--- title: "4. 本研究の学術的背景や本研究の着想に至った経緯、研究課題の核心をなす学術的「問い」の書き方" book: 科研費獲得の方法とコツ 第9版 chapter: 第3章 申請書の書き方 pages: 140-146 images: page_0140.png ~ page_0146.png --- # 4. 本研究の学術的背景や本研究の着想に至った経緯、研究課題の核心をなす学術的「問い」の書き方 > **この欄では何を書くのか?** > 研究テーマの背景を書くとともに、申請者がこのテーマに関して行ってきた研究内容と、どのような経緯でこの研究計画を思いついたのか、申請者ならではのオリジナルな理由を書く。そして、いま何が問題なのか、解明すべき課題は何かなどの学術的「問い」をしっかり書く。 > **この欄では何を評価する?** > 研究テーマの背景や着想から浮かび上がってきた学術的「問い」の重要性や、この研究テーマに関する申請者のこれまでの取り組みを評価する。 この部分は「本研究の学術的背景」「本研究の着想に至った経緯」「研究課題の核心をなす学術的「問い」」と分けて書くのが書きやすい。また「本研究の学術的背景」には申請者以外の研究者による研究内容と申請者自身の研究内容の2つに分けて書き、「本研究の着想に至った経緯」には申請者がなぜこの研究をやりたいのかオリジナルの理由を意識しながら書けばよい。 ## 本研究の学術的背景 **前半**では、研究テーマの一般的な背景と、これまでにどのような研究が行われてきたのか、申請者以外の研究者によって行われてきたこれまでの研究成果を中心にして書く。 **後半**は、申請者自身がこの研究テーマに関して、これまで行ってきた研究内容を書く。ここが大切である。申請者がこの研究テーマに関してこれまでにどのような研究を行ってきたのか、そしてどのような研究業績をあげてきたのかを示して、審査委員に研究計画の実行可能性を大いにアピールする。申請者がこれまでに発表してきた論文や学会発表などを必ず記載しておくこと。 **「本研究の学術的背景」の大事な点は、申請者と他の研究者の研究内容を混ぜて書かないということ。** そうしないと申請者がこれまでどのような研究成果をあげてきたのかわからなくなる。申請者自身がどのような研究を行ってきたのかを、他の研究者の業績としっかりと区別して書くことだ。 また背景を長々と書きすぎないこと。「着想に至った経緯」に至るまでに背景を1ページ以上も費やすのならば、審査委員も読み進めるのが嫌になることだろう。難しいかもしれないが、背景はできるだけ簡潔にまとめて、すみやかに次につなげるのがよい。 ## 本研究の着想に至った経緯 ここには申請者がなぜこの研究を計画したのか、どのような経緯で研究計画を思いついたのか、その理由を書く。ただし、だれもが書くような、ありきたりな理由ではだめだ。例えば「新しい抗がん剤の開発が望まれている」「介護現場での環境改善が必要である」など、一般にいわれているような理由、教科書に書かれているような理由ではいけない。**申請者のこれまでの研究経験から得られたオリジナルな理由を書かなくてはならない。** 研究テーマには必ず、申請者にとってのなんらかの個人的な理由があるはずだ。例えば、 - 「これまでグレリンというホルモンの研究を行ってきたなかで、なぜオクタン酸の修飾基が受容体の活性化に必要なのかは不明であった。このことを明らかにするためにはグレリン受容体の結晶構造解析が必要であると考え、本研究を着想した」 - 「申請者は企業不正に関する研究を進めるなかで、ある企業の企業不正の現場に実際に遭遇することとなった。その経験から企業不正を防止するための制度を構築するには、それぞれの学問分野の研究者の強みを活かした学際的研究が必要不可欠であると確信し、本研究計画を着想した」 申請者がなぜこの研究をやりたいのか、その熱い思いをぜひとも書いてほしい。この申請者の個人的な「思い」が「本研究の学術的背景」と異なる点だ。そしてその「思い」を審査委員に共感してもらえれば評価もあがるだろう。 ## 研究課題の核心をなす学術的「問い」 平成30年度の申請書から新しく付け加えられた部分。おそらく、これまでの申請書では研究計画の問題点や解明すべき点などの記載が不十分との審査委員からの意見が多かったのではないだろうか。 この研究テーマに関して、いま何が問題なのか、解明すべき課題は何か、未解明の問題は何か、なぜこの研究テーマを明らかにする意義があるのかなど、研究の学術的「問い」をしっかりと書くことである。 学術的「問い」をはっきりと示すよい方法は、ずばり**「この研究の学術的「問い」は〜」**とか**「この研究テーマにおける問題点は〜」**などと書いておくことだ。こうするといやでも「問い」がはっきりとわかる。 また学術的「問い」を独立した項目にするのもよい工夫だ。「1-3:研究課題の核心をなす学術的「問い」」として1つの項目にした例もあり、この部分に研究テーマの「問い」が明確に書かれている。 この学術的「問い」をしっかりと書くことで、次の項目の「(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性」につなげることができる。学術的「問い」を明らかにすることこそが、研究の目的だからだ。 ## 自分の論文のアピールが重要 研究の背景を説明するために、文中に参考文献を記入している申請書も多い。しかし、**自分の研究論文をアピールする目的以外には、参考文献を文中に入れるのは最小限でよい。** 審査する時間が限られているため、審査委員はわざわざ参考文献の細部まで調べることはほとんどない。他人の参考文献をたくさん書いていると、どこがオリジナルな研究なのか疑われて印象がよくない可能性もある。むしろ、参考文献がなくても研究計画がわかるように書くべきだ。 自分の論文の引用であることをアピールするには: - 「〜のことを申請者らは明らかにした(Kojima et al. Endocrinology 2005)」などと書く - 筆頭著者でないなら、筆頭著者と自分の名前だけを書いておけばよい:「(Sato, Kojima et al. Endocrinology 2005)」 - 何番目の著者かを号で示す:「Sato, Kojima(5/5)et al. Endocrinology 2005)」あるいは「Kojima(5人中5番目)et al. Endocrinology 2005)」 ## 予備実験のデータも重要(図の効果1) すでに発表済みの研究結果だけでなく、未発表の予備実験・調査のデータ(もちろん研究計画がうまくいくことを示すデータ)を入れておくとよい。こうすると、研究が進んでいて、興味深い実験データが出ている印象を与えて、研究計画の説得力が増す。注意点は、図には必ず説明を加えるということ。特に実験データは説明がないと、何を示しているのかがわかりにくい。 ## 研究計画の概念図などを入れるとよい(図の効果2) 研究計画の概念図などを申請書に入れると、審査委員にとって理解の助けになるので効果的だ。もちろん複雑な図ではなく、ごくシンプルなものにすること。「この研究はなにを行おうとするのか」「なぜそれが重要なのか」がわかるような図が望ましい。 > --- > **「本研究の学術的背景や本研究の着想に至った経緯、研究課題の核心をなす学術的「問い」」の書き方のポイント** > > - ①「研究の一般的な背景、他の研究者による研究の成果」→②「申請者がこのテーマに関して、これまでに行ってきたこと」→③「これまでに行ってきたことからどのようにして今回の研究計画を思いついたのか」→④「何が問題なのか? 未解明の問題は?」の流れで書く。 > - 申請者と他の研究者の研究成果を区別して書く。 > - 研究の学術的「問い」をしっかりと書く。何が問題点なのか。 > - 自分の研究の重要な点を大いにアピールする。 > - 図を入れるとわかりやすくする。 > --- > --- > **Column:初めての科研費(Dくんの場合)** > > 科研費は宝くじみたいなものだから...そんな考えがあったためか採択されたい強い気持ちのある割には軽い気持ちで申請書を書いてきました。このため、忘れたころに送られてくる不採択通知を見ては、くじ運のない自分にもどかしさを感じる日々が続いていました。 > > あるとき、くじ運の強い、つまりはよく科研費に採択される先生の申請書を見せてもらう機会に恵まれました。そのとき、自分の文章とあまりにも違いがあることに驚くとともに、もしや科研費の申請書にも文章のコツみたいなものがあるのではと感じたのです。さっそく採択率の高い先生方と、そうでもない先生方の申請書を集めて自分なりに比較してみると、職位に関係なく差ははっきりしていました。そこで、この比較をもとにして申請書を作り直したところ、前年までとほぼ同じ内容、同じ業績だったにもかかわらず科研費に採択されることができたのです。わずか数枚の紙に、言葉遣いをちょっと工夫して、真剣な想いを詰めただけでこれだけの研究費を手に入れることができた驚きと喜び、そして不採択グセから抜け出ることのできた安心感を得ることができました。 > > 採択後これまでの申請書を見直してみると、どれも廃墟の中を彷徨うかのような文章でどこが目的なのかもわからない。不採択でしかるべきものばかりでした。もし、このような申請書で採択されたらそのときこそ宝くじだと感じましたし、また、宝くじ状態で研究室の家計が成り立っていたら大変だということにも気がつきました。 > > こうして、初めての科研費は、私に科研費が宝くじではないことを教えてくれ、同時に採択されないことへの恐怖心も植えつけました。これから先、研究者でいられたとして、あと何度採択されなければならないのか、またPIとして自立できるのかなどと悩みもつきません。今後、魅力的な研究を立案する力、業績、文章力などを身につけ、そうはいっても最後には申請書を大安の日に提出するというツメも忘れずに、科研費の採択を祈願していきたいと思っています。 > ---