--- title: "(O) 評価書・推薦書" book: 科研費申請書の教科書 chapter: 第2章 何を・どこに書くか pages: 155-160 images: page_0155.png ~ page_0160.png --- # (O) 評価書・推薦書 > **#科研費のコツ 67** 評価書・推薦書を自分で書く時のコツ > > **#科研費のコツ 68** 評価書・推薦書を書いてもらうときのコツ ### 「評価書・推薦書」に迷ったらこう考えよう 評価書や推薦書の大原則は、指導教員や受入教員など、客観的に申請者の能力などを評価できる人に書いてもらうことです。しかし、何らかの事情で全部あるいは下書きを申請者自身で書かないといけない場合があることも事実です。また、推薦書を目にする機会は非常に限られているので、他の人がどういった書き方をしているのかわからず手探りであることも多いです。 #### 申請者自身が書く場合(ドラフト含む) {申請者しか知りえないこと/推薦者には話していないこと}は避けつつ、現在もしくは過去の他の{研究者/学生}と比較しながら、申請者の優秀さや将来有望であることを説明していきます。たとえば、GPAなどは通常知りえないので、それを基に評価するのは不自然です。「〇〇〇だと聞いている」のように伝聞形にするとか、「少なくとも私が担当した〇〇〇については〇〇〇だった」のように範囲を絞るなどの工夫が必要です。または、「成績優秀者に送られる〇〇〇を受賞している」など誰もが知っている情報をもとに書くとボロが出ないでしょう。 紹介したエピソードが申請者のどういった特性を反映したものであるかをしっかり説明することが重要です。です・ます調で書くことが一般的です。 #### 依頼する場合 どのような内容を書いて欲しいかを簡単に書いたリストを依頼と同時に提出しておきましょう。とくに申請者が考える自身の強みと評価書・推薦書内での評価の内容が一致していると信憑性が増すので、自己分析・自己PRとしてどういった内容を書く予定であるかを伝えるとうまくいくでしょう。 #### 具体例 > **(1) 研究者としての強み** > 申請者である鈴木さんは、いまだ研究が十分ではない成人期における神経可塑性に興味を持っており、その分子メカニズムと意義を明らかにしたいという強い熱意のもと修士課程から私の研究室に配属されました。 > 鈴木さんは、学部生時代から起業しオランダやアメリカへの留学経験を持つなど、非常に高い行動力を持つ学生です。持ち前の行動力を生かして、現在、非常に挑戦的な課題である「神経可塑性と神経発達疾患の関連性」の研究に取り組んでいます。神経可塑性は脳のネットワーク全体の変化に関わるため、ネットワークレベルでの解析が重要であり、脳活動の記録や脳画像法などを活用し、ネットワークレベルでの神経可塑性の変化を捉える手法を開発する必要があるという、鈴木さんの独自の着想により本研究は開始しました。実際、研究をはじめてみるとこれまで私たちが想像していた以上にネットワークレベルでの大きな変化が捉えられ、これまでこの分野に携わってきた研究者が当然と考えていたことを疑問に思う、鈴木さんの着想の素晴らしさを物語っています。また、この着想を実現するために、鈴木さんは持ち前の粘り強さを生かして、まったく新しいネットワーク解析手法を独自に開発することで、より高い精度での解析を実現しました。こうした高い着想力とそれを素早く実行する行動力は高く評価できます。また、寡黙で淡々と研究をこなすタイプでありながら、強いリーダーシップを発揮し、後輩にも積極的に指導しています。これは、鈴木さんが研究者として成功するために必要なリーダーシップやマネジメント能力など、研究以外の側面においても十分な潜在能力を持っていることを示しています。 > 放射性同位体を用いて植物の栄養吸収メカニズムを明らかにする、という現在の研究分野とはあまり関係のない分野の出身であることから、当初は結果を出せるようになるまで時間がかかるのではないかと危惧していましたが、そうした懸念は杞憂に終わろうとしています。普段から論文や専門雑誌を積極的に読むだけでなく、周囲の同僚や研究者との議論を通じてさまざまな分野の知識を貪欲に吸収することで、私が見てきたなかでもかなり早いスピードで実験をこなしており、将来が非常に楽しみな学生として、大きな期待を寄せています。 > このように、鈴木さんの今後の活躍は疑うところが無く、成人期における神経可塑性の分野で重要な研究成果を残すだけでなく、その制御方法や臨床応用まで広く神経科学の進展に貢献してくれるものと確信しています。 > **(2) 今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素** > 今後、鈴木さんが研究者としてさらに発展するためには、今以上のレベルで洞察力や先見性が必要となると考えています。鈴木さんは非常に真面目であるがゆえに、教科書的な知識や与えられた前提に固執する傾向にあるため、上手く行っているときには問題ありませんが、予想外なことが起こるとそれにこだわってしまい前に進めなくなる時があります。幸いにも、本研究テーマでは予想外な結果もうまく乗り越えていますが、今後も予想外な結果や上手く行かないことは頻繁に起こると考えられますので、そうした時にも振り回されず深い洞察力や先見性を磨くことで、困難の中にも本質を見失わないようにできるようになることを期待しています。こうした洞察力や先見性は豊富な知識に裏付けられると考えているようで、鈴木さんは、関連分野の知識を積極的に取り込んでいるだけでなく、困った時の対処事例などを先輩に聞くなど他人の経験を自分の経験にしようとしており、私はそうした積極的な姿勢を高く評価しています。 > また、英語の基礎学力は高く、他の学生以上に論文の読み書きなどはできますので、通常の研究においては困りませんが、鈴木さんが研究者としてさらに発展するためには今以上の高い語学力とそれを基盤にした高いプレゼンテーション能力が必要になると思います。特に、神経科学は多様な研究分野を内包しているため、より高いレベルでのコミュニケーション能力が求められます。 > 〇〇〇大学は留学生も多く、バックグラウンドの多様な学生が多いことが特徴です。鈴木さんは他研究室も含め積極的に英語で議論しておりますので、語学力・コミュニケーション能力は今後ますます伸びることと期待しています。 > **(3) 申請者の研究者としての将来性を判断する上で特に参考になると思われる事項について** > 現在鈴木さんは自らが考案したテーマを推進しています。彼女は神経科学の先駆的な研究を世界に先駆けて明らかにしようと考えました。神経細胞が情報を伝達する機構を理解するには、高度な技術を駆使することが求められます。共同研究先である渡辺明研究室では光遺伝学を使用して神経活動を観察していますが、この技術は高度でありながら制約も多く、神経回路全体を解明することが難しく、さらにデータ解析が複雑なため、正確な解釈が難しい可能性がありました。そこで彼女は新たな手法に着目しました。電気生理学は情報伝達を直接記録することができることが知られています。したがって、この手法を組み合わせることで、神経回路の全体像を明らかにできるだろうと考えました。そこで独自の手法を開発し、神経回路の全体像を解明することに成功しました。さらにデータ解析も容易になりました。この手法の工夫はプロジェクトに大きな進展を産んだことから、新たな手法を開拓する力を鈴木さんが有していることを示しています。 > 現在、彼女は当研究室の学部4年生の指導にあたっており、その学部生は神経科学を深く理解しようとしています。彼女は自らの提案した研究を進める傍ら、後輩学生の研究指導にも全力を注いでいます。さらに、彼女はティーチング・アシスタントとしても、学部3年生の指導に取り組みました。彼女は優れた指導力を持ち、学生たちからの信頼も厚いです。 > また、彼女は研究室の運営にも積極的に参加しています。研究室の消耗品の発注やセミナーの取りまとめを担当し、常に責任感を持って仕事を遂行しています。彼女の貢献により、研究室の環境が良好に保たれています。 > 以上のように、鈴木さんは優れた素質と研究に対する真摯な姿勢を併せ持ち、我が国の学術研究の将来を担うのに十分な人材となりうることから、貴日本学術振興会の特別研究員として強く推薦いたします。彼女の研究実績や指導力は優れており、将来の研究者としての成長が期待されます。 ## 「評価書・推薦書」の要素 ### (11-8) 申請者の優位性|研究者としての強み 評価書・推薦書は「〇〇〇だから、〇〇〇力を持っている(から、すごい)」のように、具体的なエピソードを元に能力があることを主張するのが基本です。ここでは、一般的に書かれることの多い能力とそれを示すエピソードとしてどのようなものがあるのかを列挙します。申請者の研究の現状を説明しつつ、それに関わるエピソードから申請者のさまざまな能力を主張していくのが自然な形です。あれもこれもと総花的に能力を列挙するのではなく、ある程度、能力を絞って書く方が伝わるでしょう。 #### 主体性、研究態度 - {研究室内/学会・研究会}での積極的な議論を通じて、何を研究すべきなのかを自ら考え提案してきた - 必要な実験技術を自ら学ぶ姿勢 - 疑問点は自ら検証する - 研究室外でのプレゼンテーションにおいても質疑応答の細部までに答えられている点は、普段から主体的に研究の細部を考えていることの証拠である - 自らのミスの可能性も含めて、実験の再現性を速やかに検討する姿勢 - 実験は常に思慮深く計画されており、注意深く遂行されている - 〇〇〇分野から〇〇〇分野に研究内容を変更したものの、異例な短期間で新たな手技を習得し、当研究室の研究スタイルに適応していった - 新しい実験手法にも積極的に挑戦し、それを完遂できる能力 - 期待に反する実験結果に際しても真摯に向き合ってその原因を究明する科学的な態度 - 大変な実験も淡々とこなしている、粘り強く条件検討をしている #### 発想力(アイデア) - 新しい実験アプローチを自ら考案(提案)した #### 問題解決能力、研究遂行能力 - 革新的な研究に挑戦するうえで多くの問題が生じるが、〇〇〇氏は調べて解決できることは速やかに解決し、技術や材料が足りない部分は自ら考え新たなものを生み出す努力をしている - 研究初期は研究室の先輩から助言を得ながら進めていたが、すぐに独力で研究を実施できるようになり、今では後輩を指導している - 筆頭著者で論文を{(高IF誌に)発表済みである/すでに執筆を始めている} #### 実績 - 日本学生支援機構の返還免除(候補者)になった - 学会賞、奨励賞、ポスター賞を取った - 国際学会で発表した - 修士論文で優秀発表賞を取った #### 専門知識・技量 - 研究室として知見の蓄積が少ない分野であったが、自らの勉強により不足分を補っている - 他の研究グループとの積極的な交流により、知識や技術を吸収し自分のものとした - 研究を遂行するうえで必要となる新しい技術を独学で身につけた - 膨大な論文を毎日のように読んでいる - 新しい発見、発明、主張をし、大きな反響を呼んだ(呼ぶであろう) #### コミュニケーション能力、語学力、国際性 - 研究室内、学会・研究会などで積極的に質問し、議論している - 留学生とも英語で積極的に議論している #### 熱意 - 修士課程のうちはさまざまな研究に携わり経験を積みたいとの本人の希望により、複数の研究課題に並行して取り組んできた - 研究室配属時から博士課程への{進学/研究職}を希望していた - 多くの学生が短期的に成果の出やすいと考えられる研究テーマを選ぶのに対して、〇〇〇氏は長期的な視点から研究テーマを選択し、同氏の研究に対する強い信念を感じた - 早くから研究室に所属し研究を開始した ### (11-9) 申請者の優位性|今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素 申請者がまだ不足している部分、伸ばした方がさらに良くなる部分を書きます。褒めてばかりだと嘘くさいので、スパイス程度に混ぜておくと信憑性は上がります。 - 専門性が足りていないので、研究を通じて身につけてもらいたい - 国際的に活躍する研究者になるためには、語学力の向上は課題である ただし一方的に不足している部分だけを指摘するとネガティブな印象になるので、以下のようにフォローしておくと好印象になります。 - 〇〇〇はまだ不十分だが、本人も自覚しているようで、すでに〇〇〇に取り組んでいる - 〇〇〇についてはさらなる向上の余地があるが、〇〇〇であることから将来性については心配していない - 〇〇〇については足りていないが、すでに〇〇〇をして克服{しようとしている/しつつある} ### (11-10) 申請者の優位性|将来性(まとめ) - 以上のように、〇〇〇氏は同学年の学生の中でも極めて高い能力を発揮しており、将来の活躍が期待できる - 〇〇〇君は、幅広い視野と知識をもち、自らの力で新しい分野を切り開くことができるグローバルな研究者になると考えられる。以上より〇〇〇君は〇〇〇にふさわしいと考え自信をもって推薦する - 〇〇〇で着実な成果を挙げており、我が国の〇〇〇学に貢献する人材になるものと考えている ### 評価書における被推薦者の呼称と文体 「〇〇〇くん(君)」「〇〇〇さん」あたりがもっとも普通の呼称です。「〇〇〇氏」や「申請者」と書いてある場合もあります。 評価書は、「です・ます」調で書かれることがほとんどです。「だ・である」調で書かれたものもありますが、多くはありません。