--- title: "はじめに" book: 科研費獲得の方法とコツ 第9版 chapter: 前付け pages: 3-5 images: page_0003.png ~ page_0005.png --- # はじめに ## 第9版のはじめに 令和5年度に科研費の改革が一段落となり、当面は大きな変化がないと予想されていたが、令和6年に行われた令和7年度公募に再び大きな変更が加えられたことから、今回の改訂となった。 令和7年度公募で最も注目すべき変更点は、基盤研究(A, B, C)における「国際性」の評価項目の導入である。日本の科学研究レベルの低下が指摘されて久しい(具体的にいつからかは議論の余地がある)が、その一因として国際共同研究の不足があげられている。令和7年度の変更により、採択された研究課題のうち「国際性」が高く評価された研究課題には、応募額を尊重した研究費配分が行われるとされている(つまり「国際性」の評価は、基本的に採択ではなく配分額に影響する。ただし若手研究者の場合は、優先的な採択に影響する)。しかし、申請書上でいくら高い評価がつけられたとしても本当に国際的に優れた研究でなければ、そもそも国際共同研究の機会すら得られないであろう。現状の「国際性」評価だけでなく、将来の日本の科学レベル向上のためには、研究費の配分額自体を増やし、それによって国際的に競争力のある研究を生み出す環境整備が必要ではないかと考える。 また、令和7年度の申請書から「着想に至った経緯」の記載位置が変更され、「本研究の学術的背景」の後に配置されるようになった。この変更は、申請書全体の構成の流れに沿っており、よりわかりやすくなったと評価できる。さらに、研究インテグリティや研究データマネジメントについて適切な対応が求められるようになり、研究の質だけでなく、その管理体制も重視される時代に移行していることがうかがえる。これも国際的な研究基準に対応するための重要な改革の一環であろう。 加えて、あまり大きく公表されていないものの、審査委員の人数の変更も見逃せないポイントである。基盤研究(B, C)および若手研究では、審査委員の人数が1名減少した。これにより、各審査委員の評価の比重が増し、1人の委員の評価が全体に与える影響が大きくなる。申請書の質がこれまで以上に重要となることは間違いない。 個人的な話になるが、昨年(2024年)には大きな転機があった。3月に久留米大学を定年退職し、研究者のためにさまざまな研究費の獲得支援を目的とした会社「ジーラント」を立ち上げた。これは、これまでの研究者としての経験を活かし、新たな挑戦をしたいという思いからである。一から会社を立ち上げることには大きな不安もあったが、これまで改訂を重ねてきた本書のおかげで、順調なスタートを切ることができた。読者の皆様には心から感謝する。今後は「ジーラント」で得た経験も本書に反映させ、皆様の研究活動を支援できるよう尽力していきたい。 令和7年5月 児島将康 ## 初版のはじめに この本は研究費のなかでも、科学研究費補助金(以下、科研費)を獲得するための申請書の作成方法について、具体的なテクニックをわかりやすく紹介したものだ。 毎年9月になると次年度の科研費の申請が始まる(著者注:令和7年現在、公募開始は7月中旬になっている)。いうまでもなく科研費は研究費の基礎として非常に重要だ。科研費に採択されるか採択されないかは、研究計画やキャリアに大きな影響を与える。ところが科研費の採択率は現在では約20〜25%であり、4〜5人に1人しか採択されない狭き門であり、採択されない人の方が圧倒的に多い。科研費にはぜひ採択されたいと誰もが思うが、世の中には「科研費を獲得できる申請書の書き方」などのガイドブックがありそうだが、これまでにお目にかかったことがない。各個人、各講座でのテクニックがあり、それはほとんど門外不出になっている。毎年春になって、その年度の科研費の審査結果が発表されると、毎回のようによく採択される人がどの大学にも研究所にも必ずいる。彼(彼女)らはいったいどのような申請書を作っているのだろう? そういった疑問をもったのがきっかけで、個人的にいろいろ調べた結果をもとにして、この本を書いた。いろいろな研究者の科研費申請書をチャンスがあればコピーさせてもらったり、久留米大学で保管されている過去の申請書を、無理をいって読ませてもらったりした。さらに科研費を審査する側の経験も積んで、他大学の研究者の申請書もたくさん読んだ。またラボ内の若手やスタッフ、知り合いの研究者などから相談を受けて、申請書作成の手伝いもした。このような経験からいうと、絶対に採択されるという申請書はないが、(多分)絶対に採択されない申請書はある。「科研費に採択されるのは宝くじに当たるようなものだ」「コネがないと採択されない」などと聞いたこともあるが、しかし、そんなことはない!科研費の審査はきわめてフェアなもので、しっかりと準備をしてよい申請書で応募すると、結構採択されるものだ。しかも宝くじよりもずっと当たる確率が高い。 本書の各章の概要: - **第1章**:科研費とはどのようなものか、現状分析、科研費の種類、審査のしくみ、申請から採択までの流れなどについて紹介 - **第2章**:申請にあたっての準備について。応募種目や応募分野の選び方、どのような課題が採択されているか、過去の審査委員についての調べ方を紹介 - **第3章**:本書の中心部分。実際の申請書の書き方をできるだけ実物の見本を示しながら解説。申請書の各項目ごとにポイントを書いて、どのように書けばよいかアドバイス - **第4章**:書き上げた申請書をさらに読みやすくするための工夫、電子申請の仕方について順を追って説明 - **第5章**:採択・不採択のときにどうすればよいかについて説明 2010年7月 久留米大学分子生命科学研究所にて 児島将康