--- title: "4. 最後のチェック" book: 科研費獲得の方法とコツ 第9版 chapter: 第4章 申請書の仕上げと電子申請 pages: 244-248 images: page_0244.png ~ page_0248.png --- # 4. 最後のチェック 電子申請したファイルは最後にもう一度チェックしておこう。 ## チェック用の申請書をダウンロードする 電子申請システムで作成した申請書(PDFファイル)をダウンロードして、これをチェックする(参照 4章3:電子申請の実際、図4-22)。なお、ファイルを開くにはパスワードが必要だ。これは所属機関からもらったe-Rad用のものと同じか、自分で変更したパスワードである。 ## チェックするポイント ### 必ず印刷した申請書をチェックする チェックするときにはパソコンの画面で見るのではなく、紙にプリントアウトしてチェックする方がよい。審査委員は印刷されたものをチェックするのだから、印刷して全体の出来具合を見るのがよい。パソコン画面だと、どうしても1ページ単位なので全体の感じがわからない。審査委員の気持ちになって、第一印象はどうだろうか?審査委員に読む気を起こさせるだろうか?などの観点からチェックしよう。この段階でも同僚やラボメンバーに見てもらって意見を聞くのはよいことだ。 ### 図は見やすいだろうか? 図が見やすいかどうかチェックしよう。複雑でなく、一目見て理解しやすいだろうか?図中の文字や説明文の大きさや配置は適当だろうか?また写真などはモノクロ印刷でも問題ないだろうか?(参照 4章2:図の挿入、3章の図3-50、図3-51、図3-61〜図3-64、およびその周囲の文章) ### 誤字・脱字に注意 誤字・脱字は案外と気づかないことが多い。自分の申請書は何度も読んで書き直しているので、ついざっと見てしまって見逃してしまう。できるだけ他の人に読んでもらって誤字・脱字をチェックするのが一番よい。 ### PDFファイルに変換されたときのズレに注意 申請書は最終的にPDFファイルに変換されている。ダウンロードした申請書ファイルでは、図とかスペースの配置はちゃんとなっているだろうか?PDFファイルに変換したときにずれることがあるので気をつけよう。 ## 訂正箇所に気づいたときはどうしたらよいのか? 申請書の「引き戻し」 もし、電子申請を完了した後に、間違いに気づいたときにはどうしたらいいのだろうか?作成されたPDFファイルで申請書の内容を確認した後、「提出すると応募情報又は研究計画調書を修正・削除できません」とあって、「OK」ボタンを押すと絶対に修正・削除できないと思いがちだが、ご安心を。応募書類の「引き戻し」によって、研究計画調書の提出(送信)期限(応募締め切り日時)より前であれば、いちど日本学術振興会に提出(送信)した研究計画調書(応募書類)を引き戻し、訂正や修正を行って再提出ができる。ただし応募締切り日にはアクセスが集中して提出の完了ができない場合があるため、応募締め切り日には引き戻しを行わないようにとされている。 「引き戻し」は研究者個人ではなく、研究機関の担当者によって行う。提出した申請書を修正するには、所属研究機関の事務担当の方に連絡して、受付をいったん解除してもらう。その後に再び電子申請システムにログインして、「応募者向けメニュー」の画面の「●作成中の調書を修正する」から修正する。引き戻し後、再提出する場合は、学振受付期限までに送信し、科研費電子申請システム上の応募状況が「学振受付中」となっていることを確認すれば完了だ。 締め切り直前まで申請書をよりよいものにしたいという気持ちはわかるが、できれば締め切り日までに余裕をもって最終版を提出したい。 さて、無事に電子申請は完了できただろうか?後は採択の連絡を待つだけだ。幸運を祈ろう! > --- > **Column:科研費今昔物語** > > 「昔、科研費の申請書は手書きだった」というと驚くかもしれない。しかし、35年くらい前にはそうだった。字が上手か下手かが、審査結果に影響をおよぼしたかもしれない、きっとそうだろう。その後、当時普及していたワープロか、一太郎を中心としたソフトを使ったパソコンで印刷した文章を申請書に切り貼りしていた。数字などは文字シールをピンセットを使って貼っていた。当時は、研究室総出の年中行事だった。また申請書の用紙は1部が何円かで教室ごとにまとめて買っていた。無料ではなかった。 > > パソコンが普及してその性能も向上していったが、申請書がパソコンのファイルになるには、まだまだ時間がかかった。私は申請書の記入欄をA4用紙で右から何ミリ、左から何ミリ、幅と高さは何センチと、定規で測って、PageMakerというデスクトップ・パブリッシングソフトを使ってレイアウトして印刷するという荒技を使っていた。 > > そのうち、スキャナーとプリンターの性能が向上して、スキャンした申請書ファイルに直接入力して、そのまま印刷してもきれいな申請書ができるようになった。 > > インターネットが急速に普及して、ようやくネットから申請書がダウンロードできるようになったのは15年ぐらい前の話。ワープロファイルに直接入力が可能になって楽になったが、その分、無駄な印刷が増えた。それでも申請はネットを介した電子申請ではなく、できあがった申請書を何部もコピーして、冊子状に整えたうえ、右上に応募種目ごとに色ペンで色塗りしていた。各大学から郵送する量たるや、半端じゃなかった。 > > そして申請書のネット経由での電子申請になって、とうとう申請者は紙媒体での提出が不要になった。審査委員に送られてくる申請書は今でも紙に印刷されたものだが、そのうちPDFファイルで送られてきて、審査委員にも紙媒体の書類が送られてくることはなくなるかもしれない。 > > こんなことを書いておくと、将来「あのときは」と、きっと懐かしく思うだろう。 > --- > --- > **Column:科研費を獲得した後に** > > 科研費は獲得することが目的ではない。いうまでもなく研究活動を行うことが私たち研究者の目的だ。科研費はこの研究活動を行うための手段(資金)であり、この科研費の資金は税金によってまかなわれているので使用にあたってルールがある。科研費の使用ルールについては、問題点がずっと昔から繰り返し指摘され続けていて、それなりの改良が少しずつ行われてきた。 > > 平成24年に京都大学で大規模な研究費の不正使用が問題になった。研究費が枯渇するときのことを考えて、研究費があるときに貯めておきたいという気持ちは、常に研究費の心配をしている私もよくわかるが、しかし不正はやってはいけない。研究費で大量に機器を不正購入して、それを売りさばいて私的な金にしたことなど、まったく同情の余地もない。 > > さて、初めて科研費を獲得した諸君。君たちのラボでは君たちが獲得した科研費はどのように使われているのだろうか?そのラボに属する研究者が獲得した科研費は、一括してラボ全体の研究費として使用する例が多いのではないだろうか?私はこの使い方には教育的な面から反対だ。科研費はあくまでも研究者個人に与えられた研究費だ。PIとして獲得した研究費はラボ全体で使うのには問題がないが、科研費初心者が獲得したものについては、教育のためにも獲得した本人に任せて使用させる方がよい。獲得した金額でどのくらいのものが買えるのか、実際に経験してみることは、科研費のありがたみを知ることにもなり、将来独立したときに非常に役に立つと思う。 > --- > --- > **Column:科研費はノーベル賞に必要か?** > > 日本人ノーベル賞受賞者の科研費採択実績はどのようなものなのだろうか?何か特別な事実があるのだろうか?科研費はノーベル賞獲得に貢献しているのだろうか? > > ノーベル賞受賞者の何人かの科研費採択件数を調べると、野依良治先生が36件、大隅良典先生が29件、山中伸弥先生が27件、鈴木章先生が16件、梶田隆章先生が10件、小柴昌俊先生が9件、白川英樹先生と大村智先生が5件などだ。そして中村修二先生と田中耕一先生は企業の研究所だったので0件、下村脩先生と根岸英一先生は米国での研究がほとんどなので0件だ。 > > もちろん日本人ノーベル賞受賞者は研究者全体からするときわめて少ない人数だし、個々の受賞者の研究環境が異なっているので、一般的な法則を見出すことはできない。それでも結論として、科研費はノーベル賞受賞に必ずしも必要ではないと思われる。 > > しかし、その一方で特定領域研究(現在の学術変革領域研究)はノーベル賞受賞者の研究費として、とても重要だ。例えば山中先生では19件/27件、大隅先生では12件/29件、鈴木先生では7件/16件とかなりの割合を占めている。採択の時期からみると、特定領域研究は受賞につながる研究過程に非常に貢献していることがわかる。そして、特定領域研究につながる研究過程では科研費の基礎的な種目に採択されている。また特別推進研究や基盤研究(S)などの高額の種目は、受賞者の評価が確立されたあとに採択されていることがほとんどだ。 > > このようなことから科研費、特に基礎的な種目は、将来に大きな展開の可能性がある研究への支援として重要であると思われる。そのため将来の大きなブレークスルーの研究を生み出すためには、基盤研究(A, B, C)や若手研究、挑戦的研究のよりいっそうの充実が必要だと思うのだ。 > > 大隅先生が基盤研究(C)から、大村先生と山中先生が奨励研究(A)から出発しているのを知ると、ノーベル賞受賞者でも自分と同じく一般的な種目からスタートしているので嬉しくなってしまう。勇気づけられませんか? > --- > --- > **Column:元学振職員が語る困った研究者** > > **1. 自分の研究だろう!** > 「どの分野に応募したらいいですか?」 > いるんですよ、申請先の学術振興会に直接こんなことを聞いてくる研究者が。科研費は研究者の自由な発想にもとづき申請を行うものである。そして採択のためには、どの応募分野が適切であるかを視野に入れて申請する必要がある。その応募分野を自分で決めることができないなんて...。 > > **2. 人に頼るな!ボスに頼るな!** > 制度を理解せずに研究分担者を加えたり、研究分担者の役割が不適切な申請書がある。例えば、若手研究は1人で行う研究種目であるのに、若手研究においても研究分担者を追加できるという誤った認識で作成された申請書が見受けられる。結果として研究組織・体制に疑問をもたれることとなり、不十分な申請書を提出してしまうといった事態につながる。 > > また基盤研究などの研究分担者を加えられる種目において、研究分担者を研究室の上司にして、上司の「指導」を役割として記載している申請書が見受けられる。研究代表者はその課題に対して統括を行う立場にあるので、上司から「助言」を乞うことはあっても最終判断は研究代表者が行う。 > > これらを把握されずに申請書を作成すると、研究代表者として主体的に研究を遂行できるのか、その資質が問われることになるので注意してほしい。 > > **3. エフォート率の調整ができていない!** > 科研費の申請におけるエフォート率の決定について、研究者は十分に注意を払う必要がある。新規に申請する際や、新たに研究分担者として参画する際に、「エフォート率の合計が100%を超える見込みとなったために、すでに採択されている課題の研究分担者を辞めたいのだが」と相談に来る研究者がいる。「申請期限までに間にあうように急いで処理してほしい」と言われても...。手続き上、エフォート率の変更には時間を必要とするので、余裕をもって変更申請を行ってほしい。そもそも研究分担者として参画するということは、当該研究において責任をもって遂行する立場にあるということを、十分に認識しておいてほしいものです。それを自分の都合によって辞めるのは...。(著者注:現在では、エフォート率をWeb上で入力するようになったので、このような問題は生じないと思われる) > > **4. 落ちた理由を聞かれても...** > 毎年4月の科研費採択の発表の後に、「なぜ落ちたのでしょうか?」と学術振興会に直接電話やメールで聞いてくる研究者がいる。「前年度の不採択の理由に沿って申請書を改善したり、論文実績もつくったのに、なぜ不採択だったのでしょうか?」。本人の落胆と理由が知りたい気持ちはよくわかるが、こちらに聞かれても、それはわからない。申し訳ない気持ちになりつつ心を込めて「次回も頑張ってください」と言うようにしていた。 > ---