--- title: "9. 他の省庁・民間組織が公募する研究費" book: 科研費獲得の方法とコツ 第9版 chapter: 第1章 科研費の概略 pages: 70-74 images: page_0070.png ~ page_0074.png --- # 9. 他の省庁・民間組織が公募する研究費 科研費の申請書を一生懸命に書いたら、それを利用して他の省庁や民間の研究助成に応募することも考えよう。応募の書式はそれぞれの研究費によって異なるが、基本的な科研費の申請書を作成しておけば、問題なく転用できる。 他省庁および関連財団法人が募集する代表的な研究費として、生物・医学研究に関するものに限ると主に次のものがある。 ## 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 平成27年4月1日より、医療分野の研究開発の司令塔として国立研究開発法人AMED(Japan Agency for Medical Research and Development)(https://www.amed.go.jp)が設立された。ホームページにはAMEDの理念として「医療分野の研究開発及びその環境整備の中核的な役割を担い、『医療分野の研究成果を一刻も早く実用化し、患者さんやご家族の元にお届けすること』を目指す」とある。AMEDができるまで文部科学省・厚生労働省・経済産業省がそれぞれ別々に行ってきた医療分野の研究開発予算や創薬支援業務を集約して、基礎研究から実用化までを一貫して推進することが目的である。いうまでもなくAMEDは研究機関ではなく、競争的資金の配分機関であり、公募により優れた研究課題を選定して研究資金を配分する。これまでの三省による医療分野における別々の研究開発予算が一元管理され、より有効に活用されることで研究開発が最適化することが期待される。 医薬品、医療機器・ヘルスケア、再生・細胞医療・遺伝子治療、ゲノム・データ基盤、疾患基礎研究、シーズ開発・研究基盤といったさまざまなプロジェクトがほぼ毎週のように公募されているので、ホームページをこまめにチェックして、自分の研究課題にマッチしたプロジェクトの公募があれば応募するとよい。 ## 省庁関連の国立研究開発法人の研究費 各省庁に関連のある国立研究開発法人が募集する研究費は金額も大きく、期間も5年くらいの長期にわたり非常に魅力的だが、競争率が高く、大物研究者が応募するので、科研費よりもはるかに難関だ。また各事業の目的に沿った研究内容である必要があり、研究成果が非常に厳しく求められる。そのため研究期間の途中で研究中止になることもある。 医学・生物学関係の公募を行なっている主な国立研究開発法人と、研究事業には次のものがある。 ### 文部科学省 → 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST):戦略的創造研究推進事業(CREST、さきがけ、ERATOなど) https://www.jst.go.jp/kisoken/ 科研費応募の中心となる日本学術振興会も文部科学省関係だが、日本学術振興会は旧文部省、一方、科学技術振興機構は旧科学技術庁の関連だ。 この事業の目的は、「我が国が直面する重要な課題の克服に向けて、挑戦的な基礎研究を推進し、社会・経済の変革をもたらす科学技術イノベーションを生み出す、新たな科学知識に基づく創造的な革新的技術のシーズ(新技術シーズ)を創出すること」とある(ホームページより)。 科研費は研究者からの提案研究課題を助成するが、戦略的創造研究推進事業は国が定めた戦略目標の達成に向けたトップダウン型であることが大きく異なる(図1-1)。なお、CREST、さきがけなどの医療分野の課題は前述のAMEDに移管された。 ### 厚生労働省 → 厚生労働科学研究費補助金 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/index.html 厚生労働省では「厚生労働科学研究の振興を促し、もって国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に関し、行政施策の科学的な推進を確保し、技術水準の向上を図ること」(ホームページより)を目的として厚生労働科学研究費補助金の公募を行っている。令和7年度の公募期間(一次公募)は、令和6年12月26日から令和7年1月30日だった。 「I 行政政策研究分野」「II 疾病・障害対策研究分野」「III 健康安全確保総合研究分野」の3分野においてさまざまな事業の公募が行われる。AMEDが疾患の治療を大きな目的としているのに対して、厚生労働科学研究費補助金は政策的な研究課題を扱っている。例えば「がん免疫」を対象としてもAMEDは治療目的の基礎・応用研究を推進するのに対して、厚生労働科学研究費補助金は「科学的根拠を有する(がん)免疫療法に関する適切な情報を患者や国民に届けるための情報提供方法の構築」などについての研究が行われる。 厚生労働科学研究費補助金も自分の研究課題にマッチした事業の公募があれば応募するとよい。 ### 農林水産省 → 農林水産技術会議 https://www.affrc.maff.go.jp/docs/project/kobo/index.html 農林水産省の農林水産技術会議では「みどりの食料システム戦略実現技術開発・社会実装促進事業(委託プロジェクト研究)」(令和6年度までは「農林水産研究の推進」という名前だった)を実施している。 これは「農林水産業・食品産業の競争力強化に向け、国主導で実施すべき重要な研究分野」を公募するものである。大きくは「新品種開発研究」「環境負荷低減対策研究」「気候変動適応研究」「競争力強化研究」「革新的技術創出研究」という5つの柱から構成される。令和7年度に新規公募されたのはこのうちの2つで、「環境負荷低減対策研究」「気候変動適応研究」であった。「環境負荷低減対策研究」には1つの研究課題があり、「気候変動適応研究」には3つの研究課題があった。 > --- > **Column:各国の研究費事情:科研費と比べてどうなのか?** > > いうまでもないことだが科研費に採択されることは難しい。令和6年度の新規採択率の平均は27.5%と、比較的高い数字だが、それでも計算上は3人に1人しか採択されない。この科研費の採択率は、他の国の科研費に相当する研究費と比較した場合、その採択率は低いのだろうか高いのだろうか? > > まず米国。相変わらず研究のレベルは質・量ともに圧倒的だが、近年、グラント採択が非常に困難だとよくいわれる。実際に難しいのは医学系のNIHグラントで、最も標準的(だと思います)なR01では2023年の採択率は約22%と科研費に比べて低い。医学系以外のアメリカ国立科学財団(National Science Foundation:NSF)のグラントの場合、分野別の採択率は、人文社会学系約20%、工学系約22%、数学・物理系約29%、生物系約28%と分野によって採択率は大きく異なる。 > > 次にイギリスの状況だが、イギリスの基礎研究を統括しているのが、英国研究・イノベーション機構(UK Research and Innovation:UKRI)であり、そのなかで助成機関は分野ごとの7つの研究会議に分かれている。バイオテクノロジー生物科学研究会議(Biotechnology and Biological Sciences Research Council:BBSRC)や医学研究会議(Medical Research Council:MRC)はその1つである。2023〜2024のUKRIの採択率は21.1%であり、科研費に比べてかなり低い。 > > さて近年、学術論文における質的・量的レベルが世界最高水準になっている中国はどうだろうか? 科研費の「基盤研究」に相当すると考えられるのはGeneral Programで、「若手研究」に相当すると考えられるのがYoung Scientists Fundである。その医学分野(Health Sciences)での2023年採択率は、前者が13.79%、後者が12.53%と科研費に比べるとかなり低い。また近年AIなどで話題の情報科学分野(Information Sciences)では、General Programでは18.15%、Young Scientists Fundでは24.0%と医学分野より採択率は高い。中国は研究費が潤沢にあると思いがちだが、研究費獲得は非常に厳しいと思われる。 > > このように国によって研究費の採択率の差はあるが、ほぼ20%前後の採択率である(中国の医学分野の採択率は低いが)。そのため日本の科研費において「若手研究」の採択率が40%というのは、他国の研究者にとっては羨ましいことに違いない。 > --- 応募資格などの詳細は、応募要項を参照してほしい。 令和7年度の公募期間は、令和7年1月17日から2月28日17時までであった。 ### 農林水産省 → 農研機構のイノベーション創出強化研究推進事業 https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/open-innovation/index.html 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の生物系特定産業技術研究支援センター(以下「生研支援センター」という)では「オープンイノベーション研究・実用化推進事業」の公募を行っている(令和7年度の公募の詳細は https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/open-innovation/offering/koubo/2025.html)。 この「オープンイノベーション研究・実用化推進事業」は「我が国の農林水産・食品分野の競争力を強化し飛躍的に成長させていくため」に「従来の常識を覆す革新的な技術・商品・サービスを生み出す研究開発」を行うことが目的である。基礎・応用段階の研究開発から実用化段階までの研究開発を対象としており、「研究機関等の独創的なアイデアや基礎科学など萌芽段階の研究を基に、将来、農林水産・食品分野での社会実装を目的とした革新的な研究シーズを創出する基礎研究を対象とする『基礎研究ステージ』」と、「農林水産省の研究資金や他の研究資金による基礎研究等で創出された成果(研究シーズ)を基にした、農林水産・食品分野における生産現場の技術的な課題等を解決するための実用化段階の研究開発を対象とする『開発研究ステージ』」からなる(ホームページより)。 令和7年度の公募期間は、令和7年1月31日〜3月4日昼12時までであった。 ### 経済産業省 → 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) https://www.nedo.go.jp/koubo/ NEDOは「エネルギー・地球環境問題の解決」と「産業技術力の強化」「イノベーション・アクセラレーターとしてのNEDOの役割」を3つのミッションとする、日本最大の技術開発推進機関である。NEDOはエネルギー、環境、電子・情報通信、バイオテクノロジー、機械システム、材料・ナノテクノロジーなど、さまざまな分野での研究開発の公募を行っている。特に工学系の研究課題が多いのが特徴である。 ## 民間の研究費 民間の研究助成は数多くあり、採択されるチャンスも大きいので、ぜひいろいろと応募してみることをお勧めする。民間の研究助成の情報は雑誌の広告、学内での連絡・掲示によって募集情報を得ることができるが、次のホームページに詳しく情報が掲載されている。 ### 公益財団法人 助成財団センター https://www.jfc.or.jp/ このホームページには個々の助成団体の情報だけでなく、助成金募集ニュースが常に更新されてあって便利だ。またセンターからは『研究者のための助成金応募ガイド』、『助成団体要覧』という本(電子書籍)が毎年のように頻繁に改訂されている。 ### 研究助成.com https://kakenhi.com/grant/ このサイトには862財団の情報が掲載されており(令和7年3月現在)、現在募集中の助成金を探す際に、締め切り順、募集開始順、2週間以内に締め切りと選択できるようになっている。また絞り込み条件として、分野別、年齢制限、募集期日、地域などから検索可能で、とても便利だ。 民間財団の研究助成は、特にラボを立ち上げたばかりの新米PIの時期に、申請書に「新設ラボで研究費が必要」と一筆書いておくと非常に効き目があって採択される率が高い。私自身もラボを立ち上げた年には、民間の研究助成にたくさん応募して、結構採択され、非常にありがたかった。民間の研究助成は助成期間が1年間で助成額が100〜200万円くらいと科研費より少ないのが相場だが、セットアップ時には本当に助かる。 以上の、科研費以外の研究費募集はまめにチェックしておかないと、見逃してしまうことが多いのでご注意を〔参照 5章4:科研費以外の研究費への応募の可能性〕。