===== Page 3 ===== 第9版のはじめに 令和5年度に科研費の改革が一段落となり、当面は大きな変化がないと予想され ていたが、令和6年に行われた和7年度公募に手び大きな変更が加えられたこと から、今回の改訂となった. 令和7年度公募で最も注目すべき変更点は、基盤研究(A,B,C)における「国 際性」の評価項目の導入である。日本の科学研究レベルの低下が指摘されて久し い(具体的にいつからかは議論の余地がある)が、その一因として国際共同研究 の不足があげられている。令和7年度の変更により、採択された研究課題のうち 「国際性」が高く評価された研究課題には、応募額を尊重した研究費配分が行われ るとされている(つまり「国際性」の評価は、基本的に採択ではなく配分額に影響 する。ただし若手研究者の場合は、優先的な採択に影響する)。しかし、申請書上で いくら高い評価がつけられたとしても本当に国際的に優れた研究でなければ、そも そも国際共同研究の機会すら得られないであろう。現状の「国際性」評価だけでな く,将来の日本の科学レベル向上のためには、研究費の配分額自体を増やし、それ によって国際的に競争力のある研究を生み出す環境整備が必要ではないかと考える。 また、令和7年度の申請書から「着想に至った経緯」の記載位置が変更され、「本 研究の学術的背景」の後に配置されるようになった。この変更は、申請書全体の 構成の流れに沿っており、よりわかりやすくなったと評価できる。さらに、研究 インテグリティや研究データマネジメントについて適切な対応が求められるよう になり、研究の質だけでなく、その管理体制も重視される時代に移行しているこ とがうかがえる.これも国際的な研究基準に対応するための重要な改革の一環で あろう。 加えて、あまり大きく公表されていないものの、審査委員の人数の変更も見逃 せないポイントである。基盤研究(B,C)および若手研究では、審査委員の人数 が1名減少した。これにより、各審査委員の評価の比重が増し、1人の委員の評価 が全体に与える影響が大きくなる。申請書の質がこれまで以上に重要となること は間違いない。 個人的な話になるが、昨年(2024年)には大きな転機があった。 3月に久留米大 学を定年退職し、研究者のためにさまざまな研究費の獲得支援を目的とした会社 「ジーラント」を立ち上げた。これは、これまでの研究者としての経験を活かし、 新たな挑戦をしたいという思いからである。一から会社を立ち上げることには大 きな不安もあったが、これまで改訂を重ねてきた本書のおかげで、順調なスター トを切ることができた。読者の皆様には心から感謝する。今後は「ジーラント」で 得た経験も本書に反映させ、皆様の研究活動を支援できるよう尽力していきたい。 令和7年5月 児島将康 ===== Page 4 ===== 初版のはじめに この本は研究費のなかでも、科学研究費補助金(以下、科研費)を獲得するた めの申請書の作成方法について、具体的なテクニックをわかりやすく紹介したも のだ. 毎年9月になると次年度の科研費の申請が始まる(著者:和7年現在、公募 開始は7月中旬になっている)。いうまでもなく科研費は研究費の基礎として非常 に重要だ。科研費に採択されるか採択されないかは、研究計画やキャリアに大き な影響を与える。ところが科研費の採択率は現在では約20~25%であり、4~5 人に1人しか採択されない狭き門であり、採択されない人の方が圧倒的に多い。科 研費にはぜひ採択されたいと誰もが思うが、世の中には「科研費を獲得できる申 請書の書き方」などのガイドブックがありそうだが、これまでにお目にかかった ことがない。各個人、各講座でのテクニックがあり、それはほとんど門外不出に なっている。毎年春になって、その年度の科研費の審査結果が発表されると、毎 回のようによく採択される人がどの大学にも研究所にも必ずいる。彼(彼女)ら はいったいどのような申請書を作っているのだろう? そういった疑問をもったのがきっかけで、個人的にいろいろ調べた結果をもと にして、この本を書いた、いろいろな研究者の科研費申請書をチャンスがあれば コピーさせてもらったり、久留米大学で保管されている過去の申請書を、無理を いって読ませてもらったりした。さらに科研費を審査する側の経験も積んで、他 大学の研究者の申請書もたくさん読んだ、またラボ内の若手やスタッフ、知り合 いの研究者などから相談を受けて、申請書作成の手伝いもした。このような経験 からいうと、絶対に採択されるという申請書はないが、(多分)絶対に採択されな い申請書はある.「科研費に採択されるのは宝くじに当たるようなものだ」「コネ がないと採択されない」などと聞いたこともあるが、しかし、そんなことはない! 科研費の審査はきわめてフェアなもので、しっかりと準備をしてよい申請書で応 募すると、結構採択されるものだ。しかも宝くじよりもずっと当たる確率が高い。 若手研究者に「科研費の申請書の書き方は、どこで習ったか?」と聞くと、ま ずほとんどの者が「ラボの先輩が作成しているのを、見よう見まねで作成してい る」と答えるだろう。私もそうだった。実物の申請書は作成した個人がコピーを 保管しているだけで、見せて欲しいと頼まないと、見る機会などなかった。私の ラボでは毎年の申請書を全員の分をコピーして保存してあり、誰でもいつでも見 ることができる.もちろん採択されたものも不採択のものも全部資料としておい てある。これらの資料は、これから申請書を書こうとする者に、非常に役に立っ ていると言じている。なんといっても実物の申請書に勝る見本はない。そこで、こ ===== Page 5 ===== の本では恥ずかしながら私の実物の申請書を見本として付けているし、本文中に 出てくる例はすべて実物がもとになっている。ただし、内容は最新のものではな く、2~3年以上前の申請書のものを使っている。 第1章では、科研費とはどのようなものか、現状分析、科研費の種類、審査の しくみ、申請から採択までの流れなどについて紹介している。 第2章では申請にあたっての準備について書いてある。応募種目や応募分野の 選び方や、どのような課題が採択されているかや、過去の審査委員についての調 べ方を紹介してある。 第3章がこの本の中心部分で、実際の申請書の書き方をできるだけ実物の見本 を示しながら解説してある。申請書の各項目ごとにポイントを書いて、どのよう に書けばよいかアドバイスしている。 第4章は書き上げた申請書をさらに読みやすくするための工夫について紹介し ている、また、わかっているようでやってみると結構戸惑う電子申請の仕方につ いて順を追って説明した。 第5章は採択・不採択のときにどうすればよいかについて説明した。 この本に例としてあげた申請書は、久留米大学分子生命科学研究所のメンバー による実物で、快く提供してくれたみんなに感謝している。また悪い例としたに もかかわらず、資料を提供してくれたメンバーには特に感謝している。また佐酸 貴弘くん、佐藤浩くん、前原佳代子さん。高山優子さんの4名には「初めての科研 費」として経験談をコラムにまとめてもらった。久留米大学研究推進課の梶原克 彦さん、川辺貴光さん、村上都磨さんと久留米大学分子生命科学研究所事務室の 土岐陽子さんには、科研費の資料を快くみせてもらって感謝している。また羊土 社の吉田雅博さん、冨塚達也さんには「実験医学」連載時からお世話になった。吉 田さん、冨塚さんなしにはこの本は完成できなかった。 この本が少しでもみなさんのお役に立って、1人でも多くの方に「科研費に採 択された」と喜んでもらえるようにと願っている。 2010年7月 久留米大学分子生命科学研究所にて 児島将康