--- title: "1.1節 本書の使い方" book: 科研費申請書の教科書 chapter: 第1章 申請書を書く前に pages: 1-6上半(1.2節はp.6中段から開始) images: page_0001.png ~ page_0006.png --- # 第1章 申請書を書く前に ## 1.1節 本書の使い方 『ここはこう書け!いちばんわかりやすい科研費申請書の教科書』にようこそ! 本書はタイトルにある通り、申請書を作成するときに、何を、どこに、どのように書くかについて、なるべくわかりやすく解説することを目指した技術書です。 本書ではタイトルにある「学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金(科研費)」に加えて、「日本学術振興会特別研究員(学振)」の申請書について解説します。しかし、それ以外の申請書についても構成や要素はおおよそ共通ですので、研究費を獲得したいと考えるすべての研究者に役立つものと考えています。 ### 本書の概要 かつては余裕があり、じっくりと研究に取り組める時代でしたが、現在は定員削減・競争的資金・ステージゲート・任期・校務……と限られた時間と研究資金の中で実験をしつつ、次の研究費を獲得し、ポジションを探し、さらにその他の仕事もこなさないといけません。研究だけやっていればよい時代は過ぎ去ってしまいました。こうした中でうまくやっていくには、研究技術だけでなく申請書の作成技術についても向上させる必要があります。 しかし、いざ申請書を書くとなると経験の少ない人にとっては難しく感じるようです。これはある意味当然のことで、小中学生での国語の授業や夏休みの読書感想文を思い出してみてください。登場人物の心情を読み解いたり、読書感想文を書いたりした経験はあっても、具体的な作文技術について学び、添削してもらった経験がある人は少ないのではないでしょうか。誰にもちゃんと教えてもらわず、また自分でも学んでこなかったのであれば、最初のうちは上手く書けなくて当然です。 幸いなことに、私たちが書くべき科学的な文章は、文学とは異なり「独自の感性」や「絶妙な表現」などは不要です。ただ、わかりやすく・読みやすく書けばよいだけですので、ちょっとした技術や考え方を学ぶだけで事足ります。本書の短期的な目標は申請書のノウハウを伝えることですが、究極的な目標は書き方の技術を共有し平準化することで、書き方の巧拙ではなく研究計画の内容に基づいて申請書が評価されることを目指しています。さらに、論理的でわかりやすい文章を書けるようになることで、あなた自身の研究計画は一層洗練され、ひいては科学全体の底上げにつながると考えています。 ### 対象となる読者 本書は申請書を書く技術をいまいちど見直したい人のための本ですので、主に「研究を仕事にしたい人」や「申請書を書いた経験はあるが、自信をもてない人」に向けて書いています。 たとえば次のような人は、本書の読者として最適です。 - 日常の研究はある程度こなせるので、次は研究費の獲得に挑戦したいと考えている。 - 独学や過去のものを真似することで、なんとなく申請書を書けるようになったが、申請書の書き方に精通しているとはいえず、もう少し採択率を上げたいと考えている。 また、本書では主に Microsoft Office Word を用いて申請書を作成しますので、基本的な Word の操作はできることを前提にしています。 ### 本書で説明する内容と説明しない内容 本書はこの章を含めて全部で4章に分かれています。第1章から第4章で説明する内容は以下の通りです。 - **第1章** 申請書を書く前に - **第2章** 何を・どこに書くか - **第3章** 申請書のデザイン - **第4章** 申請書を書いた後に それぞれの章は実際に申請書を書く順に沿って構成しているので、はじめから順に読んでいくことを想定しています。ただし、第3章の申請書の見栄えや明解さに関する部分については、単体で読んでも理解できるようにしてあります。 本書の内容を理解できれば、「何を・どこに書けばいいのか」といった疑問は解消され、自信をもって自分なりの申請書を書けるようになるはずです。 ### 科研費や学振以外の申請書の作成にも、本書は役立つのか もちろんです! 申請書での問われ方や問われる順序、分量などはそれぞれに異なりますが、基本的な内容はどの申請書でもおおよそ共通していますので、JSTや厚労省、民間財団といった他の申請書の作成においてもすぐに役立ちます。一方で、結果や結論、考察を重視する論文と、これからの研究計画を重視する申請書では考え方が異なりますので、論文執筆にそのまま応用することは難しいでしょう。 とはいえ、説得力をもってわかりやすく伝えるための基本的な技術・考え方は、申請書や論文に限らず、すべての文章作成において役立つはずです。とくに根拠をきちんと示しながら論理的に書くことが求められる科学的な文章との相性は良いはずです。 ### 本書の使い方 本書では申請書の基本的な書き方を具体例とともにお伝えします。しかし、書き方には絶対の正解はありませんし、ましてや絶対に採択される書き方はありません。研究分野や申請者の属性などによっても何が良い申請書なのかは変わってきますので、本書の内容に過度にとらわれず、「納得できる部分だけをつまみ食いする」といったスタンスを推奨します。新たな気づきを得るためのヒント集としてお使いいただければと思います。 ### 表記ルール 本書では具体的な例文を挙げて説明していきます。その際に、以下のルールにしたがって表記しています。 具体的な例文を示し、推奨する書き方を **OK**、推奨しない書き方を **NG** としています。 また例文中の表現にバリエーションがある場合は、以下のルールに従って表記しています。 - **()**:書いても書かなくてもいいオプション的な内容であることを意味します。 - **{/}**:言い換え可能な別の表現を意味します。この中から、適切な言葉を1つ選んでください。 - **〇〇〇、△△△**:適当な語あるいは文が入ります。何が入るかは文脈によって異なります。 内容によっては〇〇〇や△△△に文字を入れるだけでは、文章としてうまくつながらない場合もあり、言葉遣いの微調整は必要です。テンプレートをそのまま利用してうまくいくケースは少ないので、無理に当てはめるのではなく、何を書くべきかを十分に理解したうえで使ってください。 ### 要素と項目 本書では、申請書で書くべき「**11の要素**」と、申請書で頻出する代表的な「**15の項目(A〜O)**」を設定しています。実用性を考えて項目ごとに説明します。要素と項目の対応関係についてはp.38(図2.2)を、項目がどの要素に対応するのか迷ったら何どこ早見表(p.46、表2.2)を見てください。 ### 〇〇〇に迷ったらこう書こう、〇〇〇に迷ったらこう考えよう 第2章2.2節のA〜Oでは、書くべき内容について科研費の「具体例」と、含まれる要素を「一般化した例」を示しています。具体例の内容に科学的妥当性や正確性はなく、あくまでも何をどこに書くかを示すための例文です。 「具体例」の文章には、令和4年度の申請書を例として、どこにどれくらいの分量を書くのかがひと目でわかるように、該当する箇所をハイライトしています。絶対にそうであるべき、ということはありませんが、1つの目安として参考になるかと思います。代表的な申請書として基盤(C)、挑戦的研究(萌芽)、学振PDを取り上げています。右下の数字はダウンロードしたWord版の申請書におけるページ番号です。 ### #科研費のコツ 各節の冒頭には **#科研費のコツ 01** 研究の価値=重要性×解決レベル×多様性×速さ のように、関連するコツの見出しを紹介しています。 科研費.com の専用ページ(https://kakenhi.com/)には、購入者特典として本書では十分に紙面を割けなかったこれらのコツについて、より詳しい解説を掲載しています。 ### 「時間をかけてじっくり」は大間違い。QUICK & DIRTY はすべてに勝る これから、申請書において何を、どこに、どう書くのかを説明していきますが、その前にどれくらいのスピードで初稿を完成させるべきかについて、お話しします。 まず、もっとも大切なこととして、申請書を書き慣れていない方や自信がない方は、研究のことをよく知っている第三者(研究室主宰者や経験豊富な同僚、共同研究者など)に申請書を見てもらうようにしましょう。科研費.com でも添削サービスを行っていますが、研究内容をよく知っている人に見てもらう方が確実です。ここでは簡単のために「上司」とします。 さて、あなたの申請書が採択されれば、研究費が得られたり興味のある研究が前に進んだりと、上司にとっても何らかのメリットがあります。仮に純粋に親切心からチェックする場合であっても、上司からすれば、自分の時間を使った以上、あなたの申請書が採択されて欲しいと願うことは当然です。 申請書を上司に見てもらう時に「粗い状態の申請書を見せると怒られるんじゃないか」とか「自分なりに納得のいい状態になってから見てもらいたい」とか「上司は忙しいので、何回も申請書を見てもらうのは申し訳ない」と考えがちです。しかし、こうした考え方は研究に限らず、多くの場合あまり歓迎されない考え方です。申請書を良いものにするためにも、上司の時間を守るためにも、してはいけません。 次にあなたが理解すべきことは、申請書に対する上司の期待は時間とともに増加していくという事実です。上司は、「何も言ってこないということは、うまくいっているのだろう」と考えます。さらに、初稿に時間をかけると、そのぶん締め切りまでの時間が減ってしまい、その後の推敲や見直しに使える時間を十分に取れません。つまり、時間をかけてじっくり申請書を書こうとした場合、初稿の段階で80点くらいの申請書を提出できないと間に合いません。 しかし、現実問題として、申請書を書き慣れていない人が初稿で80点を取るのはかなり難しい、というかほぼ不可能です。まず、上司あるいは審査員が思う80点の申請書がどんなものなのか、経験が少ないあなたには予想できません。そして、自分で思っている申請書の出来ばえと上司から見た出来ばえには、大抵それなりのギャップがあるので、自分では80点だと思っていても上司から見るとせいぜい20点くらい、といったこともよくあります。論文や学会要旨などを添削してもらった後に自分の文章がほとんど残っていない、という経験は誰しもあるでしょう。 そうならないためにはどうすればいいのでしょうか? たとえば、1ヶ月後が申請書の締め切りだとしたら、初稿はどれくらいのタイミングで持っていけばいいのでしょうか? 締め切りの2週間前? 1週間前? そんな悠長なことをいっていてはいけません。**様式をダウンロードしてから1週間以内(3週間前以上前)に20点を取りにいってください。**たった20点でいいんです。その代わりに素早く。これがもし2週間前なら70点、1週間前なら90点くらいのものを持っていかないとアウトです。 さきほども述べたように、自分で80点くらいだと思っていても上司から見ると20点くらいというのはよくあることなので、まずは方向性を確認することが大切です。時間はたくさん使ったが、まったく見当違いのことをしていた、となってしまうと目も当てられません。 経験の少ない人の書いた申請書が最初から高い点であることはまずありえないので、2〜3日に1回くらいのペースで申請書を見せて細かくフィードバックを受けつつ、毎回10点くらいずつ積み増していって、2〜3週間かけて100点を取りにいくイメージです。見る側としても一度では完全に添削しきれないので、どうしても何度かやりとりをする必要があります。ある程度書けるようになってくると、見せる頻度をもっと減らしたり、セルフチェックだけでも十分になったりしますが、書き慣れていないうちは申請書の方向性が合っているかを逐一確認しながら書き進めるようにすると、結果的にお互いの時間効率がよくなります。くれぐれも、自分を過大評価して「1週間後に100点のものを見せてびっくりさせてやろう」とは考えないでください。 「そんなに上司の時間を取ってしまうなんて……」と思うかもしれませんが、申請書が採択されることは上司にとっても重要であり、そのために時間を使うことは上司の仕事です。締め切りギリギリまで手元に申請書を抱え込み、直前にいちおう見せはしたものの、全然ダメで、結局時間切れで中途半端な申請書を提出することの方が最悪です。これでは、お互いの時間をドブに捨てるようなものです。 ### 20点くらいの申請書とは - それぞれの項目についてどんな内容を書くのか - どこに問題意識があり、どういった研究をして何を明らかにするつもりなのか - どんな図を載せるつもりか を一通り埋めきったのが20点くらいの申請書です。研究遂行能力や人権の保護など、お決まりのところについては、早い段階で書き終えておくとなおよいでしょう。こうすることで、この20点の申請書をたたき台として、あなたと上司は具体的なイメージを共有しながら、改善案について議論できます。