--- title: "7. 科研費の基金化、調整金、合算使用、バイアウト制度" book: 科研費獲得の方法とコツ 第9版 chapter: 第1章 科研費の概略 pages: 60-66 images: page_0060.png ~ page_0066.png --- # 7. 科研費の基金化、調整金、合算使用、バイアウト制度 ## 科研費の基金化 科研費の基金化によって、いくつかの種目では研究期間内(通常は2〜5年)の配分金額が一括して交付され、年度の区切りを気にせずに、自由に使える(図1-13)。ただし「自由に」というのは、その年度の研究費の額を自由に変更できるということで、何に使ってもいいということではない。研究経費の内訳は基本的には申請したときのものにしたがう。もちろん使途の変更は可能である。 > --- > **Column:科研費若手支援プラン(CIO)への期待** > > いつの時代でも、また社会のどの分野でも、「若手育成」と「若手支援」は重要な課題である。科研費においても、これまで「若手研究」や「研究活動スタート支援」として若手研究者のための種目の充実が図られてきた。そして現在では「科研費若手支援プラン(CIO)」として、「研究者のキャリアに応じた効果的な支援策を切れ目なく展開する施策パッケージ」が実施されている。この「科研費若手支援プラン」によって「若手研究」と「研究活動スタート支援」の若手対象の種目だけでなく、「基盤研究」においても若手が優先的に採択されている。例えば図1-12にあるように、39歳以下と40歳以上では採択率にかなりの差がある。また「国際共同研究加速基金」においては「国際共同研究強化」は若手研究者が対象であるし、「海外連携研究」では若手の参画が応募要件であった(「海外連携研究」は令和7年度公募から停止)。さらに令和2年度公募から開始の「学術変革領域研究」の「学術変革領域研究(B)」は研究代表者をはじめとして、若手が中心となって進める領域研究である。このように若手研究者への支援策はかなり整備されてきた。 > > しかし「科研費若手支援プラン」において最大の問題点は、支援の対象である若手研究者の減少である。修士課程修了者のうち、博士課程に進学するものの人数は減少を続けており、また39歳以下の大学教員の比率も減少を続けている。日本全体での若者人口はこの先も減少を続けていくのだから、若手研究者の数もさらに減少していく可能性が高い。「支援すべき若手研究者がいない!」などとならないように、「科研費若手支援プラン」がうまく機能するように期待している。 > --- > **図1-13のデータ:** > > **従来の配分方法**(例:研究期間での交付金額の合計=350万円の場合) > - 1年目:150万円 / 2年目:130万円 / 3年目:70万円 > > **基金化されたときの配分方法** > - 研究期間全体で350万円(年度の区切りなく自由に使用可能) > > 完全に基金化されている基盤研究(B、C)、若手研究、挑戦的研究(開拓・萌芽)、研究活動スタート支援、特別研究促進費、国際共同研究加速基金、特別研究員奨励費などがこの概念図に相当する。 基金化の導入は科研費にとって「抜本的な制度改革」(文部科学省の資料による)であり、 1. 研究の進展に合わせた研究費の柔軟な執行による、研究活動の活性化 2. 「予算の使い切り」がなくなるなど、予算のより効果的・効率的な活用 3. 従来と比べ、研究者はより研究に専念することができる ことが期待されている。 科研費のそれぞれの種目において2025年3月の段階で基金化されているのは、基盤研究(B, C)、若手研究、挑戦的研究(開拓・萌芽)、研究活動スタート支援、特別研究促進費、国際共同研究加速基金、特別研究員奨励費である。 ### 基金化の具体的なしくみ 基金化によって研究費の使い方が変わるだけで、科研費の応募、審査、採択などはこれまでと同じである。基金化された研究種目は次のように運営されている。 1. 科研費の応募者は従来と同じく、申請時に各年度ごとの研究経費を計上する 2. 国から日本学術振興会に学術研究助成基金として予算が移される 3. 新規に採択された研究課題には、研究開始年度に研究期間全体の交付金額が決定される(従来は研究期間が複数年度であっても、1年ごとの交付予定額になっていた) 4. 申請した研究経費にもとづいて、各研究者に1年ごとの研究費が配分されて研究がスタートする 5. 必要に応じて次年度以降に予定している研究費を先に使ったり(前倒し)、あるいは年度末に使い切れなかった研究費を次年度以降に回す(繰り越し) 例えていうと、銀行に研究費をまとめて預けておいて、自由に引き出せたり、あるいは余った分を預金できるようなイメージだろうか。研究期間内ならば、研究費配分額を研究者の判断で自由に変更できるようになったのだ。 このように科研費の基金化は、研究費を非常に柔軟に使うことができる制度であるが、研究者としては、研究費の管理と執行において不正使用がないようにこれまで以上に注意しなければならない。 > --- > **Column:研究費はいくら必要か?** > > 以前、三菱財団の研究費をもらったときに、その財団の選考委員をしていた堀田凱樹先生が書いたエッセイを読む機会があった。そのなかに「研究者におとずれる3つの危機」について書いてあった。その1つが「大型の研究費をもらったとき」とあって、「へえ」と思った(あとの2つは忘れた。すみません)。時、独立してラボをもったばかりの私には「大型の研究費」などは夢の世界で、なぜなんだろうと思ったことを覚えている。その後、運よくある研究チームに加えてもらって、一般の研究費のレベルからみると、かなり高額の研究費をいただくことができた。それをいただいた感想は、研究費が多いのはよい。しかし、多すぎるのも大変だということ。かなり贅沢な使い方をしても結構な研究費が残るのだ。そのため年度末が近くなると、消耗品や試薬などの注文に追われた。また大型研究費が終了したときに、膨らんだ研究費予算を減らして、研究活動を維持するのがすごく大変だった。確かに「大型の研究費」をもらうのはよいが、いろんな難しいことが起こるものだと実感した。研究に振り回されるのではなく、お金に振り回されたのだ。 > > さて、いったい、生命科学系のラボに研究費はどのくらい必要なのだろうか? かつては(15年以上前は)ラボのメンバー1名あたり年間150万円で計算すると、研究費を気にせずに実験できる妥当な金額だった。PI、スタッフ、ポスドク、大学院生、テクニシャン、秘書さんなど、すべてのラボメンバーの人数分に150万円をかければ、必要な金額の目安が計算できた。全員で10名のラボとして、年間1,500万円が必要な計算になる。消耗品から、ちょっとした機器購入、人件費、旅費、論文別刷り代など全部含めても、このくらいあれば十分だった。研究費のうち半分は科研費で、あとは教室研究費や民間財団の助成金などで賄うと、なんとかやっていけた。 > > しかし現在ではどうだろうか? 私の実感としては、現在では1名あたり年間300万円で計算しないと、十分な研究活動ができないような気がするのだが、いかがだろうか? > --- ## 調整金によって基金化されていない種目も使いやすくなった 完全に基金化されている基盤研究(B, C)、若手研究、挑戦的研究(開拓・萌芽)、研究活動スタート支援、特別研究促進費については、研究期間内であれば年度の区切りに関係なく研究費を使うことが可能である。従来、基金化されていない種目においては、余った分の翌年度への繰り越しは可能だったが、翌年度の研究費の前倒し使用はできなかった。しかし、平成25年度から補助金に「調整金」枠が設定されて、翌年度の研究費から前倒し使用が可能になった(図1-14)。これによって基金化されていない種目でも、実質的には基金化された種目と同じように研究費を使用できるようになった。 > **図1-14のデータ:** > > **繰り越し制度** > - 当初の予定:今年度150万円 / 次年度130万円 > - 変更後の研究費:今年度120万円 → 30万円を繰り越し → 次年度 計160万円 > > **調整金として繰り越し**(繰り越し制度の要件に合わないとき、または繰り越し申請期限の後に繰り越す場合) > - 当初の予定:今年度150万円 / 次年度130万円 > - 変更後の研究費:今年度120万円 → 未使用分30万円(一度、国庫に返納)→ 調整金として30万円繰り越し → 次年度 計160万円 > > **前倒し** > - 当初の予定:今年度150万円 / 次年度130万円 > - 変更後の研究費:今年度 計180万円(調整金として30万円を前倒し)/ 次年度100万円 > > 完全に基金化されていない種目において、「調整金」が設定されて、研究費を繰り越したり前倒しで使用できる(この場合の繰り越しは、繰り越し制度の要件に合わないときに繰り越せる制度である)。 ### 次年度への繰り越し使用 繰り越し制度によって、簡単な手続きと審査を経て、使い切れなかった研究費は翌年度に使用できる。また、繰り越し制度の要件に合わないときや、繰り越し申請の締切期限〔令和6年度は令和7(2025)年2月7日〕が終わったあとに繰り越さなければならなくなったときにも、余った研究費を次年度に回すことが可能になった。具体的には、未使用の研究費は一度国庫に返納して、次年度に調整金として配分される(図1-14)。したがって研究期間全体の配分額は変わらない。なお、「調整金」による研究費の次年度使用には上限が定められていないが、下限は未使用額で5万円以上(1万円単位)との規定がある。 ### 前倒し使用 またこの調整金を使って、次年度以降の研究費を前倒しで使用することも可能である。前倒しで使用した配分額は次年度以降の研究費から減額されるために、配分額全体は変わらない(図1-14)。 この調整金は全種目の完全基金化までの一時的な制度であろうが、非常にいい制度だと思う。 ## 科研費等の合算使用による共用設備の購入 研究者にとって科研費で高額の機器を購入するのは大変だ。近年、非常に高額な実験装置が販売され、その機器の購入が研究の成否を分けることもある。クライオ電子顕微鏡などはその例だろう。しかし現実問題として、科研費では特別推進研究などの一部の種目を除いて、基盤研究(B, C)や若手研究では高額な実験装置を購入することなど不可能だった。その後、若手研究や基盤研究(B, C)などが基金化されて研究費を年度を超えて使用できるようになったため、これまでよりも高価な機器を購入しやすくなった。それでも研究費の総額によっては、購入できる機器には限度があった。 それが現在では複数の研究費を合算して共用設備を購入することが可能になり、高額の機器をも購入することが可能となった。「共用設備」とは「複数の科研費(研究課題)において共同して利用する」(文部科学省のホームページより)実験装置や研究機材などのことである。これは画期的なしくみである。 2つ以上の科研費や、科研費と運営費交付金、あるいは科研費と寄付金などを合算して、共用設備を購入することができるのだ。2つ以上の科研費の合算とは、同一研究者の科研費だけでなく、同じ研究機関に属する別の研究者の科研費とも合算できる。しかし購入できるものはあくまでも、科研費の研究目的に沿った必要な設備に限られるのはいうまでもない。 合算使用に関しては日本学術振興会の科学研究費助成事業ホームページ「科研費FAQ」(https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/05_faq/)において検索すると詳しい情報が得られる。 このように科研費の繰り越し手続きの簡素化や、科研費の基金化、そしてこの合算使用による共用設備の購入など、ここ数年で急激に科研費は使いやすいように変化している。 ## 「研究以外」の業務代行経費としての「バイアウト制度」 「バイアウト制度」とは、研究者が研究時間を確保するために、研究以外の業務の代行費用を、競争的研究費の直接経費から支出可能とする制度である。研究以外の業務とは、(1)研究活動と(2)組織の管理運営事務以外で、「研究者が本来行う必要がある教育活動等及びそれに付随する事務等の業務が対象となる〔例:教育活動(授業等の実施・準備、学生への指導等)、社会貢献活動(診療活動、研究成果普及活動等)等〕」〔令和7(2025)年度科研費公募要領より〕。「競争的研究費」にはもちろん科研費も含まれる。これまで直接経費で使えるものは研究に直接間接にかかわるものだけであったが、「バイアウト制度」では「研究以外」のものにも経費を使えることが画期的である。 「バイアウト制度」に関する経費は「その他」の費目で計上し、「事項」欄に必ず「バイアウト」という文言を記載することになっている。また、この経費は研究者が代行要員を雇用するための費用自体を指すものではなく、あくまで研究者が代行要員雇用のために研究機関に支払う費用である。すなわち「バイアウト制度」を実施するためには、研究機関において「バイアウト制度」に関する仕組みが構築されていることが必要である。 「バイアウト制度」の詳細は、内閣府より公表されている「競争的研究費の直接経費から研究以外の業務の代行に係る経費を支出可能とする見直し(バイアウト制度の導入)について」(https://www8.cao.go.jp/cstp/compfund/buyout_seido.pdf)を参照。 > **基金化と調整金、合算使用、バイアウト制度** > - 基金化と調整金によって科研費は非常に使いやすくなった。 > - 科研費やその他の研究費の合算使用によって共用設備の購入が可能。 > - 「バイアウト制度」により研究以外の業務に科研費が使える。 ## 今後への期待 近年、科研費の制度には画期的な改革が相次いで、現在は非常に使いやすくなった。しかし懸念すべきことは、研究費の不正使用が大きな問題となり、科研費を使いやすくするための制度改革のはずが、逆に場合によっては使いにくくなっていることだ。すなわち、研究者よりもむしろ研究機関側が、不正使用ととられかねないような使途のミスをおそれて、さまざまな理由書などの提出や制限を設けていることだ。例えば申請書に書いている以外の機器購入をしたいときに研究計画に必要であるという理由書を(大学に)提出するとか、学会参加と同時期に他の用件(例えば班会議など)に参加するときには、事務処理が格段に面倒になるとかの例がある。事務処理があまりに面倒なので、自費で出張するとかの例も聞く。このように表向きには使いやすい制度を謳っているのに、逆にさまざまな制限が多くなってきたと感じているのは私だけだろうか? まだ実現されていない科研費の大きな改革には、他に何があるだろう。簡単なものでは審査委員のコメントを各応募者に開示することがある。現在では不採択になった各申請者の審査結果はネットを通じて開示されているので、近い将来、審査委員のコメントも公開されるようになるのではないだろうか? また、個人的には現在の1年に1回の応募でなく、1年間に2〜3回の複数回の応募ができるようになることを期待したい。