまな場面で登場し、典型的な例では、 > **OK**  これまでの研究は〇〇〇だが、本研究は〇〇〇である。 といったような表現パターンです。こうした対比を行う際には、**比較の前後で表現を揃えると対応関係が明確になり、わかりやすくなります**。 > **NG**  〇〇〇の寿命は3ヶ月である。2年の寿命を持つ近縁のAAAの存在から…… > **OK**  〇〇〇の寿命は3ヶ月と短い。近縁のAAAの寿命は3年と長く、…… > **NG**  〇〇〇が増えた結果、〇〇〇が減少した。 > **OK**  〇〇〇が増加した結果、〇〇〇が減少した。 > **NG**  〇〇〇では形成されるAAAが、〇〇〇では存在しない。 > **OK**  AAAは、〇〇〇では形成されるが、〇〇〇では形成されない。 この例では〇〇〇とAAA、3ヶ月と2年、形成されると形成されないが対比の関係にあります。NG例では比較の前後で表現や文型が統一されておらず何と何が比較されているのか(何についての話をしたいのか)がすぐにはわかりません。 また、3ヶ月という期間を短いと思っているのか、長いと思っているのかは文章全体を読まないとわからないため、審査員はこの文章をまず読んで、比較されている対象を見つけ出してから、改めて文章を読まないといけません。 ### シンプルな内容・表現にする #### シンプルな内容とは 短い申請書の中で理解してもらうためには、出てくる要素の数を減らし(因子名や要素、人名など)、話をなるべくシンプルにする必要があります。シンプルすぎて専門性が理解しづらいという批判も最近になって聞くようにはなってきたものの、シンプルすぎて何がすごいのかを理解できないことよりも、**複雑すぎて何がなんだかわからないことの方が圧倒的に多い**です。 もし、どの程度の背景説明をしなければいけないのかに迷ったら、まずは審査員の把握からはじめましょう。科研費の場合には、2年間の任期終了後に審査員名簿が公開されています。 現在の審査員を予想するのは厳しいでしょうが、過去の審査員が具体的にわかればどれくらいの背景知識を持っているのかはだいたい推察できるでしょう。 > **POINT デルブリュックの教えふたたび** > > 専門用語はわかりやすく説明しなければなりません。常に以下のことを考えるべきです。 > > - その専門用語はもっとわかりやすい別の言葉で表現できないだろうか? > - 1回しか登場しない専門用語(略号表記)を使う必要性はあるのだろうか? > - 略号にしてもあまり短くならない単語を略表記する必要性はあるのか、わかりにくくなるだけではないか? > - 専門用語をもち出さなければいけないほど、複雑な概念を説明する必要があるのだろうか? > - 嘘にならない範囲で内容を大胆にデフォルメした方が伝わるのではないだろうか? #### シンプルな表現とは > **NG**  なぜ申請者がこの研究室を志望したのかの理由を以下に述べる。 > > **NG**  本研究の独自性としては、…… > > **NG**  なぜだろうか?それは…… のように、冒頭に余計な言葉がついている文章をよく見かけます。この場合だと、「申請者は〇〇〇という理由から、〇〇〇を志望した」や「本研究は〇〇〇という点で独自である」とすればもっとシンプルに書けます。 ちなみに、極力まで文字数を減らす努力をすると表現がシンプルになります。それを目指すためにも安易にフォントサイズを小さくしたり行間を詰めたりしてはいけません。 #### 具体的に書く 曖昧すぎるために、結局のところ何がどうなのかがよくわからない申請書もよく見かけます。シンプルであることと具体性に乏しいことは別の話です。 > **NG**  そこで本研究では、社会保障のあるべき姿を模索する。 > > **NG**  〇〇〇の検討を行う。 たとえば、上記の例では「社会保障のあるべき姿」「検討」が曖昧すぎて結局のところ申請者は、何がどうなればよいと考えているのかがまったくわかりません。あるべき姿とはどういったものなのかは人によって考え方が異なるでしょうから、ここでの定義を具体的に書く必要があるでしょうし、どうやって模索するのか、どうなればあるべき姿を模索したといえるのか、などについてもっと具体的に記述すべきでしょう。こうしたケースに該当する時は、申請者自身もよくわかっていないことがほとんどですので、具体的に何をどうするのか、どうなればこの研究はうまくいったといえるのかについて事前にしっかりと考えておきましょう。