--- title: "4. 審査のしくみ" book: 科研費獲得の方法とコツ 第9版 chapter: 第1章 科研費の概略 pages: 40-46 images: page_0040.png ~ page_0046.png --- # 4. 審査のしくみ 科研費の審査については、科学研究費助成事業のホームページに審査基準から審査委員名簿まで詳しく記載されている〔左側のサイドバー(あるいは右上の「MENU」)に「審査・評価関係」の項目がある〕。科研費の審査は図1-5のように進められる。 審査の骨子は、 - 審査区分は「大区分・中区分・小区分」で構成され(図1-3、図1-4)、科研費の応募種目によって異なる区分で審査が行われる(表1-4)。 - 基盤研究(S)の審査は11からなる「大区分」において「総合審査」(審査委員全員による書面審査と合議審査)で行われる。 - 基盤研究(A)と挑戦的研究(開拓)の審査は64からなる「中区分」において「総合審査」で行われる。挑戦的研究(萌芽)の審査は「中区分」において「2段階書面審査」で行われる。 「中区分」では、以前の制度よりもかなり広い研究領域の審査委員が評価をする。例えば、私がこれまで応募してきた「内分泌学」は「中区分」では「生体情報内科学およびその関連分野」となって「血液および腫瘍内科学関連」「膠原病およびアレルギー内科学関連」「感染症内科学関連」「代謝および内分泌学関連」の4つの「小区分」の集まりになった。「小区分」の「代謝および内分泌学関連」なら代謝と内分泌の間で関連性も大きいが、「中区分」では血液や感染症の専門家が「内分泌」を審査することもありうるということだ。そのため分野の異なる審査委員にも十分に理解してもらえるように申請書を書いていかなければならない。 | 区分(数) | 応募種目 | 審査方式 | 審査委員数 | |---|---|---|---| | 大区分(11) | 基盤研究(S) | 総合審査(専門分野に近い研究者3名程度が作成する審査意見書も活用) | 6名 | | 中区分(64) | 基盤研究(A)、挑戦的研究(開拓) | 総合審査 | 7〜8名 | | 中区分(64) | 挑戦的研究(萌芽) | 2段階書面審査 | 7〜8名 | | 小区分(323) | 基盤研究(B、C)、若手研究 | 2段階書面審査 | 基盤研究(B)は5名。基盤研究(C)と若手研究は3名 | **表1-4 令和7年度公募の審査区分と審査方式** - 基盤研究(B、C)、若手研究の審査は323からなる「小区分」において「2段階書面審査」で行われる。 すべての種目で同じ審査委員が第1段審査と第2段審査を行う。基盤研究(B)では5名、基盤研究(C)と若手研究では3名の審査委員が、基盤研究(A)と挑戦的研究(開拓・萌芽)では7〜8名の審査委員が割り当てられる。 なお、令和5年度の応募からは「基盤研究(B)」において、著しく応募件数の少ない一部の小区分について、6〜9名の審査委員により複数の区分での合同審査が行われる。合同審査は49小区分が対象である。(比較的に)近い研究分野の小区分が合同で審査を行うことになるので、申請書の内容を、よりわかりやすく記述することが必要となるだろう。 以上の審査方法からわかるように、審査委員は2段階の審査でじっくり申請書を読むことになる。特に第1段審査はすべて「書面審査」である。そのため申請書の書き方が最も重要だ。 ## 2段階書面審査 基盤研究(B、C)と若手研究の審査は小区分で、挑戦的研究(萌芽)の審査は中区分で行われ、第1段階と第2段階の審査のどちらも電子システムを利用した書面審査である(2段階書面審査)(図1-5)。審査委員はまず第1段階審査ですべての応募研究課題の申請書を審査して点数を付ける。点数が上位のものは第1段階審査のみで採択される。次に、他の審査委員の第1段階の審査の意見を参考にして、採否のボーダーライン付近(採択予定件数の上位80〜120%に当たる)の研究課題や、一部の審査委員が極端に低い点数を付けた研究課題、およびボーダーラインよりも上位の課題のなかで審査委員のうち1名でも点数1を付けた研究課題を対象として、同一の審査委員が改めて申請書の審査(第2段階)を行う。これによって、他の審査委員と自分との評価が異なる場合、もう一度時間をかけてじっくりと申請書を読むことで、より適した評価ができる。一度読むだけでは理解が難しかったものが、もう一度じっくりと読むことで評価が変わるかもしれない。 ## 総合審査 基盤研究(S、A)、挑戦的研究(開拓)で行われる「総合審査」では、第1段審査の書面審査と第2段審査の合議審査(話し合って決める)の両方を、同じ審査委員が行う。基盤研究(A)、挑戦的研究(開拓)では「中区分」で、基盤研究(S)では「大区分」で審査が行われる。 また挑戦的研究において応募件数が多い場合には、「総合審査」が実施可能な件数となるよう「研究計画調書(概要版)」〔Web入力項目(前半)+研究計画調書の概要〕によるプレスクリーニング(事前の選考)が行われる。 ## 基盤研究と若手研究の審査 ### 第1段審査=書面審査 第1段審査は書面審査である。第1段審査では提出された科研費の申請書について、基盤研究(B)では5名、基盤研究(C)と若手研究では3名の審査委員が評点を付ける。 評点には研究内容や研究計画など個々の4項目に関して評点を付ける「**評定要素**」と、審査するすべての研究課題に対して相対的に評点を付ける「**総合評点**」(どちらも4段階)がある。注意すべきは「評定要素」と「総合評点」との間には特に相関はないということ。各応募種目の書面審査における評定基準等には「審査にあたり、高い総合評点を付す研究課題は、必ずしも、全ての個別要素において高い評価を得た研究課題である必要はありません。研究分野の特性など、学術研究の多様性に配慮しつつ、幅広く重要な研究を見いだし、学術研究が進展するよう、適切な評価を行ってください」とある。つまり、例えば「評定要素」の項目がすべて3点でも、「総合評点」として最高点〔基盤研究(B、C)、若手研究では4点、基盤研究(S、A)ではS〕を付けてもいいということだ。 #### 評定要素 評定基準のうち、「評定要素」には次の4項目があり、各項目について4段階の点数を付ける。 **A. 研究計画の内容に関する評定要素** 1. 研究課題の学術的重要性・・・(1) 2. 研究方法の妥当性・・・(2) 3. 研究遂行能力及び研究環境の適切性・・・(3) **B. 研究課題の国際性に関する評定要素**・・・(4) ※上記のうち、(4)は基盤研究(A、B、C)だけにある。 いうまでもなく、これらの項目の評点は、審査委員の主観的なものである。先に書いたように「評定要素」の点数はあくまでも参考で、「総合評点」の点数とは別である。つまり、「評定要素」の合計点数がそのまま「総合評点」に反映されるとは限らない。 重要なことは第1段審査において4段階で点数が付く「総合評点」が、第2段審査における評価(つまり採択)に大きな意味をもつということだ。いくら「評定要素」で最高の4点を多く付けられても、総合評点が低いと採択は難しい。 #### 総合評点 総合評点は基盤研究(B、C)と若手研究では最高が4、最低が1で、小数点以下はない。基盤研究(S、A)では最高がSで以下、A、B、Cの順になっている。 「総合評点」は相対的な評価であるため、評点分布の目安が決められている。 - **基盤研究(B、C)と若手研究の評点区分**:4点が10%、3点が20%、2点が40%、1点が30% - **基盤研究(S、A)の評点区分**:Sが10%、Aが10%、Bが10%、Cが70% - S=「最優先で採択すべき」 - A=「積極的に採択すべき」 - B=「採択してもよい」 - C=「S〜Bに入らないもの」 そして、ほぼこの評点分布にしたがって、各評点区分における申請者の人数が調整される。そのため審査委員は、よい申請内容のものがなくても必ず最高点を付けなければならないし、内容がよくてもどれかの申請課題には一番低い評点を付けないといけない。ただし審査委員の担当研究課題数が少ない場合は、この限りではない。 また審査委員によって点数の付け方に多少のバラツキがあるので、採点の集計においては、審査委員による採点の偏りを避けるために統計処理され、小数点以下の点数が付く。この補正で使われるのは**Tスコア**で、平均点と標準偏差により審査委員ごとの素点のばらつきが補正される。 #### 審査意見 評点とともに審査委員はすべての研究課題について審査意見を記入しなければならない。各応募種目の「書面審査における評定基準等」には「全ての研究課題の「審査意見」欄に、当該研究課題の長所と短所を中心とした審査意見を必ず記入してください」とある。種目によって異なるが、1人の審査委員には平均100課題の申請書が送られてくる。その100課題近くの審査意見を全部書くことは、審査委員にとってなかなか大変なことなのだ。 ### 第2段審査 #### 基盤研究(B、C)、若手研究:2回目の書面審査 第1段審査ではすべての応募課題について審査され、その結果にもとづいて第2段審査ではボーダーライン(採択予定件数)付近になった研究課題について、第1段審査と同じ審査委員が再び書面審査を行う。また一部の審査委員が極端に低い評点を付けた研究課題についても第2段審査の対象となる。なお、明らかに点数の高いものについては、この時点で交付内定となる。 第2段審査では、他の審査委員が付けた第1段審査の審査意見等を参考にして審査を行う。つまり自分の評価と他の審査委員の評価が異なる研究課題を重点的に審査することになる。どの程度の件数がボーダーライン付近とされるのかは不明だが、第1段審査の書面審査の結果が重要であることはいうまでもない。 第2段審査でも4段階の総合評点を付ける。評点区分はA、B、C、Dであり、採択予定件数に応じて評点区分の件数は調整される。評点区分の評定基準は、Aが「最優先で採択すべき」もの、Bが「積極的に採択すべき」もの、Cが「採択してもよい」、Dが「A〜Cに入らないもの」である。 #### 基盤研究(S、A):合議審査 平成30年度からの「科研費審査システム改革2018」によって、第2段審査の合議審査ではすべての応募課題に対して活発な議論が繰り広げられている。合議審査を行う種目は基盤研究(S)では「大区分」、基盤研究(A)では「中区分」の審査なので、応募課題について専門外の審査委員も多く、第1段審査の点数はかなりばらつきがあるのが普通で、結果として合議審査が採択・不採択の決定に重要になる。 合議審査では第1段審査の書面審査を行った審査委員が全員集まって(令和7年現在、当面の間「Web会議形式」による合議審査が基本とされている)、すべての応募課題について長所や短所を議論し、最終的に全審査委員の合意を得て採択課題が決定される。もちろん書面審査の点数を参考にはするが、点数にかかわらず応募課題はすべて一から検討される。いろんな分野の審査委員が応募課題について多面的に検討するという「科研費審査システム改革2018」は、うまく機能している。 ## 挑戦的研究の審査 挑戦的研究(開拓・萌芽)は「斬新な発想に基づき、これまでの学術の体系や方向を大きく変革・転換させることを志向し、飛躍的に発展する潜在性を有する」研究計画を支援することが目的で、「基盤研究」や「若手研究」とは明確に異なった種目であることが大前提である。審査においては、研究計画のアイデアと実行可能性が重要である。いくらいいアイデアの研究計画であっても、その申請者によって実行可能なのかどうかが採択のための判断基準となる〔参照 3章15:挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書について〕。 挑戦的研究は中区分での審査が行われ、「(開拓)」では第1段階の書面審査と第2段階の合議審査の「総合審査」によって、「(萌芽)」では「2段階書面審査」によって採択が決定される。他種目と異なるのは、応募件数が多い場合に全審査委員で書面審査を実施するのに適切な課題数に絞り込むために、「事前の選考」(プレスクリーニング)が行われることである。 ### プレスクリーニング このプレスクリーニングは、Web入力項目(前半)と研究計画調書の概要(2ページ以内)で構成される「研究計画調書(概要版)」によって行われる。プレスクリーニングでは1〜5の5段階の「総合評点」が付けられる。5が最高点で、1が最低点である。ただし基盤研究(B、C)や若手研究の評点分布とは異なり、5点が10%、4点が10%、3点が10%、2点が10%、1点が60%の割合になるように申請書の採点が行われる。 このプレスクリーニングの足切りの割合だが、正確な数値は公表されていない。しかし、現状の採択率から考えると、プレスクリーニングの段階で上位20〜30%に入っていなければ、本審査に進めないと思われる。つまりプレスクリーニングがとても重要ということだ。 また、審査委員が総合評点に「5」を付けた研究課題のうち、ぜひ書面審査に残したい研究課題があれば、「**審査優先課題**」として1件選定することができる。この課題は他の審査委員の評点にかかわらず書面審査に進めることができる。 ### 挑戦的研究の評定要素 挑戦的研究の評定要素は、大きくは「**A. 挑戦的研究としての妥当性に関する評定要素**」「**B. 研究計画の内容に関する評定要素**」がある。このうちBは「(1)研究目的及び研究計画の妥当性」「(2)研究遂行能力の適切性」の2つに分かれる。Bは基盤研究や若手研究とほぼ同じであり、Aが挑戦的研究に特徴的といえる。 Aで求めている「挑戦的」の解釈は難しい。「挑戦性の高い課題」とは、具体的にはどのようなものだろうか。「挑戦的研究(開拓・萌芽)の書面審査における評定基準等」には「新しい原理や学理の発見・追求」「学術の概念や体系の見直し」「研究のブレークスルーをもたらすような、大きな発想の転換や斬新な方法論等の導入」とあるが、よりわかりやすくいえば、以下のような課題が相当するだろう〔参照 3章15:挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書について〕。 - 異分野の研究を融合させるもの、異分野からの手法や概念を別の分野にもち込む研究。 - 新しいものを探す研究。 - 重要であるが先の結果が予想できない研究。 ### 挑戦的研究の第1段審査 上記のA、B(1)、B(2)の評定要素を考慮しながら、4段階の総合評点を付ける(「(開拓)」では、S(最高)、A、B、C(最低)、「(萌芽)」では最高点4〜最低点1の4段階)。評点分布は「(開拓)」では採択可能件数に応じて調整されるが、「(萌芽)」では4点が10%、3点が20%、2点が40%、1点が30%になるように決められている。また第2段階の審査における資料として、長所と短所などの審査意見の記入が求められる。 ### 挑戦的研究の第2段審査 第1段の書面審査を行った同一の審査委員が「(開拓)」では合議審査によって、「(萌芽)」では第2段書面審査によって、採択課題を決定する。 > --- > **Column:審査した申請書の採択状況** > > 情報が公開されているので秘密でもなんでもないが、私自身科研費の審査を何度かやったことがある。第1段の書面審査は、申請書が手元に送られてきてから1カ月以内に、100件近い採点をしなければならないので、結構大変だ。応募者は必死の思いで申請書を作成したはずだから、その思いに応えるためにも自分としては毎回真剣に取り組んだつもりだ。さて私の採点結果と採択された課題との間に、どのような違いがあっただろうか?表はある年度の結果だ(このときはまだ、旧審査方式だった)。 > > | 点数 | 私が付けた点数の人数 | 採択された人数 | 採択率(%) | > |---|---|---|---| > | 5 | 7 | 6 | 85.7 | > | 4 | 17 | 10 | 58.8 | > | 3 | 40 | 2 | 5 | > | 2 | 18 | 0 | 0 | > | 1 | 11 | 0 | 0 | > | 合計 | 93 | 18 | 19.4 | > > **表 ある年度の私が付けた審査点数と採択率結果** > > いかがだろうか。この表を見る限りは、自分の付けた点数と採択された課題とは結構いい相関関係にあるように思う。5点を付けたものは1名を除いて採択されているし、2点以下の者では採択された者がいない。だが、本当にそうだろうか? > > 注意しなければならないのは、3〜8名の審査委員の合計点数(もちろん補正はしている)で採択がほぼ決まるので、1名の審査委員の点数の影響が大きいということだ〔令和7年度公募のときのように、基盤研究(B、C)や若手研究で、審査委員の数が1人減ったときなどはよけいに影響が大きくなる〕。例えば、ある課題に私が2点を付けると、それだけで合計点数が低くなり、採択の可能性も少なくなってしまう。その結果が、表の採択率に表れているのかもしれない。 > > このように科研費の審査は非常に責任が重いのだ。審査のときには心して真剣に申請書と向かい合わなければならない。 > > さて、審査委員には後日、どの申請課題が採択されたか連絡があり、自分の採点結果と比較してきちんとフィードバックできるようになっている。よいしくみだと思う。 > --- > **審査のしくみ** > - 第1段審査(書面審査)の「総合評点」が最も重要な評価になる。 > - 挑戦的研究では「事前の選考」(プレスクリーニング)が行われる。