--- title: "(M) 研究遂行能力・業績" book: 科研費申請書の教科書 chapter: 第2章 何を・どこに書くか pages: 140-147 images: page_0140.png ~ page_0147.png --- # (M) 研究遂行能力・業績 > **#科研費のコツ 63** 「だから何?」と言わせない > > **#科研費のコツ 64** 研究遂行能力 ### 「研究遂行能力・業績」に迷ったらこう考えよう p.108で述べたように、研究内容の優劣がつけがたい(がん研究と糖尿病研究の比較)のであれば、提案した計画を着実に遂行できる人に任せたいと考えるのは自然なことです。つまり、**「他の研究者ではなく、申請者を採用すべきだと主張する根拠を教えてください」** という質問をされているということです。これに対して、論文や講演、著書など、これまでに専門家として実績を残してきたことを具体的な根拠とともに示すことができれば、申請者の主張に説得力が生まれます。 ちなみに学振では「研究遂行力」、科研費は「研究遂行能力」になっています。 #### 具体例 > **これまでの研究活動** > 申請者はこれまで、神経科学の分野において免疫組織化学染色・in situハイブリダイゼーション、定量RT-PCRや培養系などの実験手法を用いて、感覚ニューロンおよび運動ニューロンの神経回路形成の分子メカニズム解明を目指し、Transcription factor AのTFAとTranscription factor BのTFBが特定のニューロンサブタイプの分化や軸索投射を制御することを明らかにしてきた(業績1、3-5、他2本)。この研究によって明らかにされた神経回路形成機構は、本研究で目指す神経変性や神経再生全般にとっても有用性が高い。さらに、皮膚感覚ニューロンが変化しているTFAへテロマウスで協調運動の向上が見られ、感覚の変化が運動制御に影響する可能性を強く示唆している(業績②)。 > さらに、申請者は脊髄の運動ニューロンと筋の神経ネットワークに着目し、ALSモデルマウスを用いて発症前の早期変化を特定する研究を行ってきた。これまでの一連の解析により、運動ニューロンの障害のされ方が支配する筋によって異なることが明らかになった。特に前脛骨筋(速筋)を支配する運動ニューロンは早期から脱神経を起こし、特異的にマーカー分子の発現が減少することを報告し(業績⑦)、前脛骨筋とヒラメ筋を支配する異なる運動ニューロン群の周囲の毛細血管密度の違いも明らかにした(業績④)。これらの研究で使用した実験手法には、申請者が強みとする運動ニューロンや神経筋接合部の1分子免疫染色が含まれており、本研究においてもこれらの手法を使用する予定であり、円滑かつ高いレベルでの研究遂行が可能である。 > **原著論文** > 1. Okamoto H, Watanabe M, Ito Y, Nakayama K, Oshima K, **Suzuki T**. Efficacy of Titration-Dose Zoledronic Acid for Osteoporosis: A Randomized Controlled Trial. *Osteoporosis International*. 33(4): 803-811, 2023. > 2. Kimura S, Park J H, **Suzuki T**, Nakamura K, Yamamoto M, Mori K, Sato A. The Association between Metabolic Syndrome and Aortic Arch Calcification in Japanese Men. *Journal of Atherosclerosis and Thrombosis*. 28(2): 171-178, 2023. > 3. **Suzuki T**, Wang Q, Guo X, Zhang Q, Nakayama K, Oshima K, Ito Y. The Efficacy and Safety of Biologic Agents for the Treatment of Refractory Rheumatoid Arthritis: A Meta-Analysis. *Clinical Rheumatology*. 41(2): 389-400, 2022. > 4. Lee J H, **Suzuki T**\*, Park J H, Nakamura K, Yamamoto M, Mori K, Sato A. Association between the Mediterranean Diet and Risk of Colorectal Cancer: A Meta-Analysis. *Journal of Gastroenterology and Hepatology*. 37(3): 501-508, 2021. \*Equally contributed > 5. Li X, Chen Z, Liu S, **Suzuki T**, Nakayama K, Oshima K, Ito Y. The Association between Vitamin D Deficiency and the Risk of Type 2 Diabetes Mellitus: A Systematic Review and Meta-Analysis. *Journal of Diabetes Investigation*. 14(1): 95-102, 2023. > 6. **Suzuki T**, Gonzalez-Moreno E I, Nakamura K, Yamamoto M, Mori K, Sato A. Serum Uric Acid and the Risk of Cardiovascular Disease in Mexican Adults. *International Journal of Cardiology*. 353:46-50, 2019. > 7. **Suzuki T**, Park J S, Lee H, Nakayama K, Oshima K, Ito Y. The Relationship between Serum Ferritin Level and Metabolic Syndrome: A Cross-Sectional Study. *Diabetes & Metabolic Syndrome: Clinical Research & Reviews*. 15(4):102206, 2019. > 8. **Suzuki T**, Ng C C, Nakamura K, Yamamoto M, Mori K, Sato A. The Association between Chronic Kidney Disease and Frailty in Elderly Singaporeans. *Geriatrics & Gerontology International*. 22(1):94-100, 2018. > 9. **Suzuki T**, Zhang W, Zhang T, Nakayama K, Oshima K, Ito Y. The Relationship between Red Blood Cell Distribution Width and the Severity of Coronary Artery Disease: A Systematic Meta-Analysis. *Angiology*. 73(3):276-285, 2018. > 10. **Suzuki T**, Tanaka Y, Nakamura K, Yamamoto M, Mori K, Sato A. Clinical Characteristics and Prognosis of Elderly Patients with COVID-19. *Journal of the American Geriatrics Society*. 70(3):573-578, 2015. > 他3件 > **国際学会での招待講演** > **Suzuki T**, Yamada K, Takahashi M, Li M. Unraveling the Mysteries of Myosin: Insights from Interdisciplinary Approaches. 25th International Biophysics Conference, Paris, July 2023. > 他、国内での学会の招待講演3件 > **受賞** > 2023年度 国際生物物理学会奨励賞 ### 種目別のフォーマット #### 科研費|基盤、若手、スタートアップ - **該当する項目:** これまでの研究活動(5、6ページ目) - **分量:** 2ページ弱 - 「研究環境」をまず書き、残りで業績リストを書いて、残ったスペースでこれまでの研究活動(とくに解説したい業績)を書くと分量をコントロールしやすい。 - **要素:** (11) 申請者の優位性 - 業績リストはなるべくキッチリ埋めて余白を作らないようにする。すべてを書こうと極端に小さい文字で書く人もいるが、読みにくくなる。フォントサイズや行間は基本的には統一すべきだが、業績リスト部分は小さめのフォント、詰まり気味の行間にすることも検討する。 #### 科研費|挑戦的研究(萌芽) - **該当する項目:** 応募者の研究遂行能力(S-42-1、2ページ目)、応募者の研究遂行能力(S-42-2、2ページ目) - **分量:** 1/4〜1/3ページ程度 - 挑戦的研究における業績リストは非常に重要。(多少古くても)申請者の研究遂行能力がわかるようなものを挙げるようにする。本文中の引用文献で自らの論文を太字で強調するなど、スペース不足を補うような工夫も考えたい。 #### 学振 - **該当する項目:** 研究に関する自身の強み(6、7ページ目) - **分量:** 1ページ弱 - 前半部は「自己分析・自己PR」ですが、後半部に研究遂行能力の証明として業績を書く。論文や(報告する価値のある)学会発表等の数によって分量は変更可能。業績一覧を見やすく書くと審査員も評価しやすい。 - **要素:** (11) 申請者の優位性 - 単純な論文や学会発表、著書、特許以外にもさまざまなものを業績リストに書くことができる。研究遂行能力の証明として使えるかを自問しながら、なるべく広い視野で書く。 ## 「研究遂行能力・業績」の要素 以前は論文や著書、国際会議での発表など、いわゆる研究業績を書くことが求められていましたが、最近では、研究業績の捉え方の自由度が増しています。とはいえ、結局のところは論文などの研究業績を中心にアピールできるところを書くという点で本質は変わっていません。 ### (11-1) 申請者の優位性|これまでの研究活動 単なる業績の紹介ではなく、「もっと広い視点から申請者の研究遂行能力(なぜ申請者ならこの研究を完遂できるといえるのか)を証明してください」ということですから、業績リストを載せるだけでは不十分であり、そうした業績からなぜ申請者に研究遂行能力があるといえるのかについて、申請者自身が説明することが必要です。かといって、研究成果の細かい部分を説明することが、申請者の遂行能力の証明になるかは微妙なところです。 申請者の研究遂行能力を示すために書くべき内容の基本は以下の2つです。 #### 研究成果の意義を書く 「こんな結果を得た」「こんなことをした」と細かいところまで書いても、分野外の審査員にとってはそれがどれくらいすごいことなのかわかりません。そのため、何をしたかそのものではなく、何かをした結果どうなったのか、その結果はどのような意義を持つのかを書く方が研究の価値を評価してもらいやすくなります。 - これにより、長年の問題であった〇〇〇に答えを出した - 〇〇〇を明らかにし、〇〇〇への基盤を整備した - 〇〇〇という新たな概念を提唱した #### 第三者による評価を書く いくら「私はすごい」と言ったところで話半分に割り引かれてしまいます。他からも高く評価されているのであれば、審査員を説得しやすくなります。 - 学会等で受賞した(最優秀〇〇賞、ポスター賞、年間〇〇〇賞など) - 修士論文・博士論文などが高く評価された - 雑誌の表紙に選ばれた - 被引用回数などの客観性の高い指標で評価された - 大きな反響があった - 招待講演を受けた - さきがけ、AMED、学振などに採択され研究してきた(選考をくぐり抜けた) #### パターン1 代表的な論文2つ程度をピックアップし、それらについて詳しく書く > **OK** 申請者は〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇が〇〇〇であることを世界で初めて明らかにした[引用文献 or 文献リスト中の文献番号]。こうした結果は、従来の〇〇〇という考え方を根底から覆すものであり、〇〇〇の必要性を強く示すものとなった。 のように、3〜4行程度で1つの文献を扱います。 - **メリット:** ある程度詳しく説明できるので、申請者の研究遂行能力や研究の質についての説明がしやすい。高インパクトな雑誌に掲載された場合におすすめ - **デメリット:** メインは業績リストなので、扱える論文数はせいぜい2つ程度 #### パターン2 主要な論文を一通り含む形での業績紹介文を書く > **OK** 申請者は〇〇〇を開発し[引用文献]、これを用いて〇〇〇の〇〇〇を行った[引用文献]。得られた〇〇〇を解析した結果、〇〇〇であることを世界で初めて明らかにした[引用文献、引用文献]。こうした結果は、〇〇〇の〇〇〇や〇〇〇といった共同研究にも発展している[引用文献]。従来の〇〇〇という考え方を根底から覆すものであり、〇〇〇の必要性を強く示すものとなった。 - **メリット:** 申請者が行ってきた研究を一通り説明できるので、この分野でしっかりと頑張ってきたことがアピールしやすい。ある程度まとまった数の論文を出版している場合におすすめ。 - **デメリット:** 一つひとつの記述はかなり薄くなる中で、文献リストを見ただけではわからない情報をいかに盛り込むかを考える必要がある。書いてもアピールにならないことも。 ### (11-2) 申請者の優位性|業績リスト(主要項目) 研究遂行能力と名前を変えたものの、メインは従来通り研究業績です。研究業績として書く内容は主に以下の通りです。内容もさることながら、ある程度は紙面が埋まっていることが重要であり、文章で説明するよりも箇条書きで整理する方が評価されやすくなります。 - **学術雑誌に発表した論文** - 申請者以降を省略する場合は、〇名中◯番目などと書く - 例)Tanaka K, Takahashi D, **Uno S** et al., (12人中3番目) - 責任著者(Corresponding author, Co-corresponding author)や共筆頭著者(Co-first author)であることを明示するかどうか - 例)〇〇〇 and \***Nakagawa D**. \*Corresponding author - **著書** - **総説・紀要** - **招待講演** - **国際学会での発表** - **国内学会での発表** - **特許** - **受賞歴** 多くの場合、上記の業績項目ごとに見出しを立てて、新しいものから古いものへと箇条書きにし、通し番号をふります。見出しを超えて連続した通し番号にするかどうかはさまざまです。 ### (11-3) 申請者の優位性|業績リスト(その他) 業績リストから研究遂行能力へと変わったことの最大のメリットは、これまでは書きにくかった内容も申請者の研究遂行能力の証明として書けるようになったことです。たとえばアウトリーチは業績リストにはなかなか書きにくいですが、広い意味において研究成果の社会発信は重要な研究遂行能力ですので書いておいてもよいでしょう。海外学振の場合はTOEICの点数でもよいかもしれません。メインの業績リストと比べると重要性は低いので、紙面に余裕があるときに余白調整として書くくらいでも十分です。 - シンポジウムや研究会の企画(主体性) - 学業成績 - 公募班での参画歴や共同研究歴 - メディアでの紹介歴、メディアへの出演歴 - アウトリーチ活動 - 解説記事、寄稿 - 旅費・参加費支援、出版支援、研究費獲得歴など - プレスリリース、ブログ、SNSで取り上げられた ### 無理に詰め込まない なるべく多くの論文を紙面に載せようと、過度に小さなフォントサイズにしたり、行間をすごく詰めたりする人がいます。その気持ちはわかりますし、論文の数が多いことは評価対象になるでしょうが、可読性の低下とそれに伴う印象の悪化も無視できません。p.205でも書くように、フォントサイズや行間は申請書全体を通して一定であるべきです。掲載したい項目が多い場合でも、主要なものを中心に掲載し、それ以外のものについては「他〇〇件」とまとめてしまってもよいでしょう。 なるべく多く載せるためには、p.206の詰め込むテクニックを参照してください。 ### 体裁を整える 文献リストはとくに体裁が不揃いになりやすい箇所です。多少違っていたからといって不採択になったりはしませんが、細部にまで気配りが行き届いていないということは、他にもいろいろと熟慮されていないことを暗に意味します。やる気が出ないときに見直すくらいでもよいので、何度か見直すようにしましょう。 見直すとよいポイントを以下に列挙します。 - 表記方法が揃っているか(カンマの有無、スペースの有無、氏名の順序) - 年号の位置やピリオドの有無 - ページ数の表記(123-134、123-34)、ページ数をつなぐ記号(-、–) - 著者数は何人以上を省略するのか、省略しないのか - 英語で著者名を書く場合に、andを入れるかどうか - 巻号や出版月日の書き方 - doiを書くかどうか ### どこまでの範囲を業績とみなすか 以前は過去5年分の業績を書くことになっていましたが、どれくらいの頻度で論文が出るかは研究を進めるスタイルや研究分野によっても異なるため、現在は撤廃されています。 とはいえ、10年以上前の業績を書いても申請者の研究遂行能力を正しく評価できるとは思えないので、5年前までの論文に加えてどうしても載せたい主力論文については10年以内、くらいが現実的でしょう。 どれくらい細かいところまでを業績として考えるのかについては、どれくらいの頻度で論文を出しているか、申請者の職階によっても変わってくるので一概にはいえませんが、それほど珍しくもないことまで書く余裕はありません。まずは主要な論文を並べ、必要とあればそれらの説明をしたうえで、残りについては重要な順ということになるでしょう。学振DCやPDであれば国内学会での発表は重要な業績でしょうが、科研費に応募するような研究者であれば、よほどのレベルでない限り書いてもプラスには働かないでしょう。**重要な順に余白がなくなるまで書く** が答えになります。