--- title: "1.2節 個人で応募可能な研究費の種目、研究期間、申請資格" book: 科研費申請書の教科書 chapter: 第1章 申請書を書く前に pages: 6中段-10(p.6上半は1.1節の末尾) images: page_0006.png ~ page_0010.png --- # 1.2節 個人で応募可能な研究費の種目、研究期間、申請資格 研究費には科研費や学振以外にもさまざまな種類があり、次の表1.1にあるような研究費は比較的長い間続けられているプログラムです。一方で、2、3回だけ募集があって、そのままなくなってしまうプログラムも多く、どのような募集があるのか普段からアンテナを張っておくことが重要です。新設された研究費の場合、初年度は、重複制限や認知度の関係から倍率が低くなりがちです。採択の可能性が高まる絶好のチャンスです。 e-Rad や各省庁のウェブサイト、助成金のポータルサイト、各大学の公募中の助成金リストから探すことで、ほとんどの場合は事足ります。各大学が独自に作成している公募中・公募予定の助成金リストは内部関係者のみに公開されている場合がほとんどですが、一部の大学では外部からでもアクセスできるので、見てみてもよいかもしれません。ほかには、SNSでの話題から探したり、同年代あるいは少し上の研究者の研究費獲得履歴から探すのも有効です。 研究費にはチームで応募するものと個人で応募するものがありますが、表1.1には個人で応募可能な研究費の一部をまとめています。科研費以外にもさまざまな研究費があり、民間財団の助成金もあわせると1年を通して応募が可能です。 ほかにも経済産業省の NEDO や農林水産省の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)など各省庁系の研究費や民間財団、HFSP(Human Frontier Science Program)の Research Grants や Postdoctoral Fellowships などさまざまな研究費があります。 ### 表1.1 主な研究費 #### 文部科学省・日本学術振興会 | 種目 | 募集時期 | 研究期間と研究費(概算) | 資格 | |------|----------|--------------------------|------| | 基盤研究(A) | 7〜9月 | 3〜5年間 2,000〜5,000万円 | — | | 基盤研究(B) | 8〜10月 | 3〜5年間 500〜2,000万円 | — | | 基盤研究(C) | 8〜10月 | 3〜5年間 〜500万円 | — | | 若手研究 | 8〜10月 | 2〜5年間 〜500万円 | 若手:博士の学位取得後8年未満 | | 挑戦的研究(開拓) | 8〜10月 | 3〜6年間 500〜2,000万円 | — | | 挑戦的研究(萌芽) | 8〜10月 | 2〜3年間 〜500万円 | — | | 研究活動スタート支援 | 3〜5月 | 1〜2年間 〜150万円/年度 | 研究機関に採用されたばかりの研究者や育児休業等から復帰する研究者 | | 奨励研究 | 8〜10月 | 1年間 10〜100万円 | 教育・研究機関の教職員等で他の科研費の応募資格がない者 | | ひらめき☆ときめきサイエンス | 8〜10月 | 1年以内 〜50万円 | 科研費の応募資格があり、過去または現在、研究代表者の経験を持つ者 | | 学術図書 | 8〜10月 | (紙媒体)出版費−〔定価×0.35×(部数×0.6)〕/(電子媒体)出版費×0.8 | 学術研究の成果を公開するための学術図書等 | | データベース | 8〜10月 | データベースの作成に必要となる経費の一部 | 必要性が高く、実用に供し得るもので、公開利用を目的とするもの | | 帰国発展研究 | 7〜9月 | 3年以内 〜5,000万円 | 日本国籍を持ち科研費応募資格を持たない准教授相当以上の海外在住の研究者が日本に活動の場を移す場合 | | 特別研究員(学振) | 3〜5月 | (学振PD・RPD)3年以内 〜120万円/年度 | DC:大学院博士課程に在学(外国人含む) | | 特別研究員奨励費 | 翌1〜2月 | (学振DC)3年以内 〜100万円/年度 | PD・海外学振:学位取得後5年未満(取得見込み可)で日本国籍・永住許可 | | | | (海外学振)2年間 450〜750万円/年度* | RPD:出産・育児のため3ヶ月以上研究活動を中断した者など | | 若手研究者 | 3〜4月 | *都市・国によって異なり、滞在費も含む | — | | 海外挑戦プログラム | 8〜9月 | 90日以上1年以下 ベンチフィーとして上限20万円、滞在費は100〜140万円 | 大学院博士後期課程に在籍する日本国籍・永住許可を持つ者で、連続して3ヶ月以上研究のために海外に滞在した経験がない者 | | 卓越研究員事業 | 5〜6月 | 2年間 〜1,200万円 | 40歳未満(臨床経験者は43歳未満)で5年以内に研究実績がある者 | | 二国間交流事業(共同研究) | 6〜9月 | 1〜3年間 〜250万円/年度* | 博士の学位取得後8年未満 | | | | *国によって期間、研究費は異なり、50%以上を旅費として使うこと | | #### 文部科学省 科学技術振興機構(JST) | 種目 | 募集時期 | 研究期間と研究費(概算) | 資格 | |------|----------|--------------------------|------| | A-STEP | 3〜5月 | (トライアウト)2年間 〜300万円 | — | | | | (育成型)3年間 〜1,500万円 | | | さきがけ | 4〜5月 | 3.5年間 〜4,000万円 | — | | ACT-X | 4〜5月 | 2.5年間 数百万円程度 | — | | 創発的研究支援事業 | 第3回は5〜7月、第4回は夏以降 | (フェーズ1)3年間 〜2,000万円 | 日本国内の研究機関に所属する者で博士号取得後15年以下*の者 | | | | (フェーズ2)追加で4年間 〜5,000万円/7年 | *臨床研修や出産・育児・介護は考慮 | #### 内閣府 日本医療研究開発機構(AMED) | 種目 | 募集時期 | 研究期間と研究費(概算) | 資格 | |------|----------|--------------------------|------| | PRIME | 4〜5月 | 3.5年間 〜4,000万円 | — | #### 厚生労働省 | 種目 | 募集時期 | 研究期間と研究費(概算) | 資格 | |------|----------|--------------------------|------| | 厚生労働科学研究費補助金 | 12〜1月、3〜5月、8〜9月 | 2〜3年間 500〜2,500万円* | 国内の試験研究機関等 | | | | *課題により研究期間、予算は異なる | | --- ### 科研費や学振の審査基準と選考プロセス こうした研究費のなかでも、もっとも身近な研究費が科研費です。科研費は、人文・社会科学から自然科学までのすべての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする「競争的研究資金」です。また、大学院生の登竜門である学振の採択者が応募可能な特別研究員奨励費も科研費の1つです。 審査基準や選考プロセスはとても気になる情報なのですが、毎年のように変更があり複雑です。日本学術振興会(JSPS)のウェブサイト(https://www.jsps.go.jp/)には、各プログラムの詳細なガイドラインや応募要項、審査基準、スケジュール等の詳細な情報が掲載されています。最新の情報を入手するために、JSPSのウェブサイトを定期的にチェックすることをおすすめします。また、科研費FAQ(https://kakenhi.jsps.go.jp/)には、250件以上の質問と回答が掲載されており、研究費に関する疑問や不明点に対する解説が提供されています。 申請区分を変更したことで採択されたという話も聞きますが、それが実際に採択に寄与したのかどうかは個別のケースによります。審査プロセスに過度に気を使いすぎてもあまり採択率には影響しません。むしろ、重要なのは研究内容を明確に伝え、分野外の審査員が適切な評価を行えるように必要な情報を提供することであり、本書はその点を解説するものです。 ### 科研費・学振申請の実際 研究費を取り巻く環境の現状認識は重要であり、研究費の競争率や審査基準の変動を把握し、自身の研究計画を適切に準備することが求められます。2006〜2023年にかけての推移をp.10、11の図1.1、1.2に挙げます。 #### 科研費の応募者数・採択率・平均配分額の推移 挑戦的萌芽から挑戦的研究(萌芽・開拓)に変更になったことで、配分額は1.5倍ほどになりましたが、採択率は一気に下がりました。一方で、他の種目は採択率こそわずかに改善している一方で、平均配分額は2006年から2022年にかけて2割ほど減っています(試薬代や人件費は下がらないのに)。 さらに、研究費の平均配分額からもわかるように、ほとんどの人が満額で申請しているにもかかわらず、実際の配分額は70%程度になっています。これは、精査した結果の減額ではなく、ほぼすべての人が一律に減額されてしまう機械的なオペレーションの結果です。ただし、挑戦的研究の場合は、 > 研究種目の趣旨に沿った研究課題を厳選して採択するため、採択件数を一定数に絞ります(※)が、挑戦的な研究計画の実行が担保されるよう、応募額を最大限尊重した配分を行う予定です。 > > *参考 科研費公募要領* とあるように、**挑戦することのインセンティブとして、充足率が原則100%で設定されています。**もっとも、挑戦的研究になってからはアイデアよりも予備データ、業績勝負になってしまい、かなり競争が激しいです。 このように、研究費をめぐる環境はあまり良くなく、人によっては2つ3つと採択されないと十分に研究が進められない状況のようです。いろいろな申請書に継続的に応募するためにも、個々の申請書をいかに素早くかつ高いクオリティで作成できるかが重要になります。 > **図1.1のデータ:** > - **応募者数(人):** 基盤C 約15,000(2006)→約32,000(2023)で倍増、最大規模の種目。基盤B 約10,000で横ばい。基盤A 約4,000-5,000で横ばい。若手B 約20,000(2006)→2018年に廃止。若手研究 2018年新設→約20,000(2023)に急成長。若手A 約5,000(2006)→2018年に廃止。挑戦的萌芽 約3,000-5,000→挑戦的研究(萌芽)に移行し約5,000-8,000。挑戦的研究(開拓)約1,000-2,000と少数。 > - **採択者数(人):** 基盤C 約5,000(2006)→約10,000(2023)。基盤B 約2,500→約3,000。基盤A 約1,500前後で安定。若手研究 約5,000(2018以降)。 > - **採択率(%):** 基盤A・B・C いずれも20-30%台で推移。若手研究も約20-25%。挑戦的研究(開拓)は約10-15%と突出して低い。 > - **平均配分額(万円):** 基盤A 約1,200-1,500(最高)。挑戦的研究(開拓)約1,000-1,500(高額だが採択率低)。基盤B 約500-700で微減傾向。基盤C 約200-300で微減傾向。若手研究 約200-300。 #### 学振の応募者数・採択率の推移 学振DC1とDC2の応募者数は増加している一方で、PDや海外学振の応募者数は減少しています。学振PDでは2006年から2023年にかけて半分以下となり、将来の研究者の人材不足が懸念される状況です。一方で、採択者数はほぼ一定水準に保たれていることから、競争は一時期よりもかなり緩和され、いずれの種目でも20%前後の採択率となっています。応募するチャンスが一度きりではないことを考えると、順調に研究成果を積み、一定以上のクオリティの申請書を出し続けられれば、採択のチャンスがまわってくることを期待してもよさそうです。