===== Page 60 ===== いだろうか。若手研究者は中堅~ベテランの研究者を見て育つ.研究費の獲得 に苦労して研究を十分に進めていけない中堅~ベテラン研究者を見て、若手研 究者は研究者としての夢を抱くことができるとは思えない。 また研究期間を長くする傾向もみてとれる。例えば基盤研究(C)を例にと ると、この8年間で全体の応募件数は1.25倍(36.461件→45,713件)に増え に対して、研究期間を4年間で申請したものは2.04倍(3,417件→6,975 5年間にしたものは2.50倍(1563件→3,905件)に増えた. 1つの研究に費や 時間がより長くなってきたためなのか、あるいは研究費においても先行き不透 明なこの時代,長く安定したものを求める研究者が増えてきたためだろうか。 7 科研費の基金化、調整金、合算使用、バイアウト制度 科研費の基金化 科研費の基金化によって、いくつかの種目では研究期間内(通常は2~5年) の配分金額が一括して交付され、年度の区切りを気にせずに、自由に使える(図 1-13).ただし「自由に」というのは、その年度の研究費の額を自由に変更で きるということで、何に使ってもいいということではない。研究経費の内訳は Column 科研費若手支援プラン(CIO)への期待 いつの時代でも、また社会のどの分野でも、 「若手育成」と「若手支援」は重要な課題であ る.科研費においても、これまで「若手研究」 や「研究活動スタート支援」として若手研究者 のための種目の充実が図られてきた。そして現 在では「科研費若手支援プラン(CIO)」とし て、「研究者のキャリアに応じた効果的な支援 策を切れ目なく展開する施策パッケージ」が実 施されている。この「科研費若手支援プラン」 によって「若手研究」と「研究活動スタート支 援」の若手対象の種目だけでなく、「基盤研究」 においても若手が優先的に採択されている。例 えば図1-12にあるように、39歳以下と40歳 以上では採択率にかなりの差がある、また「国 際共同研究加速基金」においては「国際共同研 究強化」は若手研究者が対象であるし、「海外 連携研究」では若手の参画が応募要件であった (「海外連携研究は令和7年度公募から停止). さらに令和2年度公募から開始の「学術変革領 域研究」の「学術変革領域研究(B)」は研究代 表者をはじめとして、若手が中心となって進め る領域研究である。このように若手研究者への 支援策はかなり整備されてきた。 しかし「科研費若手支援プラン」において最 大の問題点は、支援の対象である若手研究者の 減少である。修士課程修了者のうち、博士課程 に進学するものの人数は減少を続けており、ま た39歳以下の大学教員の比率も減少を続けて いる。日本全体での若者人口はこの先も減少を 続けていくのだから、若手研究者の数もさらに 減少していく可能性が高い.「支援すべき若手 研究者がいない!」などとならないように、「科 研費若手支援プラン」がうまく機能するように 期待している。 60) 科研費獲得の方法とコツ第9版 ===== Page 61 ===== 17科研費の基金化、調整金、合算使用、バイアウト制度 例:研究期間での交付金額の合計=350万円の場合 従来の配分方法 1年目 150万円 2年目 130万円 基金化されたときの配分方法 研究期間全体で350万円 図1-13●科研費の基金化概念図 完全に基金化されている基盤研究(B、C),若手研究、挑戦的研究(開拓・頭芽)、研究活動 スタート支援、特別研究促進費、国際共同研究加速基金、特別研究員奨励費などがこの概念 図に相当する。 基本的には申請したときのものにしたがう.もちろん使途の変更は可能である。 基金化の導入は科研費にとって「抜本的な制度改革」(文部科学省の資料によ る)であり、 ①研究の進展に合わせた研究費の柔軟な執行による,研究活動の活性化 ②「予算の使い切り」がなくなるなど、予算のより効果的・効率的な活用 ③従来と比べ,研究者はより研究に専念することができる ことが期待されている。 科研費のそれぞれの種目において2025年3月の段階で基金化されているのは、 基盤研究(B,C),若手研究,挑戦的研究(開拓・萌芽),研究活動スタート支 援,特别研究促進費,国際共同研究加速基金,特別研究員奨励費である。 基金化の具体的なしくみ 基金化によって研究費の使い方が変わるだけで、科研費の応募、審査,採択 などはこれまでと同じである。基金化された研究種目は次のように運営されて いる. 科研費の応募者は従来と同じく、申請時に各年度ごとの研究経費を計上する 国から日本学術振興会に学術研究助成基金として予算が移される 新規に採択された研究課題には、研究開始年度に研究期間全体の交付金額が決 定される(従来は研究期間が複数年度であっても、1年ごとの交付予定額になっ ていた) ↓ 申請した研究経費にもとづいて、各研究者に1年ごとの研究費が配分されて研 究がスタートする + 1 章 3年目 870万円 9 ===== Page 62 ===== 必要に応じて次年度以降に予定している研究費を先に使ったり(前倒し)、ある いは年度末に使い切れなかった研究費を次年度以降に回す(繰り越し) 例えていうと、銀行に研究費をまとめて預けておいて、自由に引き出せたり、 あるいは余った分を預金できるようなイメージだろうか。研究期間内ならば、 研究費配分額を研究者の判断で自由に変更できるようになったのだ. このように科研費の基金化は、研究費を非常に柔軟に使うことができる制度 であるが、研究者としては、研究費の管理と執行において不正使用がないよう にこれまで以上に注意しなければならない。 調整金によって基金化されていない種目も使いやすくなった 完全に基金化されている基盤研究(B,C),若手研究,挑戦的研究(開拓・ 萌芽),研究活動スタート支援、特別研究促進費については、研究期間内であれ ば年度の区切りに関係なく研究費を使うことが可能である。従来、基金化され Column 研究費はいくら必要か? 以前,三菱財団の研究費をもらったときに、 その財団の選考委員をしていた堀田凱蔵先生が 書いたエッセイを読む機会があった。そのなか に「研究者におとずれる3つの危機」について 書いてあった。その1つが「大型の研究費をも らったとき」とあって、「へえ」と思った(あ との2つは忘れた。すみません).時、独立 してラボをもったばかりの私には「大型の研究 費」などは夢の世界で、なぜなんだろうと思っ たことを覚えている。その後、運よくある研究 チームに加えてもらって、一般の研究費のレベ ルからみると、かなり高額の研究費をいただく ことができた。それをいただいた感想は、研究 費が多いのはよい。しかし、多すぎるのも大変 だということ、かなり贅沢な使い方をしても結 構な研究費が残るのだ。そのため年度末が近く なると、消耗品や試薬などの注文に追われた。 また大型研究費が終了したときに、膨らんだ研 究費予算を減らして、研究活動を維持するのが すごく大変だった。確かに「大型の研究費」を もらうのはよいが、いろんな難しいことが起こ るものだと実感した。研究に振り回されるので はなく、お金に振り回されたのだ。 さて、いったい,生命科学系のラボに研究費 はどのくらい必要なのだろうか?かつては (15年以上前は)ラボのメンバー1名あたり年 間150万円で計算すると、研究費を気にせずに 実験できる妥当な金額だった。PI, スタッフ、 ポスドク、大学院生、テクニシャン、秘書さん など、すべてのラボメンバーの人数分に150万 円をかければ、必要な金額の目安が計算できた。 全員で10名のラボとして、年間1,500万円が 必要な計算になる。消耗品から、ちょっとした 機器購入、人件費、旅費、論文別刷り代など全 部含めても、このくらいあれば十分だった。研 究費のうち半分は科研費で、あとは教室研究費 や民間財団の助成金などで賄うと、なんとか やっていけた。 しかし現在ではどうだろうか?私の実感とし ては、現在では1名あたり年間300万円で計算 しないと、十分な研究活動ができないような気 がするのだが、いかがだろうか? 62 科研費獲得の方法とコツ第9版 ===== Page 63 ===== 77科研費の基金化、調整金、合算使用、バイアウト制度 繰り越し制度 初の予定 今年度 150万円 変更後の研究費「120万円 30万円を繰り越し 次年度 130万円 1 章 計 160万円 調軽金として繰り越し: 繰り越し制度の要件に合わないとき、または繰り越し申請期限の後に繰り越す場合 今年度 次年度 初の予定「 150万円 130万円 前倒し 変更後の研究費120万円 未使用分 30万円 (一度、国庫に返納) 初の予定 今年度 150万円 変更後の研究費[ 計 160万円 調整金として 30万円繰り越し 次年度 130万円 100万円 計 180万円 調金として 30万円を前倒し 図1-14●繰り越しと前倒し 完全に基金化されていない種目において、「調整金」が設定されて、研究費を繰り越したり前倒しで使用できる (この場合の繰り越しは、繰り越し制度の要件に合わないときに繰り越せる制度である)。 ていない種目においては、余った分の翌年度への繰り越しは可能だったが、翌 年度の研究費の前倒し使用はできなかった。しかし、平成25年度から補助金 に「調整金」枠が設定されて、翌年度の研究費から前倒し使用が可能になった (図1-14). これによって基金化されていない種目でも、実質的には基金化さ れた種目と同じように研究費を使用できるようになった。 ●次年度への繰り越し使用 繰り越し制度によって、簡単な手続きと審査を経て、使い切れなかった研究 費は翌年度に使用できる。また、繰り越し制度の要件に合わないときや、繰り 越し申請の締切期限〔令和6年度は令和7(2025)年2月7日〕が終わったあと に繰り越さなければならなくなったときにも、余った研究費を次年度に回すこ とが可能になった。具体的には、未使用の研究費は一度国庫に返納して、次年 度に調整金として配分される(図1-14).したがって研究期間全体の配分額は (63 ===== Page 64 ===== 変わらない。なお、「調整金」による研究費の次年度使用には上限が定められて いないが、下限は未使用額で5万円以上(1万円単位)との規定がある。 ●前倒し使用 またこの調整金を使って、次年度以降の研究費を前倒しで使用することも可 能である。前倒しで使用した配分額は次年度以降の研究費から減額されるため に、配分額全体は変わらない(図1-14)・ この調整金は全種目の完全基金化までの一時的な制度であろうが、非常にい い制度だと思う. 科研費等の合算使用による共用設備の購入 研究者にとって科研費で高額の機器を購入するのは大変だ、近年、非常に高 額な実験装置が販売され、その機器の購入が研究の成否を分けることもある。 クライオ竜子顕微鏡などはその例だろう。しかし現実問題として、科研費では 特別推進研究などの一部の種目を除いて、基盤研究(B,C)や若手研究では高 額な実験装置を購入することなど不可能だった.その後、若手研究や基盤研究 (B,C) などが基金化されて研究費を年度を超えて使用できるようになった め、これまでよりも高価な機器を購入しやすくなった。それでも研究費の総額 によっては、購入できる機器には限度があった。 それが現在では複数の研究費を合算して共用設備を購入することが可能にな り,高額の機器をも購入することが可能となった。「共用設備」とは「複数の科 研費(研究課題)において共同して利用する」(文部科学省のホームページよ り)実験装置や研究機材などのことである。これは画期的なしくみである 2つ以上の科研費や、科研費と運営費交付金、あるいは科研費と寄付金など を合算して、共用設備を購入することができるのだ。2つ以上の科研費の合算 とは、同一研究者の科研費だけでなく、同じ研究機関に属する別の研究者の科 研費とも合算できる。しかし購入できるものはあくまでも、科研費の研究目的 に沿った必要な設備に限られるのはいうまでもない。 合算使用に関しては日本学術振興会の科学研究費助成事業ホームページ「科 研費FAQ」(https://www.jsps.go.jp/j-grantsinai て検索すると詳しい情報が得られる。 このように科研費の繰り越し手続きの簡素化や、科研費の基金化、そしてこ の合算使用による共用設備の購入など、ここ数年で急激に科研費は使いやすい ように変化している。 64 科研費獲得の方法とコツ第9版 ===== Page 65 ===== 科研費の基金化、調整金、合算使用、バイアウト制度 「研究以外」の業務代行経費としての「バイアウト制度」 「バイアウト制度」とは、研究者が研究時間を確保するために、研究以外の業 務の代行費用を、競争的研究費の直接経費から支出可能とする制度である。研 究以外の業務とは、①研究活動と②組織の管理運営事務以外で、「研究者が本来 行う必要がある教育活動等及びそれに付随する事務等の業務が対象となる〔例: 教育活動(授業等の実施・準備,学生への指導等),社会貢献活動(診療活動. 研究成果普及活動等)等〕」〔令和7(2025)年度科研費公募要領より〕.「競争 的研究費」にはもちろん科研費も含まれる。これまで直接経費で使えるものは 研究に直接間接にかかわるものだけであったが、「バイアウト制度」では「研究 以外」のものにも経費を使えることが画期的である。 「バイアウト制度」に関する経費は「その他」の費目で計上し、「事項」欄に 必ず「バイアウト」という文言を記載することになっている。また、この経費 は研究者が代行要員を雇用するための費用自体を指すものではなく、あくまで 研究者が代行要員雇用のために研究機関に支払う費用である。すなわち「バイ アウト制度」を実施するためには、研究機関において「バイアウト制度」に関 する仕組みが構築されていることが必要である。 「バイアウト制度」の詳細は、内閣府より公表されている「競争的研究費の直 接経費から研究以外の業務の代行に係る経費を支出可能とする見直し(バイア ウト制度の導入)について」(https://www8.cao.go.jp/cstp/ buyout_seido.pdf) を参照 →基金化と調整金、合算使用、バイアウト制度 ・基金化と調整金によって科研費は非常に使いやすくなった。 ・科研費やその他の研究費の合算使用によって共用設備の購入が可能。 ・「バイアウト制度」により研究以外の業務に科研費が使える。 今後への期待 近年、科研費の制度には画期的な改革が相次いで、現在は非常に使いやすく なった.しかし懸念すべきことは、研究費の不正使用が大きな問題となり、科 研費を使いやすくするための制度改革のはずが、逆に場合によっては使いにく くなっていることだ。すなわち、研究者よりもむしろ研究機関側が、不正使用 ととられかねないような便途のミスをおそれて、さまざまな理由書などの提出 や制限を設けていることだ。例えば申請書に書いている以外の機器購入をした 章 (65 ===== Page 66 ===== いときに研究計画に必要であるという理由書を(大学に)提出するとか、学会 参加と同時期に他の用件(例えば班会議など)に参加するときには、事務処理 が格段に面倒になるとかの例がある。事務処理があまりに面倒なので、自費で 出張するとかの例も聞く.このように表向きには使いやすい制度を謳っている のに、逆にさまざまな制限が多くなってきたと感じているのは私だけだろうか? まだ実現されていない科研費の大きな改革には、他に何があるだろう。簡単 なものでは審査委員のコメントを各応募者に開示することがある。現在では不 採択になった各申請者の審査結果はネットを通じて開示されているので、近い 将来、審査委員のコメントも公開されるようになるのではないだろうか?ま た、個人的には現在の1年に1回の応募でなく、1年間に2~3回の複数回の応 募ができるようになることを期待したい。 8 科研費に関する資料 科研費に関するウェブサイト ●日本学術振興会科学研究費助成事業 https://www.jsps.go.jp/j- 日本学術振興会のホームページには科研費に関する膨大な資料がある。科研 費申請のための公募要領から,研究計画調書、申請状況、採択課題に関するデー 夕、審査委員の名簿、などなど、これらは科研費に関する基礎資料として、一 度は見ておいた方がよいし、申請書作成において非常にためになる。 ●文部科学省科学研究費助成事業一科研費一 https://www.mext.go.jp/a_menu/shinko 文部科学省では現在、学術変革領域研究を扱っている。将来的には日本学術 振興会にすべて移行していくことが計画されている。また科研費の制度改革な どのニュースはここに発表されている。 ●KAKEN(科学研究費助成事業データベース) https://kaken.nii 国立情報学研究所がオープンにしている科研費採択研究課題のデータベース 〔参照2章3:採択課題の調査〕。検索機能も充実していて、誰がどのような研究課 題で採択されているのか、たちどころに知ることができる。1964年の採択課題 から現在まで、「よくもこれほどのデータを!」と驚くくらいの内容がある。 66 科研費獲得の方法とコツ第9版 ===== Page 67 ===== 8科研費に関する資料 ●GRANTS(研究課題統合検索) https://grants.jst. 令和3年6月30日から、KAKEN (科学研究費助成事業データベース)とJS プロジェクトデータベースが統合されて GRANTS(研究課題統合検索)の運営 が開始された.これは「国の政策等に基づき研究開発を推進する事業により行 われている研究課題について、実施機関や事業の壁を越えて統合的に検索でき るサービス」である.現在(令和7年3月)データベースに含まれているのは KAKENとJST プロジェクトだけだが、今後は他機関が展開する研究課題も含 まれていく予定だ。 ●大学等のホームページ ネット上には科研費申請書の書き方についてのセミナーの資料などもあり、 現場の生の資料として非常に貴重だ。「大学科研費申請書の書き方」などで 検索すると、いろんな大学などで使用された申請書作成のための資料が得られ る。役に立つものも多いので、十分に活用して欲しい。 Column 初めての科研費(Bくんの場合) 学生のころ。申請書の様式が科研費と大きく 変わらない学術振興会特別研究員に応募して書 面審査の段階で全敗(2戦2敗)。そんな自分が 科研費申請では幸いにもこれまで3戦全勝、な ぜ戦績が大きく好転したかを考えてみると2つ の心当たりがある。 1つは、申請書を作成するためのノウハウを 得たことだ。今,特別研究員に応募した際の申 請書を読み返してみると、何から何まで自己満 足に陥った内容であり不採用になって然だと 思う.では、まともに申請書を書けなかった自 分がどのようにしてコツを得たのだろうか?自 分はポスドクとして職に就くと6年間は科研費 申請の資格がなかったが、この間に研究費獲得 において百戦錬磨の先生の申請書・報告書作成 にかかわる機会が多くあり、これらを参考にし て自分なりに良質な申請書を作成するための方 法を整理することができた。当初は下働きで迷 惑とすら感じていたが、今となってはたいへん 貴重な経験ができたと思う. もう1つは、研究費申請に対する心構えの変 化だろう。学生のころに周囲の先生方の悪戦苦 闘を目の当たりにしたことや科研費の採択率が 低いこともあり、“科研費は獲得できればラッ キー”とお気楽に考えていた、今思い返せば、 不採択になった場合の言い訳であり、典型的な 負け犬根性でもあり恥ずかしい・・・・.この甘えを 一蹴したのが本書にたびたび出てくるK先生と の何気ない会話のなかにあった「科研費獲得は 研究者としてのプライド」という一言だった。 科研費獲得にかける熱い情熱に心を打たれて “不採択は許されない”と思うようになり、聞 争本能に火がついたことは今でも鮮明に覚えて いる。 この2つの出来事を経て初めての科研費申請 に挑めたことは幸運であり、そうでなければ恐 らく今でも科研費獲得に苦慮していただろう。 最後にK先生へ、「叱咤激励ありがとうござい ました」. 1 章 ===== Page 68 ===== 科研費に関する書籍 ●『科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第3版』 (児島将康/著),羊土社、2023 本書とタイアップして使用することを想定した申請書の実例とその添削例を 集めたハンドブック。申請書記載の項目ごとに、陥りやすいポイントとその改 良方法を記載している。ぜひ参考にしてください。 ●『科研費 採択される3要素 第2版:アイデア・業績・見栄え」 (郡健二郎/著)、医学書院、2017 科研費採択の実績十分の筆者が書いたノウハウ本.タイトルの「採択される 3要素:アイデア・業績・見栄え」とは、まさに科研費採択のための重要なボ イント.申請書の実例は医学系のものだが、多くの分野で役立つ内容だ.フル Column 初めての科研費(Cくんの場合) 大学院を卒業してそのまま同じ研究室でポス ドクになった1年目の秋.ボスから「科研費の 申請書を書きなさい」と言われました。それま で、研究費は「先生」といわれる人がとってき てくれるもんだと思っていた私は、少々戸惑い ながら自分なりに書いてみました。日ごろ、書 き物の添削はほとんどしてくれないボスでした が、このときは真っ赤っかになって返ってきま した. それからしばらくして「ポスドクの契約は1年 だから次,どっか探してね」と突然言われまし た。それまで、次どこに行くとかは「先生」と いわれる人が探してくれると思っていた私は、 少々戸惑いながら自分なりに何力所か面接を受 け、3月の春休みに引っ越しました。 全く知らない土地で、新しいボスと全く知ら ない人たちに囲まれ不安でいっぱいの4月初旬、 科研費採択のお知らせをいただきました。研究 費は自分がとらなくても部屋のボスがいっぱい とってくれるから落ちても大丈夫だと安易に考 えていましたが、今にして思うとなんとありが たかったことか。やっぱり自分の研究費がある のとないのとでは、気持ちの余裕が全然違いま した。自分の欲しい試薬を買うとき、行きたい 学会があったとき、ボスにお伺いを立てるのは ちょっとストレスでしたが、研究費をもってい ると比較的気楽にお願いすることができ、当時、 とても嬉しかったことを記憶しています。これ は前のボスからのプレゼントだったんだろうなぁ と思いました。 5年間、その研究室に所属しましたが、ボス に「いつ異動してもいいように自分の科研費で 異動先で必要な物を買っておけよ」とよく言わ れました。自分が次行く先には「先生」といわ れる人がすでに機械をいっぱいそろえてくれて いると思っていた私は、少々戸惑いながらも 遠心機は自分専用のがあったら便利だから買っ ておこう、という感覚で何点か備品を購入しま した. そして今、特任助教という身分ながらテニュ アトラック制度というなかで独立して研究して います。学生さんや補助員さんに「先生」と言 われ少々戸惑いながらも、移管手続きをして もってきた科研費で買った備品に囲まれながら なんとか生きています。これもまた前のボスか らのプレゼントだったんだなぁと思いながら。 68 科研費獲得の方法とコツ 第9版 ===== Page 69 ===== 科研費に関する資料 カラーの紙面はきれいだし、最新の申請書フォーマットに対応していなくても とても役に立つ本だ。 ●『ここはこう書け!いちばんわかりやすい科研費申請書の教科書』 (科研費.com/著),講談社、2023 「科研費.com」のサイトをもとに書籍化したもの。文例やよくある間違いな ど豊富に掲載している.「科研費.com」のサイトにもいろいろな書き方のコツ が解説されているので参照してみるとよい。 ●『学振申請書の書き方とコツ改訂第2版 DC/PD獲得を目指す若者へ』 (大上雅史/著)、講談社、2021 日本学術振興会特別研究員の申請書に特化した本だが、科研費申請において も役に立つ. ●『狙って獲りにいく!科研費 採択される申請書のまとめ方』 (中嶋亮太/著)、すばる舎,2022 表紙の上部に「審査委員の目にとまる、心をつかむ」とあるように、審査委 員の立場から申請書をどのように書いていったらよいのかが詳しく書かれてい る。巻末には採択された申請書の実物見本もあり、とても役に立つ本だ。 その他、役に立つ資料 実物の科研費申請書が、なんといっても一番役に立つ資料だ、申請書提出と ともにコピーをとって保存してあるラボもあるだろうし、知り合いに見せても らうこともできるだろう.大学の事務によっては過去の申請書を見せてもらえ るかもしれない。巻末に実際に採択された申請書の実例を2本、付録として掲載 しているので、ぜひ参考にしてほしい。 なお、採択された申請書もためになるが、採択されなかった申請書もすごく 役に立つ。何が悪いのか、自分のことはなかなかわからないものだが、他人の ことはよくわかるものだ。 1 章 (69