--- title: "(D) 独自性・独創性・特色" book: 科研費申請書の教科書 chapter: 第2章 何を・どこに書くか pages: 84-91 images: page_0084.png ~ page_0091.png --- # (D) 独自性・独創性・特色 > **#科研費のコツ 35** 研究の独創性の考え方 > **#科研費のコツ 36** 独自性は比較しながら説明せよ > **#科研費のコツ 37** なぜ申請者ならそれに取り組めるのか > **#科研費のコツ 38** 虎の威を借りるな > **#科研費のコツ 39** 独自性ふたたび ### 「独自性・独創性・特色」に迷ったらこう書こう 「独自性」を言い換えると……優位性、新規性、先進性、唯一性、オリジナリティ 「独創性」を言い換えると……他よりも優れたアイデア・他にはない着眼点や考え方・アプローチの新しさ 「特色」を言い換えると……特徴、他とは異なる点(優れているかどうかではなく、単にどこが違うのか) #### 具体例 > **本研究の目的および学術的独自性と創造性** > ●【目的】●● > これまでは、主に計算時間の制約からモデルを単純化することで、秒およびミリメートルスケールでの物理現象の解析を実現をしてきた。これにより、分子動力学シミュレーション研究は大きく進展した一方で、サブマイクロスケールの熱現象については手つかずのままであった。これに対して本研究は、これまでの計算には取り入れられていなかった熱的物理過程までをも考慮に入れるだけでなく、これによって増加する計算時間を短縮するための独自のアルゴリズムを導入する点で新しい。さらに、この方法の確立は、前例のないBCA法・MD法・kMC法のハイブリッド法を通じて、ミリ秒およびサブマイクロメートルスケールの物理現象を世界で初めて正確にシミュレーションすることを可能にする。このことは、従来の手法では実験的には困難であった現象の理解や制御につながる独自の取り組みである。 > ●【創造性】● > > - **(3-2)少し前の状況** 研究課題の背景 > - **(4-1)きっかけ** 問題提起と弊害 > - **(5-1)独自性・妥当性** 妥当性・他の研究と比較して優れている点 #### 一般化例 > これまで、〇〇〇では〇〇〇を〇〇〇して、〇〇〇することが主流であった。これにより〇〇〇については〇〇〇が明らかにされてきたが **(3、少し前の状況)**、〇〇〇の理由から〇〇〇については不明のままである **(3、少し前の状況)**。これに対して本研究は、〇〇〇により〇〇〇を〇〇〇する初めての研究であり、〇〇〇を〇〇〇できる点で高い独自性を有している **(5、独自性・妥当性)**。 独自性は、他の研究ではなく申請者の研究を採択すべき理由を審査員に提示するという意味で非常に重要です。もし独自性について書く欄が用意されていないのであれば、(B)背景と問い、(E)研究方法・研究計画、(H)準備状況などに書くことができないか検討してみてください。 ### 種目別の独自性フォーマット **科研費|基盤、若手、スタートアップ** - 該当する項目:本研究の目的および学術的独自性と創造性(2ページ目) - 分量:0.2〜0.3ページ程度 - 研究目的、独自性・独創性・特色、未来の状況と複数の要素を短めの1つの項目にまとめるため、要素間のつながりを意識し、書きすぎないようにする。 - 要素:(7)研究目的、(2)背景・重要性、(5)独自性・妥当性、(9)未来の状況 - 独自性と創造性が1段落ずつで、独自性の方を丁寧に書く。創造性は、こうなればこうなるだろう(なるといいな)というものなので、この研究の先に何があるかが伝われば十分。 **科研費|挑戦的研究(萌芽)** - 該当する項目:本研究構想が挑戦的研究としてどのような意義を有するか(様式S-42-2、3ページ目) - 分量:0.4〜0.5ページ程度(研究の位置づけ・意義) - 要素:(5-4)独自性・妥当性|研究の位置づけ・研究の意義 - 独自性や創造性を書くための明確な欄は用意されていないので、親和性がもっとも高い「挑戦的研究としての意義」の一部として書く。新しいことに挑戦するという独自性と挑戦性、その結果得られるであろう結果の創造性と挑戦性を書く。 **学振** - 該当する項目:③研究の特色・独創的な点(3ページ目) - 分量:0.5ページ程度 - 研究計画を書いた残りのスペース、ページ終わりまで書く。研究計画の分量次第だが、本研究の特色を説明する重要な場なので、ある程度の分量は確保する。 - 要素:(2)背景・重要性、(4)きっかけ、(5)独自性・妥当性 - 研究動向(背景)を先に書いて、それに続けて着想の経緯を書き、最後に位置づけを書く。 ## 「独自性・独創性・特色」の要素 「独自である」という主張をするためには、独自でない「普通の、特徴のない、ありふれた」比較対象を想定する必要があります。独自性は、国内外の他の研究と比較しつつ、「他はこうだけど、本研究はこうだからこういった点が独自である」という主張が基本です。 このあたりの対比による書き方は研究の位置づけとも考え方は同じです。リンゴとコーヒーの比較のようにまったく異なるものと比べてもそれぞれの価値は評価しづらいので、リンゴどうし、コーヒーどうしの比較を通じて、独自性・優位性を評価するのです。 ### (3-1) 少し前の状況|研究課題の背景 独自性の冒頭では、国内外の他の研究を引用しつつ、これまでの研究はこうだったと紹介します。比較対象はこれまでの自分自身の研究であっても構いませんが、独自性はこうした先行研究を「独自でない」ものとして扱うことになりますので、あまりおすすめはしません。 > **OK** これまで、〇〇〇の研究では、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇することが主流であった。これにより、〇〇〇については〇〇〇であることが示されてきた。 > **OK** これまでのリンゴの品種改良は主に食味の観点から行われていた。 ### (4-1) きっかけ|問題提起と弊害 独自性は他の研究と比較し、どこに見落としや付け加えるべき点があるのかを指摘するものです。材料、技術、装置、アイデア、情報の蓄積など、何かが国内外の他の研究よりも優れていないと、あなたの研究を独自なものであると評価する理由がありません。多くの場合はそこまで特殊な材料、技術、装置などはありませんので、アイデアの独自性で勝負することになります。すなわち、「**これまではこう考えられてきたけど、申請者はこういった理由で、こう考えた方がうまくいくと考えた**」のような書き方になります。 > **OK** 〇〇〇については〇〇〇であることが示されてきたものの、〇〇〇については不明のままである。これに対して本研究は、〇〇〇により〇〇〇することで〇〇〇する初めての研究であり、〇〇〇を〇〇〇できる点で独自性が高い。 のように、その他大勢の研究と比較して本研究はこうだから独自である、という主張をすることになります。 ### (4-3) きっかけ|未解決・未実施であった理由 申請者が独自性を主張するとき、「本当に重要な問題で解決方法も存在しているなら、誰かがすでにやっているはずである。それが未解決のまま残されているということは、実はこの問題は重要ではないということを意味するのでは?」という審査員の疑念があります。 もちろん、申請者はこの研究が重要だと思っているからこそ申請書を書いているわけで、審査員のこうした疑念はお門違いであると主張する一手です。重要ではないから放置されてきたのではなく、取り組みたくても取り組む方法がなかった、あるいは、そもそもそれが重要な問題だと認識されていなかった、から今まで放置されていたと書くべきなのです。これに答えるためのアプローチは大きく2つあり、 > **OK** これまでは適切な手段がなかったので、誰もこの問題の解決に取り組めていなかった。これに対して、申請者はこの問題を解決するための手段・アイデア・予備データをもっており、(申請者しかできないという意味で)本研究は独自である。 > **OK** これまでは、(実はすごく重要なのに)これを重要な問題だとは誰も気づいていなかった。申請者らは、本提案でこの問題の重要性を初めて指摘し、解決のための道筋も示しているので、申請者らのこうしたアイデア(指摘)は独自である。 の2択です。 ### (5-3) 独自性・妥当性|妥当性・他の研究と比較して優れている点 独自性の本体です。どういった点が独自なのか、その独自性はなぜ研究を進めるうえで有利に働くと考えられるのかについて書きます。 「背景と問い」や「着想の経緯」でも似たようなことを書きます(表2.4)。 - **「背景と問い」**では主にアイデアそのものについて - **「着想の経緯」**ではアイデアを思いつくきっかけとそれがうまくいきそうである根拠 - **「独自性」**では他と比べてどう優れているのか、すごいのか と最初2つがアイデア自体に注目することで価値を説明するのに対して、「独自性」では他のアイデアとの比較を通じて価値を説明します。ただし明確に切り分けられるものではないので、これら3つは似たような内容になりがちですが、短い申請書中にまったく同じことを書いても新しい情報が増えたり説得力が増したりしないので、同じ事柄であっても別の切り口から記述する、最低でも文章表現は変えるなど、まったく同じことを繰り返さないような工夫が必要です。また、 > **NG** 〇〇〇についての研究はまったく存在せず、申請者の研究が初めてである。 のように「申請者の研究は独自なので、これまでに関連研究は存在しない(から比較できない)」と言いたくなる気持ちはわかりますが、何もないところから研究は始まりません。これは、どこまでを関連研究に含めるかの違いであり、どんな研究でも詳しく見ていけば関連研究はありませんし(まったく同じ研究が存在しないから研究するのです)、広い視点で見ていけば関連研究は存在します。関連する研究の現状を書く目的だけでなく、本研究課題のルーツを明らかにする目的もありますので、何かしら書いておくことをおすすめします。 これまでの研究を自分の研究だけで固めてしまうと、他の人がまったく興味を示してこなかったテーマであるかのように受け取られてしまいます。その反対に、研究分野の重要性ばかりを強調し、申請者の貢献やアイデアが見えないと「あなたでなくてもいいよね?」となってしまいます。両方のバランスをとって、他の研究者も注目している重要な分野であり、そのなかで申請者も重要な貢献をしてきたことをアピールすることが効果的です。 さらに、「未解明な部分がある」や「不明な点が多い」といった曖昧な言葉で現在の状況を総括してしまうのも考え物です。 > **NG** 〇〇〇については{未解明な、不明な}点が多い 現在の状況は未来の状況との対比ですので、具体的にどの部分をどう改善しようとするのかを曖昧にしたままでは、スタートが切れません。 ### (5-4) 独自性・妥当性|研究の位置づけ・研究の意義 「研究の位置づけ」あるいは「研究の意義」で、この研究が当該研究領域、関連する周辺分野、社会に対してどのような意味を持っているのか(持ちうるのか)を説明することで、研究の特徴を明確にすることができます。 これは、「位置づけ」という言葉からもわかるように、国内外あるいは現在および過去の他の研究と比較したときに、他の研究はこうだが、本研究はこうだからこうである、と主張することで本研究の立ち位置(意味づけ)を明確にする作業だということもできるでしょう。 研究の位置づけとしては大きくは - 2つ以上の異なる説がある中で、どちらが正しいのか明らかにする - これまで多くの人が挑戦してきたものの未解決だった問題に答えを出す - 問題の解決により、従来の物の見方や考え方の大幅な変更や進展につながる - これからの研究の方向性や社会のあり方や市民の行動を変容させる などが該当します。より具体的には、比較+理由+結論を基本構文とした書き方になります。比較については省略される場合も多く、たとえば、他ですでに比較している場合や自明である場合、比較する必要がない場合などは省略可能です。 > **OK** 発見から〇〇〇年以上にわたり未解明だった〇〇〇を解き明かすことは、〇〇〇につながるため、挑戦的研究として大きな意義を持つ。 > **OK** 本研究は〇〇〇という点で基礎科学における問題に答えを出すものであるだけでなく、〇〇〇という点において〇〇〇への挑戦でもある。 > **OK** これまでにも数多くの挑戦がなされてきた〇〇〇を〇〇〇技術の開発を通じて目指す本研究は、学術の体系や方向を大きく変革・転換させうる潜在性を持つ。 > **OK** 本研究は、〇〇〇という点から、新たな学問分野の創生につながる第一歩として位置づけられる。 > **OK** 本研究は、これまでに用いられてきた〇〇〇ではなく、新たに〇〇〇を用いることで、従来とはまったく異なるアプローチにより〇〇〇の解明を目指す独創性の高い研究である。 また、次のような書き方は単なる研究の特徴や展望であり、位置づけではありません。 > **NG** これまでほとんど体系的に研究されてこなかった(から本研究には意義がある) > **NG** 〇〇〇ではなくAAAに着目している(から本研究には意義がある) > **NG** 〇〇〇が明らかになれば、〇〇〇への応用が期待される。 > →〇〇〇への応用が研究分野あるいは社会においてどのような意義を持つのかを説明しないと、問われている内容からは外れます。 ### 新規だから独自である? > **NG** これまでこうした研究は報告されていない。そのため、それをする本研究は独自である。 といった書き方は非常に多く見られますが、この主張は避けるようにしましょう。これまでに明らかにされていないことをするのが研究ですので、このロジックでいけば、すべての研究は独自であることになってしまいます。たとえば、 > **NG** これまで雑草が空を飛ぶかどうか調べた人はおらず、それを調べる本研究は独自である。 > **NG** これまで我が家の庭石の産地は研究されておらず未解明のままである。よって本研究で産地を明らかにすることは独自性の高い研究である。 > **NG** これまでに本研究で注目する〇〇〇分子のアスパラギン残基を置換する研究は行われてこなかったことから、本研究は新規である。 という主張は誰もやったことがないという点でたしかに独自ですが、重要性は高くありません。つまり、独自性を書く時には単に「解明されていないから」ではなく、 - **重要なのに**解明されていなかった問題に、申請者なら答えを出せるから - **重要なのに**見逃されていたことに申請者なら取り組めるから と研究の重要性とセットにして書くようにしてください。さらに、 > **NG** これまでがん研究はまったくなされてこなかったことから、それに取り組む本研究は新規である のように、明らかにリサーチ不足による虚偽の説明は申請書に対する信頼を損なうので、独自性を主張する際には事前調査が欠かせません。「管見の限り見当たらない」のような古めかしい表現をする人もいますが、ないと思っているならないと言い切っても十分でしょう。 ### 独自性、独創性、特色の違い **独自性** 他の研究と比べたときの申請者ならではの優位性を意味します。たとえば、材料や装置、経験、技術の優位性、新規性、先進性、唯一性、オリジナリティなどが該当します。**他と比べて有利かどうか**に着目した言葉です。 **独創性** 他とは違うということですが、基本的にはアイデア・着眼点・考え方・アプローチなど知的生産を指します。新しいアイデアや物の見方は新しい結果をもたらす可能性を高める一方で、必ずしもうまくいくことの保証はありません。**他と比べて新しいかどうか**に着目した言葉です。 **特色** 規模が大きい、あっちではなくこっちを試すなど、他とは違うかどうかに着目した言葉です。他の研究と同じではないことは、新しい成果をもたらす可能性が高いことから、一般的には好ましいことです。**他とは違うかどうか**に着目した言葉です。 ここで重要なのは、 - なぜ今まで他の研究者はこのアイデアを〔思いつかなかった/実施できなかった〕のだろう? という質問に対して明確な答えを準備しておくことです。これに答えがないと「他の研究者も思いついてはいたが、くだらなさすぎて誰も研究しなかっただけ」や「思いついてはいたが、現時点では誰も解決できない難しすぎる問題」という可能性を否定しきれません。 **他の人は無理だが、申請者だからギリギリ〔できる/思いついた〕**と書くことで研究の独自性を示し、**なぜそういえるのか**を説明することで妥当性を示します。