--- title: "3.2節 日本語作文の基本テクニック" book: 科研費申請書の教科書 chapter: 第3章 申請書のデザイン pages: 167-172 images: page_0167.png ~ page_0172.png --- ### 図の説明と引用 審査員は文章を中心に読み進めるので、本文中で図が引用されないと図を見ずに読み進めてしまうことがあります(どのタイミングで図を見てよいのかわからない)。 - 本文中で1)図番号を指定する、あるいは、2)右図、左図、下図のように図を指定する - 図の登場順に番号を振る - 可能であれば、図を引用した文章のすぐ近く、できれば同じページに図を配置する(ページをめくって図を見にいくのは大変) # 3.2節 日本語作文の基本テクニック > **#科研費のコツ 77** 普段から本を読め(自戒) > > **#科研費のコツ 78** 美しい書き言葉で > > **#科研費のコツ 79** シンプルに書こう > > **#科研費のコツ 80** 造語は避けよ > > **#科研費のコツ 81** 言葉の響きと勢いで書かない > > **#科研費のコツ 82** 接続詞の使いすぎに注意 > > **#科研費のコツ 83** それは漢字で書くべき? > > **#科研費のコツ 84** 読みたくなくても頭に入る文章を > > **#科研費のコツ 85** 申請はプレゼンテーションとは違う > > **#科研費のコツ 86** ()による補足説明は黙読の流れを断ち切る ### 修飾語、句読点 ここで伝えたいのは細かなルールではなく、推敲の際に「文章のリズムが悪いな、意味が取りにくいな」と感じたら、とりあえず語順を変えてみる、句読点を入れたり減らしたりする、などで文章がわかりやすくなる例は少なくないということです。 #### 修飾語の語順 > 最先端の**顕微鏡を用いた解析技術** > → **最先端の顕微鏡**を用いた解析技術 > → 最先端の**顕微鏡を用いた解析技術** 上記文章はどこで切るかで2つの解釈が可能です。このように修飾語の順序によっては誤読がありえるので、なるべく誤読を減らすような語順にする必要があります。この場合だと、「顕微鏡を用いた最先端の解析技術」とすれば、混乱なく読めます。 ここでは即効性のある2つのテクニックを紹介します。 #### 長い修飾語を先に、短い修飾語を後に > **NG**  **世界初の**がん患者における腫瘍組織内の代謝産物を網羅的に明らかにするためのメタボロミクス解析 > > **OK**  がん患者における腫瘍組織内の代謝産物を網羅的に明らかにするための**世界初の**メタボロミクス解析 修飾語と被修飾語は近くに配置するという原則があるため、「世界初のがん患者」と誤読してしまうと、理解しにくくなります。 #### 大状況を先に > **NG**  金粒子を用いて 若年層を対象にした **肺がん分野で初めての** 免疫染色が行われた > > **OK**  **肺がん分野で初めて** 若年層を対象に 金粒子を用いた 免疫染色が行われた 砂時計の話(図2.3)と同様に、広い話から狭い話へと話題を絞っていく方が理解しやすいです。 #### 句読点のルール 句読点(とくに読点)についても論理的でわかりやすい文章を書くうえで非常に重要になります。次の例では変な位置に読点を打ったせいで読みにくくなっています。 > **NG**  メタゲノミクスを用いて微生物の遺伝子組成**と、**生態系を解析する > > **OK**  メタゲノミクスを用いて**、**微生物の遺伝子組成と生態系を解析する また、次の例では読点の位置によって内容が変わってしまいます。 > この研究では最先端の方法を用いて計測されたデータを解析する。 > → この研究**では、**最先端の方法を用いて計測されたデータを解析する。 > → この研究では最先端の方法を用いて**、**計測されたデータを解析する。 実際に申請書を添削していると、読点が少なすぎてわかりにくくなるケースよりは、**読点が多すぎてわかりにくくなるケースの方が圧倒的によく見られます**。そうした人の多くは息継ぎのタイミングで読点を打つので、 > 本研究は、〇〇〇における、AAAに対する〇〇〇の影響を、解明することを、目的とする。 のように文章がぶつ切れになるため、読解に苦労します。 ### 口語表現 口語表現(以下の左側)は右のように表現するようにしましょう。 - 思ったよりも・意外と → 想定されていた以上に - ~という方法 - していく、やる → する、行う - ▶ 〇〇〇の研究を**やる** → 〇〇〇の研究を**行う** - ▶ どう変化**していくか**調べる → どう変化**するか**調べる - ▶ 研究が盛んに**なってきている** → 研究が盛んに**なっている**(盛んである) - なので、だから → そこで、こうした理由で(から) - すごい、すごく → 非常に、大変、極めて - わかった → 理解されてきた、見出されてきた #### ら抜き言葉の見分け方 簡便な判定方法として、動詞をLet's…の形(人を誘う形)にした時に「~よう」とつくものは、可能を意味するときに「ら」が入ります。他にも命令形にして判断するバージョンもあるようです。 - 見る → 見**よう** → 見**られる** → 見れる(ら抜き言葉) - 着る → 着**よう** → 着**られる** → 着れる(ら抜き言葉) - 食べる → 食べ**よう** → 食べ**られる** → 食べれる(ら抜き言葉) - 乗る → 乗**ろう** → 乗れる - 言う → 言**おう** → 言える - 書く → 書**こう** → 書ける ### 省略可能な言葉・文字がないか見直す とくに推敲せず思いのままに書くと余計な言葉が入り込みます。話し言葉ではあまり気になりませんが、書き言葉となると、文章の流れを悪くし、スペースを圧迫し、意味を曖昧にするなど、よいことがありません。怪しそうな言葉は抜いてみて意味が変わるかどうかをチェックすることが重要です。 #### 接尾辞 「-性、-化、-的」は漢字の連続という点でも、文章の明快さという意味でも注意が必要です。 > ・本研究は、スマホの利用時間と学業成績の関係**性**を明らかにする。 > → 本研究は、スマホの利用時間と学業成績の**関係**を明らかにする。 > ・〇〇〇における代謝と疾患の関係**性**を明らかとすることを目的として…… > → 〇〇〇において代謝異常が疾患のリスク因子であることを確かめるため…… ここで「-性」をとったところで意味はほとんど変わりません。むしろ、余計な「-性」を入れることで意味が曖昧になってしまっています。また、漢字の連続も読みにくさを助長します。 さらに2番目の例では「代謝と疾患の関係性」という表現が具体的に何を指しているのかがよくわからないため、文章の内容がはっきりせず伝わりません。「関係性」はかなりの人が使っていますが、本当にその接尾辞が必要かもう一度考えてみてください。 #### 「~について~する」「~するもの」「~すること」 こうした言葉が含まれた文章は多くの場合もっとシンプルに書くことが可能です。 > - そこで本研究では、高校生におけるスマホの利用実態**について調査を行う**。 > → そこで本研究では、高校生におけるスマホの利用実態**を調査する**。 > - 本研究は、〇〇〇の病態を解明する**ことで**QOLを改善する**ことを目的とする**。 > → 本研究は〇〇〇の病態解明を通じたQOLの改善を目的とする。 > - 本研究は〇〇〇の〇〇〇について〇〇〇の立場から明らかにする**ものである**。 > → 本研究は〇〇〇の〇〇〇について、〇〇〇の立場から明らかにする。 > → 本研究では、〇〇〇の立場から、〇〇〇の〇〇〇を解明する。 > - 本解析で得られた成果**については**、積極的に国民へ公開する**こととする**。 > → 本研究の成果は積極的に公開する。 ### 補足説明や強調を多用しすぎない かぎ括弧「」は、通常、会話の文や他の文章からの引用に用いられますが、考えや観念をはっきり浮き立たせて書くために使うこともあります。また、丸括弧( )は略記号のほかに補足説明としても用います。 > - 受身の文では「誰がそれをしたのか」、「誰がそう考えるのか」がぼけてしまう。 > - イールドカーブのフラット化(長短金利差がなくなること)をもたらし、…… このように、括弧は非常に便利があるがゆえに、多用する人が時々います。しかし、**括弧による強調とは、文章を読む際の視線の流れを意図的に途切れさせることで、そこに視線を留め、内容を強調するという操作です**。すなわち、強調を用いるたびに黙読の流れが断ち切られてしまい、読みにくくなってしまいます。 二重かぎ括弧『』は、書名を引用するときに用います。また、かぎ括弧の中にさらにかぎ括弧を入れたいとき、後者を二重かぎ括弧にします。 > - 『寺田寅彦随筆集』には、…… > - 〇〇〇が「科学者としての『心』が大切だ」と言っているように、…… これらも、かぎ括弧の時と同様、使いすぎには注意が必要です。 また、シングルクオーテーション' 'や、ダブルクオーテーション" "を強調として使う人も見られます。かぎ括弧に比べてオシャレに見えるからでしょうが、欧文のための引用符をわざわざ和文で使う必然性はありません。対応する日本語があるときはそれを用いるのが原則です。 いずれの場合にしても、そもそも、それは本当に強調すべきことなのか、についてまずは考え直しましょう。 ### 漢字・かな・カナ 文書のキーワードとなる名詞を中心に漢字で書き、その他の補助的な用語はひらがなにすることが基本ルールです。しかし、前後のつながりから平仮名ばかり続くと誤解されやすい場合にはあえて漢字に切り替えることも許されます。漢字があっても読みやすさを考慮して、ひらがなで書いた方がよい場合があります。文章全体での統一は必須です。**表3.2**において、()内の表現は控えたほうがよいでしょう。 #### 表3.2 推奨される表現 | 品詞 | 推奨される表現 | |---|---| | **代名詞** | われ(我)、われわれ(我々)、だれ(誰)、これ、どこ、そこ。漢字でよいもの:私、何 | | **連体詞** | ある(或る)、この、その(其の)、わが(我が) | | **接続詞** | あるいは(或いは)、かつ(且つ)、しかし(然し)、ただし(但し)、なお(尚)、ならびに(並びに)、また(又)、または(又は)、および(及び)、ゆえに(故に)、さらに(更に) | | **助詞** | ぐらい(位)、こと(事)、ところ(所・処)、など(等)、まで(迄) | | **助動詞・補助用言** | ようだ・ようです(様)、…という(言)、…である(有)、…でない(無)、…してあげる(上)、…していく(行)、…してくる・なってくる(来)、…にすぎない(過)、…になる(成)、…かもしれない(知)、…してみる・…とみられる(見)、…にあたって(当) | | **形式名詞** | こと(事)、とき(時)、ところ(所)、うち(内)、もの(物・者)、わけ(訳)、ため(為) | | **副詞** | あらかじめ(予め)、いつか(何時か)、おおむね(概ね)、さらに(更に)、すでに(既に)、ぜひ(是非)、どこか(何処か)、なぜ(何故)、ほとんど(殆ど)、なかでも(中でも) | | **接頭語・接尾語** | 〇〇など(等)、〇〇ら(等)、〇〇たち(達)、2年ぶり | ### ひらがなの連続はやっかい。漢字の連続もやっかい > これまでこうした研究は**ほ**とんど**ほ**うこくされていない。 > > この先生きのこるには…… 最初の例では、ひらがなの「は」と「ほ」は字形が似ているため、若干の読みづらさが発生しています。なんとかするのであれば(1)語順を変える、(2)別の表現を模索する、(3)読点を入れる、などの選択肢が考えられます。できる限り(1)や(2)を模索したうえで、どうしても無理なら私は諦めてそのままにしています。ここで何でもかんでも読点を打ってしまうとブツ切れになってしまい、逆に読みづらくなります。 2番目の例では、「この先生きのこるには」と読めてしまいます。これは「先生」や「きのこ」という馴染みのある語が連続しているために無意識的にそのように区切ってしまうからです。このケースでは読点を入れ、漢字を使い「この先、生き残るには……」とするのが直接的な改善例ですし、「今後、この業界で残っていくには……」というように言い換えてしまえば、そもそも問題になりません。また、行末の持つ弱い区切り効果を利用する手もあります。