--- title: "10. 応募者の研究遂行能力及び研究環境" book: 科研費獲得の方法とコツ 第9版 chapter: 第3章 申請書の書き方 pages: 174-184 images: page_0174.png ~ page_0184.png --- # 10. 応募者の研究遂行能力及び研究環境 **● この欄では何を書くのか?** 申請者のこれまでの研究活動や研究業績(発表論文、著書、産業財産権(いわゆる特許)、招待講演)などを書いて研究遂行能力を示すとともに、研究環境が整っていることを書く。 **● この欄では何を評価する?** 提案している研究計画を実行できる技術や経験があるのかどうか、また研究環境が整っているのかどうかを判断する。 --- 平成31年度以降の申請書では「研究業績」ではなく、代わりに「応募者の研究遂行能力及び研究環境」の項目となった(図3-68)。この項目に書くべき内容は「(1)これまでの研究活動(主要な研究業績を含む)、(2)研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)」であり、これを若手研究と基盤研究〔S, A, B, C:ただし基盤研究(S)だけは様式が少々異なる〕では2ページ以内にまとめる。 注意点は、以前の申請書と異なり、単に研究業績のリスト(例えば発表論文のリスト)を記載するのではなく、「本研究計画の実行可能性を説明する」ために「その根拠となる文献等の主要なものを適宜記載する」ことである。 このような形になったのは、従来の「研究業績」欄では、 - 必ずしも研究課題とは関係のない業績を不必要に連ねている - 科研費の審査において「業績偏重主義」であるかのような印象を応募者、その他に与えている - できるだけ多くの業績でスペースを埋めなければ審査において不利になるのではという誤った認識を与えている などの懸念があったためである。そのため、「研究業績」ではなく、提案された研究課題に対する申請者の研究遂行能力や実行可能性を評価するものに変更された。つまりこれまでのように主として論文発表を評価するのではなく、あくまでも(だと思うが)提案された研究計画のアイデアや計画がうまくいきそうなのかを評価するものに変わったということだ。「だと思う」と書いたのは、「応募者の研究遂行能力」を評価する方法としては、やはりこれまでに発表された論文から判断するのが一番確かだからだ。もちろん、論文に著者として名を連ねていることと、本人の研究遂行能力とは別ものであるので、論文発表があるからといって研究遂行能力があるとは限らないのだが。 また「1 研究目的、研究方法など」の(6)の「国際性」とともに、ここでも「研究計画に関連した国際的な取組(国際共同研究の実施歴や海外機関での研究歴等)がある場合には必要に応じてその内容を含めること」と国際性に関する記載が求められる。 では実際の申請書において、「応募者の研究遂行能力及び研究環境」はどのように書いていけばいいのだろうか。 ## 「(1)これまでの研究活動」をどのように書けばいいのか ここでは、申請者のこれまでの研究活動を書いて、申請者の「研究遂行能力」、つまり今回の研究計画が実現可能であることを示す。それには、 ### ①論文で示す いうまでもなく、研究活動のなかでは発表論文がいちばん重要である。発表論文は、申請者がこれまでに行ってきた研究内容をみて、新たに提案している研究計画が実行可能なのかどうかを判断する指標である。「申請書の審査ではまず発表論文をみて、業績のない人はそれだけでだめ」と判断する審査委員もいると聞く。つまり発表論文があることは採択のための必須事項である。ただし当然のように、「科研費の申請の時期だから、発表論文を増やそう」としても一朝一夕には無理である。常日頃から少しでも多く研究業績をあげておく必要がある。筆頭著者でなくてもいいから、普段から論文に名を連ねるように努めよう。 では、どのくらいの業績があればいいのだろうか。発表論文はなにもNature、Cell、Scienceクラスやその姉妹誌のものが必要というわけではないし、これらに発表論文があっても採択されないことも多い。しっかりした査読システムがあるジャーナルに数本の発表論文があるなら、最低ラインはクリアしているので安心してよい。 また論文数の最低ラインとしては、基盤研究(C)や若手研究では、筆頭著者としての論文とそれ以外の共著者としての発表論文の合計が年平均1報、基盤研究(B)では年平均3報くらいが基準だろうか。自分の論文発表状況を十分に認識して対応しよう。 以前の申請書では応募課題に関連する過去5年間の業績を中心に、それ以前のものも10件以内記載できるようになっていた。ところが平成30年度の公募から、その制限がなくなった。そのため、いわゆるインパクトファクターの高い雑誌の発表論文ばかりを、発表年にかかわらず記入する人もいるかもしれない。しかし、それは要注意である。先にも書いたように、この項目の意図は、提案している研究計画を実行できるのかどうかを、申請者のこれまでの業績から判断するためのものだ。そのときに、過去の古い業績ばかりを載せていたら、審査委員はどのように感じるだろう。「過去の業績は素晴らしいけど、最近、研究を行っていないのじゃないか」と、現在の研究遂行能力を疑われるかもしれない。それによって評価も下がる可能性がある。 コンスタントに研究活動を行っていることを示すために、やはり過去5年間の業績を中心に記載するべきだ。理想的には発表論文の半分くらいを過去5年間の業績でまとめ、残りにそれ以前の重要な発表論文を記載するのがよい(図3-69)。もちろん若手研究者は業績が少ないだろうから、すべてを記入する。 また投稿中(未受理)の論文は研究業績に含めることはできないが、in pressの論文は研究業績に含めることができる。 ### ②学会発表で示す まだ論文に発表されていなくても、学会や研究会で発表しているのなら、そのことを書いておく。学会名、発表のタイトル、発表年月日とともに、発表内容について今回の研究との関連についても触れておくこと。 招待講演は、小さな研究会でも学内の研究会でも呼ばれた講演はすべて書く。「学会発表で記載できるのは『招待講演』だけではないのか」と思われるかもしれない。確かに以前の申請書では記載できるのは「論文、著書、産業財産権、招待講演」となっていたが、現在の申請書では「論文、著書、産業財産権、招待講演等」となっており、招待講演に限定されているわけではない。そのため論文未発表の研究成果だが、すでに学会などで発表しているものなら、積極的に書いて研究遂行能力をアピールするのがよいと思う。 ### ③研究助成の成果で示す 科研費や民間財団の助成金などによって、どのような研究成果をあげてきたかを記載する。これまで研究費を受給されたときにはきちんと成果をあげてきたことを書いて、研究遂行能力(研究の実行可能性)を示す(図3-70)。 審査委員の立場からいうと、過去に科研費を獲得していることは、申請者の評価にプラスに働くことがある。それは申請者の評価に迷っているときに、他の審査委員によって過去に評価されたということで、よい点数をつけようとする自分の評価に(ある程度の)安心感を与えるからだ。 ### ④その他に - 今回の研究計画に用いるテクニックや手法がこれまでの研究業績(発表論文や学会発表)に書かれているのならば、その業績を記入し、内容を簡単に説明しておく。これもやはり研究遂行能力(研究の実行可能性)を示すことになるからだ(図3-69の2ページ目)。 - 日本語の発表論文・総説も大切な研究業績なので記載する。 - 重要な研究業績は「研究目的、研究方法など」の本文中でもアピールする。「応募者の遂行能力及び研究環境」のページに記入するだけでは、重要な論文とそうでない論文との区別がつかずアピール度が弱くなる。これまでに発表した重要な研究論文などは、本文中にも記入することで大いにアピールするのがよい(図3-31、図3-71)。 - 成立特許と出願特許を記載する。発表論文とin press論文に相当する産業財産権(いわゆる特許)は、成立した特許だけである。しかし、現実には成立した特許数は、出願した特許数に比べて格段に少ない。多くの研究者が「特許をもっている」というときには、それはほとんどが特許を出願しただけのもので、成立した特許ではないことが多い。 - 研究分担者との業績量のバランスを考えること。重要なことは、研究代表者(申請者)の業績のみが大きく評価されるということだ。最近5年間の業績が少ないので、業績の多い研究分担者をメンバーに加えて業績欄を多くしようとしても、審査委員はすぐに見抜いてしまう。逆に研究分担者の方が研究代表者よりも業績が多く記載されていると、マイナスのイメージになることが多いので要注意だ。 - 業績、とくに発表論文がない場合はどうしたらいいのか。ともかく発表論文を多くすることに関しては特効薬はない。1報でも2報でも、筆頭著者でなくても何番目の著者であってもいいから、ともかく論文を発表しよう。そうはいっても業績が最近ないときはどうするか? 正直に「このところ業績はないが、この計画を行うのに十分なテクニックをもっている」と別の場所(本文や準備状況など)に記載してアピールするしかない。なお、以前の挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書には論文の記載部分はなかったが、現在は「③応募者の研究遂行能力」の部分に、「これまでの研究活動(主要な研究業績を含む)」と主要な研究業績を記述することが求められている。 > **図3-69の説明:** 令和2年度基盤研究(C)の申請の実例を令和7年度のフォーマットに移したもの。直近5年間くらいの業績を中心として、それ以前の重要な業績も記載する。研究代表者と研究分担者の名前の下には下線を引くとよい。1ページ目には、申請者のこれまでの研究活動の簡単な説明、古い発表論文であるが今回の研究計画の基礎となっているもの、執筆や編集した単行本、直近5年間の発表論文をあげて研究の継続をアピール。2ページ目には、論文は未発表であるが学会で発表していることのアピール、今回の研究計画と関連した手法を使った論文をあげて実行可能性のアピール、研究試料や機器の準備ができていることを示す。 ## researchmapについて このように科研費申請書における研究業績は、現在では単なる発表論文のリストではなく、「(1)これまでの研究活動」において「応募者の研究遂行能力」を示すためのものに変更された。そして科研費の審査においては、「researchmap及び科学研究費助成事業データベース(KAKEN)の掲載情報を必要に応じて参照する」(文部科学省ホームページより)ことになっている〔参照:KAKENについては2章3「採択課題の調査」を参照〕。researchmapは、「研究者が業績を管理・発信できるようにすることを目的とした、データベース型研究者総覧」(researchmapのホームページより)である。論文、講演・口頭発表、著書、産業財産権、作品、社会貢献活動などの業績を管理することができる。これらのサイトは今後は審査において積極的に参照されるようになるだろう。図3-72はresearchmapの私の「マイポータル」画面である。 そのresearchmapであるが、ログインすると「〇〇〇〇さんの業績の可能性が高い、とAIが判定した候補を表示しています」と、業績候補の一覧が出てきて(図3-73)、「承認」にチェックマークを入れて「承認/却下を登録」をクリックすると自身の「マイポータル」ページに反映される。また「共著者候補リスト」も一覧が出てきて登録することができる。さらに、PubMedやKAKENなどの外部システムからのデータの取り込みもできる(図3-74)。このように、現在では業績の入力がとても簡単になっている。 このようにresearchmapの更新は簡単にできるようになっているので、researchmapに登録しているが業績の更新が滞っている方は、ぜひ科研費の応募に合わせて更新してほしい。researchmapは申請書の内容を補足するだけでなく、申請書に書き切れない情報を登録することで申請者の研究遂行能力のアピールの場にもなるので、十分な活用をお勧めする。 ## 「(2)研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)」をどのように書けばいいのか 応募者の研究計画に必要な機器や設備が整っているのか、研究に必要な試料や資料は保有しているのかなどを書く(図3-69の2ページ目下部)。 注意点は、 1. もし機器や設備がまだ整っていないときにはどのようにするのか、その対処方法を書く。例えば測定機器などは、「〇〇大学のものを借りて測定する」など、できるだけ具体的に書く。 2. 必要な試料や資料を保有していない場合、その入手方法を書く。これも単に「入手する」だけでなく、どこで、誰から、どのように入手するのかまで具体的に書くこと。 3. 若手の方に時々みられる書き方なのだが、「研究室の上司の指導を仰ぐ」「〇〇大学の〇〇教授に相談する」などとは書かないこと。「自信がないのか」「消極的」「人に頼りすぎ」などのマイナスのイメージしかもたらさない。たとえ若手であろうと科研費は申請者が主役となって行う研究活動である。たとえ自信がなくても、自分がやるということをアピールする。 > --- > **Column:文献入力のための便利なヒント** > > 医学生物学系ではPubMed(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?mmode=std)を利用して文献を集める人が多いだろう。PubMedで検索した文献画面をそのままコピー&ペーストして入力してもよいが、フォーマットを1つずつ変更していくのは煩わしい。このようなときには必要な文献のタイトル左のボックスにチェックを入れ、上にある「Save」をクリックする。 > > 次に「Save citations to file」のFormatを「Summary (text)」にして、「Create file」をクリックしてテキストファイルで保存すればよい。 > > 保存したファイルを開くと、そのまま必要な部分をコピー&ペーストで入力すればよい。 > --- 「応募者の研究遂行能力及び研究環境」は申請者の工夫次第で審査委員におおいにアピールすることが可能であり、それだけに申請者の腕(書き方)の見せどころだ。ぜひさまざまな工夫を試みて、よいものに仕上げてほしい。 --- **「応募者の研究遂行能力及び研究環境」のポイント** - 今回の申請に関連する論文、学会発表、研究助成の成果などを記載して研究遂行能力をアピールする。 - 今回の研究計画に関連した研究手法などの発表論文があればあげておく。 - 研究試料(資料)や機器などの必要なものは準備していることを示す。