--- title: "1.6節 研究課題名" book: 科研費申請書の教科書 chapter: 第1章 申請書を書く前に pages: 26-33 images: page_0026.png ~ page_0033.png --- # 1.6節 研究課題名 > **#科研費のコツ 09** 研究課題名の王道は「方法+目的」 > > **#科研費のコツ 10** KAKENを使い倒そう ### 「研究課題名」に迷ったらこう書こう 具体例(過去の基盤Aの申請書より) > 流動性足場・曲面足場設計に基づくオルガノイドの精密誘導技術の開発 > ← **方法** + **目的** > > 新出簡牘資料による漢魏交替期の地域社会と地方行政システムに関する総合的研究 > ← **方法** + **目的** 一般化例 > (〇〇〇{による/に基づく/を利用した})△△△の{開発/解明/確立/解析/研究} ### 研究課題名の要素 研究課題名には、以下の3つの要素が含まれています。実際にはこれらすべての項目を研究課題に含めることはなかなか難しく、いくつかを選んで研究課題名にすることが一般的です。 - **どうやってするのか**(方法、アイデア、研究アプローチ) - **何をするのか**(目的、本研究で何を示すのか、本研究のゴール) - **どこを目指すのか**(展望、最終的にどうなれば嬉しいのか、究極のゴール) **どうやってするのか:** 研究の価値の源泉は他の人にはできないことをすることにあります。そのため、研究方法やアイデアを「どうやってするのか」として課題名で示すことは、研究の価値を端的に示すことにつながります。 **何をするのか:** 本研究において「何をするか」は申請書の核であり、審査員がもっとも知りたいことです。もちろん、申請書を読めば書いてあるのですが、研究課題名で書いておけば、審査員は楽におおよその内容をつかむことができます。 **どこを目指すのか:** 本研究がどこにつながっているのか(展望)を示すことは、研究の重要性をアピールする良い方法です。どんなに素晴らしい研究であっても、その後、誰にも何にも成果が利用されないのであれば、評価は半減です。 ### 研究課題名の構成 研究課題名はこれら「どうやってするのか」「何をするのか」「どこを目指すのか」の3つの組み合わせです。ここでは、KAKEN(https://kaken.nii.ac.jp/)で公開されているデータをもとに、経験豊富な研究者がつけたであろう基盤Aの研究課題名の特徴を見ていきましょう。 比較的最近に採択された基盤Aの中から約500課題を無作為に抽出し、課題名にどのようなパターンがあるのかを解析しました。 #### オールラウンダーを目指す「方法&目的&展望」型(全体の約2%) 「この研究で何をするのかも、その先に何があるのかも、どうやってやるのかも、全部盛り込んだよ。どうしても長くなってしまうけどしょうがないよね」というパターン。 > - 作物栽培技術学習のための多元センシングに基づく作物栽培知識マップの形成 > - 頭蓋内脳波を用いた意識下の脳機能解明とブレインマシンインターフェース > - 分子性強誘電体のイノベーション:柔粘性結晶を利用した高性能焦電・圧電材料の開発 > - 骨−疾患連関を基盤に骨折予防を健康寿命延伸に繋げる大規模コホートの長期追跡 > - コイ目魚類の大系統解明:ミトコンドリアゲノム分析による国際的イニシアチブの確立 字数制限のある中で全部を盛り込むのは難しく、このタイプの課題名は多くありません。課題名だけで何をやるのかがだいたいわかる点は優れていますが、どうしても長くなりがちなので研究のキーワードによっては収まらない場合もありそうです。 #### スタンダードな「方法&目的」型(全体の約27.5%) 「現実的な目的とそれを達成する方法を示さないと始まらないよね。これができたらどういう未来が待っているか、については本文を読んでね」というパターン。 > - 流動性足場・曲面足場設計に基づくオルガノイドの精密誘導技術の開発 > - 雇用保障と社会保障の認知と選好:パネル化認知・コンジョイント実験分析 > - 植物ポリマーを利用した多機能バイオ化成品製造エコリファイナリーシステムの開発 > - TDP-43病理形成・分解機序に着目した筋萎縮性側索硬化症の分子病態解明と制御 > - アルキルアミド型付加体をプローブとした脳内老化評価システムの確立と応用 > - イスラーム国家の王権と正統性−近世帝国を視座として 2番目に多いパターンです。バランスが取りやすく、オーソドックスな形式です。良くも悪くも普通ですので、課題名で冒険する必要がないと考える人はこのパターンにしておけば間違いありません。「応用」や「展開」という言葉が入っている場合に「方法&目的&展望」型との区別は曖昧です。 #### ひたすら夢を語る「目的&展望」型(全体の約3%) 「どうやってやるのか、なんてどうでもよいでしょ! だって、これができたらすごいんだから。達成する方法が知りたいなら、本文を読んでね」というパターン。 > - 悪性脳腫瘍の標的免疫療法を実現する脳腫瘍浸透型ナノキャリアの開発 > - 手話翻訳システム構築を目指した手話対話における文単位の認定 > - レトロウイルス感染症の根治を目指した新規光ゲノム編集技術の開発 > - 電気自動車モータ用磁性材料開発のための多機能分析磁気光学プローブシステムの構築 > - 肥育牛の肉体的・精神的健康を目指す多様なセンサ群の開発とスマート畜産の先導 > - 編集文献学に関する総合的研究−日本の人文学における批判的継承をめざして すべてを盛り込んだタイプほどではないですが、長くなりがちなのと、直近のゴールと将来のゴールというある意味不可分のものが並ぶので、やや書きづらそうです。夢を強烈に語るので、内容もそれに合わせて書く必要があります。ほとんどの場合、先に大きい夢(展望)を語り、続けてそのための具体的な方法(本研究のゴール)を書きます。 #### 技術に自信あり!「方法のみ」型(全体の約1.5%) 「新しい技術・方法を使えば何か新しいことがわかるでしょ。だって新しいんだから。これができたら、何になるかって? 本文を読んでね」というパターン。 > - 光検出磁気共鳴イメージング > - 折り紙エレクトロニクス > - 半導体光フェーズドアレイを用いた高速イメージング > - 民事訴訟の計量分析(後期調査) > - 超臨界及び液体二酸化炭素の岩盤圧入小規模現場実験 > - 物理エンコーダの同時最適化による物体認識モデル 技術やアプローチのすごさが伝わるのであれば、シンプルでよいかもしれません。しかし、最先端すぎると伝わらず、すでに普及していれば陳腐化する、というかなり微妙なバランスでしか成立しない気もします。このタイプの課題名が少ないことも納得です。 #### やりたいことをする「目的のみ」型(全体の約53%) 「私はこれがしたいのだ! どうやるか、それができたら何になるのかは目的の重要性に比べたら些末な問題なので、どうしても知りたいなら本文を読んでね」というパターン。 > - 非コードRNA遺伝子をゲノムワイドに発見する汎用システム > - 最小記述量の計算困難さの解析 > - 対話型中央銀行制度の設計 > - 肝ヘテロ細胞ダイナミクスの数理モデル化 > - 血中循環がん細胞のラベルフリー分離・回収技術の創製 > - フィールドワーク方法論の体系化−データの取得・管理・分析・流通に関する研究− すごくシンプルで、これをしたい!というのがダイレクトに伝わってきます。あまり文字数を多くせずいいたいことだけをズバッというのがポイントです。「〜の解明」「〜の研究」などを省略して体言止めで書かれることも多いです。 #### 「展望のみ」型(全体の約2%) 「私の目指す最終的なゴールはここですよ! そこに至る方法や本研究で何をするかの具体的なところは本文に書いてあるので読んでね」というパターン。 > - 「ボカシの文化」にメスを入れる > - モンゴル帝国成立基盤の解明を目指した考古学的研究 > - ウナギ人工種苗の大量生産技術の完成を目指す実践的研究 > - 政治理論のパラダイム転換−21世紀の新しい理論構築にむけて > - バイオCMOSテクノロジーの創成 > - 開発途上国の教員養成大学大学院設置実現に向けての学術調査研究 本研究で何をするのかを明示していないために、課題名をみても研究内容を想像しにくい可能性があります。「目的のみ」の派生パターンともとらえられますが、さらに将来のことですので不確実性は高く、こうした課題名の頻度がグッと低くなっていることも納得です。 #### キーワードのみ示す「無色」型(全体の約3%) 「すべては本文で説明するので、キーワードのおもしろさだけを伝えたい」というパターン。 > - 心の自立性の発生 > - 大規模災害と法 > - 結び目理論研究 > - 知的財産権と競争 > - 固体中のディラック電子 > - 境界のマネジメントと日本企業のイノベーション キーワードだけなので、短い課題名が多く、また、副題を持つパターンと組み合わせて採用されることも多い印象です。研究対象のおもしろさだけを全面に打ち出したパターンです。 #### 珍しいその他のタイプ(いずれも1%未満) **問いかけ** > - 福島の森林より放射性物質は今後も流出するのか? > - 初期地球の沈み込み帯浅部は生命誕生の場となりえたか? **全体カギ括弧** > - 「インド哲学諸派における<存在>をめぐる議論の解明」 **「」や『』以外での強調** > - 文学表現と<記憶>−ドイツ文学の場合 > - 近現代世界の自画像形成に作用する〈集合的記憶〉の学際的研究 > - 日本古典籍における【表記情報学】の基盤構築に関する研究 **全角英数字** > - FSTL 3-Activin系による肥満糖尿病の病態調節機構の解明と治療への応用 ### 副題のさまざまなパターン 副題を持つ課題名も全体の10%程度で見られ、決して珍しくはありません。副題を区切る記号はさまざまですが、多くはコロン(;:)かダッシュ(−,—)で区切っています。ダッシュ記号はハイフンマイナス(-,−)、全角ハイフン(‐)、長音符(ー)、ホリゾンタルバー(―)など似た形の字で代用されることも多いです。副題を持つ課題名は、人文・社会科学系の申請書で多く見られます。 > - 水田メタゲノミクス:持続的生産を支える土壌−根圏微生物とその機能の全貌解明 > - 日本の発展途上国に対する理数科教育援助:教室レベル・インパクトの評価 > - イオンチャネルの構造−機能ダイナミクス:ゲーティング構造変化の単一分子解析 > - 地震はなぜ起こるのか?−地殻流体の真の役割の解明− > - 脱合金によるナノポーラス金属材料触媒。分子変換における革新的手法 > - 住環境指標による、RC建築の耐震性能の新しい評価軸【提案と基礎データの収集】 ### 研究課題名の長さ 学振と科研費で課題名の文字数に関する文言は微妙に異なりますが、いずれも全角を含む場合は**40字以内**と定められています。とくに課題名の文字数に制限がない場合でも、40字前後が1つの基準となるでしょう。 > 「研究課題名」は具体的な研究内容を40字以内(記号、数字等も全角/半角にかかわらずすべて1字として数える)の和文で簡潔に入力してください。40字を超えて入力することはできません。なお、「研究課題名」には、副題を入力しても差し支えありませんが、副題を含めて40字以内としてください。 > > *参考 特別研究員申請者作成要領* > 全角文字を含む場合は80バイト(全角40字)まで、半角文字のみの場合は200バイト(半角200字)まで入力が可能である。入力に当たっては、全角文字は1文字2バイト、半角文字は1文字1バイトでカウントされる。濁点、半濁点はそれだけで独立して1字とはならないが、全角アルファベット、数字、記号等は全て2バイトとして数えられて表示される。 > > *参考 科研費研究計画調書 作成・入力要領* > **図1.9のデータ:** 2017〜2022年に採択された基盤A(約3,600件)の課題名文字数分布(上限40字)。 > - 1-4字: 0件 / 5-8字: 4件 / 9-12字: 27件 / 13-16字: 102件 > - 17-20字: 232件 / 21-24字: 364件 / 25-28字: 531件 > - 29-32字: 640件 / 33-36字: 685件 / **37-40字: 1,013件(最多)** > - 文字数制限ギリギリの37-40字が突出して多く、全体の約28%を占める。25字以上で全体の約78%。 基盤A採択者がつけた課題名は文字数制限ギリギリの40字近くがもっとも多い。長すぎる課題名はよくないといわれたりもしますが、実際に採択された基盤Aの課題名を見る限りでは、なるべく言葉を尽くして丁寧に伝える方がよいようです。 ### 研究課題名を考えるときの注意点 研究課題名だけで採否が決まることはありませんが、一般論としては以下のような点に注意するとよいでしょう。 #### 難読語、曖昧な表現、自明でない略語を使わない > **NG** グローバルな価値創造活動を齎す国際拠点間の関係性の効果に関するQUAP研究 のように、長く、何をしたいのかよくわからない課題名は採択に有利には働きません。また、「齎す(もたらす)」のような明らかに普段づかいではない漢字や、「QUAP」のように自明でない略号表記も読みにくくするだけでメリットはありません。 課題名に限らず、申請書の一番の目的は、相手に読んでもらい、理解してもらい、評価してもらうことです。やりたいことが相手に伝わらないと、評価されるかどうかのスタートラインにすら立てません(図2.1参照)。 超大型予算の申請書では、あえて耳馴染みのない単語や表現を用いることで、新規性とインパクトを打ち出す、という高度なテクニックがしばしば用いられます。「よくわからないけど、なんだかすごそう」というアレです。しかし、通常の申請書では、こうしたテクニックは不要であるばかりか、伝わらず評価されないという点で不利に働きます。まずはシンプルにわかりやすく相手に伝えるという基本に従って研究課題名を設定してください。 #### 研究の内容や特徴を課題名に反映させる > **NG** がん治療薬の開発 > > **NG** シェークスピア研究 このように、特徴のない研究課題名だと、あなたの研究がどういったものであるか、多くの他の研究とどう違っていてどこが新しいのかを予想できません。申請書を読み進めれば、こうした疑問に対する答えは書いてあるのかもしれませんが、言い換えれば、読まない限りはわからないということです。審査員からすると「よくわからないまま読む」という余分な手間がかかるうえに、凡庸な印象から読み始めることになりますので、有利な評価は得にくくなります。 #### さらに読みたいという興味を掻き立てるような魅力的なものにする 審査員や資金の出し手(とくに出資者が審査員も兼ねるような民間財団などの場合)は、社会に影響を与える研究や科学を前進させる研究に資金を出して応援したいと考えています。研究課題名は、あなたの研究がまさにそのようなものであることを審査員に伝える最初のチャンスです。研究計画をもっと読んでみたいと思わせることができれば、高い評価を得る可能性は高まるでしょう。これも先と同じく研究の内容がわかるような課題名にすること、さらに、扱っている内容が多くの人や重要なことに関わりうるものであることが伝わるように書くと効果的でしょう。 > **NG** 新規構造のネジの開発 > > **OK** 高速鉄道の激しい振動条件下でも決して緩まない新規構造のネジの開発