--- title: "6. 科研費申請のアイデアのまとめ方" book: 科研費獲得の方法とコツ 第9版 chapter: 第2章 科研費応募の戦略 pages: 98-104 images: page_0098.png ~ page_0104.png --- # 6. 科研費申請のアイデアのまとめ方 どのような内容で応募するか、科研費に応募すると決めた時点で多くの人は、普段行っている研究から申請書の内容を考えているだろう。しかし申請書全体の構成を考えずに、いきなり申請書の最初の部分から書いていく人も案外いるようだ。ぜひ、まずどのような内容で応募するのか、全体の構想を考えて、おおまかなアウトラインをつくってから申請書を作成していってほしい。 アウトラインをつくるうえでお勧めのアイデアのまとめ方を以下にあげておく。 ## ノートに書く 応募内容をまとめていく方法として、アイデアを視覚的にノートに書いていくことをお勧めする(図2-5)。 それは、ただ研究内容を頭の中で考えているのと、実際にその内容を文字や絵で視覚化してみるのとは大きく違うからだ。アイデアの断片だけでもノートに書いて目で見ていると、さらに必要な実験とか、こういった実験も可能なのでは、などのヒントを得やすい。どのようにアイデアをノートに書いていくかは各人によって異なるだろう。私の場合は研究内容で思いついたことを、形式も何も考えずに、何でもよいから書いていくようにしている。ただアイデアを書き留めておく、きれいでなくても、わかりにくくても、気にしない。ともかく文字や文章や絵にして書いていくことだ。 > **図2-5の説明:** アイデアをまとめるには、頭で考えるだけでなく、文字や図表にして視覚化するとよい。何でもよいからノートに書いてみて、目で見て考えると、よいアイデアが浮かぶことが多い。 私個人の感想だが、アイデアを書いていくのはアナログに限る。パソコンを使ってワープロソフトやプレゼンテーションソフト、その他のソフトでアイデアをまとめていく方法もあるが、なぜかペンとノートというきわめてアナログな手法の方がアイデアが浮かびやすい(と、思っているのは私だけだろうか?)。 ## Post-itを使う Post-it(付箋)を普段も使っていることと思う。これをアイデアをまとめるために利用する方法がある。75mm四方の大きめのものに、キーワードや図を記入していく。記入したものを壁やボードに貼って、並べ替えたり、項目を追加したりして、全体の構成を組み立てていく(図2-6)。 ## マインドマップでまとめる 「マインドマップ」という思考の整理手法を知っているだろうか? これもアイデアをまとめていくのに非常によい方法である。アイデアをどんどん出して、関連したものを視覚化していく(図2-7)。オンラインで使えるマインドマップアプリも多数あるので、試してみるのもよいだろう。 > **図2-7の説明:** マインドマップはアイデアをまとめるのに役に立つ。その奇妙な形は最初、抵抗を覚えるかもしれないが、なかなか面白い。 以上のものに共通しているのは、アイデアやその断片を、目に見える形で視覚化していくこと。不思議なもので、頭で考えるだけよりも、目や耳などの五感を総動員して考える方が、はるかによいアイデアが生まれる。 申請書の内容をどのようにするかアイデアが浮かばないというときは、「その研究計画で何をやるのか」がまだ自分のなかで決まっていないのだ。まず自分が行っている研究をしっかりと再検討して、申請書のアイデアをまとめていこう。 ## 3つずつアイデアを出す―初心者におすすめの方法 科研費の申請書をみてくれる適当な指導者がまわりにいない、科研費に採択された人がまわりにいない、手元に科研費申請書の見本がない、などの環境にいる科研費申請の初心者は、どうしても内容の薄い申請書になりがちだ。科研費申請の研究テーマを決めても、経験が少ないため、どのような内容で申請書を書いていったらいいのかわからない。申請書のスペースが埋まらないと訴える人が多い。それは研究内容をはっきりと自分の中で確立していないのが本当の理由なのだが、確かに初心者には申請書に向かって書こうとしたときに、そのスペースの大きさに戸惑ってしまうことが多いようだ。 こういったときには「研究テーマに関して3つの研究項目を出してみて」とアドバイスする。アイデアを3つ出してと言えば、誰でもなんとかひねり出すものだ。そうして出された3つの研究項目について、詳しく内容を書いていくと申請書のスペースを埋められる。基盤研究(C)や若手研究では申請書のスペースに3つくらいの具体的な研究項目を中心に書いていけば、少なくとも全体の構成は整う。さらに「本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」の部分では、研究項目ごとに、それぞれさらに3つくらいの具体的な実験方法を書いていけばよい。 例をあげてみていこう(実例をもとにした架空の内容である)。 **申請予定の研究テーマ:「創傷の持続洗浄療法による感染予防」** **実験内容:** 感染創モデルを作製して、持続洗浄療法を行った群と行っていない群とで創傷部の感染状態や治癒を比較する。 このような内容で相談を受けたとする。正直これだけでは内容が弱すぎると思う。ただ単に治療を行った群と行っていない群との比較だけだからだ。初心者にありがちなのだが、「~を測定する」「~と~を比較する」「~を調べる」といった簡単なレベルの記述で終わっている例が多い。そこをもう少し踏み込んで、そのためにどのような研究を行うのか、具体的にどういった実験を行うのかまで、詳しく書いてほしい〔参照3章1:申請書を書く前の注意点〕。 相談しながら、3つの研究項目を考え出したとする。 1. 感染創における菌の種類によって持続洗浄療法の効果は異なるのか? 2. 創傷治癒を速めるFGF(線維芽細胞増殖因子)を加えることで、創傷治癒の効果は高まるのか? 3. 抗菌ペプチド投与による感染防止や、循環調節ペプチド投与による血流改善によって、治癒は進むのか? ③は、私の専門である生理活性ペプチドの分野と無理矢理関連させた感があるが、許してほしい。 こうやって3つの研究項目をあげると、その後の内容が非常に書きやすくなる。菌の種類はどのようなものがあるか? 投与するFGFの濃度は? 他の増殖因子は創傷治癒に使えないか? ペプチドは何を使うのがよいのか? このように次々に関連項目が浮かんで書く内容が広がり、内容が充実したものにできるだろう。1つの研究テーマに関して、大きな枠組みで書いていくよりも、3つくらいの研究項目をつくって、いくつかの部分に分けていくと初心者には書きやすい。 特に経験の少ない若手はコラム「アイデアのつくり方」も参照してほしい。 > --- > **➡ アイデアのまとめ方** > > - 応募内容の全体構想を考えてから、細部の項目を仕上げていこう。 > - 科研費申請に関するアイデアは常日頃からノートに記録しておこう。 > - Post-it、マインドマップ、3つずつアイデアを出す手法を使って考えよう。 > --- > --- > **Column:アイデアのつくり方** > > 申請書を書くときに、「何を書いていったらいいのかわからない」あるいは「申請書のスペースを埋めていくのが大変だ」という人がいる。特に経験の少ない若手に多い。このような場合の多くは、申請書に盛り込む研究のアイデアが不足していることが多い。申請書に研究テーマは書けるが、その具体的な中身をどのように組み立てていけばいいのだろうか? > > そのために参考になる本が、 > > 『アイデアのつくり方』(ジェームス・W・ヤング/著、今井茂雄/訳、竹内均/解説)、阪急コミュニケーションズ、1988 > > だ。たった100ページあまりの薄い本だが、アイデアをつくり出すのにとても役に立つ。この本に書かれているアイデアがつくられる過程は > > 1. 資料集め > 2. 資料の検討 > 3. 孵化段階:アイデアを生み出すまでの段階 > 4. アイデアの実際上の誕生 > 5. アイデアの展開 > > である。申請書の場合、経験上最も重要なのは②である。自分が行おうとしている研究に関して資料を集めて、それを読んで検討することが大切だ。自分1人の考えだけではどうしても研究内容が狭い範囲に限られて、単純なままに終わってしまう。同じ分野の他の研究者の文献を読むことで、自分では考えつかなかったさまざまな研究内容を知ることができ、計画している研究テーマの内容が豊かになる。特に自分の研究に関連した総説を読むことで、未解決な問題点などを知ることができ、それが研究のアイデアにつながる。ともかく「文献を読むこと」である。 > > 経験を積んでくると、逆に現在の申請書ではスペースが少なく、最終的にどの部分を削除するかと悩むようになる。1行を縮めるために、それこそ文字や単語を、あるいはコンマ1つを削れないかと悩むようになる。 > --- > --- > **Column:K大学科研費事務担当者の奮闘記** > > **Q:いつも思っていたのですが、なぜ科研費の日本学術振興会での締め切りと比べて、学内の締め切りはその2~3週間前と早く設定されているのですか?** > > A:大学によって異なるのですが、K大学の場合、全学部の申請書をまとめて最終的に学術振興会に提出の処理をするのは経理課です。申請書のチェック、様式などですが、これをチェックするのは、医学系では研究推進課、文系学部は各学部の事務が担当します。科研費の締め切り最終日に学術振興会に送信しようとすると、万が一のことが起きる可能性があるので、あらかじめ余裕をもって経理課は締め切りを設定します。その設定に合わせて各学部の担当部署が、さらに早く締め切りを設定することになります。そのため、実際の学術振興会の締め切りよりも、学内の締め切りがかなり早くなってしまうのです。 > > **Q:科研費のとりまとめで、事務方として苦労する点を教えてください。** > > A:まずなんといっても処理する数の多さです。文系学部の申請数はそれほど多くないのでいいのですが、医学系では毎年300件前後の申請があり、それを実質1人で処理しなければなりません。チェックだけでも大変な数です。しかも一度電子申請を行ったものを取り消してほしいなど、締め切り間際の連絡が多く、その時期には事務室の電話は鳴りっぱなしです。 > > 事務では申請書のチェックをします。よく訂正を求めるのは、様式がずれているものなどです。申請書の書式が変わることが多いのに、前年度の古い書式のままで提出する先生も結構います。 > > また先生方に修正点を連絡するのですが、学会や研究会などで不在の先生も多く、捕まえるのにひと苦労です。申請書をメールで添付して送ってくる先生もいて、これも連絡をとるのに大変です。秘書さんや研究補助員さんが出張中の先生からの指示を受けて訂正することもあります。 > > 困るのは、ほとんど何も書いていない申請書を出す先生がいることです。講座や教室で教授など上の方から絶対に出すように命令されて、仕方なくほんの少しだけ書いて出す先生がいます。ひどいものになると概要だけ1行しか書いてないものもあります。もっとも臨床の先生方は非常に忙しいので、気の毒には思いますが。 > > それから研究計画のところで、毎年同じ研究計画を書いているときなども、先生に訂正を求めます。 > > 事務では様式などのチェックはできるのですが、内容に関してのチェックはできません。それでも私たちに「申請の書き方は?」「どうやったら採択されるのか?」「応募期間は何年にしたらいい?」「研究費の額はいくらにしたらいい?」などの、こちらでは答えることのできない質問も結構きます。 > > **Q:研究者への要望は?** > > A:まず、ちゃんと公募要領を読んでほしいということです。公募要領は毎年何らかの変更があります。申請書を書く前に、まずその年の公募要領をよく読んでほしいと思います。 > > それから、申請書を作成するのなら、ただ出すためにつくるのではなく、ちゃんと採択されるための申請書を書いてほしいです。 > > 最近、医学部で研究をやる先生の数が減って、応募数が伸びないのが悩みです。研究費の獲得はその先生の業績になるとともに、大学にとっても非常に重要なことです。もっと多くの先生方に頑張って科研費を獲得していただきたいです。 > ---