--- title: "1.3節 何を研究するか" book: 科研費申請書の教科書 chapter: 第1章 申請書を書く前に pages: 11下半-15(p.11上半の図1.2は1.2節の内容だが本ファイル冒頭に記載) images: page_0011.png ~ page_0015.png --- # 1.3節 何を研究するか > **#科研費のコツ 01** 研究の価値=重要性×解決レベル×多様性×速さ > > **#科研費のコツ 02** 「なぜ、いま」「あなたが」「この研究を」する必要があるのか? > **図1.2のデータ:** > - **応募者数(人):** DC2 約5,500(2006)→約6,500(2023)で微増。DC1 約2,500(2006)→約4,500(2023)で大幅増。PD 約3,000(2006)→約1,500(2023)で半減。海外学振 約500-1,000で横ばい。RPD 約200-500と少数。 > - **採択者数(人):** DC2 約1,100-1,200でほぼ一定。DC1 約700(2006)→約900(2023)で微増。PD 約400→約300で微減。海外学振・RPD 各100-200と少数。 > - **採択率(%):** DC2 約20%。DC1 約20-25%。PD 約15-20%。海外学振 約30-40%(最高)。RPD 約25-35%。 ここからはいよいよ申請書の書き方を解説しますが、実際に手を動かし始める前に、何を研究するかを考えましょう。 ### 「何を研究するか」に迷ったらこう考えよう 「何を研究するか」を言い換えると……なぜ、他の研究ではなく、この研究に取り組む必要があるのですか? > **NG** この研究はこれまでに取り組まれておらず、新しいから。 > > **OK** この研究は重要であるにもかかわらずこれまでになされておらず、申請者なら他の人よりもうまく取り組むことができるから。 研究とはこれまでに成されていないことに取り組むものですから、単に新しいだけでは研究をする理由になりません。 - 他の人にとっても{重要である/大きな弊害がある/メリットがある}にもかかわらず残されていた問題である。 - 他の人には{できない/解き方が思いつかない}が、申請者ならできる。 ことを伝える必要があります。誰もが思いつくことを誰もが思いつく方法で研究するだけなら、別に他の人であってもよく、あなたの研究計画を積極的に選ぶ理由に乏しくなってしまいます。 > **図1.3の概要:** 「なぜ穴を掘っているのですか?」という問いに対し、「穴がなかったからです」は納得できない答え(単なる新しさ)。「最近発見した古文書によると、ここに徳川埋蔵金がある可能性が高いことが分かりましたが、まだ誰も穴を掘って確かめていなかったからです」は納得できる答え(重要性+申請者ならではの独自性)。 ### おもしろい研究テーマは重要だ 良い研究の条件の1つはおもしろいテーマを扱っていることです。しかし、いったん研究を開始してしまうと、研究テーマの妥当性について振り返る機会は少なく、後になって「あれ? 何を知りたくて、この研究をしていたんだっけ?」となってしまった経験のある方もいることでしょう。申請書を書くこのタイミングは、自らの研究のモチベーションを改めて考える良い機会です。いきなり書くのではなく、まずはテーマそのものについて考えてみましょう。 テーマ選びの重要性は、料理に例えるとわかりやすいです。ここでは料理人(研究者)であるあなたが、食材(研究テーマ)を調理(研究)して、料理(研究成果)を生み出します。高級なツバメの巣からはすばらしいスープができますが、ありふれたツバメの巣からは泥のスープしかできません。高級な器に盛り付け、見栄えを良くしたところで本質的価値は変わりません。もちろん、料理人が未熟だと高級食材を台無しにして泥のスープにしてしまうことはあるでしょうが、注目すべき点は、いかに優れた料理人でも、つまらない食材から、すばらしい料理を生み出すことはできないという点です。私たちはまず、良い食材(すばらしい研究テーマ)を見つけなくてはいけません。 > **図1.4の概要:** ありふれたツバメの巣(ありふれた研究テーマ)→ 泥のスープ(つまらない成果)。高級なツバメの巣(すばらしい研究テーマ)→ 高級なスープ(すばらしい成果)。この非対称性がポイント。 ### おもしろい研究テーマの要素 おもしろい研究テーマとは「**価値のある問題**」を扱うものです。価値のある問題は次の4つの要素に分けることができます。 1. **重要性** 2. **解決レベル** 3. **多様性** 4. **スピード** > おもしろい研究テーマ > =すばらしい研究テーマ > =解く価値のある問題 > = ①重要性 × ②解決レベル × ③多様性 × ④解決スピード > =良い申請書 > **図1.5の概要:** 横軸が「問題の重要性」、縦軸が「問題の解きやすさ」の散布図。選択可能な研究テーマ(薄い点)は多いが、「多様性×スピード」を加味した実際に選択すべき研究テーマ(濃い点)は少ない。 ### ①対象の重要性 すでに多くの人が重要だと認識している「長年の未解決問題」に答えを出すことができれば、高く評価されます。たとえば、2つ以上の異なる説がある中で、どちらが正しいのか明らかにする、これまで多くの人が挑戦してきたものの未解決だった問題に答えを出す、などはこれまでに多くの人が関わってきていることから、重要性が担保されている問題です。 その他に、問題の解決や新たな取り組みによって、従来の物の見方や考え方の大幅な変更につながる研究、これからの研究の方向性や社会のあり方や市民の行動を変容させる研究、も扱うべき重要な問題です。ただし、この場合は問題の重要性について審査員を説得する必要があります。 > **NG** わたしの家の庭石の産地は不明なので、本研究で明らかにする > > **NG** がん患者の読書傾向を明らかにする たとえ研究が最大限うまくいったとしても、ほとんどの人にとってはどうでもよい結果しか得られない研究も山ほどあります。こうしたテーマは、どんなに優れた方法で研究しようとも、研究の重要性を納得してもらうことは困難です。自己満足で終わってしまう研究はおもしろい研究テーマといえません。 研究の重要性を考える際に、多くの人は「本研究は未解明のことを扱っているから重要である」という主張をしがちです。しかし、注意してもらいたいのは、未解明であること≠研究すべきである、という事実です。未解明のまま残されている問題のなかには、くだらなさすぎるために誰もあえて研究をしてこなかった問題が結構な割合で含まれています。その研究がなぜ重要だと考えられるのか、を明確に示すことができる課題を選ぶ必要があります。 ### ②どの程度解けるか 「理解した」「新たな価値を提示できた」というためには、問題の解決や価値創造を一定水準以上で行う必要があります。しかし、簡単ではないからこそ、未だに解決されずに残されたままなのです。最先端の手法、あなた独自のアイデアや工夫などを通じて、他の人にはできないが、自分ならギリギリできることを狙う必要があります。これは申請書における「独自性・独創性」や「着想の経緯」に該当します。 > **NG** 宇宙の果てを明らかにする > > **NG** ワープ装置を開発する 現時点で研究テーマを実現するためのヒントや独自技術、アイデアを持っていないのであれば、そのテーマは選択肢には入りません。どんなにすごい研究テーマであっても、実現できないならば「絵に描いた餅」です。 ### ③どれだけ多様性を持つか 女性限定・外国人限定・年齢制限・融合研究推進などにも見られるように、研究者は同質を嫌い、多様性を確保しようとします。その他大勢とは異なる独自の技術・アイデア・アプローチから問題に取り組めば、多様性の確保につながるとして評価されるでしょう。 流行りの分野で、既存の手法、使い古されたアイデアで漫然と研究していると、一握りの勝者と大多数の敗者が生まれるだけです。なるべく他と被らず、自分の強みを活かした尖った研究をする必要があります。 > **NG** シェークスピアの研究 > > **NG** がんの研究 申請者ならではの新たな視点や強みがとくにないのであれば、これまでにさんざん研究されてきた内容をさらに掘り下げ、わずかばかりの進捗を得たとしても大したインパクトにはつながりません。可能であるならば、自分が他の人よりも有利に戦えるフィールドを選択する必要があります。 ### ④問題をどの程度すばやく解けるか 仮に問題を完璧に解けたとしても、期間内に達成できないのであれば研究の価値は大幅に下がってしまいます。予備データがある、研究の方向性は正しそうである、すでに資料・材料が揃っている、など期間内に問題を解決できる可能性が高いことは、研究課題を選定するうえで重要な要素です。 また、大抵の研究費には研究期間が設定されていますし、年齢・卒業・任期などの時間的制約もあるので、期間内に終えられる見込みがある研究テーマを設定することは、生存戦略としても重要です。