--- title: "1. 科研費とは?" book: 科研費獲得の方法とコツ 第9版 chapter: 第1章 科研費の概略 pages: 20-25 images: page_0020.png ~ page_0025.png --- # 1. 科研費とは? 科研費(科学研究費補助金および学術研究助成基金助成金)とは「人文学、社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる『学術研究』(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする『競争的研究費』であり、ピアレビューにより、豊かな社会発展の基盤となる独創的・先駆的な研究に対する助成を行うもの」(「科研費ハンドブック(研究者用)―2024年度版」より)である。 科研費は文部科学省および独立行政法人日本学術振興会(JSPS)が行っているピアレビュー(専門分野の近い複数の研究者による審査)を経た、独創的・先駆的な研究に対する助成であり、日本国内で研究を行う者にとって、最も代表的な研究費である。年度ごとに研究費が措置される「科学研究費補助金」と、複数年間の研究期間全体を通じた研究費が確保される「学術研究助成基金助成金」により運営されている。 科研費の予算額をみてみると、平成22年度には総額2,000億円を超え、基盤研究(B)の基金化の導入された令和5年度には3,031億円と過去最大額になった。令和6年度の予算額は2,429億円である。科研費は基本的な研究資金として、今後も重要であり続けるだろう。 科研費の一番の特徴は、「研究者の自由な発想」による研究をサポートする、国からの唯一の研究費であることだ。科研費は研究者が「こういったことを研究したい」と希望したテーマに国が研究費を支援する。「新しいホルモンをみつけたい」とか「細胞分裂のしくみを探りたい」など、まず研究者の思いがあって、それが審査によって認められると研究費が交付される。いわゆる**「ボトムアップ型」**の研究に対する助成である(図1-1左)。 > **図1-1のデータ:** > - **ボトムアップ型(左)**:研究者が自由な発想にもとづいて研究を提案 → 科研費の審査 → 研究費の交付 → 研究の遂行 > - **トップダウン型(右)**:国の政策目標 → 研究テーマの設定 → 研究者の募集・審査 → 研究者 → 研究の遂行 > - ボトムアップ型:科学研究費補助金/学術研究助成基金助成金(文部科学省、日本学術振興会) > - トップダウン型:その他の競争的研究資金(日本医療研究開発機構(AMED)の公募、科学技術振興機構のCRESTなど) 一方、国の政策にもとづいた研究費がある。例えば大流行を防ぐために新型コロナウイルスやインフルエンザの研究を行ったり、糖尿病患者が増加しているのでその治療のための研究を行うことなどは、社会的にぜひとも必要な研究課題である。そのため、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬の研究開発」や「糖尿病の治療方法開発」などの研究テーマを国が設定して、これらの研究を行う研究者を募集する。採択されれば研究の進め方は研究者の裁量に任されるが、大枠では設定テーマに関する研究を行わなければならない。こちらは**「トップダウン型」**の研究である(図1-1右)。トップダウン型の研究に対する助成の代表的なものは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究費、厚生労働科学研究費補助金、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のCRESTなどがある。 このように国からの研究費は「研究者の自由な発想」による研究を助成する科研費と、それ以外の「特定の目的」のための研究費に大きく分けることができる。ボトムアップ型とトップダウン型の研究が相互に機能することで、日本の科学技術が発展する(図1-1)。 ## 科研費の情報を得るには 科研費について知るためには、また科研費に応募するときには、日本学術振興会ホームページの「科学研究費助成事業」(https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/index.html)のところから情報を得る。 ここには、制度概要、研究種目・概要、公募情報、使用ルール・様式集、審査・評価関係、関連データ(科研費データ等)など、科研費に関するあらゆる情報がまとめられている。 科研費に応募しようとするときには、毎年、申請にあたっての変更点があるので、必ずこのホームページで公開されるその年度の「公募要領」を読んでおくこと。また研究計画調書(申請書)も変更されることがあるので、こちらも必ずその年度のものを使用すること。 ## 科研費に応募する前にやるべきこと いうまでもないかもしれないが、科研費は、まず応募資格を得て、研究計画を書いた研究計画調書(申請書)を提出し、審査を経て採択されて、初めて獲得することができる。 > --- > **Column:初めての科研費(Aくんの場合)** > > 科研費という研究助成があることは学生のころから知っていたが、私もそれを出せるような身分になったときにはウキウキしたものだ。それまで研究助成申請をしたこともなく、「よっしゃ~、最初から絶対とったるで!」そう意気込んで、まずは先人の知恵をと、所属研究室の諸先輩達から申請書のコピーをいただいた。どれも採択されているだけのことがあり、同様な体裁の書式が並ぶ。「こう書けばいいのかぁ、よし、こんなふうに書いたろ!」 > > 私は奨励研究(A)(今はない種目区分)という助成が対象だった。ザッと書いてみた。意外に難しかったのが2年間の研究計画を立てるところ。どこまで1年間で進むんやろ?2年目は何をする?これまでの研究の進行度合いを参考にしながら内容を推敲した。よし!一応全体は完成。次の悩みはこれをどの分野に申請するか。申請内容は新しいバイオアッセイを使ったホルモン探索だった。先輩達のものを参考に「内分泌学」にしてみた。そこが鬼門だったのか?そもそも内容が悪いのか? > > この年は撃沈である。それから3年間、内容を変え、分野を変え、試行錯誤したが撃沈され続けた。そして苦節4年、若手研究(B)(今はない種目区分)に初当選した。「やっとか~、長かった~」そんな思いが最初だった。 > > テーマは業績にもとづく萌芽的なものであったが、申請書の表現力も上がっていたし、分野の選択も適切だった。落選したものと当選したものの差は歴然であった。審査委員に一見一読でインパクトを与えられるような表現、そして、「これに助成をしてあげよう」と思わせるような魅力的な内容、相手の身になった文章構成、それこそが科研費獲得の近道なのだろうと肝に銘じた。 > --- 科研費に応募する前にやっておかなければならないことは、以下の3点(+1点)である。 1. **応募資格の確認** 2. **研究者情報登録の確認(e-Rad)** 3. **電子申請システムを利用するためのID・パスワードの取得** 4. **重複制限の確認**(複数の種目へ応募する場合) 必要に応じて科研費の公募要領の「II. 応募する方へ」「1. 応募の前に行うべきこと」を参照のこと。 ### (1) 応募資格の確認 科研費に初めて応募するときには、所属研究機関に応募資格者であることを申請して、研究機関を通してe-Rad「府省共通研究開発管理システム」に研究者情報を登録し、研究者番号を取得しなければならない。研究者番号はマイナンバーのようなもので、研究活動を行う間はずっと同じ番号で、国の研究費に応募するときに使う共通した番号だ。 科研費の応募資格は、次の(1)および(2)を満たす必要がある。 **(1)** 応募時点において、所属する研究機関から、次のア、イ及びウの要件を満たす研究者であると認められ、e-Radに「科研費の応募資格有り」として研究者情報が登録されている研究者であること - **ア** 研究機関に、当該研究機関の研究活動を行うことを職務に含む者として、所属する者(有給・無給、常勤・非常勤、フルタイム・パートタイムの別を問わない。また、研究活動そのものを主たる職務とすることを要しない。)であること - **イ** 当該研究機関の研究活動に実際に従事していること(研究の補助のみに従事している場合は除く。) - **ウ** 大学院生等の学生でないこと(ただし、所属する研究機関において研究活動を行うことを本務とする職に就いている者(例:大学教員や企業等の研究者など)で、学生の身分も有する場合を除く。) **(2)** 科研費やそれ以外の競争的研究費等で、不正使用、不正受給又は不正行為を行ったとして、公募対象年度に、「その交付の対象としないこと」とされていないこと (令和7(2025)年度 科研費公募要領より引用) ウについては、研究職に就いているが、キャリアアップなどのために大学院に通っている者(いわゆる社会人学生・大学院生)は応募できる。 また(2)にあるように、すでに研究者番号をもっている者は、これまでに科研費やそれ以外の競争的研究費等で、不正(不正な使用、不正な受給または不正行為を行ったこと)によって応募年度に「交付の対象としないこと」とされていないことが必要だ。過去に研究上の不正や国の研究費の不正使用をした者は、罰則を受け、一定期間科研費に応募できなくなっている。 #### 科研費によって雇用されている者の応募 科研費によって雇用されている者は、雇用元の研究業務に専念する必要があるため、その勤務時間を自分の研究に当てることができない。つまり自分の研究のための科研費に応募することができない。しかし、科研費によって雇用されている者であっても、**「若手研究者」の定義**(表1-1参照)に該当し、下記の(1)~(3)を満たす場合は、「各研究機関において必要な手続を経たうえで、雇用の科研費の業務に充てるべき勤務時間において自発的な研究活動等を行うこと」が可能である。この場合、「研究代表者として科研費に応募することができるほか、研究分担者になること」もできる。 条件: 1. 若手研究者本人が自発的な研究活動等の実施を希望すること 2. 研究代表者等が、雇用元の科研費の推進に資する自発的な研究活動等であると判断し、所属研究機関が認めること 3. 研究代表者等が、雇用元の科研費の推進に支障がない範囲であると判断し、所属研究機関が認めること(雇用元の科研費の研究課題に従事するエフォートの20%を上限とする) (令和7(2025)年度 科研費公募要領より引用) さらに科研費によって雇用されている者で、「若手研究者」にあたらない者であっても、「雇用の業務以外の時間を明確にし、業務以外の時間に自ら主体的に科研費の研究を行おうとする場合」には、次の(1)~(3)が研究機関において確認されていれば科研費に応募することが可能である。 1. 科研費被雇用者が、雇用元の業務以外に自ら主体的に研究を行うことができる旨を雇用契約等で定められていること 2. 雇用元の業務と自ら主体的に行う研究に関する業務について、勤務時間やエフォートによって明確に区分されていること 3. 雇用元の業務以外の時間であって、自ら主体的に行おうとする研究に充てることができる時間が十分確保されていること (令和7(2025)年度 科研費公募要領より引用) #### 大学院生・特別研究員の応募 一部の大学院生(前述の社会人大学院生)を除いて、大学院生は基本的に科研費には応募できないが、日本学術振興会特別研究員のDCに採用されていれば、受入研究機関から特別研究員奨励費と国際共同研究強化の2種目に、研究代表者として応募が可能であるし、研究分担者としてはすべての研究種目に参画することも可能である。 さらに日本学術振興会特別研究員のPD・RPDに採択されている者は、先の応募要件を満たす場合は、受入研究機関から特別研究員奨励費以外の下記の研究種目に、研究代表者として応募が可能である。 1. 学術変革領域研究(A)の公募研究 2. 基盤研究(B・C) 3. 挑戦的研究(萌芽) 4. 若手研究 5. 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化) また、研究分担者として参画する場合は、研究種目の制限はない(上記(1)~(5)以外にも参加できる)。PD・RPDの者は、特別研究員の採用期間を超える形で応募することも可能である。ただし、複数の研究機関において応募要件を満たす場合であっても、受入研究機関からのみ応募や参画が可能である。 ### (2) 研究者情報登録の確認(e-Rad) 応募時点で前述の要件を満たすようであれば、所属研究機関に申請してe-Radに研究者情報を登録してもらう。研究者番号、生年月日、連絡先などの個人情報を登録する。 ### (3) 電子申請システムを利用するためのID・パスワードの取得 e-Radに登録すると、応募書類の電子申請のためのID・パスワードがもらえる。大切にメモしておこう。 ### (4) 重複制限の確認 科研費はどの種目でも、またいくつでも応募できるのではなく、種目によって応募資格の制限があるし、重複して申請することも制限されている。学術変革領域研究(A)の公募研究(異なる領域であれば2課題応募できる)以外では、1種目に1課題しか応募できないが、種目の組合わせによっては複数応募できるので、採択の可能性を広げるためにも応募できる種目にはぜひチャレンジしてみるべきだ。公募要領をよく読んで、どの種目に応募できるのか調べておこう。