--- title: "(A) 概要・要旨" book: 科研費申請書の教科書 chapter: 第2章 何を・どこに書くか pages: 47-55 images: page_0047.png ~ page_0055.png --- # (A) 概要・要旨 > **#科研費のコツ 18** 科研費の概要は10行程度 ### 「概要・要旨」に迷ったらこう書こう 「概要・要旨」を言い換えると……あらすじ、ネタバレ(予告編ではない)、本文を真面目に読むかどうかの試金石 #### 具体例 > **(概要)** > 音楽や自然音、人の声などは脳に伝わり、音に関する記憶や感情と結びつけられる。これまでに、申請者らの研究を含め、音によって引き起こされる感情体験は音の周波数、音量、音色などの要素によって異なる影響を受けることが示されている **(3)少し前の状況**。しかし、脳内でどのように処理されているかについては、適切な解析技術が無いことが障壁となり理解が遅れていた **(4)きっかけ**。これに対して申請者は、深層学習の進展と機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の解像度の向上を含むいくつかの技術革新を組み合わせることで、この障壁を乗り越えられると着想した **(5)独自性・妥当性**。 > そこで本研究では、音による感情形成と認知のメカニズムを神経科学の立場から明らかにすることを目的とする **(7)研究目的**。具体的には、fMRIを用いて、音楽フレーズや声の表現がどのように感情的な意味を持つようになるのかを健常な成人および新生児を対象に解析し、音が感情形成に与える影響を神経科学的な観点から明らかにする **(8)研究計画**。これらの知見は、音響技術や音楽療法、コミュニケーションの向上など、さまざまな分野での応用につながると期待される **(9)未来の状況**。 > **(概要)** > 糖尿病によって引き起こされる合併症の一つである糖尿病性神経障害は、手足の感覚異常や痛み、潰瘍を伴い、重度の場合には切断などの深刻な後遺症を引き起こすことで、患者のQOLを大きく低下させる **(2)背景・重要性**。糖尿病性神経障害の診断には、症状が進行してから行われる神経学的検査が一般的に用いられているが、糖尿病性神経障害を早期に検出することは難しく手遅れになることも多く、糖尿病性神経障害の超早期診断マーカーが必要とされている **(4)きっかけ**。そこで本研究では、糖尿病モデルラットの発症前段階において、血漿中のタンパク質の量的・質的変動をプロテオミクス解析および翻訳後修飾の網羅的解析法を用いて明らかにし、新しい分子マーカーを同定することを目的とする **(7)研究目的**。この研究は、糖尿病性神経障害の早期検出に貢献するだけでなく、病気の発症・進行機序の解明につながり、糖尿病の予防や治療に役立つと期待される **(9)未来の状況**。 #### 一般化例(フルセット) > 〇〇〇は〇〇〇である **(2、背景・重要性)**。これまでの研究では、〇〇〇は〇〇〇であることが示されている **(3、少し前の状況)**。しかし、〇〇〇は〇〇〇されておらず、〇〇〇という点で問題であった **(4、きっかけ)**。これに対して申請者は、〇〇〇では〇〇〇であることから、〇〇〇することで〇〇〇を〇〇〇できると着想した **(5、独自性・妥当性)**(すでに申請者は、〇〇〇は〇〇〇であることを確認している **(6、現在の状況)**)。 > そこで本研究では、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇を明らかにすることを目的とする **(7、研究目的)**。具体的には、〇〇〇を用いて、〇〇〇を〇〇〇し、〇〇〇を明らかにする **(8、研究計画)**(さらに、〇〇〇により、〇〇〇することを目指す **(7、サブ目的)**)。本研究により、〇〇〇は〇〇〇になると期待される **(9、未来の状況)**。 ### 種目別の概要フォーマット **科研費|基盤(C)** - 該当する項目:研究目的、研究方法など(1ページ目) - 分量:10行程度 - 科研費の概要は「**10行程度**」という指示があり、12〜13行程度までは許容範囲だが、それを超えると書きすぎ。 - 要素:(2)背景・重要性、(3)少し前の状況、(4)きっかけ、(5)独自性・妥当性、(6)現在の状況、(7)研究目的、(8)研究計画、(9)未来の状況 - 書くべき内容が多く、個々の要素は1〜2行くらいずつしか書けないので、大胆なデフォルメが必要。 **科研費|挑戦的研究(萌芽)** - 該当する項目:研究計画調書の概要(2ページ以内) - 目的及び方法(1ページ。ページの切れ目で終わると美しい)、遂行能力(0.4ページ)、挑戦的研究としての意義(0.6ページ) - 要素:(2)背景・重要性、(3)少し前の状況、(4)きっかけ、(5)独自性・妥当性、(6)現在の状況、(7)研究目的、(8)研究計画、(10)研究の適切性、(11)申請者の優位性 - 第一段階の書面審査では、この2ページしか審査対象にならないので、ここだけを読んで理解できるようにする。 ## 「概要・要旨」の要素 科研費における研究概要には、本文における背景、目的、研究計画までの広い範囲を含みます。書くべき内容が多いため、以下の要素のすべてについて書くのではなく、取捨選択する必要があります。細かい研究内容などについては書きすぎないようにしてください。 研究費の種類によっては概要といいつつも書くべき内容が具体的に指定されており、申請書全体というよりは特定の要素について概要を書くケースもあります。科研費の概要には(2)〜(9)についての概要を書くようにしましょう。 - **(2) 背景・重要性|**本研究計画を審査するうえで、最低限必要な知識は何か - 研究分野の一般的な背景や事実、用語の定義(研究分野の背景) - 研究分野の重要性(研究の重要性) - **(3) 少し前の状況|**これまでにどういった研究が行われてきたか - 本研究課題に関連した、より詳細な背景(研究課題の背景) - これまでにどのような研究が行われ、どのようなことがいわれてきたのか(他人の貢献) - これまで申請者(ら)はどのような研究をし、何を示してきたか(自分の貢献) - **(4) きっかけ|**何が未解決のままなのか?何が起こった(起こっている)のか - どのような問題があり、どのように困っているのか(問題提起と弊害) - どのような状況の変化があったのか(状況変化) - どのような技術や視点が欠けていたのか(未解決・未実施であった理由) - **(5) 独自性・妥当性|**どうすればこの問題を解決できると考えたのか - どうすれば、問題を解決できると考えているのか、新しい価値を創造できると考えているのか(研究のアイデア) - どういった報告や結果から本研究のアイデアを思いついたか(着想の経緯) - このアイデアが他のものより良さそう(うまくいきそう)と考える根拠はあるか(妥当性) - **(6) 現在の状況|**アイデアに基づき、これまでにどういった研究が行われたか - このアイデアに基づいたこれまでの研究成果(他人の成果) - このアイデアに基づいたこれまでの研究成果(自分の成果) - **(7) 研究目的|**本研究では何を示すのか - どのような方針で研究を進めるつもりか(研究方針) - もっとも重要な研究目的は何か(メイン目的) - ついでに明らかにできることは何か(サブ目的) - **(8) 研究計画|**具体的に何をどうするのか - 何を目的に研究するのか(個別研究計画の目的) - 具体的に何をどうするつもりか(計画) - うまくいかない場合にはどうするのか(プランB) - 予備データはあるか(予備データ) - どうなればこの研究は成功したといえるのか(研究のゴール) - **(9) 未来の状況|**この研究によってどうなると期待されるのか、展望 - この研究によって、当該研究分野にどのようなメリットがあるのか(学術的なインパクト) - この研究によって、周辺関連分野にどのようなメリットがあるのか(技術・材料・考え方に対するインパクト) - この研究によって、社会にどのようなメリットがあるのか(社会に対するインパクト) ## 「研究概要」の構成 科研費の場合は、 > 概要については、10行程度で記述すること。 > *参考 別冊(応募書類の様式・記入要領)* とあるように、使えるスペースはたかだか10行程度(超過しても12〜13行程度まで)です。上記の8項目のすべてについて書くのは分量的に難しいので、申請書のパターンごとに書く項目を取捨選択し、それぞれについて1〜2行ずつ、コンパクトに書く必要があります。内容によって書き方はさまざまですので、無理にテンプレートに当てはめようとせず、全体の論の流れを見て適宜調節してください。 | パターン | (2)背景・重要性 | (3)少し前の状況 | (4)きっかけ | (5)独自性・妥当性 | (6)現在の状況 | (7)研究目的 | (8)研究計画 | (9)未来の状況 | |---------|:-:|:-:|:-:|:-:|:-:|:-:|:-:|:-:| | 最小セット | ● | | ● | | | ● | | ● | | 研究の重要性 | ● | ● | ● | | | ● | | ● | | 研究アイデア | ● | | ● | ● | ● | ● | | ● | | 研究の堅実性 | ● | | ● | (●) | | ● | ● | ● | | フルセット | ● | ● | ● | ● | (●) | ● | ● | ● | ### 最小セット (2)背景・重要性、(4)きっかけ、(7)研究目的、(9)未来の状況 どのタイプであっても、背景、きっかけ、目的、未来の状況、は必須の要素です。一つひとつの文章を短くしづらい場合でも、最低限ここだけは押さえておきましょう。 > **問題解決型** > 〇〇〇は〇〇〇であり、〇〇〇である **(2)**。しかし、〇〇〇の〇〇〇についてはいまだに明らかにされておらず、〇〇〇のままである **(4)**。そこで本研究では、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇を明らかにすることを目的とする **(7)**。これにより、〇〇〇が〇〇〇になると期待される **(9)**。 > **価値創造型** > 〇〇〇は〇〇〇であり、〇〇〇である **(2)**。近年の〇〇〇により、〇〇〇を〇〇〇することが可能となり、〇〇〇になりつつある **(4)**。そこで本研究では、〇〇〇を〇〇〇することで新たに〇〇〇を示し、これにより〇〇〇を〇〇〇することを目指す **(7)**。これにより、〇〇〇が〇〇〇になると期待される **(9)**。 ### 研究の重要性や経緯を詳しく (2)背景・重要性、(3)少し前の状況、(4)きっかけ、(7)研究目的、(9)未来の状況 最小セットに詳しい背景を追加したうえで、これまでに他の研究者と申請者がこの研究分野に対してどのような貢献をしてきたかを書きます。「こんなに重要な研究分野で、こんなに進展があったのに、まだわかっていないことがある」ことを主張し、自身の研究の価値をアピールします。 > **問題解決型** > 〇〇〇は〇〇〇である。なかでも〇〇〇は〇〇〇であり、〇〇〇である **(2)**。これまでの研究から、〇〇〇の〇〇〇については、〇〇〇であることが示されており、申請者も〇〇〇が〇〇〇であることを明らかにしてきた **(3)**。しかし、〇〇〇が〇〇〇であったことから、〇〇〇の〇〇〇は未解明のままである **(4)**。そこで本研究では、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇を明らかにすることを目的とする **(7)**。これにより、〇〇〇が〇〇〇になると期待される **(9)**。 > **価値創造型** > 〇〇〇は〇〇〇である **(2)**。これまでの研究から、〇〇〇については、〇〇〇であることが示されており **(3)**、申請者も〇〇〇が〇〇〇であることを報告してきた **(3)**。このように、〇〇〇による〇〇〇は〇〇〇になりつつある **(4)**。そこで本研究では、〇〇〇を〇〇〇することで新たに〇〇〇を示し、これにより〇〇〇を〇〇〇することを目指す **(7)**。これにより、〇〇〇が〇〇〇になると期待される **(9)**。 ### 研究アイデアや予備データを詳しく (2)背景・重要性、(4)きっかけ、(5)独自性・妥当性、(6)現在の状況、(7)研究目的、(9)未来の状況 これまでの研究の問題点を指摘し、申請者ならその問題を解決するためのアイデアを持っていること、すでに予備的ながらそのアイデアの妥当性も確かめていることをアピールします。これまでとは異なる視点を導入するような研究の場合には書きやすいと思います。 > **問題解決型** > 〇〇〇は〇〇〇である **(2)**。しかし、〇〇〇が〇〇〇であるかは未解明のままであり、〇〇〇の点で問題となっていた **(4)**。これに対して、〇〇〇では〇〇〇であることから、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇できると着想した **(5)**。すでに申請者は、〇〇〇が〇〇〇であることを確認している **(6)**。そこで本研究では、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇を明らかにすることを目的とする **(7)**。さらに、〇〇〇によって、〇〇〇することを目指す **(7、サブ目的)**。本研究により、〇〇〇が〇〇〇になると期待される **(9)**。 > **価値創造型** > 〇〇〇は〇〇〇であり、〇〇〇である **(2)**。近年の〇〇〇により、〇〇〇の〇〇〇が可能となり〇〇〇になりつつある **(4)**。これに対して、〇〇〇では〇〇〇であることから **(5)**、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇できると着想した **(5)**。すでに申請者は、〇〇〇は〇〇〇であることを確認している **(6)**。そこで本研究では、〇〇〇を〇〇〇することで新たに〇〇〇を示し、これにより〇〇〇を〇〇〇することを目指す **(7)**。これにより、〇〇〇が〇〇〇になると期待される **(9)**。 ### 研究計画の堅実性を詳しく (2)背景・重要性、(4)きっかけ、((5)独自性・妥当性)、(7)研究目的、(8)研究計画、(9)未来の状況 研究内容に大きくスペースを割き、よく練られた研究計画であること、実現可能性が高いことをアピールします。すごく新しいアイデアではないが、他の人よりも早く・高いレベルで問題を解決できる場合には書きやすいでしょう。非常に多くの人がこのタイプを採用しています。ただし、研究計画の細かいところを説明しても、その意義や価値が専門家ではない審査員には伝わらない可能性もありますので、難しい書き方でもあります。 > **問題解決型** > 〇〇〇は〇〇〇であり、なかでも〇〇〇は〇〇〇である **(2)**。しかし、〇〇〇の〇〇〇は未解明のままである **(4)**(これに対して、〇〇〇では〇〇〇であることから、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇できると着想した **(5)**)。そこで本研究では、〇〇〇を明らかにすることを目的とする **(7)**。具体的には、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇を測定する。さらに、〇〇〇により、〇〇〇の〇〇〇についても〇〇〇する **(8)**。これにより、〇〇〇における〇〇〇の基盤を確立する **(9)**。 > **価値創造型** > 〇〇〇は〇〇〇であり、〇〇〇である **(2)**。近年の〇〇〇により、〇〇〇の〇〇〇が可能となり〇〇〇になりつつある **(4)**(これに対して、〇〇〇では〇〇〇であることから、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇できると着想した **(5)**)。そこで本研究では、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇の〇〇〇を示すことを目指す **(7)**。〇〇〇を〇〇〇するために〇〇〇に関する〇〇〇を確立するとともに、〇〇〇による〇〇〇の検証と〇〇〇の解明に取り組む **(8)**。これにより、〇〇〇が〇〇〇になると期待される **(9)**。 ### フルセット (2)背景・重要性、(3)少し前の状況、(4)きっかけ、(5)独自性・妥当性、((6)現在の状況)、(7)研究目的、(8)研究計画、(9)未来の状況 概要・要旨には、とくに指示がなく全体の要約をそれなりの長さで書く場合があります。こうした1〜2ページの概要・要旨は真っ先に読まれる部分であり、本文を真面目に読むかどうか、二次選考に残すかどうかを決めるために用いられます。そのため、概要・要旨だけから、 - 研究計画の概要 - 研究の意義・位置づけ - 研究者の優位性 がある程度わかるように書くことが重要です。短い概要・要旨の中ですべてを伝えきる必要はなく、なんとなく良さそうだ・すごそうだ、が伝われば十分です。 > **問題解決型** > 〇〇〇は〇〇〇である。なかでも〇〇〇は〇〇〇であり、〇〇〇である **(2)**。これまでの研究から、〇〇〇の〇〇〇については、〇〇〇であることが示されており **(3)**、申請者も〇〇〇が〇〇〇であることを報告してきた **(3)**。しかし、〇〇〇が〇〇〇であるといった理由などから、〇〇〇は未解明のままであった **(4)**。これに対して、〇〇〇では〇〇〇であることが報告されていることを利用すれば、〇〇〇を〇〇〇し、〇〇〇できると着想した **(5)**。実際、〇〇〇では、〇〇〇が〇〇〇であることが報告されている **(6)**。そこで本研究では、〇〇〇を〇〇〇し、〇〇〇を明らかにすることを目的とする **(7)**。具体的には、〇〇〇における〇〇〇を測定することで、〇〇〇を制する〇〇〇を同定する **(8)**。さらに、〇〇〇により、〇〇〇することを目指す **(7、サブ目的)**。本研究により、〇〇〇が〇〇〇になると期待される **(9)**。 > **価値創造型** > 〇〇〇は〇〇〇であり、〇〇〇である **(2)**。近年の〇〇〇により、〇〇〇の〇〇〇が可能となり〇〇〇になりつつある **(4)**。これに対して、〇〇〇では〇〇〇であることから、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇を〇〇〇できると着想した **(5)**。申請者はこれまでに、〇〇〇は〇〇〇であることを確認してきており **(6)**、本研究では、〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇することを目指す **(7)**。そこで本研究では、〇〇〇を〇〇〇するための〇〇〇に関する〇〇〇の確立と〇〇〇による〇〇〇の検証と〇〇〇を行う **(8)**。これにより、〇〇〇が〇〇〇になると期待される **(9)**。