===== Page 194 ===== 15挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書について 挑戦的研究の採択はとても難しく、そして申請書はとても書きにくい。挑戦 的研究(開拓・萌芽)の採択率はかなり低く,挑戦的研究(開拓)で10.9%, 挑戦的研究(芽)で11.8%であった〔和6(2024)年度新規応募分の採択結 果).しかも基盤研究(S,A,B)との重複申請も可能なので、科研費のベテラ ンが多数応募する。そのため、採択はとても難しいと思って応募しないといけ ない。 挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書の構成 申請書について挑戦的研究(開拓・萌芽)は基盤研究とは異なる部分がいく つかある(Web入力項目は基盤研究と同様に前半・後半の2つがある).以下 で見ていこう. ①研究計画調書の概要(概要版)を2ページで作成する。 「概要」として、「本体」(以下の②③)から「研究目的及び研究方法、応募者 の研究遂行能力」,「挑戦的研究としての意義(本研究種目に応募する理由)」 の内容を簡潔にまとめて書く(図3-80).「概要」は、応募件数が多いとき のプレスクリーニング(事前の選考)に使用されるので、とても重要である。 ②(萌芽)の「本体」は「研究目的及び研究方法、応募者の研究遂行能力」を2 ページ(図3-81),「挑戦的研究としての意義(本研究種目に応募する を1ページ(図3-82)にまとめる。 ③(開拓)の「本体」は「研究目的及び研究方法」を3ページ、「挑戦的研究と しての意義(本研究種目に応募する理由)」を1ページ、「応募者の研究遂行 能力」を1ページにまとめる。 「挑戦的研究の意義(本研究種目に応募する理由)」は挑戦的研究の最も特徴 的な部分だ。研究の着想に至った背景、またなぜ挑戦的研究への応募なのか を、しっかりと説明しなければならない。 挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書の書き方 ここでは挑戦的研究のうち、「萌芽」に絞って、どのように申請書を仕上げて いけばいいのか、その要点をまとめていこう。 挑戦的研究(芽)の申請書だが、中心となるのは2ページの「概要」(前述 の①) と3ページの「本体」(前述の②)である。重要なのが2ページの研究計 画調書の概要(概要版)で、挑戦的研究への応募者が多数の場合(おそらく今 (194 科研費獲得の方法とコツ 第9版 ===== Page 195 ===== 15挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書について 研究計画調音の根要 研究計画調に記載した「1研究目的及び研究方法、応募者の研究遂行能力」「2挑戦的研究としての意義(本研究種目に 応募する理由)」について、その概要を2頁以内で簡潔にまとめて記述すること。 ※本研究種日では本欄に研究計画調書(¥cb入力項日)の前半部分を加えた「研究計画(抵要版)」のみによる事前の選 考を行う(応募件数が少ない審査区分では、事前の選考は行わない)。本様式は番血査では参照できないため注意する 図3-80・挑戦的研究(萌芽)の「研究計画調書の概要(概要版)」の解説部分 令和7年度挑戦的研究(萌芽)の申請の実例. 1研究目的及び研究方法、応募者の研究遂行能力 本研究種目は査区分表の「中区分」で楽査される。記述に当たっては広い分野構成で多角的視点から審査が行われるこ とに往意すること。 ① 本研究の目的 ② その研究目的を達成するための研究方法(研究体制(「研究組織」にある研究者及び研究協力者のそれぞれの役割)を (3 応募者の研究遂行能力(これまでの研究活動(主要な研究業績を含む)の具体的な内容等必要に応じて今回の研究構想 に直接関係しないものを含めてもよい。また、国際共同研究の実施歴や海外機関での研究歴等がある場合には必要に応 じてその内容を含めること。) について、2頁以内で無点を絞って具体的かつ明確に記述すること。 図3-81・挑戦的研究(萌芽)の「研究目的及び研究方法、応募者の研究遂行能力 の解説部分 令和7年度挑戦的研究(萌芽)の申請書の実例。 い 2挑戦的研究としての意義(本研究種目に応募する理由) 本研究種目は、これまでの学術の体系や方肉を大きく変革・転換させる在性を有する挑戦的研究を募集するものであ る。 ① これまでの研究活動を踏まえ、この研究構想に至った背景と経緯 ②学術の現状を踏まえ、本研究構想が挑的研究としてどのような意義を有するか、環素的性質の強い、あるいは芽生え 期の研究計画である場合には挑戦的研究としての可能性を有するか について1頁以内で記述すること。 図3-82・挑戦的研究(萌芽)の「挑戦的研究としての意義(本研究種目に応募す る理由)」の解説部分 令和7年度挑戦的研究(明芽)の申請書の実例。 後も多いと予想される),この部分で事前のプレスクリーニングが行われ、20~ 30%くらいに絞り込まれる。そのあとに本体を読んでの本審査が行われ、採択 課題が決定される。 挑戦的研究の審査は65の中区分で行われる。そのため申請書の内容はより 広い研究分野の審査委員を対象としてわかりやすく書いていかなければならな い。例えば、私がよく応募する「内分泌学」は、中区分においては「生体情報 内科学およびその関連分野」として「血液および腫瘍内科学関連」「膠原病およ びアレルギー内科学関連」「感染症内科学関連」「代謝および内分泌学関連」を 含んでいる。つまり内分泌関連以外の研究者も審査に加わるということだ。 さて、概要は2ページで、本体は3ページ、要するに概要は3ページの内容を 2ページにまとめる。しかも書くべき内容はどちらも「研究目的及び研究方法、 応募者の研究遂行能力」と「挑戦的研究としての意義」である。 (195 ===== Page 196 ===== 本体では「研究目的及び研究方法、応募者の研究遂行能力」には、「①本研究 の目的、②その研究目的を達成するための研究方法、③応募者の研究遂行能力」 を2ページで書く。「挑戦的研究としての意義」には、「①これまでの研究活動 を踏まえ、この研究構想に至った背景と経緯、②学術の現状を踏まえ、本研究 構想が挑戦的研究としてどのような意義を有するか、探索的性質の強い。ある いは芽生え期の研究計画である場合には挑戦的研究としての可能性を有するか」 を1ページで書く・ 挑戦的研究の「概要」と「本体」の書き方 この「概要」の2ページと、「本体」の3ページを、どのように書いていった らいいのだろうか?2つのバージョンの整合性を保つために、まず「本体」を しっかり仕上げて、それをもとに「概要」に圧縮していくのがよい。そのうえ で、1つの築だが、以下のように書くのはどうだろうか。 ①概要では、研究目的(背景や問題点)を充実させる。 ②本体では、研究計画・方法を充実させる。 ③概要には図を多用する。 要するに、全部で5ページのものを書くつもりで、概要では研究目的に比重 を置いて、本体では研究計画を重視して書く、概要はプレスクリーニングに使 われるのだから、まずは研究の意義を審査委員に十分に理解してもらわないと いけない。そこで概要では、研究目的を重視して書く。 概要の2ページの案として、1ページ目に研究目的をしっかりと書いて、2ペー ジ目に研究計画、申請者の研究遂行能力,挑戦的研究の意義を書く、本体「研 発目的及び究方法,応募者の研究遂行能力」の2ページの構成としては、 究日的を1ページ目の1/3,そのあとに1ページと1/3ページを研究計画、残り の1/3ページ分を研究遂行能力の説明にあてる〔参照巻末の実際に採択された申請 書②). 「挑戦的研究としての意義」 書くのが最も難しいのが「挑戦的研究としての意義」(従来の申請書の「研究 の斬新性・チャレンジ性」の欄に相当)である。申請書には「これまでの学術 の体系や方向を大きく変革・転換させる潜在性を有する」挑戦的な研究とあり、 (芽)については、「探索的性質の強い、あるいは芽生え期の研究計画も対象 としている」とある。これが難しい。 まず「これまでの学術の体系や方向を大きく変革・転換させる潜在性を有す 196) 科研費獲得の方法とコツ 第9版 ===== Page 197 ===== 15挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書について る」研究だが、はっきりいって、そのような研究がいつもあるわけがない。「学 術の体系」の変革や転換を起こす研究が、そんなにしばしばあるのなら研究者 は苦労しない。また自分の経験からも、研究をやっている途中ではわからない のだが、研究が進んで初めてその意義というか、重要性がわかるということがあ る。多くの研究では、その未来の意義は予測できないのだ、そうかといっても、 ここには何かを書かないといけない。そこで、次のような内容はどうだろうか? ①異分野の研究を融合させるもの 異分野からの手法や概念を別の分野に持ち込む研究、つまり異分野への挑戦だ。 ②何か新しいものを探す研究 を書くのもよい。「萌芽」においては、「探索的性質の強い、あるいは芽生え 期の研究計画」も対象なのだから、例えば想定されている新しい因子などを 探す研究を書くのもよい。 ③どうなるのか先の結果が予想できない研究 ハイリスクだが、うまくいったときに大きな成果が期待できる研究。例をあ げるのは難しいが、例えば発見した新しい生理活性ペプチドについて、その 生体内での機能を明らかにする研究など、 こう書いてもやはり難しい.「これまでに行われていない研究だから」では不 十分.それは、どの研究もこれまでに行われていない研究だからである、この ようなときは、「この研究がこれまでに行われていないのはなぜか?」その理由 を書くといい。実現を阻む難しい点はなんなのか、その理由を書くと、なぜ挑 戦的なのかが理解してもらいやすい。そしてどのような手段や方法で、この問 題点を解決するのか、解明のためにどのようにチャレンジ(挑戦)をするのか 書けばいい。 実際に書くにあたっては説明欄(図3-82)にあるように,「①これまでの研 発活動を踏まえ、この研究構想に至った背景と経緯」と「②学術の現状を踏ま え、本研究構想が挑戦的研究としてどのような意義を有するか~」とに分けて 書く方が書きやすいし、審査委員も読みやすく理解しやすい。 ①では、申請者がこれまでに行ってきた研究内容を解説して、それが今回の 構想にどのように活かされているのかをしっかりと示すこと。挑戦的研究といっ ても突拍子のない構想ではなく、これまでの研究成果をもとにした実現可能な ものであるべきだからだ。 ②では、この研究がうまくいったときに、何が明ら かになるのか、どのような応用ができるのかなどを大いにアピールしよう。 なお、令和5年度の挑戦的研究(芽)に採択された申請書の「挑戦的研究 としての意義」が見本になるので、こちらも参照してほしい(図3-83). 97 ===== Page 198 ===== 挑戦的研究(萌芽)3 2挑戦的研究としての意義(本研究種目に応募する理由) 本研究種目は、これまでの学術の体系や方向を大きく変革・転換させる潜在性を有する挑戦的研究を募集するものです。 ① これまでの研究活動を踏まえ、この研究構想に至った背景と経絡 ② 学術の現状を踏まえ、本研究構想が抗戦的研究としてどのような意義を有するか、探索的性質の強い、あるいは芽生え 期の研究計画である場合には挑戦的研究としての可能性を有するか 申請者のこれま での研究内容 着想した点 挑戦的研究と しての意義(コ アの部分) 未解明・未解決 な点 この研究がうま くいったときに 明らかになるこ と、応用など これまでの研究活動を踏まえ、この研究構想に至った背景と経緯 申請者はこれまでに、当時オーファンGPCRであったGHSRの内因性リガンドとして、食欲を 刺激するペプチドホルモンのグレリンを発見した。申請者はその後、久留米大学で研究室を主催 し、次のリガンド探素のターゲットとするオーファンGPCRを探していたときに、消化管幹細胞 マーカーのLGR5の論文を読んだ (Barker el al. Nature 2007)。その中で カーであるのに、その分子の実態はリガンド不明なオーファンGPCRであることを知って、 LGR5にとても興味を持ち、その内因性リガンドを発見したいと考えた。そして消化管組織の 出物から内因性リガンドの探索を行ってきたが(2011~2012年度の挑戦的萌芽研究:消化管幹 細胞に作用する新しいペプチド・ホルモンの探索と腸管粘膜事生への応用)、その同定までには 至らなかった。その理由として、従来の方法ではリガンドが変性して効率よく抽出されて こと、内内性リガンドが幹細胞のある一定の時期にしか発現されないこと、幹細胞自体の数が少 ないためリガンドの存在量が揃めて少ないこと、などが推測されている。 ヒトとショウジョウバエではリガンドの構造的特徴や機能が保持されている例が多い。このこ とから申請者は、哺乳類のLGR5がショウジョウバエのdlI.GR2にホモロジーが高いのな その内因性リガンドはショウジョウバエのバーシコンに構造的特徴が類似している可能性が高い と考え、本研究計画を構想した。 ②本研究構想が挑戦的研究としてどのような意義を有するか、探索的性質の強い、あるいは芽 生え期の研究計画である場合には挑戦的研究としての可能性を有するか (未知のリガンドを発見する意義) 生体内には内因性リガンドが不明なオーファンGPCRが数多く存在し、そのリガンドの同定は 未知の生理作用の解明や、治療薬の開発などにつながる。これまでにオーファンGPCRをターゲ ットとして発見された内因性リガンドのうち、治療薬として臨床応用されている代表的なものに ペプチドホルモンのグレリン(申請者が発見)やオレキシンなどがある。グレリンについては、 グレリン様作用を持つ低分子アゴニスト(アナモレリン)が「がん悪液質」の治療薬として 2021年より臨床応用されており、オレキシンのアンタゴニストは不眠症の治療薬となっている。 このようにオーファンGPCRの研究から発見された内因性リガンドは、その生理作用の解明から 治療薬へと応用されることが多く、未知の内因性リガンドを発見する意義は非常に大きい。 (LGR5の内因性リカンド同定によって、LGR4とLGR6のリカンドも明らかになる) LGR5は、LGR4およびLGR6とアミノ酸売列の ホモロジーが高く、受容体ファミリーを形成して いる。この3つの受容体はいずれも幹細胞のマー カーとして知られているが、全て内因性リガンド が不明なオーファンGPCRである。 右の表に1.GR4~6を発現している幹細胞や、久 損させたときの表現型をまとめてある。これらの 久損マウスの解析から、LGR4~6は発生や分化に 関連していることが示唆されているが、その機能 の詳細はまだまだ不十分である。それはリガンド が未同定であるために、リガンドがどのような刺 数で、どこの組織・細胞から分泌されるのか、リ ガンドが受容体に結合してシグナル伝達を行ったときに幹細胞にどのような変化があるのか、な どが不明なことによる。 LGR5の内因性リガンドが発見されれば、LGR4とLGR6の内因性リガンドについても大 報が得られ、結合するペプチドホルモンの正体が明らかになると思われる。そして、LGR4~6 の内内性リガンドが発見されれば、発生・生の研究分野へ大きな貢献ができると期待される。 本研究は探索的性質の強い挑戦的な研究である。そのため研究期間内に目的のリガンドを発見 できない可能性も大いにある。これまでのペプチドホルモン探索の経験を活かして、ぜひとも新 しいペプチドホルモンを発見したいと考えている。 図3-83●「挑戦的研究としての意義」の見本 令和5年度挑戦的研究(萌芽)の申請書の実例. (198 科研費獲得の方法とコツ 第9版 ===== Page 199 ===== 15挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書について 実現可能性の示し方 さて、挑戦的研究でも、他の種目でもそうだが、採択のための評価において 重要なことは「実現可能」かどうかである。いくら挑戦的研究であっても、まっ たく実現できる可能性のないもの、可能性の低いものは審査委員の評価も高く ない。審査委員にとっては、研究目的の斬新さはもちろんだが、「本当にできる のか?」というのが重要な判断基準だ. その実現可能性をどうやって示せばいいのか?申請者がただ「できます」と書く だけではだめだということはわかるだろう。申請者がこの研究計画を実行できると いう、客観的な証拠や裏付けが必要だ、それはどのようにすればいいのだろうか 最もよい方法は、予備的な実験や調査のデータを示すことだ。「現在、この例 究テーマに関して、すでに研究を進めていて、次のような興味深い実験データ を得ている」と、実験データとともに示すことができれば、このテーマの実現 可能性を大いにアピールできるだろう。また、これまでにやってきたこと、こ れまでの研究成果やマスターしている研究テクニックを申請書にきちんと書い て、実現可能性をアピールすることだ〔参照図3-59、図3-65.図3-66,お その周囲の文章).さらに応募者の研究遂行能力には「これまでの研究活動(主 要な研究業績を含む)」とあり、これまでの論文発表や学会発表を示して、実績 をアピールする必要がある〔参照図3-31,図3-71、およびその周囲の文章)。 Web入力項目(前半)の「研究の要約」の仕上げ方 Web入力項目(前半)には、基盤研究や若手研究と違って「研究の要約」と いう欄がある.これは基盤研究や若手研究の申請書の最初にある「概要」(10 行程度)に相当するものだが、より記載できるスペースが大きい。そのため余 裕をもって書いていけるが、あまり書きすぎるのはよくない。基盤研究の「概 要」の書き方と同じく、本編ができあがってから「研究の背景と「問い」」「研 究目的」「研究方法」「研究の展開・応用」に相当する部分を抜粋してコンパク トにまとめる(図3-84). また、ここには「応募者の研究遂行能力」を書く必要はない。あくまでもこ こは「研究の要約」である。研究内容に絞って書いていくのがよい。 最後にもう一度いっておきたいのは、挑戦的研究の採択はとても難しく、そ して申請書はとても書きにくいということ、しかしチャレンジする価値のある 研究テーマならば、挑戦的研究への応募も考えてみるのはいかがだろうか. 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