===== Page 106 ===== 3申請書の書き方 科研費の申請書を書いていくことには大変なエネルギーと時間が必要 だ、しかも最初から完璧な申請書などできるはずもない。まず書ける部 分から少しずつ書いていって、あとで時間をかけて推敲しよう。申請書 では「研究目的」が一番大切で、何を研究するのか、何を明らかにしよ うとするのかを審査委員に十分に理解してもらわなければならない。そ して内容とともにレイアウトなどの見栄えにも気を配り、審査委員が読 みやすい、理解しやすいものに仕上げていく必要がある。 なお、どのようなことをどのような割合で書いていくとよいのか、本 章の図3-8~図3-11では基盤研究(C)を例に紹介しているが、それ 以外の種目についても、その目安を羊土社ホームページ(https://www. yodosha.co.jp/kakenhil)で紹介している。 1 申請書を書く前の注意点 ◆まず申請書を入手しよう 科研費申請書の正式な名称は「研究計画調書」であるが、この本では「申請 書」と書いていく、いうまでもないだろうが、科研費の申請書ファイルは、日 本学術振興会と文部科学省のホームページからダウンロードして使用する。令 和7(2025)年度申請でダウンロードできるファイル形式は Microsoft Word と PDFファイルである。Wordファイルは、Microsoft Office Word Wordファイルを開くことができるワープロソフト(MacのPagesなど)で内 容を書き込んでいく.ただしWord以外のワープロソフトではレイアウトが変 わって使いにくい場合がある。PDFファイルの場合、Adobe Illustrator ソフトで開いて内容を記入するのだが、あまり実用的ではない。 多くの人がWordを日常的に使用しているだろうから、申請書への入力には Wordを使用するのが一番簡単だと思う。 申請書をダウンロードするためのホームページは応募する研究種目によって 2つに分かれている. (106) 科研費獲得の方法とコツ 第9版 ===== Page 107 ===== 申請書を書く前の注意点 ●特別推進研究、基盤研究、挑戦的研究,若手研究などの申請書 日本学術振興会:科学研究費助成事業(科研費) https://www.jsps.go.jp/j-grantsinai 日本学術振興会の科学研究費助成事業ホームページ左側サイドバー(ウイン ドウが小さいときは右上「MENU」)の「公募情報」→「公募要領・計画調書 等」のところから各応募種目の申請書(様式)をダウンロードできる。 ●学術変革領域研究,特別研究促進費などの申請書 文部科学省:科学研究費助成事業一科研費一 https://www.mext.go.jp/a_menu/shink 文部科学省の科学研究費助成事業ホームページの、「2.科研費の応募・審査 評価等」→「1.公募情報」からアクセスできる画面からダウンロードできる. なお、AMEDが行う各種事業、科学技術振興機構のCRESTやさきがけ、 ERATO, また民間財団の研究助成などの申請書ファイルも各ホームページか らダウンロードでき、これらもWordファイルで提供されていることが多い。 ・申請書の入手 科研費の申請書ファイルは日本学術振興会科学研究費助成事業もしくは文部 科学省科学研究費助成事業のホームページから入手する。 Column 科研費は時代の流れとともに(男女共同参画推進,安全保障貿易管理など) 世の中のいろんな制度が時代の流れとともに ど不可能だった)が裁判の争点になっていた。 変化していくように、科研費の制度も時代の流 このときに問題となった「外国為替及び外国貿 れを受けて変化してきた。 易法」にもとづいて、科研費においても海外へ ①男女共同参画推進 の技術漏えいへの対処が求められる。それは近 これまでも「研究活動スタート支援」や「若 年、頻繁に起こる戦争やテロの驚異への対応と 手研究」において産前産後の休暇を取得した場して、「軍事的に転用されるおそれのある研究 合は、その期間が応募要件の配慮期間とされて 果等が、大量破壊兵器の開発者やテロリスト集 いたが、令和7(2025)年度公募からは、「未 団など、懋念活動を行うおそれのある者に渡ら 就学児の養育期間」も配慮期間として追加され ないよう」(令和7(2025) 年度科研費公募要 た。しかも「未就学児」の対象は、「「子」であ 領より)にするためである。そのため、研究機 り、民法上の解釈に即して応募者本人の子(実関には組織的な対応が求められ、安全保障貿易 子、非嫡出子又は養子)」となっている。もちろ管理の体制整備の状況をe-Radに登録しないと ん男性も育休を取得した場合は配慮期間となる。 応募を受け付けてもらえないようになっている。 ②安全保障貿易管理 最近の大川原化工機の冤罪事件においては、 軍事転用可能な機械の輸出(実際は軍事転用な 科研費はこれからも、時代の変化に対応して いくことだろう。 ===== Page 108 ===== その年度の公募の変更点を必ずチェックすること 科研費の公募では毎年なにかしら変更点がある。和7年度公募でいうと「(1) 審査資料の電子化及びカラー化(学術変革領域研究、奨励研究)」「(2)男女共 同参画推進に向けた応募要件の緩和について」「(3) 研究活動スタート支援及び 奨励研究の審査方式の変更について」「(4)研究インテグリティについて」「(5) 安全保障貿易管理の体制整備について」「(6)研究データマネジメントについ て」「(7) 国際的に波及効果の高い学術研究の推進について」の7項目が変更さ れた。例年、申請書作成において重要な変更点から、作成にあまり影響のない ものなどがある。その年度の主な変更点は公募要領の最初の方に書かれている ので、申請書作成の前に、必ず変更点をチェックしておこう。 最初はワープロソフトで下書きを ダウンロードした申請書ファイルにいきなり書いていくという人がいる。「ど のくらいの分量を書けばいいか、申請書に書き込んでいくとわかりやすいから」 という理由からだ。しかし、たくさん書けば採択されるというものでもないし、 申請書のスペースを埋めなければ採択されないということもない。しっかりし た研究の内容ならば、例えば基盤究(C)や若手究では4ページある「例 究目的,研究方法など」の最後のページで1/3ページくらいのスペースが残っ ていてもまったく問題はない。ただし空いたスペースが多すぎると、研究内容 が乏しく感じられ、あまりよくない。 ぜひ最初はワープロソフトの新規ファイルに下書きを書いて、最後にコピー& ペーストで申請書ファイルに移していってほしい。いきなり申請書ファイルに 書いていくと、どうしても申請書のスペースを埋めていくことが中心になって しまって内容のバランスが崩れてしまう。まず申請書の各項目の下書きをワー プロソフトで書いていって、それを限られた申請書のスペースに移すようにす る。そしてスペースの具合に応じて、文章を削ったり書き加えたりすることで、 全体がまとまった内容になり、またそのことが文章の推敲にもなる。 →申請書の下書き いきなり申請書ファイルに記入するのではなく、まずはワープロソフトで下 書きする。 (108 科研費獲得の方法とコツ 第9版 ===== Page 109 ===== 申請書を書く前の注意点 申請書(研究計画調書)の構成 申請書(研究計画調書)は常に変化している。和7年度公募の申請書にお いても、基盤研究(A,B,C)に「(6)本研究がどのような国 の項目が加えられたり、「本研究の着想に至った経緯」の記載場所が移動された りした。その結果、申請書の中心部分の「1研究目的、研究方法など」は次の 順番で記載することになった(図3-1). (1) 本研究の学術的背景や本研究の着想に至った経緯、研究課題の核心をな す学術的「問い」 (2) 本研究の目的および学術的独自性と創造性 (3) 関連分野の研究動向と本研究の位置づけ (4) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか (5) 本研究の目的を達成するための準備状況 (6) 本研究がどのような国際性(将来的に世界の研究をけん引する。協同を 通じて世界の研究の発展に貢献する。我が国独自の研究としての高い価 値を創出する等)を有するか(※この項目は若手研究にはない) 次いで「2応募者の研究遂行能力及び研究環境」、「3人権の保護及び法令等 の遵守への対応」、「4研究計画最終年度前年度応募を行う場合の記述事項」を 書いていく、そして「研究経費とその必要性」「設備備品の明細」「消耗品費の 明細」「研究費の応募・受入等の状況」「エフォート」などは電子申請システム 上で入力する。 いずれにしても、申請書の構成は基本的に「研究目的、研究方法」「応募者の 研究遂行能力及び研究環境」が中心であり、それぞれの種目によって少しずつ 異なる。基盤研究と若手研究では表3-1のようなページ構成になっている。 申請書の各項目において「何を書くべきか」また「何が評価されるのか」 については、次項の3章2以降で1つずつ解説していく.また挑戦的研究 (開拓・萌芽)の申請書は基盤研究や若手研究の申請書とかなり異なるので、 1研究目的、研究方法など 本研究計画調書は「小区分」の査区分で審をされる。記述に当たっては、「科学研究費助成事業におけるを及び評価に 関する規程」(公募要領参照)を参考にすること。 本研究の目的と方法などについて、4頁以内で記述すること。 冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述し、本文には、(1)本研究の学術的背景や本研究の着想に至った経緯、研究課題の核心 をなす学術的「問い」、(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性、(3)関連分野の研究動向と本研究の位置づけ、(4)本研 究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、(5)本研究の目的を達成するための準備状況、(6)本研究がどのよ うな国際性(将来的に世界の研究をけん引する、協同を通じて世界の研究の発展に貢献する、我が国独自の研究としての高い 価値を創出する等)を有するかについて具体的かつ明確に記述すること。 本研究を研究分担者とともに行う場合は、研究代表者、研究分担者の具体的な役割を記述すること。 図3-1●「研究目的。研究方法など」の解説部分 図は令和7年度の基盤研究(C)の申請害の実例. (109 ===== Page 110 ===== ページ数 1研究目的。研究方法など 2 応募者の研究遂行能力及び研究環境 3 人権の保護及び法令等の連守への対応 4研究計画最終年度前年度応募を行う場合の 記述事項 若手研究。 基盤研究(C) 4 2 1 基露研究(B)基盤研究(A)基盤研究(S) 5 2 1 6 2 1 6 2と1*2 1 1*1 1 1 1 表3-1・各基盤研究の申請書のページ構成 *1:若手研究にこの項目はない。 *2:基盤研究(S)では「研究遂行能力及び研究環境」は「研究者調書」として研究代表者が2ページ。研究分担者が1ページとなっている。 3章15:挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書についてに注意すべきポイントを書い ておく・ ここでは、基盤研究と若手研究での。それぞれの項目のポイントをみていこう。 110) ●研究目的,研究方法など この項目は以下に示す概要と(1)~(6)の合計7つについて記載する(図3-1). ・(概要)冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述 10行程度で研究の概要をまとめる。長すぎてはいけない。 ・ (1)本研究の学術的背景や本研究の着想に至った経緯、研究課題の核心を す学術的「問い」 「学術的背景」としては提案する研究テーマのこれまでの流れを簡潔にまとめ る.また、「着想に至った経緯」では教科書的な説明を書くのではなく、申請者 のこれまでの研究経過からどのようにこのテーマを着想したのか、申請者のオ リジナルな経験を書いてほしい。「学術的背景」と「着想に至った経緯」には、 申請者の発表論文など、適宜、参考文献をあげておくのがよいだろう。 「研究課題の核心をなす学術的「問い」」として、何が問題点なのか、また何を 解明すべきなのかをはっきりと書くように求められている。これまで多くの方 の申請書をチェックしてきた経験からは、意外に学術的「問い」(すなわち研究 課題の問題点)がしっかりと書かれていない(書かれていてもはっきりとわか らない)例が多い. ・(2) 本研究の目的および学術的独自性と創造性 「学術的独自性」や「創造性」といわれると書きにくいものだが、提案している研 究の重要な点、オリジナルな点、研究の特徴は何かなどをしっかりと書けばよい。 ・(3) 関連分野の研究動向と本研究の位置づけ 「関連分野の研究動向」では、研究者の実名や論文をあげて、この研究テーマに 科研費獲得の方法とコツ第9版 ===== Page 111 ===== 申請書を書く前の注意点 関しての現状を説明する。「本研究の位置づけ」には、本研究がこの研究分野の 進展にどのように貢献できるのかを書けばよい。 ・ (4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか 以前の申請書の「研究計画・方法」に相当する部分で、どのように研究を進め ていくのかを具体的に書く、その他、「本研究を研究分担者とともに行う場合 は、研究代表者、研究分担者の具体的な役割を記述」する(若手研究にはない). ・ (5) 本研究の目的を達成するための準備状況 本研究がどの程度に進んでいるのかを書く.また研究に使用する機器や装置の 保有状況や、共同研究体制のことなどを書いておけばよい。 ・(6) 本研究がどのような国際性を有するか 単に国際共同研究を行っているだけではだめで、国際的に高いレベルの発で あることをアピールすること、なお、前述しているが、この項目は令和7年度 の公募で基盤研究(A,B,C)に追加されたもので、若手研究にはない。 Column よい申請書とは 「よい申請書とは?」と質問されたら、それ は答える人によってさまざまに異なるだろう。 しかし、審査委員にとってほぼ共通しているこ とは「わかりやすいこと」である。そして「わ かりやすい」には2つあって、1つは「研究内 容がわかりやすいこと」と、もう1つは「申請 書が読みやすいこと」である. 「研究内容がわかりやすい」申請書は、一度読 むだけで内容がすっと頭に入ってくる。ただ単 に簡単に書いているというのではない。たとえ 自分の専門とは異なる分野の内容であっても理 解しやすいのだ。そして読んだ後には新しい知 識を得た満足感が得られる。それはなぜだろう? まず問題点をはっきり書いている。なぜ、こ の研究が面白いのか、なぜこの研究をやる意義 があるのか、現時点で何がわかっていないのか、 何を解明すれば大きな進歩につながるのかなど 研究の背景をはっきりと書いている。次に、や るべきこと、解明すべきことをきちんと書いて いる.そしてその後に、この研究がうまくいっ たときに「こんないいことがあるんだよ」と読 む人が納得するように書いてある。 そう、文章力が「わかりやすいこと」に大き く関与していると思う. では、文章力を身につけるには?これはもう 練習しかない。よい見本をたくさん読んで参考 にして、自分の文章を磨くしかない。書く経験 を積むこと、これに尽きる。 さて、もう1つの「申請書が読みやすいこと」 だが、これはスペースのとり方、行間の幅、レ イアウト、図,フォントの種類と大きさなどの 工夫によってずいぶんと違ってくる。こちらは 研究者のセンスによりけりだが、よい申請書の 見本を集めて、それを真似していけばよい。上 達するのは比較的簡単だ。 本書では、これら2つのわかりやすさを生み 出す力を磨くためのエッセンスを凝縮して解説 したので、ぜひ細部まで読み込んで実践してほ しい. 「じゃあ、お前が書いた申請書のなかで、よ い申請書は?」と尋ねられたなら、私は「採択 された申請書!」と答える。巻末に収録した実 際に採択された申請書の見本は、その点で「よ い申請書」と思うのだが、どうだろうか? ===== Page 112 ===== 2応募者の研究遂行能力及び研究環境 応募者(研究代表者、研究分担者)の研究計画の実行可能性を示すため、(1)これまでの研究活動(主要な研究業績を含 むょ)、(2)研究環境(研究送行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)について2頁以内で記述すること。 「(1)これまでの研究活動」の記述には、研究計画に関連した国際的な取組(国際共同研究の実施歴や海外機関での研究歴等) がある場合には必要に応じてその内容を含めること。また、研究活動を中断していた期間がある場合にはその説明などを含め てもよい。 図3-2●「応募者の研究遂行能力及び研究環境」の解説部分 図は令和7年度基盤研究(C)の申請書の実例. 3 人権の保護及び法令等の遵守への対応(公募要領参照) 本研究を遂行するに当たって、相手方の同意・協力を必要とする研究、個人情報の取扱いの配慮を必要とする研究、生命倫 理・安全対策に対する取組を必要とする研究など指針・法令等(国際共同研究を行う国・地域の指針・法令等を含む)に基づ く手線が必要な研究が含まれている場合、講じる対策と措置を、1頁以内で記述すること。 個人情報を伴うアンケート査・インタビュー調査・行動調査(個人履歴・映像を含む)、提供を受けた試料の使用、ヒト 遺伝子解析研究、遺伝子組換え実験、動物実験など、研究機関内外の倫理委員会等における承認手続が必要となる調査・ 究・実験などが対象となる。 該当しない場合には、その旨記述すること。 図3-3●「人権の保護及び法令等の遵守への対応」の解説部分 図は令和7年度基盤研究(C)の申請書の実例. 4 研究計画最終年度前年度応募を行う場合の記述事項(株当者は必ず記述すること(公募要領参園)) 本研究の研究代表者が行っている、和7(2025)年度が最終年度に当たる継続研究課題の当初研究計画、その研究 得られた新たな知見等の研究成果を記述するとともに、当該研究の進展を踏まえ、本研究を前年度応募する理由(研究 状況、経費の必要性等)を1頁以内で記述すること。 該当しない場合は記述欄を削除することなく、空欄のまま提出すること。 図3-4●「研究計画最終年度前年度応募を行う場合の記述事項」の解説部分 図は令和7年度基盤研究(C)の申請書の実例。 ●応募者の研究遂行能力及び研究環境(図3-2) 令和元年(平成31年)度の申請書から一番大きく変更された部分.従来は論 文や著書、招待講演などの研究業績をリスト化するだけでよかったのだが、「研 究業績は、網羅的に記載するのではなく,「本研究計画の実行可能性を説明す る上で、その根拠となる文献等の主要なものを適宜記載する」こととなった。 記載すべき内容は「(I) これまでの研究活動」と「(2)研究環境」である.こ れまでの研究実績や予備的な研究結果を示して、提案している研究計画が申請 者によって「実行可能」であることを印象づける必要がある。 「(1) これまでの研究活動」には「(主要な研究業績を含む)」と但し書きがあ るように、必ず申請者の研究業績を書いておくこと。 ●人権の保護及び法令等の遵守への対応(図3-3) ここでは、各種委員会の承認を受けていることや、個人情報保護への対応な どをきちんと書いておくこと。 ●研究計画最終年度前年度応募を行う場合の記述事項(図3-4) 私の審査経験でこの項目を記入している申請書は見たことがなく、大学の人 112 科研費獲得の方法とコツ第9版 ===== Page 113 ===== 申請書を書く前の注意点 が「研究計画最終年度前年度応募」は行っていないのだろう.令和4(2022)年 度の研究計画最終年度前年度応募については、応募件数が567件、採択件数が 204件と発表されている。この年度の新規の応募件数が10万件近いことを考え ると、ごくわずかな数といえる. ●研究経費とその必要性 ●研究費の応募・受入等の状況 これらの項目は電子申請システム上で入力する。「研究経費とその必要性」に は研究計画に適した明細を記入することと、なぜその経費が必要なのかを書い ておこう。この項目は令和5(2023)年度の公募より、研究計画調書のPD イルには表示されず、審査に当たっては電子申請システム上で内容を確認する こととなった。Web入力項目での入力方法に変更はない。 申請書のフォーマットはしばしば変更される。毎年発表される公募要領をよ く確認してから応募してほしい. どこから書いていけばいいのか一概要は一番最後に 科研費申請書の作成をはじめた段階で、申請書に書くべき内容についてはあ る程度固まっていることと思う.では、申請書はどこから書いていったらいい のだろうか? ダウンロードしてきた申請書ファイルでは「研究目的、研究方法など」が最 初の項目だ。そしてこの部分が申請書の中心だ。然、ここから書きはじめれ ばよい。ここでは、「冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述し」と、まず「概要」 を書くことが求められている(図3-5).この「概要」部分はとても重要だ。審 査委員は申請者の名前と所属、タイトルをさっと見て、「概要」の部分を読みは じめるだろう.したがって「概要」は審査委員が申請書の内容に共感するかど うかの最重要ポイントだ. しかし、「概要」部分は、申請書の全体ができあがってから一番最後に書くこと なぜか?「概要」は申請書のサマリーである。全体ができあがっていない段 階で、そのサマリーである「概要」を書くことはどう考えてもおかしい。しか し実際には、どうも多くの申請者は申請書を作成している適当な時期に「概要」 を書いているようだ.しかも「概要」は本文とは別に「概要」として書いてい る申請者が多い。そのため「概要」の内容と本文の記述との整合性がとれてい ない例も多い。それは変である。論文を書くときにサマリーはいつ書いている だろうか?おそらく、論文全体ができあがって、最後にサマリーを書いている い 章 (113 ===== Page 114 ===== 基盤研究(C)(一般)1 この部分は変更 されることが多 いので、よく読 んでおくこと 1研究目的、研究方法など 本研究計画開吉は「小区分」の審査区分で審査される。記述に当たっては、「科学研究費助成事業における寄査及び評価に 関する規程」(公募要領参照)を参考にすること。 本研究の日的と方法などについて、4頁以内で記述すること。 『頭にその観を簡潔にまとめて記述し、本文には、(1)本研究の学術的背景や本研究の着想に至った経緯、研究課題の核心 をなす学術的「問い」、(2)本研究の目的および学術的独自性と割造性、(3)関連分野の研究動向と本研究の位置づけ 究で何をどのように、 どこまで明らかにしようとするのか、(5)本研究の日的を達成するための準備状況、(6)本研究がどのよ うな国際性(将来的に世界の研究をけん引する、協同を通じて世界の研究の発展に貢献する、我が国独自の研究としての高い 価値を創出する等)を有するかについて具体的かつ明確に記述すること。 本研究を研究分担者とともに行う場合は、研究代表者、研究分担者の具体的な役制を記込すること。 (概要) 研究全体の概要 を簡潔に書く ここから下に「研究目的。 研究方法など」の(1)~ (6)の項目を書く (本文) 図3-5●「研究目的、研究方法など」の「概要」の部分 図は令和7年度基盤研究(C)の申請書の実例。申請書の旨頭には研究計画の「概要」を記述する。説明欄には記載はないが、応募書類の様 式・記入要領には「概要については、10行程度で記述すること」とある。 はずだ、そうしないとサマリーにならないからである、同じように「概要」は 全体が完成してからまとめるべきだ。 では、どこから書いていくべきだろうか。もちろんどこから書きはじめてもい いのだが、私は本文の「背景」や「着想に至った経緯」から書いていくことを お勧めしている。研究の「背景」および「着想」とその問題点(申請書では学術 的「問い」)があってこその「研究目的」であるし、「研究目的」があってこそ 「研究方法」(研究計画も含む)だからだ.学術的「問い」を明らかにするのが 「研究目的」であり、その「研究日的」を実現するのが「研究方法」だからだ。 研究遂行能力や研究経費など、その他の部分は「研究目的、研究方法など」 を書き進めながら、並行して書いていけばよい。 赤ペン添削HB3 ● case 06, 07 申請書は審査委員のために書く一知り合いの研究者に向けて書くつもりで 科研費の申請書は誰のために書くのか?まず、これをしっかりと認識してお く必要がある.文章を書くときには、誰がその文章を読むのかによって内容や レベルを考えなくてはならない.自分の研究に関して日本語の総説を書くとき にも、対象が大学院生なのか、ポスドクあるいはその分野の専門家なのかによっ (14 科研費獲得の方法とコツ 第9版 ===== Page 115 ===== 申請書を書く前の注意点 て、内容の検討が必要になるだろう。申請書も同じで、誰に向けて書くのかを しっかり認識しておかないと、十分に理解してもらえるかどうかはおぼつかない。 では、申請書は誰のために書くものなのだろうか?自分の(研究の)ため? その分野の研究者のため?否、申請書は少数の審査委員のために書くものである。 申請書を作成するときに忘れてはいけない重要なことは、科研費の申請書は あくまでも3~8名の審査委員に理解してもらうために書くものだということ。 論文や総説のように大勢の人に読んでもらうために書くものではない。限られ た人数の専門家に向けて書くものであることをお忘れなく。 さて審査委員は自分の研究分野あるいは近い分野の研究者には間違いないの だが、応募の時点ではどこの誰なのかはわからない。書くべき対象がわからな いときは、内容の解説や専門用のレベルをどのくらいにすればいいのかわか らない.このようなときには「知り合いの研究者に向けて書く」ことをお勧め する.自分が普段からよく知っている〇〇大学の〇〇先生に向けて説明するつ もりで書いていくのだ。審査委員という漠然としたイメージに対して書くより も、具体的な特定の人に対して書く方が文章の焦点が定まり書きやすい。その 人に向けて自分の研究計画を説明して大いにアピールするつもりで書いていく のだ。過去の審査委員名簿から知り合いの研究者をみつけるのもいい.知り合 いの研究者に向けて書いていけば、申請書はよりよいものになるだろう。 申請書は誰に向けて書くのか 申請書は審査委員のためにわかりやすく書く、知り合いの研究者を想定する と書きやすい。 赤ペン添削 HB3 ● case 01 申請書に求められるわかりやすさ 科研費の審査も、学術論文の査読も、審査を行うのは数名のレビュアーであ るから、似たようなものだと思うかもしれない。しかし、科研費の審査委員と 学術論文のレビュアーには大きな違いがある。 学術論文の場合、まず投稿された論文が編集者によるチェックを受けて、そ の内容からレビュアーが選ばれる.レビュアーは少なくともその論文の内容に ついてのエキスパートであることが求められている。しかも学術論文のレビュー では1つの論文にじっくり集中できるが、科研費の審査では審査委員は1カ月 の間に100課題くらいの申請書をこなさなければならず、1つの申請書をチェ クする時間は非常に限られる。 ===== Page 116 ===== また、科研費の場合は申請書の内容からふさわしい審査委員を選ぶのではな い。審査委員がまず決定されて、そこに申請書が送られてくる。審査委員は審 査分野の専門家といっても、必ずしもその分野のすべての範囲に詳しいとは限 らない。例えば、私がこれまで審査の経験がある内分泌学に限ってみても、自 分の専門であるペプチド・ホルモンについてはなんとかついていけるが、ステロ イド・ホルモンや甲状腺ホルモンなどになると自分の判断がおぼつかなくなる。 さらに平成30年度の公募から審査区分が大きく変更され、これまでよりも広 い領域での審査になった〔参照1章3:審査区分の種類、 1章4:審査のしくみ)。例 えば基盤研究(B,C)や若手研究では、私がこれまで応募していた「内分泌学」 は、従来の「代謝学」と合併されて小区分54040の「代謝および内分泌学関連」 で審査される(図3-6).そして基盤研究(A),挑戦的研究(開拓・萌芽)で は、「内分泌学」は中区分54「生体情報内科学およびその関連分野」において、 「血液および腫瘍内科学関連」「膠原病およびアレルギー内科学関連」「感染症内 科学関連」「代謝および内分泌学関連」の分野において審査される(図3-7). また基盤研究(S)では臨床医学全部が含まれる大区分「I」において審査され る、つまりどの種目に応募するときでも、自分の研究領域以外の審査委員が加 わるということだ。そのため、これまで以上に申請書のわかりやすさが求めら れ、関連分野の研究者であるが必ずしも専門家とはいいにくい審査委員にも研 究内容をしっかりと理解してもらえるように書く必要がある。 こういったことから、科研費の申請書は学術論文よりも、もっとわかりやす く書くことが必要になる。審査委員は応募する審査区分の関連分野の専門家で あるが、他分野の審査委員よりもその分野に少し詳しいくらいに考えて、内容 Column 審査委員はあなたの申請書を何分見るか? 審査委員はあなたの申請書を何分間チェック するだろうか?「何分でなく、何時間じゃない の?」いいえ、そんなに時間をかけるワケがあ りません。 第1段審査において1人の審査委員には申請 書が平均 100件送られてくる。審査期限はほぼ 1カ月.申請書を読んで、採点とコメント(審 査意見)をネット経由で記入しなければならな い。最近ではすべての申請書に何らかのコメン トを書くことが求められていて、これに結構時 間がかかる. かなり(というか、すごく!)良心的な審査 委員がいて、1つの申請書を読むのに30分、採 点とコメントに15分かけるとすると、合計で 1課題に45分.45分 100で4,500分=75 時間、一日に5時間を審査に費やすとして、15 日間必要. さて、あなたの指導教官にはこんな時間があ るだろうか?難しいのでは、だから読んですぐ に理解してもらえるような申請書を作成するこ とが必要なのだ。 (116) 科研費獲得の方法とコツ 第9版 ===== Page 117 ===== 申請書を書く前の注意点 平成29年度までの応募分野の細目 細目 番号 細目名 分割 キーワード(記号) (1)エネルギー・糖質代謝異常 1 8207代謝学 2 (2)メタボリックシンドローム、(3)脂質代異常、(4)プリン代異常、(5) 骨・カルシウム代朗異常、(6)電解質代異常 (1)内分泌学、(2)生殖内分泌学 8208 内分泌学 現在の応募の審査区分 小区分 内容の例 対応する中区分、大区分 中区分 大区分 54040 〔代謝および内分泌学関連) エネルギー代湖、糖代、脂質代謝、プリン代謝、骨代謝、電解質代謝、内分泌学、神 経内分泌学、生殖内分泌学、など 54 図3-6・従来の応募分野細目と、審査区分(小区分)との比較の例 これまで「代謝学」と「内分泌学」に分かれていた応募分野が、審査区分に変更されたことによって「代謝および 内分泌学関連」になった。 章 中区分54:生体情報内科学およびその関連分野 小区分 54010 血液および腫瘍内科学関連 54020膠原病およびアレルギー内科学関連 54030 感染症内科学関連 54040代謝および内分泌学関連 図3-7●現在の応募の審査区分(中区分) 中区分では、さらに広い範囲の分野が含まれている。 を検討しなければならない。申請書はわかりやすく書くこと。ともかく、これ に尽きる。審査委員はこの申請内容については予備知識も何もなく、まったく 知らないと思っておくことだ。 「わかりやすく」とは抽象的でわかりにくいが、私が考える「わかりやすく」 のレベルは、次の通りである。 ①申請しようとしている分野と異なる分野の人にもわかる。少なくとも近い 分野の研究者ならばわかるレベル ②ポスドクはいうまでもなく、大学院生でも読んである程度わかる ③恥ずかしいくらいにわかりやすい文章でよい ④やさしく書きすぎたというくらいがちょうどよい →申請書のわかりやすさの程度 審査委員は応募する審査区分の分野にいるものの,応募するテーマに精通し ている専門家とは限らない。申請書の内容については何も知らないと考えて わかりやすく書く. ===== Page 118 ===== 赤ペン添削 HB3 ● case 08,13 ●申請者のギモン3 赤ペン添削 HB3 ●case 03, 09, 10. 12 赤ペン添削 HB3 ●case 06, 07 わかりやすい申請書にするためには わかりやすい申請書にするためには、文章と内容の両方のわかりやすさが水 められる。申請書のレイアウトや図などを工夫して読みやすくすることも重要 だ.また「わかりやすさ」は次の項の「具体的に書く」こととも密接に関連し ている、わかりやすい申請書にするための、いくつかのポイントを以下に書い ていく・ 文章をわかりやすくするためには ・専門用語を使いすぎない。使うべき専門用語を絞る。その専門用語は一般的 か、説明なしで使って大丈夫かを考える。 ・文章は短く、長い文章は避ける。 1つの文章はなるべく2行以内にする。 ・人に説明することを意識して書く、人に説明するときには、理解してもらえ るようにいろいろと工夫するはずだ。 ・漢字を多くしすぎない。漢字が多いと申請書の見た目が黒くなり、読む側は 圧迫感を感じる. 内容をわかりやすくするためには ・具体的に書く. 内容をわかりやすくするためには、なんといっても「具体的に書く」こと。 しかしこれが実に難しい。「具体的に書く」ためのヒントは次の項に書いてある。 ・各段落の冒頭にその段落のまとめの文を1~2行で書いておく、あるいは結 論を先に書いておく. ・箇条書きを使う.ただし使いすぎに要注意 ・重要なことを示すときには「重要なことは」と最初に書いておいてから説明 する. 同じく、学術的「問い」をしっかりと示すためには「この研究の学術的「問 い」は』と書いて説明すればよい。このように書くと、間違いなく重要なこ とや「問い」をはっきりと示すことができる。 レイアウトや読みやすさに注意を払う ・文章をひとまとめに書かないで、いくつかの段落で構成する。 ・適宜、余白行を入れる。記載項目の間には必ず余白行を入れること。 ・効果的な図を用いる。 ・読みやすく、きれいなフォントを使う. (118 科研費獲得の方法とコツ 第9版 ===== Page 119 ===== 申請書を書く前の注意点 具体的に書くために 申請書の内容をわかりやすくするために一番重要なのは、「具体的に書く」こ とである、抽象的な(というよりも具体性に欠ける)文章は頭に残らないが、 具体的な文章は読んでイメージしやすいし頭に残りやすい.次の文章を読んで どのように感じるだろうか. 「この研究では、構造情報にもとづいてアミノ酸置換を行い,〇〇受容体へ の結合実験を行う」 「本研究の目的は森鴎外の「渋江抽斎」を対象として、儒学と医学の諸様相 を調査することである」 申請者本人は具体的に書いているつもりだろうが、私にはあまり具体的にイ メージできず、その内容は審査委員にきちんと伝わっているのだろうかと疑問 に思う.「実験を行う」「調査する」は確かに具体的な行動だ。しかし重要なの はその先の「そして、どうするのか?」だ。そこまで詳しく書いて、初めて具 体的な内容になる。この例でいうと、 「この研究では、構造情報にもとづいて〇〇受容体のいくつかのアミノ酸置 換を行い,そのアミノ酸がリガンドの受容体への結合に必要かどうかを明 らかにする」 「本研究の目的は森鴎外の「渋江抽斎」を対象として、近代化における儒学 と医学の関連を調査し、近世の死生観の変化を追跡することである」 のように、ほんのちょっとした言葉や説明を付け加えるだけで、より具体的な 文章になる。 文章を具体的にするための、いくつかのポイントは、 ①詳しく説明する すでに書いたように、少し説明を加えるだけで文章はより具体的になるもの だ、「その先は?」を意識して書いていくこと。 ② 例をいくつか示す 研究に関する具体的なものの名前や方法などを2~3あげる。例えば「摂食 調節ペプチドの作用を調べる」を「グレリンやレプチンなどの摂食調節ペプチ ドの,視床下部弓状核の神経細胞に関する作用を調べる」とする。 ③数字をあげて説明する 例えば「日本の食品産業は世界でも大きな割合を占めている」を「日本の食 品産業は世界第3位の規模を誇り、国内総生産でも約1割を占める」とする。 (119 ===== Page 120 ===== 自分の書いた内容は、自分にはよくわかっているので、つい簡単に書いてしま いがちだ、常に具体的かどうかを意識しながら、申請書を書いていってほしい。 申請書のカラー化への対応 令和7年1月現在、審査資料である申請書が電子化・カラー化されているの は、「特別推進研究」「基盤研究(S)」「研究活動スタート支援」「奨励研究」「学 術変革領域研究(A,B)」「学術変革領域研究(A)(公募研究)」「国際共同研 発強化」「帰国発展研究」である。これらの種目において、審査委員は応募課題 の研究計画調書(PDFファイル)の電子媒体を、ブラウザ上で閲覧して審査す るか、あるいはダウンロードしたものをパソコンやiPadなどのタブレットを用 いて閲覧して審査を行う。重要なことは、申請者が色を付した図や文字が使用 された研究計画調書は、カラーのまま審査されるということだ。やはり図や写 真などはカラーの方が理解しやすいし、色文字も使い方によっては非常に効果 的だ 基盤研究(A.B, C),若手研究,挑戦的研究については電子化・カラー される時期はまだ未定であるが、いずれそうなると思われる。そのときに備え て、申請書をカラーで作成することにおいて注意すべき点をいくつかあげてお こう. ・まず、色を使い過ぎないことが第一 色数が多すぎたり、派手すぎるとどこに目をやっていいかわからなくなる。 ・とくに本文中で色文字にするところは少なめに、たとえ1色の使用でも、こ こぞというところだけに使う. 色文字も強調文字の1つである.太字や下線などの強調文字の使いすぎと同 じく、色文字の使い過ぎも本当に重要な部分がわかりにくくなる。 ・いくつかの異なった色を使うのではなく、赤文字だけに限るのがよい。 太字や下線などの強調表現と同じく、色数を使いすぎると本当に重要な部分 がどこかわからなくなる。 ・図やイラストでは、学術論文や総説と同じ使いを心がけること、派手な色 使いを避け、原色ばかり使わない。 ・本文でも図やイラストでも、一番目をいかせたい箇所はどこで、そこに効果 的に色を使えているかどうかをよくチェックすること、 (120 科研費獲得の方法とコツ 第9版